俺はある知人を訪ねて、車を1時間ほど走らせて北関東までやってきた。
「ホントに手がかかるウマ娘だよな……」
ハンドルを握りながら、昨日の会話を思い返す。
有馬記念での引退を機に、彼女はドリームトロフィーシリーズに進むとばかり思っていた。
それが、まさか「野球をやりたい」と言い出すとは――。
幸い、俺には知り合いに野球関係者がいた。
担当ウマ娘の進路を考えるなら、今は迷わず動くべきだ。
目的地の野球練習場に到着すると、遠くから子供たちの笑い声が聞こえてきた。
もちろん競馬場ではなく、野球のグラウンド。
そこでは小学生くらいの小柄なウマ娘たちが、元気にボールを追いかけている。
その中に、ひときわ目立つ人物がいた。
頭ひとつ分ほど大きい、小柄な成人ウマ娘。
金色の短髪は軽やかに風に揺れ、毛先はオレンジがかっている。
跳ねた髪の合間からは、細い馬耳がちょこんと伸びていた。
スポーティなジャージ姿はシンプルで、色気とは無縁……いや、そんなことを口にしたら間違いなく怒られるな。
彼女は俺に気づき、子供たちに自主練習を指示してから、軽やかなステップでこちらに駆け寄ってきた。
「カワヌマさん!どうもどうも~!今日はどんなご用です?」
彼女の名はムネサワシャイン。
AUBLで活躍した元プロ野球選手で、今はアマチュアのウマ娘たちに野球を教える指導者だ。
昔の担当ウマ娘がアメリカ遠征した際に知り合い、それ以来、交流が続いている友人でもある。
「シャイン、才能がありそうな子はいるか?」
「いっぱいいるんですよ~!でも、彼女たちは球界の宝ですから渡しませんよ?」
「レースのスカウトなら、球場じゃなくてトラックに行くだろ。
それに、ここにいる子たちはレースを夢見てないだろ?」
そんなやり取りを交わしながら、俺は手土産代わりに缶コーヒーを手渡す。
「ありがとうございます!ブレイザーちゃん、有馬記念頑張りましたね~。テレビで応援してましたよ!」
眩しいほどの笑顔と共に、明るい声が響く。
「ああ、ありがとよ。まあ、距離適性が厳しかったし、相手も凄すぎたしな。」
昨日のレース――トウカイテイオーの走りは、まさに“復活の象徴”だった。
勝てなかったのは仕方ないと、今はそう思える。
「それでも、同じアスリートとして悔しさはわかりますよ!……ブレイザーちゃん、落ち込んでませんでした?」
「いや、あいつはそんなタイプでもない。それに、もう次の道に進んでる。」
その言葉に、シャインはキョトンとした後、ハッと目を輝かせた。
「もしかして、野球界に来てくれるとかですか~!」
笑いながらコーヒーを口にするが、俺がニヤリと返すと――
「よくわかったな。その通りだよ。」
「ぷふっ!?」
シャインはコーヒーを盛大に吹き出した。
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「いやいや、それは嘘だぁ~!地方のウマ娘を強行指名しても拒否されることが多いのに、中央の、それもGⅠウマ娘が自ら来るなんて……!」
肩を掴まれてガタガタと揺さぶられる。
矢継ぎ早に質問が飛んでくるが、数年前の“話題先行型”の選手の失敗例も頭をよぎった。
「どうどう、シャイン。有馬終わってすぐに言われた俺の気持ち、今ならわかるだろ?」
「そのタイミングだったんですか……。ビッグニュース過ぎですよ!」
ようやく落ち着きを取り戻したシャインは、顎に手を当てて考え込む。
「でも、トレセンに入ってからまともに野球してないですよね。そういうことですか?」
「ああ。最大限の準備をさせたい。……それで、お前に頼みたい。」
「私に……ですか?でも……うん、確かに教えたくなってきましたね~!ブレイザーちゃんが野球やるなんて、ワクワクしてきました!」
俺が頷くと、シャインはにっこりと笑って俺の手をぎゅっと握った。
「じゃあ、その信頼に、しっかり応えないとですね!」
リュウデンブレイザーのトレーナー(本名、カワヌマ)
海外重賞を含む多くの栄光を手にした敏腕トレーナー
スカウトするウマ娘に破天荒なタイプが多く、
本人も要注意人物扱いを受けており、不遇な人。
ムネサワシャイン
元AUBLリーガーのウマ娘。イチリツミラクルに憧れて渡米した。
個人タイトルには恵まれなかったが、明るい性格でチームを牽引し、
地区優勝に貢献した。
帰国後、複数球団を渡り歩き、首位打者と盗塁王のタイトルを獲得。
一時は現役を引退したが、現在は独立リーグのあるチームでプレーしながら、
子供たちに野球を教えている。