メインヒロインより可愛いモブの田中さん   作:3pu

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第21話 中山君は私を見ている

 

『田中さん。それ重そうだから俺が持って行くわ。代わりにこっちを頼む』

『あっ、はい。ありがとうございます』

 

 時は五月の始め。

 体育祭が間近に迫ってきた影響で、体育の授業内容が変わったばかりのこと。

 障害物競走の用意をするため、私が先生に渡されたタイヤを運んでいると後ろからネットを抱えた中山君がやってきて、瞬く間に彼の持っているものとすり替えられてしまいました。

 一連の流れがあまりに鮮やかで、私はタイヤを持って走り去って行く中山君のことを呆然と眺めることしか出来ませんでした。

 相変わらず中山君は私が困った時に助けてくれる。

 胸の奥がじんわりと暖かくなっているのを感じていると、不意に背中を叩かれました。

 

『たーちゃん。一緒に行こ?』

 

後ろを振り向くと、紫のハーフツインを揺らしながら人懐っこい笑みを浮かべる美琴ちゃんの姿が。

 

『はい』

『やった。たーちゃん大好き』

 

 私が縦に首を振ると美琴ちゃんは嬉しそうに小走りし横に並びました。

 

『ちょっと、私だけ除け者にする気かしら?』

 

 すると、さらに後ろから跳び箱の段を両脇に抱えたハルカちゃんが不満の声を上げるのが聞こえました。

 

『大丈夫大丈夫。私とたーちゃんがそんなことするわけないじゃん。ほら、早くおいではまちゃん』

『はい、一緒に行きましょう』

『貴方達のそういところ大好きよ」

 

 私と美琴ちゃんはその場に立ち止まり、ハルカちゃんが追いつくのを待ち三人が揃ったところで再び歩き出しました。

 

『そういえばたーちゃん。タイヤ運んでなかったけ?何で、ネットになってるの?』

 

 ほぼ同じタイミングで倉庫に入り道具を受け取っていたからでしょう。

 少し歩いたところで、美琴ちゃんが私の持っている物が変わっていることに気が付きました。

 

『それは中山君が私が重そうだからって交換してくれたんです』

 

 私が経緯を説明すると『はは〜ん。なるどね〜』と美琴ちゃんは納得したような声を上げます。

 その後、ニヤニヤと意地の悪い笑みを浮かべ『中山ってさ。よくたーちゃんのこと見てるよね』とこんなことを言ってきました。

 

『そんなことないですよ』

 

 おそらく、私を揶揄うための発言なのでしょう。

 ですが、中山君の優しさが特定の一人だけに向けられたものではないことを知っています。

 私は特に動揺することもなく平然と否定しました。

 

『そうかなぁ〜?だって、中山はちょっと前たーちゃんのおっぱいをガン見してたでしょ?』

『そ、それは……』

 

 ですが、続く美琴ちゃんからの攻撃を受けることが出来ず、少し動揺してしまいました。

 でも、仕方がないんです。

 だって、当時のことは未だに私の脳裏に強く残っていて、その時の羞恥心が再燃してしまったのですから。

 

『あれは偶々ですよ。そう、たまたまです』

『そんなことないわよ。あれはガン見だったわ。まぁ、純香の胸はクラス一番だから当然よ』

 

 何とか私は適当な言い訳を紡ぐも、新たに加わったハルカちゃんによって否定されてしまって。

 これ以上の反論することは出来なくなってしまいました。

 鏡もないのに頬が紅くなっているのが分かります。

 私はすぐにネットで口元を隠しましたが、編み編みのせいで微かに顔が見えてしまっていたようで二人から『たーちゃん、可愛い〜』、『そうね。同性なのにも関わらずキュンキュンしちゃう』とさらに揶揄われるのでした。

 

『うぅ〜!?意地悪してくる美琴ちゃんとハルカちゃんなんか嫌いです!』

 

 二人からの揶揄いに耐え切れなくなった私は子供のように悪口を言うと『アハハ、ごめんごめん。たーちゃん嫌わないで』、『純香に嫌われるのは嫌ね。ごめんなさい』と美琴ちゃんとハルカちゃんは拗ねている子供を諭すように謝ってくるのでした。

 酷いです。

 私は一割くらい本気で言ってるのに。

 まぁ、残りの九割が冗談だと分かっているからなのでしょうけど。

 

『でも、まぁ、正直な話それ以外でも中山はたーちゃんのことを見ていると思うよ?私達がたーちゃん困ってるなぁ〜って思った時には中山が大体動いてるし』

『そうね。それに、授業中なんかも窓の外を見ているだけなのかもしれないけど、よく純香の方を見てるもの』

 

 まだまだ話を続けても問題ないと判断した美琴ちゃん達は、ドンドンと私の逃げ道を潰してきました。

 

(中山君は本当に私のことを見ているのでしょうか?)

 

 結果。

 ずっと、自惚れないようにしていたのに。

 ずっと、考えないようにしていたのに。

 私はそんな淡い期待を抱いてしまったのです。

 

『中山君ーー!ちょっとこれズレてるそっち持ってくれなーい?』

『分かったー!』

 

 それは、女子からのヘルプに応えている中山君の姿を見ても何故だか消えてはくれず、私の胸の中を燻り続けるのでした。

 

 

 

『……やった!やりましたよ田中先輩!』

 

 その日の放課後。

 ぼんやりとした状態で部活動に励んでいると、ある時私が指導していた後輩の浜田ノノちゃんが歓声を上げました。

 それによって頭の中がクリアになり、私はすぐに浜田さんがここ最近ずっと上手く演奏出来なかった曲を完走しきったことを察しました。

 

『よしよし、今回はしっかり最後まで吹けてたね。ミスも殆ど無かったし凄いよ』

 

 後輩の浜田さんが成長したことにまるで自分ごとのように嬉しくなった私は、思わず頭を撫でると『ありがとうございます!田中先輩が付きっきりで教えてくれたおかげです』と彼女は満面の笑みを浮かべお礼を言ってきました。

 

『私はちょっとしたコツを教えただけだよ。出来たのは浜田さんが頑張ったおかげだよ』

 

 後輩からお礼を言われるのはやっぱり先輩冥利に尽きます。

 でも、曲を吹けるようになったのは浜田さんの努力があってこそのもの。

 それを忘れてはいけないと私が言うと、浜田さんは『それでも、ありがとうございます!』ともう一度頭を下げました。

 本当に素直で良い子です。

 そんな彼女の姿に、私はついつい頰が緩ませるのでした。

 

 ピピッ!ピピッ!

 

 丁度そのタイミングでセットしていたタイマーが鳴り、五分休憩の時間になりました。

 

『私ちょっと飲み物買ってくるね』

『はい、分かりました』

 

 休憩に入ってすぐ、私は浜田さんにそう言って近くの自販機へ向かいました。

 どうしても後輩の成長を祝いたくなったのです。

 だから、私は浜田さんの好きだと言っていた果汁ジュースを買うことにしたのです。

 本当にささやかなもので申し訳ないですが。

 お小遣い日前で金欠なので浜田さんには大目に見てもらえることを願います。

 

『あっ!あれは中山君と……あの方はもしかして秋月会長ですか?』

 

 階段を一定のリズムで駆け降り、校舎の外に出ようとしたところで自販機の側に中山君と秋月会長が何やら楽しそうに会話をしているのを目撃しました。

 ズキッと胸に痛みが走り、思わず足が一歩後ろに下がります。

 ですが、浜田さんの好物である果汁ジュースは中山君達の側の自販機にしか売っていません。

 

『よし』

 

 そのことを思い出した私はパチンっと頬を叩き、後ろに下がった足を前に出しお二人の元へ向かいます。

 

『あっ、中山君。こんな時間に学校にいるのは珍しいですね。しかも、秋月会長と一緒なんて』

『まぁ、担任の山本にちょっと頼まれてな。色々運んだりしてたんだよ。秋月先輩がいるのはその時に手伝いをしてくれてな。今はそのお礼中だ』

 

 私は出来るだけ偶然を装い中山君達に話しかけると、こちらに気が付いた中山君が軽く手を上げ何故四季姫の秋月会長と一緒にいるのかを語ってくれます。

 

(秋月会長相手でも変わらないんですね)

 

 目を眩むような美女と一緒にいるにも関わらず、平然と振る舞う中山くんの姿に私はホッとしました。

 でも、その後のお二人の先輩後輩にしては気心が知れたやり取りはモヤモヤして。

 私が居心地の悪さを感じていると、中山君がある時『別に仲良くはないから。それより、田中さんは何でここに?』と尋ねてきました。

 

『あっ、はい。頑張った後輩を労おうとジュースを買いに来たんです』

 

 それにより、私はここに来た当初の目的を思い出し財布に残っている少ない小銭で何とか果汁ジュースを購入。

 

『では、私はここで失礼させていただきますね』

 

 何となくお二人に金遣いの荒い女だと思われていないか不安になった私は、ジュースを自販機から回収するとその場を離れようとしました。

 

『あっ、ちょい待ち。これも持ってきな』

 

 ですが、そんな私を何故か中山君は引き留めて後ろ振り向いたところで、彼の持っていた新品のミルクティーが飛んできました。

 

『あの、これは?』

 

 私はそれを何とかキャッチ。

 しかし、何故渡されているのかが分からず私は理由を尋ねると、彼は次の瞬間はにかみこう言ったのです。

 

『田中さんの分。田中さんも後輩が出来るように色々してたんだろ?()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

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 中山君としては意図してない発言だったのは分かっています。

 でも、脳裏には今日の体育の授業で言われたことが過って、瞬間湯沸かし器のように全身の血が茹っていくのを感じて。

 

『……ありがとうございます』

 

 私はたった一言お礼の言葉を言うと、走ってその場を離れました。

 失礼な態度を取っているのは分かっています。

 ただ、それでも見られたくなかったのです。

 どうしようもないくらい赤く染っている私の顔を。

 

(嘘、ウソウソ、うそうそうそうそうそーーーー!!)

 

 あり得ないと思っていました。

 私はお姫様じゃなくて端役だから。

 中山君が私のことを見ているのは優しいから。

 彼が助けたいと思う人間のその中の一人だとそう思っていたのです。

 でも、こんなことされたら勘違いしたくなっちゃうじゃないですか。

 

 中山君が私のことをきちんと見てくれているって。

 私のことをちゃんと一人のお姫様(女の子)として意識してくれているんだって。

 

 こんな馬鹿な間違いを正すため、一刻も速く一人になりたかった私は今までの人生史上最速で校舎の階段を駆け上るのでした。

 

 

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