ここがゲームではないと気づいたとき、オレは壊れる 作:お嬢様執筆中
「「「ついたぁぁぁぁーーーーっ!!」」」
馬車から降りると一足先に降りていたユウ、キバ、リティカの三人のテンションマックスな声が青空に響き渡った。
うん、その気持ちはわからなくもない。
リードブルムからここまで、
長い道中、ユウとキバは最初こそはしゃいでいたものの、すぐに飽きたのかオレの両肩に頭を乗せてぐっすり眠りこけ、リティカは相変わらず難しい顔で分厚い本を読みふけっていた。オレはというと……まあ、いつものようにログアウトのことばかり考えていたわけだが。
そして今、オレたちの目の前には……。
「うっわぁ……! すごいよ……! 海だぁ……! 本物の海だよ、アスマっち!」
ユウがオレの腕をぶんぶん振りながら、子供みたいに目を輝かせている。
どこまでも広がるコバルトブルーの海。白い砂浜には、打ち寄せる波がキラキラと太陽の光を反射している。
潮風が、ほんのりと磯の香りを運んできて、頬を撫でていく。
遠くには、カモメらしき鳥が気持ちよさそうに空を舞っている。
……うん、確かにこれは、テンションが上がるのも無理はない。ゲームの背景だとしても、見事なまでの絶景だ。
そして、そんな絶景を一望できる、小高い丘の上に建っているのが……今回の依頼主が用意してくれたという別荘だ。
白い壁にオレンジ色の屋根瓦。広いテラスには、おしゃれなテーブルと椅子が置かれていて、そこからの眺めは最高だろうな。
庭には色とりどりの花が咲き乱れ、手入れの行き届いた芝生が広がっている。
……おいおい、マジかよ……。
これが個人所有の別荘だって……? そこらの貴族の屋敷より豪華なんじゃないか……?
こんなところを、本当にオレたちがタダで使っていいのか……? なんかの間違いなんじゃないかと、本気で疑ってしまうレベルだ。
「すごいわね……。さすがは侯爵様の別荘といったところかしら。趣味も悪くないわ」
リティカも、珍しく素直に感心したような声を上げている。まあ、すぐにいつもの調子で「まあ、私の実家の別荘には劣るけどね」とか付け足しそうだが……。
「……広い。ここで特訓したら、捗りそう……」
キバは、庭の広さを見て、そんなことを呟いている。……うん、お前は本当にブレないな……。
恐る恐る、オレたちは別荘の大きな木製の扉を開けて中へと入った。
内装も、これまた豪華絢爛。
高い天井にはシャンデリアが吊るされ、床にはふかふかの絨毯が敷き詰められている。アンティーク調の家具が配置され、壁には美しい風景画が飾られていた。
広いリビングルームの大きな窓からは、さっき見た絶景の海が一望できる。
……本当に、ここに泊まれるのか……? 夢じゃないよな……?
「ようこそお越しくださいました、アークブレイバーズの皆様」
ふと、背後から鈴を転がすような、涼やかな声が聞こえた。
ハッとして振り返ると、そこには一人の女性が、深々と頭を下げて立っていた。
歳の頃は、オレたちより少し上くらいだろうか。
艶やかな黒髪を後ろで一つにまとめ、少し目つきの鋭い、知的な印象の美人だ。
そして何より目を引くのは、その服装。
黒いロングスカートに、白いフリルのついたエプロンとカチューシャ……。
ま、まさか……。
「わたくし、この別荘でお世話をさせていただきます、メイドのセレスと申します。皆様の滞在中、お食事や清掃など、身の回りのお世話は全てわたくしにお任せください」
セレスと名乗った女性は、優雅に微笑んでそう言った。
……ほ、本物のメイドさんだと……!?
「「「わぁぁぁぁ……!!」」」
オレの隣で、ユウとキバ、そして意外なことにリティカまでもが、目をキラキラと輝かせて歓声を上げた。
気持ちは……うん、わからんでもない。オレだって、本物のメイドさんなんて初めて見た。
ゲームとかアニメでしか見たことない存在が、今、目の前にいるんだからな……。
「ほ、本物のメイドさん……! このメイド服、すっごく可愛い……! あたしも、いつか着てみたいなー」
ユウは、うっとりとした表情でセレスさんのメイド服を見つめている。
「……メイド。かわいい。キバも、あの服、着てみたい……。似合う、かな……?」
キバも、珍しく興奮した様子で、自分の服とセレスさんのメイド服を見比べている。
「ふんっ! まあ、悪くないデザインね。動きやすそうだし、機能美も兼ね備えていると言えるわ。……ちょっと、参考にさせてもらうのもいいかもしれないわね……」
リティカは、腕を組んで何やらブツブツと呟いている。……お前も興味津々じゃねーか……。
いや、本当に、こいつらのテンションどうなってんだ……。
オレたちは、依頼を達成するためにここに来たんだぞ……? そのことを忘れてないか……?
今回の討伐対象であるセイレーンジェリーフィッシュとかいう魔物、自分でも色々調べてみたが、どうやら最近、この辺り一帯でその出現数も、ボスだとされている大型個体のサイズも、異様に増大しているらしい。
これは……もしかしたら、もしかするんじゃないか……?
今度こそ、オレを確実に殺してくれるレベルの強敵なのでは……?
オレがリビングのふかふかソファにどっかりと腰を下ろし、そんなことを考えていると、リティカが、オレの目の前に仁王立ちしていた。
その手には、ビーチボールやこれから着替えるのかもしれない水着を手に持っている。
「ちょっと、あんた! いつまでそんなところで呆けてるつもり!? 早く準備して海に行くわよ!」
……は? 海……?
「え、ちょ、お前……。オレたちの目的、忘れたのか……? 遊びに来たんじゃないんだぞ……?」
オレが呆気に取られてそう言うと、リティカは心底呆れたというように、大きなため息をついた。
「はぁ……? 何言ってるのよ、あんた。せっかくこんな素敵な場所に来たんだから、楽しまなきゃ損よ、損! そのための計画もちゃんと立ててきたんだから!」
そう言って、リティカは得意げに指を一本立てる。
「まず、昼間はみんなで海で思いっきり遊ぶ! そして、夜はテラスでバーベキュー! その後は、みんなで花火をして……深夜は、私が持ってきたボードゲームで盛り上がるのよ! どう? 完璧なプランでしょう!?」
……完璧に、バカンスの計画じゃねーか……!
後ろを見ると、ユウとキバも、いつの間にか可愛らしい水着を手に持ちつつ、あれやこれやと準備している。
……おいおい、お前ら、完全に遊ぶ気満々じゃねーか……!
「だ、ダメだろ! まずは依頼を……!」
オレが慌ててそう言いかけると、隣に控えていたメイドのセレスさんが、にこりと微笑んで口を開いた。
「旦那様。皆様は長旅でお疲れでしょう。それに、今回の『
……え、メイドさんまでそっち側なの……?
「あ、アスマっち、セレスさんもこう言ってることだし、今日ぐらいは遊んでもいいと思うんだけど、どうかな……?」
ユウが懇願するような表情で頼んでくる。
「……アスマも、一緒に。海、絶対楽しい」
キバも、期待に満ちた目でこちらを見つめてくる。
うぅ……。完全に、オレが悪者みたいな雰囲気じゃねーか……。
はぁ……。仕方ない。ここまで来たら、腹を括るしかないか……。
「……わかったよ。今日は、お前たちの言う通りにする。ただし、明日からはちゃんと依頼をこなすからな……?」
オレが渋々そう言うと、三人の少女たちは「「「やったー!!」」」と、満面の笑みで飛び上がって喜んだ。
……本当に、現金なやつらだぜ……。
オレは、重い腰を上げ、自分の荷物の中から、一応持ってきていた水着を探し始めるのだった……。