ここがゲームではないと気づいたとき、オレは壊れる   作:お嬢様執筆中

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5 始まり

 初めてユウを見た時、オレは正直、随分と幼い見た目だなと思った。

 ふわふわとした明るい髪に、大きな琥珀色の瞳。小柄な体躯は、どう見ても十代前半……いや、もしかしたらもっと下かもしれない。

 だから、思わず「君、子供……?」と尋ねてしまったのだ。

 すると彼女は、ころころと鈴を転がすような声で笑ってこう言った。

 

「あははっ、よく言われるけど、こう見えてもあたしはキミより年上だよー。がっかりさせちゃったかな?」

 

 そう言って悪戯っぽく片目をつぶる仕草は、確かに子供っぽくはない。

 言葉遣いや、どこか落ち着いた雰囲気も、見た目とのギャップがすごい。

 なるほど、いわゆる見た目はロリだけど中身は大人ってやつか……。その良さが、まあ、わからなくもない。

 まさにゲーム的なキャラクター設定だ。

 きっと彼女は、オレみたいに困っている初心者プレイヤーを助けるための、親切なNPCなんだろう……。

 そんなオレの勝手な推測を裏付けるかのように、ユウはとんでもないことを言い出した。

 

「お腹、空いてるんでしょ? あんまりないけど……これ、よかったらあげるよ」

 

 そう言って、彼女は持っていた革袋から、少し硬そうなパンと干し肉を取り出し、オレに差し出したのだ。

 その瞬間、オレの涙腺は決壊した。

 空腹と、心細さと、そして何より、見ず知らずのオレに対する彼女のあまりの親切さに、ボロボロと涙が溢れて止まらなくなった。

 うぉぉぉぉん、ユウ様ぁぁぁ……! あなたは神か……!

 

「わわっ、だ、大丈夫……!? そんなに泣くなんて、よっぽどお腹空いてたんだねー。よしよし」

 

 ユウは少し驚いた顔をしたが、すぐに優しくオレの頭を撫でてくれた。

 その手つきは、まるで母親のようだ……いや、年上のお姉さんか……。

 NPCの優しさが身に染みるぜ……。

 

「本当に、大げさなんだからー」

 

 しゃくりあげながらパンにかぶりつくオレを見て、ユウは楽しそうに笑っていた。

 その笑顔は、本当に太陽みたいで……。

 

 それからオレは、ユウにこの世界の基本的なことを色々と教えてもらった。

 通貨のこと、街の構造、冒険者ギルドの存在……。どれも、この先、生きのこるためには必須の情報ばかりだ。

 そして一通り説明が終わった後、ユウは不思議そうな顔でオレに尋ねてきた。

 

「それで……キミは、一体どこから来たんだい? その服とか、あんまり見ない感じだけど……」

 

 オレは返答に窮した。

 なんて答えるべきか……。

「実はオレ、VRMMOのプレイヤーで、バグか何かでログアウトできなくなっちゃったんだぜ、へへっ」なんて言ったところで、この親切なNPCのユウが理解できるはずもない。

 頭がおかしくなったと思われるのがオチだろう……。

 少し悩んだ末、オレは当たり障りのない答えを選んだ。

 

「……気がついたら、この世界にいたんだ。それまでいた場所とは、全然違う世界にいたはずなのにさ……」

 

 我ながら、なんとも曖昧な言い方だ。

 しかし、ユウはオレの言葉に何か思い当たることがあったのか、ポンと手を叩いた。

 

「へぇー……じゃあ、キミもしかして、異邦人(いほうびと)ってやつかい?」

 

「いほうびと……?」

 

 聞き慣れない言葉に、オレは首を傾げる。

 ユウによると、この世界にはごく稀に、オレのように他の世界からやってくる人間がいるらしい。

 そういう人たちのことを、この世界では「異邦人」と呼ぶのだそうだ。

 なるほどな……。うまいことプレイヤーの存在を世界観に落とし込んでいるわけか。

 さすがは最新のVRMMOだぜ……。芸が細かい。

 

「じゃあ、その……元の世界に帰る方法とか、知ってたりする……? あと、オレ以外にも異邦人(いほうびと)がいるなら、その人たちに会ってみたいんだけど……」

 

 藁にもすがる思いで尋ねるオレに、ユウは申し訳なさそうに首を横に振った。

 

「うーん……ごめんね。あたしも、そういう話はあんまり詳しくなくってさ……。異邦人(いほうびと)の人たちがどうやってここに来て、どうやって帰るのかとかは、全然わからないかも」

 

「そっか……」

 

 やっぱり、そう簡単にはいかないよな……。

 内心、ため息をつく。

 こうなったら、運営からの何かしらのアナウンスを待つか、あるいは何かのきっかけで強制的にログアウトさせられるのを待つしかないのかもしれない。

 それまでは……この世界で何とか生き延びつつ、他のプレイヤーを探す必要がありそうだ。

 他のプレイヤーなら、何かログアウトに関する情報を持っているかもしれないし……。

 

 そんなオレの考えを見透かしたかのように、ユウが提案してきた。

 

「キミみたいな、身寄りもなくて、この世界のことをよく知らない人は、とりあえず冒険者になるのが一番手っ取り早いと思うよー。冒険者になれば、色々な街や村に行くことになるし、たくさんの人と出会う機会もあるからね。もしかしたら、他の異邦人(いほうびと)の人にも会えるかもしれないし……どうかな?」

 

「冒険者……か」

 

 確かに、それはいい考えかもしれない。

 じっとしていても状況は変わらないだろうし、行動することで何か新しい情報が得られる可能性もある。

 

「わかった。オレ、冒険者になるよ」

 

 オレがそう言うと、ユウはにっこりと微笑んだ。

 その笑顔に、オレは少しだけ勇気をもらえた気がした。

 

「それじゃあ、あたしが色々と案内してあげるよー」

 

 ユウはそう言って、ぱっと顔を輝かせた。まるで、自分のことのように嬉しそうだ。

 そして、さらに驚くべきことを口にする。

 

「実は、こう見えてもあたしも冒険者なんだ。だから、任せてよ」

 

 ええっ!? この見た目で冒険者……!?

 思わず、心の声が漏れそうになる。

 だって、どう見ても戦闘向きには見えないし、むしろ守られる側のキャラクターだろう、普通は……。

 そんなオレの内心を見透かしたかのように、ユウは呆れた表情をする。

 

「もー、また失礼なこと思ったでしょー。人は見かけによらないって習わなかった?」

 

 うぐっ……。

 確かに、ちょっと……いや、かなり失礼なことを考えていた。

 しかし、このユウの洞察力もなかなか侮れない。NPCのくせに、こちらの感情を読むのが上手すぎる。

 

「まあ、細かいことは後にして、まずは冒険者ギルドに行ってみようか。冒険者になるには、そこで登録して、自分の適性や魔力を測ってもらう必要があるんだ」

 

「魔力……?」

 

 いかにもゲームらしい設定に、オレは少しだけワクワクする。

 自分のステータスとか、そういうのが見えるんだろうか……。

 

 ユウに案内されるまま、オレたちは冒険者ギルドへと向かった。

 ギルドは街の中心部にあり、多くの人で賑わっていた。屈強そうな戦士風の男や、怪しげなローブを纏った魔術師風の人物、身軽そうな格好の盗賊風の男女など、まさにファンタジー世界の縮図といった感じだ。

 受付でユウが何やら話すと、すぐに奥の部屋へ通された。

 そこには、水晶玉のようなものが置かれた小さな祭壇があった。

 

「これが、測定器(そくていき)だよ。この水晶玉に手をかざしてみてー」

 

 ユウに促されるまま、オレは恐る恐る水晶玉に手をかざした。

 すると、水晶玉がぼんやりと光り始め、やがていくつかの文字と数値が浮かび上がってきた。

 

 ――――――

 名前:アスマ

 レベル:1

 

 筋力:D

 速度:B+

 持久:C

 精度:A-

 魔力:D+

 ――――――

 

「……えっと、これっていいのか……?」

 

 浮かび上がった表示を見て、オレは首を捻る。

 これがオレのステータスってやつなんだろうけど……。DとかB+とか言われても、それがどの程度のものなのか、さっぱり見当がつかない。

 レベル1ってのは、まあ、お約束って感じだな。

 すると、隣で水晶玉を覗き込んでいたユウが、突然「わぁっ!」と声を上げた。

 その琥珀色の瞳はキラキラと輝き、興奮を隠しきれないといった様子だ。

 

「すごいよ、キミ! これ、かなり優秀なステータスだよっ!」

 

「え……? だって、DとかCとかばっかりだぞ……? もっとこう、SとかAとかが並んでる方が強いイメージなんだけど……」

 

 オレの疑問に、ユウはぶんぶんと首を横に振る。

 その勢いで、サイドで結んだ髪がふわふわと揺れていた。

 

「もー、キミはわかってないなぁー。この測定器でわかるのはね、その人がどれだけ成長できるかの『素質』なんだよ。今の強さそのものじゃないの。この世界のステータス評価は、才能の限界値としてEから始まってD、C、B、A、そして最高がSランクなんだよ。普通だと、だいたいDとかEの才能ばっかりなんだからね。Cの才能があれば、まあまあ将来有望だねって言われるくらいなんだ」

 

「へぇ……じゃあ、この数字はあくまで『伸びしろ』みたいなものなのか……」

 

 ユウの説明に、オレは少しだけ納得する。

 なるほど、そういう評価基準なのか。ゲームでよくある、初期値と成長限界値みたいな感じか。

 

「そうそう! キミの筋力Dと持久Cの才能は、まあ、平均かちょっと下くらいだけど、致命的に低いわけじゃないから大丈夫だよ。それよりも見てよ、これ! 速度の才能がB+で、精度の才能がA-だよっ! これって、ものすごく凄いことなんだからねっ!」

 

 ユウは、まるで自分のことのように興奮して、オレの肩をバンバン叩いてくる。

 い、痛い痛い……!

 

「Aランクの才能なんて言ったら、もうその道の一流になれる素質があるってことなんだよ! ちゃんと鍛えれば、矢や魔法の的中に影響するのはもちろん、剣とかを使う時でも、相手の弱点を正確に狙えるようになるってことだからね!」

 

「お、おう……。じゃあ、頑張って鍛えれば、そのくらい強くなれる可能性があるってことか……」

 

 なんだかよくわからないうちに、ものすごく褒められている……。ゲーム開始直後の初期才能としては、確かに悪くないのかもしれないな。

 VRMMOって、こういうのでプレイヤーの個性を出すタイプのものが多いし……。

 

「魔力D+の才能も、魔法使いを目指すにはちょっと心許ないけど、補助的な魔法を使ったり、魔道具を扱う才能としては十分だよ。戦士系のジョブでも、ちょっとした魔法が使えると便利だからねー」

 

 ユウはうんうんと頷きながら、さらに続ける。

 

「この才能を活かすなら、キミの目指すべき戦闘スタイルは決まりだね! 高い速度の才能を伸ばして、将来的に敵の攻撃をひらりひらりとかわしながら、その抜群の精度の才能を磨いて相手の急所を一撃で仕留める……そんなヒットアンドアウェイ戦法が一番向いてると思うよ!」

 

「ヒットアンドアウェイ……か」

 

 確かに、筋力や持久力の才能でゴリ押しするタイプではなさそうだ。素早さと正確さで勝負する、トリッキーな戦闘スタイル……。

 なんだか、ちょっと格好いいかもしれない……。

 

「その才能を伸ばすなら、武器はそうだなー……。軽くて扱いやすい片手剣とか、短剣なんかがいいかもね。手数で勝負する感じ! 盾を持つよりは、回避に専念したがキミの長所を活かせると思うよ」

 

 ユウは目を輝かせながら、楽しそうにアドバイスをくれる。

 その姿は、まるで新しいおもちゃを見つけた子供のようだ。

 NPCのくせに、本当に表情豊かだな……。

 

「なるほどな……。なんとなく、目指す方向のイメージは湧いてきたぜ」

 

 ユウの説明のおかげで、自分がこの世界でどう成長していけばいいのか、少しだけ道筋が見えた気がした。

 

「よし、じゃあ、まずはその片手剣とやらを手に入れるところから始めないとな!」

 

 オレがそう言うと、ユウは「うんっ!」と力強く頷き、満面の笑みを浮かべた。

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