新大陸に帰りたい。いや、暗黒大陸じゃなくて。   作:とねうこ

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「相棒〜! 待ってますからね!」

 2年連れ添った相方の姿が既に遠くに見える。笠を被った青年の腰まで伸びる鮮やかな青の髪は太陽に照らされ、キラキラと反射して見えた。光の遮られた顔はそれでも満面の笑みを浮かべ、腕に抱いた大型のネコとともに大きく手を振った。大荷物を乗せた1人用の船が波に揺れる。

 ペディ・ペック。18歳。人生で最も濃密と言える新大陸での日々をしばし休息し、半年ほど現大陸へ帰郷する予定であった。

 

 船が進むにつれ霧は濃くなり、海は荒れてはいないものの、身を任せるだけでは目的地には到底着けそうもないほど流れが入り組んだ。

「旦那さん、なんだかおかしいのニャ」

 訝しげにそう言ったのはオトモアイルーのすねこすり。略してねこだ。ペディが新大陸に来るずっと前から行動を共にしている。名前に関して数多の人から苦言を呈されるが、人の足に擦り寄るその姿は、シキ国古来より伝わる同名の幻の獣によく似ている。ねこも気に入っているらしい。

「うーん……オレ道間違えたか?」

「そんなはずないニャ。ボクも確認したニャ」

「古龍のしわざかね」

 古龍。それは天地を操り、歩くだけで生態系が変わるほどの力を持つ厄災級の龍の総称だ。数々の古龍を相手にしてきたペディとて、不安定な船の上で対面すれば死を避けるのは難しいだろう。

「もうとっくにシュレイド地方に到着してるはずなんだけどな」

 そうぼやいていると濃霧の向こうにうっすらと陸地が見えた。目的地はシュレイド地方のミナガルデという街なのだが、どう見ても記憶とは違う風景が目の前に広がっている。完全に迷子だ。

 しかし迷子になってしまったのなら状況把握も必要だ。休息と言いながら狩りもする気満々だったのでずっしりと重いアイテムボックスも詰んでいる。職業柄サバイバルだってお手の物だし、よっぽどのことがなければ死ぬことはあるまい。

 船が砂浜に乗り上げる。ペディは武器を背負って陸に上がった。ねこもその後ろに続く。

 周囲を警戒しながら進むと、突然空から光が降り注いだ。それは間違いなくペディたちの目の前に落下する。

 ペディは武器を構えてその正体を見る。

 出てきたのは人間の男だった。長身で体格が良く、かといって見る人にそれほど威圧感を与えない柔和な表情。人が居ることに安心しきったペディは、彼が敵対者かもしれないことなど欠片も考えず武器を収めた。

「良かった! 兄ちゃん、ここがどこか教えてくんねーか? 迷っちまってよ」

 笑顔で近寄ると、男は驚いたような顔をしてなにか喋った。

 しかし、その言葉をペディが聞き取ることはできなかった。おそらくそれは向こうも然りだろう。

 言葉が通じなかったのだ。

 この時、男────レイザーはペディをこの島から追い出すつもりでいたわけだが、彼がそれを知るのは言葉が通じるようになる1ヶ月後の話である。

 

 

 レイザーに一時保護されたペディだが、ペディのあまりの異質さに彼は言葉が通じるようになってすぐ手に負えないと匙を投げた。

 というのも、問題はペディ自身ではなく、彼が身につける道具や武器、素材、そしてそれらを入手したという新大陸なる土地にあった。

 飲めば一瞬のうちに外傷が治る回復薬。スタンガン並みの電気を発生させる虫。身につけるだけで身体能力が底上げされる装飾品。そして大陸のあらゆる場所にはびこるモンスター。その中でも居るだけでその土地を一変させる力を持つ厄災級の存在、古龍。それらから作り上げた、死して素材と化してなお特殊な炎や氷といった属性を纏う武器や防具たち。

 これは明らかにいち念能力者でありこの島の主の1人でしかないレイザーには背負いきれない案件であった。彼はダメ元でジン・フリークスなる既知のハンターにホームコードで連絡を入れた。

 彼は非常に自由奔放で、レイザーの恩人ではあるのだがもう何年も会っていない。おそらく連絡こそ受け取るだろうが、興味を惹かれなければ返事さえしないだろう。レイザーはなるべくジンの気を引けるようにペディから聞いた話をかいつまんで教え、できれば彼を引き取って面倒を見てくれないかと締めくくった。

 ジンが連絡を聞いてこちらに返答があるとしてもまだしばらく時間はあるだろう。こちらの常識もさほど詳しくなさそうなペディに、最低限のことは教えねばなるまい。無意識ながら念能力を扱っているようだったので、時間があれば四大行くらいは教えるべきか。

 レイザーはそう考えて骨が折れそうだとため息を吐いた。しかしジンに命を救われた身で良き人間として生きる決意を固めている元死刑囚は、目の前の困っている人間を助けない道理などないのであった。

 

 

 ペディが扱う武器はふたつ。

 おもに使うのは狩猟笛と呼ばれる大きな楽器型の鈍器で、振りかぶると音が鳴る。音を組み合わせ演奏を行うことで自身や仲間の身体能力の強化や回復、その他様々な特殊効果を発動させる。援護メインの性能かと思いきや高火力の演奏でモンスターを張り倒すこともできる、まさに一挙両得な武器だ。

 しかし演奏の際に大きな隙ができるからか、巷ではいまいち人気のない武器だ。けれどもペディはこれが大層お気に入りで、むしろ人気がないからこそ自分が大事に愛を持って扱ってやらねばならないとさえ思っている。

 そしてもうひとつがガンランスという、砲撃と斬撃を兼ね備えた非常に大型の武器だ。狩猟笛は打撃がメインのため、モンスターの特定部位を切り落とすということには向いていない。そこでひととおり試してお気に入りその2となったのがこのガンランスだ。

 切断を目的とするならばガンランスより遥かに優れた武器の方が多いくらいだったが、そもそも狩猟笛などという効率の悪いとされる武器を扱うペディにとって優劣などどうでもいいのである。ペディはデカくて重い不人気武器にロマンを感じる性質であった。

 レイザーいわく、この世には念能力なる生命エネルギーを利用した力が存在し、ペディはこれらの武器を通して使用する念能力を既に編み出してしまっているのだという。それがおもに演奏に現れており、おそらくガンランスにも応用できるだろうとのことだった。

 ペディの扱う武器の能力は彼でなくとも使えるものだ。少なくともモンスターの跋扈するあちらではそうだった。しかしレイザーに試してもらっても音は鳴るが演奏効果は得られなかった。不思議なものである。

 どうやらこちらではモンスターも存在しなければ、不死虫や雷光虫、薬草やアオキノコといったペディにとって身近なものでさえ無いものらしい。かわりにテレビや携帯電話など、技術者の精鋭が揃った新大陸のメンバーでも驚くであろう家電なるものが非常に発展していた。あとは、モンスターではないが魔獣と呼ばれる人語を介する獣が存在するらしい。

 彼らの住む世界はメビウス湖という大きな湖の中央に位置しており、外側には人類未踏の暗黒大陸なるものが広がっているのだという。

 人類ももともとはそこから来たとされているため、ペディはレイザーたちとは違う場所で発展を遂げた人類なのではないかとレイザーは考えたらしい。彼は暗黒大陸については存在しか知らないレベルらしく、詳しいことはジンに聞けと言った。そのジンという男はこういった未知の話が大好きで、お眼鏡に叶えば手助けしてもらえるかもしれないとのことだ。

 こうなってしまっては現大陸に休暇もなにもない。生まれてから今までハンターとして各地を転々としたペディに、故郷などあってないようなものだ。だからこそ生まれも育ちも異なるあらゆる人間が集う新大陸は居心地が良く、ペディはそこを帰る場所であると認識していた。

 新大陸に帰らねば。

 ペディはそう思い、まずはこの世界で生きていくための力と知恵をつけるためレイザーの元で更なる研鑽を積むこととした。

 

 ジンから連絡が返ってくるのは想像以上に早く、どうやら思っていたより良い反応をもらえたらしい。ペディはレイザーの手によって荷物ごとジンの元へ移動することとなった。

 これは少し前に聞いたことなのだが、この島はゲームの舞台でレイザーはゲームマスターの1人なのだという。最近ようやっと電子機器の扱いがわかるようになってきたペディにとって、ゲームの中というのは驚きだ。これも念能力によるものなのだという。

 こちらではこちらの常識が通用しない現象のことを念能力として片付ける癖でもあるのだろうか。モンスターの研究者も未知のモンスターはすべて古龍として分類する癖があるので、あまり馬鹿にはできないか。

 とにかく、そのゲーム内の力でペディとねこはジンの元へ一瞬で移動した。1ヶ月半に及ぶレイザー宅の軟禁生活が終わりを告げた瞬間であった。

「お。お前がペディか」

 そして、新しい生活が始まる。周囲を見渡すと荒野なわけだが。

 本当に始まるのか?

 

 

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