メインヒロインより可愛いモブの田中さん   作:3pu

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第25話 中山君はずるい

 

『……やっぱり、時間をかけて探っていくしかないですよね』

 

 家から駅に向かう途中、私はほどよく雲がかかった空を眺めながらボソッとこんなことを呟きました。

 昨日お姉ちゃんが言っていたように、中山君から直接気持ちを聞き出せない現状、普段の行動から推察するのが一番私には合っていると思ったのです。

 しかし、一つ懸念することがあるとすれば中山君に私が観察しているのがバレて、嫌な思いをさせてしまうかもしれないこと。

 最悪口も聞いてもらえなくなる可能性がほんの僅かだけでもあると思うと、躊躇いそうになりますがそれでは結局何も変わりません。

 どれだけ変化が怖くても、これくらいは進まなければ。

 でないと、このまま何も起きずに卒業して、一生後悔が残り続けます。

 そんなことを考えながら歩いていたらいつの間にか駅の近くにいて、階段を登ろうとしたところで『おい、田中!』と苛立ちの籠った大声で私を呼ぶ声が聞こえてきました。

 

『っ!?松風君』

 

 後ろを振り向くとそこには、いつも爽やかな顔をしていた松風君の影は一切なく怒りの形相を浮かべていて、あまりの迫力に私は思わず後ろへ一歩下がりました。

 何故、朝一番のまだ会話もしてない段階でこんなにも敵意を剥き出しにされているのか分からず、動揺で固まっていると松風君がズカズカと私の方に歩み寄ってきます。

 

『お前のせいで春野さんと連絡が取れなくなっちまったじゃねぇか!どうしてくれるんだよ!?』

 

そして、私の後ろにあった手すり棒を思いっきり蹴り付けながら怒鳴りつけてきました。

 

『そ、それは』

 

 確かに私は春野さんに余計な事を伝えたかもしれません。

 ですが、それでも春野さんと松風君の関係に大きな影響を及ぼすものではありませんでした。

 私はただ連絡先が挟まれていたと伝えただけです。

 だから、私が何を言ってもきっと、春野さんは松風君と連絡を取り続けることを拒んだでしょう。

 

『春野さんには本当に──』

『うるせぇ!ごちゃごちゃ屁理屈言ってんじゃねぇよ!?』

 

 何とか私は誤解を解こうとしますが、よほど春野さんと上手くいかなかったのが認めがたかったのか松風君は聞く耳を持ってくれません。

 

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 松風君の罵声を聞いて咄嗟に身をすくませた瞬間、不意にお姉ちゃんが昨日言っていたことが頭を過りました。

 

 ── あーー……ナダレみたいに怒ってくれたら簡単に気持ちが分かるんだけど。

 

『ッ!』

 

 胸の奥がグシャッと何かを潰されたような鈍い痛みが走り、視界が滲みます。

 

(……やっぱり私ってそんな風に思われてたんだ)

 

 痛い。

 彼は私のことをお姉ちゃんや冷乃ちゃん、春野さん達みたいなお姫様の付属品や便利な窓口役だと彼は本気で思っている。

 でも、こんなことはずっとずっと前から分かっていたことです。

 私の人間関係を知る男の子達からそんな目で見られているって。

 けれど、それでもやっぱり──辛いものは辛いです。

 

『何、泣きそうになってんだよ!泣きてぇのはこっちだよ!お前のせいで、お前なんか頼ったせいで俺が好きになった人と上手くいかない!マジふざけんなよ!イケメンの俺が普通振られるわけないんだよ!』

『うあっ……あっ……あぁっ』

 

 痛みで呼吸が乱れる。

 恐怖で目の端から涙が溢れそうになる。

 それでも、何とか堪えようとしていたそんなある時──

 

『そんな腐った性根をしてるんだから振られて当然よ。このゴミカス男!』

 

 ──とても聴き馴染みのある声が聞こえてきました。

 私は顔をそちらに向けると、長い髪をはためかせながら鋭い目で松風君を睨む冷乃ちゃんがいました。

 

『冬空冷乃!?何で君がここに!?』

『……はぁ〜。何言ってるのかしら。純香と同じ高校に通ってるんだから当たり前でしょ。このくらいちょっと考えれば分かるでしょド低脳。あぁ、そっか。低脳だからこんな簡単なことも他人に頼らないと分からないのね』

『くっ!?』

 

 濃密な怒りと嫌悪を発しながら松風君を罵倒する冷乃ちゃん。

 その迫力は凄まじく、怒り心頭だった松風君が怯ませてしまうほど。

 かくいう隣にいた私もこんなにも怒っている冷乃ちゃんを見るのは初めてで、思わず息を呑みました。

 

『そんな低脳でも分かるよう教えてあげる。好きになった人と繋がり持とうとするために、他人を頼ることは悪い事ではないわ。けどね、上手くいかなかったからって責任を擦りつけるのはお門違いよ。だって、頼るって決めたのは貴方なんだから。貴方が自分で選んだの。貴方の選択なの。貴方が弱いから他人を頼るしかなかったの。だから、責任は貴方にある。純香は悪くないわ』

 

 ですが、松風君と違って感情のままに怒りを吐き散らすのではなく、冷乃ちゃんは酷く淡々と相手を罵倒していました。

 

『わ、悪くないわけないだろ!?そいつが何か言わなかったらいきなりあんなメッセージが飛んでくるはずがないんだ!』

 

 このまま呑まれては負けると思ったのか松風君は反論しますが

 

『ふん、そう。それだけ自分に自信があるのなら何故他人に頼ったの?何故、断られた後に何かアクションをしなかったの?もしかしたら、あのお人好しなら顔を合わせれば考え直したかもしれないのに』と

『え、えっと、それは……』

 

 数多くの男子達を舌戦で負かせてきた冷乃ちゃんに勝てるはずもなく。

 

『当然言えないわよね。だって、貴方は臆病者のグズだから。自分のせいで失敗するのが怖くて、認めたくなくて、責任を擦りつけられる誰かがいないと動けない最低の他責ゴミクズチキン野郎なんだから』

『ッ!?』

『自分だけ安全圏にて望んだものが手に入るなんてそんな都合の良い話があるわけないでしょ!傷つく覚悟もない奴が恋愛を語るんじゃないわよ!この戯け者が!』

『す、すいませんでしたーー!』

 

 最終的に、冷乃ちゃんが怒りを爆発させたところで松風君は涙目になりながら敗走していきました。

 その後ろ姿は、先程まで私を高圧的な態度で威圧していた人と同じ人物とは思えないくらい小さかったです。

 

『はぁ〜』

 

 次の瞬間、張り詰めていた糸がプツンと切れ、私は腰を抜かしてしまいました。

 

『何とか間に合って良かったわ』

『うん、ありがとう。冷乃ちゃん凄くカッコ良かったよ』

 

 地面に情けなく座り込む私の手を取って起き上がらせてくれた冷乃ちゃんにお礼を言うと『これくらい当然よ』と素っ気ない返事が返ってきました。

 ただ、そっぽを向く冷乃ちゃんの耳は紅く染まっていて照れているのが丸わかりで。

 私は思わずクスリと笑い声を上げてしまいした。

 そんな私を『何笑ってるのよ』と、冷乃ちゃんがキッと鋭い目で睨んできました。

 

『ごめんなさい。冷乃ちゃんは昔と変わらず可愛いなって』

 

 ただ、松風君に向けていたものと比べて格段に柔らかくて、私は素直に思っていたことを口にしました。

 次の瞬間、カァッーと一気に冷乃ちゃんの顔全体が紅く染まります。

 

『かわっ!?可愛くないわよ!私なんかより純香の方が可愛いじゃない。愛嬌があって親しみやすくて私なんかよりずっとずっと可愛いわよ』

『そんなことないよ。冷乃ちゃんの方がずっとずっと可愛くて魅力的だよ。その証拠に高校では四季姫なんて異名が付いてて男子から大人気でしょ』

 

 分かりやすく慌てる冷乃ちゃんを心の底から可愛いなと思いながら宥めれば、何故だか急に『ッ!?』彼女の顔が悲しそうなものに変わりました。

 

『ごめんなさい』

 

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 だから、素直に受け取ってくれれば良いのに。

 ここで罪悪感に駆られて謝れる冷乃ちゃんは本当に優しい素敵なお姫様なんですよ。

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『ううん、大丈夫だよ』

 

 私は精一杯の笑みを浮かべながら、冷乃ちゃんの身体を抱きしめました。

 

 

 

 

 冷乃ちゃんと別れて学校に登校すると、いつもより少し遅れたからか中山君の姿が既に教室にありました。

 中山君は私の存在に気付くと『おはよう、田中さん』と、優しく出迎えてくれます。

 

『おはようございます。中山君』

 

 私は努めていつも通りに返事をし席に着きました。

 教科書を鞄から机の中に移している隙にチラッと横目で中山君の様子を伺えば、彼はぼんやりと教室全体を眺めていました。

 きっと誰か困っている人が居ないのか探しているのでしょう。

 

(……やっぱり私はただのクラスメイトですよね)

 

 彼の瞳には私だけじゃなく皆んなが映っている。

 その事実を目の当たりにして胸が苦しくなりました。

 また、たったこれだけのことであれこれと考えてしまう自分に嫌気が差して、思わず溜息が溢れます。

 

『んっ』

 

 すると、突然俯いていた私の顔前にチロ○チョコが現れたのです。

 

『えっ?』

 

 私は困惑の声を上げながら、差出人を探すと中山君が机の上に沢山置かれたチロ○チョコの一つを開けているところでした。

 

『なんか落ち込んでるみたいだったからやるよ。田中さん甘いの大好物だって言ってたろ。だから、それ食べて元気出せよ』

 

 なんて事ないように彼はそう言って前を向いたままチョコを口に入れまます。

 そして、モゴモゴとチョコを食べる中山君を前に私はしばらく固まっていると

 

『もしかして、その味嫌いだったか?一応他の味もあるぞ』

 

 チョコを食べ終えた中山君がお得パックの大きな袋を差し出してきました。

 

『え、いや、これで大丈夫です。ありがとうございます』

 

 そこでようやく自分が固まっていた事に気が付いた私は、お礼を言って机の上に置かれたチロ○を手に取ります。

 味はイチゴチョコ。

 私の一番好きな味です。

 嬉しい。

 好き。

 

(あぁ、本当ずるいなぁ)

 

 きっと偶然なのは分かっています。

 それでも、先程まで落ち込んでいた気持ちが嘘のように晴れていく。

 あまりに単純な自分に思わず苦笑いしながらも、私は封を開けチョコを口に入れます。

 工場で作られた大量生産品なのに中山君から貰ったチロ○は今まで食べたどれよりも甘く感じました。

 

『美味しいです』

 

 私が感想を言うと『そうか。なら良かった』と中山君は私の方を向いて安堵したような、喜んでいるような、穏やかな笑みを浮かべます。

 そんな中山君とは正反対に私の方はドキドキと心臓が高鳴って、まだ口に残っているはずのチョコの味が急に分からなくなりました。

 

 

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