ここがゲームではないと気づいたとき、オレは壊れる   作:お嬢様執筆中

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11 デートというやつ

 あの後、オレたちは気を取り直して、リードブルムの街をぶらぶらと散策することにした。

 相変わらず、ユウはオレの服の裾をぎゅっと掴んで離さない。

 まるで、迷子にならないように必死な子供みたいだ。……まあ、腕を組まれるよりはマシだし、このくらいなら許容範囲か。

 

 それにしても、ユウはこの街でやけに顔が広いみたいだ。

 露店の店主やら、すれ違う冒険者やら、色々な人から「お、ユウちゃんじゃないか!」「ユウ先輩、こんちはー!」なんて声をかけられている。その度にユウは、ぺこぺこと愛想よく挨拶を返していた。

 一方のオレはというと……。

 大抵の場合、「えっと……そちらの方は……?」みたいな、完全に「誰だお前?」という顔をされる。

 まあ、無理もないか。

 言われてみれば、オレはこの世界に来てからというもの、特別な用事がなければ宿屋とギルドの往復くらいしかしていなかったし、街をゆっくり見て回るなんて、本当に久しぶりだ。

 ログアウトのことばかり考えていて、この世界のことを知ろうなんて気も起きなかったからな……。

 

「あら? ユウちゃんじゃないか? 久しぶりねぇ!」

 

 ふと、前方からそんな明るい声が聞こえた。

 見ると、可愛らしいエプロンを身に着けた、人の良さそうなおばさんが立っていた。裏手にある建物から察するにケーキ屋の店員さんのようだ。

 

「あ、ミランダおばさん! ご無沙汰してます!」

 

 ユウはぱっと顔を輝かせ、ミランダおばさんと呼ばれた女性に駆け寄った。

 おばさんは、ユウの頭を見たかと思うと、ふとオレの方に視線を移し……そして、目を丸くして驚いたような顔をした。

 

「あらあらあら! ユウちゃん、あんた、まさか……ついに恋人ができたのかい!?」

 

 ……また、それか。

 そんなに男女が二人で歩いているのって珍しいことなのかね、この世界は。

 この世界のNPCは恋愛脳ばかりなのかよ。

 

「ち、違いますよ、ミランダおばさんっ! ぜんっぜん、そんなんじゃないですから!」

 

 ユウは顔を真っ赤にして、ぶんぶんと首を横に振って否定する。

 その慌てっぷりは、見ていて面白いけどな。

 

「なーんだ、違うのかい。おばさん、てっきりユウちゃんにも春が来たのかと思って、嬉しくなっちゃったんだけどねぇ」

 

 ミランダおばさんは、心底残念そうに肩を落とす。

 そして、何かを思い出したようにポンと手を叩いた。

 

「そうだ、ユウちゃん! ちょうど今日から、新作のケーキが出たんだよ! よかったら、そこの彼氏さん……じゃない、お友達と一緒に食べていかないかい? おばさんがサービスしちゃうよ!」

 

 ミランダおばさんは、悪戯っぽくウィンクしながらそう言った。

 ユウは、ちらりとオレの方を見る。その琥珀色の瞳は、明らかに「食べたい」と訴えていた。……素直にそう言えばいいのに、この子は。

 

「いいんですか? それじゃあ、お言葉に甘えようかな。……ユウ、それでいいか?」

 

「うんっ!」

 

 オレがそう言うと、ユウは満面の笑みで力強く頷いた。

 やっぱり、食べたいんじゃねーか。

 

 ミランダおばさんに案内されて入ったお店は、甘くて香ばしい匂いで満たされていた。

 こぢんまりとしているが、温かみのある木製のテーブルと椅子が並び、壁には可愛らしい焼き菓子の絵が飾られている。

 そして何より目を引くのは、入り口のすぐ横にある大きなガラスケースだ。

 中には、色とりどりのケーキがずらりと並んでいる。

 真っ赤なイチゴがたっぷり乗ったショートケーキ、濃厚そうなチョコレートケーキ、鮮やかな緑色の抹茶ケーキ……。どれもこれも、キラキラと輝いていて、見ているだけでよだれが出そうだ。

 最近のゲームは、食べ物のグラフィックにも力が入ってるよな……。

 

「うわぁ……どれも美味しそう……!」

 

 ユウは、ガラスケースに顔を近づけんばかりにして、目を輝かせている。

 オレも、思わずゴクリと喉を鳴らしてしまった。

 

 結局、オレは一番人気のイチゴのショートケーキと、アッサムティーを注文した。

 ユウは、悩みに悩んだ末、季節限定だという色鮮やかな「ベリーとカスタードのタルト」と、ダージリンティーを選んだようだ。

 二人で窓際の席に座ると、すぐにミランダおばさんがケーキと紅茶を運んできてくれた。

 

「はい、どうぞ召し上がれ。ゆっくりしていってね」

 

 ミランダおばさんはにこやかにそう言うと、店の奥へと戻っていった。

 テーブルの上には、見るからに美味しそうなケーキと、湯気を立てる紅茶。

 完全にデートだな、これ。

 

「……あの、アスマっち。ごめんね……」

 

 フォークを手に取ろうとしたところで、ユウが申し訳なさそうな顔でぽつりと言った。

 

「ん? なにがだ?」

 

「その……さっきから、何度も恋人だって聞かれたりして……。アスマっち、鬱陶しかったかなって……」

 

 ユウは、俯きながらそう言った。

 ……本当に、このNPCは変なところで気を使うよな。

 

「別に。オレは、恋人だと思われても全然構わないけどな。むしろ、ユウの方が迷惑だったんじゃないのか? あんな風に言われて」

 

 オレがそう言うと、ユウは顔を上げて、勢いよく首を横に振った。

 

「えっ!? ち、違う違う! むしろ、その……アスマっちと恋人だって言われても、あたしは……その、嬉しい、けど……。あっ、いや、違うの! 別に、変な意味とかじゃなくて……その……」

 

 ユウは、みるみるうちに顔を真っ赤にして、しどろもどろになっている。

 その姿は、普段のちょっとお姉さんぶった彼女からは想像もできないくらい、可愛らしくて……。

 オレも、なんだか顔が熱くなってきた気がする。

 ……今の、実質、告白みたいなもんだろ……。

 

「せ、せっかくだし、ケーキ食べようぜ。お茶とか冷めないうちにさ」

 

 気まずい空気を誤魔化すように、オレは慌ててそう言った。

 ユウも、「う、うん……! そうだね……!」と、こくこくと頷く。

 

 まずは、イチゴのショートケーキを一口。

 ふわふわのスポンジに、甘さ控えめの生クリーム、そして甘酸っぱいイチゴのハーモニーが口の中に広がる。

 ……うまい。これは、文句なしにうまい。

 アッサムティーも、濃厚な味わいでケーキとよく合う。

 隣を見ると、ユウもベリーとカスタードのタルトを美味しそうに頬張っていた。サクサクのタルト生地に、たっぷりのカスタードクリーム、そして色とりどりのベリーが乗っていて、見た目も華やかだ。その表情は、本当に幸せそうだ。

 ユウが食べているタルトも、なんだかすごく美味しそうに見えるな……。

 

「なあ、ユウ。よかったら、それ一口くれないか? こっちのもやるからさ」

 

 オレがそう提案すると、ユウは一瞬きょとんとした顔をしたが、すぐに「うんっ!」と嬉しそうに頷いた。

 お互いのケーキを少しずつ交換して食べる。

 ユウのベリーとカスタードのタルトは、ベリーの甘酸っぱさとカスタードの優しい甘さ、そしてタルト生地の香ばしさが絶妙なバランスで、これもまた絶品だった。

 ……はたから見たら、本当にただの仲睦まじいカップルだよな、オレたち。

 NPC相手に何やってんだか……とは思うが、まあ、たまにはこういうのも悪くない……かもしれない。

 

 しばらくの間、二人で黙々とケーキを味わっていると、ユウが気まずそうな様子で、ぽつりと口を開いた。

 

「……あのさ、アスマっち。気にしなくていいからね……。その、あのときの、こと……」

 

「あのときのこと……?」

 

 オレが首を傾げると、ユウはさらに顔を赤らめ、もじもじとしながら言葉を続けた。

 

「そ、その……エルムウィンド村で、あたしが、その……勢いで、き、きききききキス、しちゃったこと……」

 

 ……ああ、あの時のことか。

 思い出した途端、オレも顔がカッと熱くなるのを感じた。

 あの柔らかな感触と、甘い香り……。

 

「アスマっちが……その、あたしのこと、なんとも思ってないことは、ちゃんとわかってるから……。だから、この気持ちは、アスマっちにとっては迷惑かもしれないけど……でも、あたしは……アスマっちの側にいられるだけで、本当に、十分幸せだから……。だから、あの……返事とか、そういうのは、別に考えなくていいからね……!」

 

 ユウは、一気にそうまくし立てると、深々と頭を下げた。

 その声は震えていて、必死に自分の気持ちを伝えようとしているのが伝わってくる。

 オレは、ただ「そうか……」としか言えなかった。

 ユウの顔をじっと見る。

 泣き腫らしたわけでもないのに、潤んだ琥珀色の瞳が、不安そうに揺れている。白い頬は林檎のように赤く染まり、小さな唇はきゅっと結ばれていた。

 普段は余裕がありそうな態度で、悪戯っぽく笑うことが多い彼女が、今はただひたすらに健気で、そして……どうしようもなく可愛い。

 なんで……なんで、こんな可愛いNPCに、オレはこんなにも好かれてしまっているんだろうか……。

 その感情は、プログラムされたものなのか……? それとも……。

 いや、考えるだけ無駄だ。これはゲームなんだから。

 

 オレは、ふと疑問に思ったことを口にした。

 

「……なあ、ユウ。お前ってさ……いったいいつから、オレのこと、そんな風に……その、好き、なんだ……?」

 

 そのことを聞くことでオレはユウの好意がプログラムされたものかどうか見極めようとしているのかもしれなかった。

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