メインヒロインより可愛いモブの田中さん   作:3pu

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第29話 田中さんのエプロン姿が一番可愛い!

 

 突然だが、男子が女子からの評価が上がる時というのはいつだろうか?

 

 運動神経が高いと分かった時?

 勉強が得意だと分かった時?

 

 その他にも、色々あるだろうが、数多のラブコメ、ドラマ、映画、他人の恋愛模様を見てきた俺が、共通して女子から高評価を得ていると思う場面がある。 

 それは────

 

 

 

 ────料理が出来ると分かった時だ。

 

 昨今は共働きの家庭が殆どで、父親や息子が料理を作ることが増えてきた。

 まぁ、それでもまだ女性の方が割合は高いんだが。

 多少風向きは変わってきているとはいえ、未だ男が料理を作れるというイメージは女子側から持たれていない。

 それ故に、出来ると分かった時のギャップが大きく、必ず驚かれたり、褒められたりと、女子から好印象な反応を取られることが多いのだ。

 

 つまり──

 

『そういえば明日は調理実習だな』

『はいにゃ(猫スタンプ)』

『楽しみにゃ(猫のスタンプ』

 

 ──明日の調理実習は田中さんからの評価を得る絶好のチャンスなのである。

 

「よっしゃ、やったるぞぉ!」

「スマホ触ったんならその前に手を洗いなさい」

「はい、お母様」

 

 そのため、田中さんとメッセージやり取りをする傍ら、母さんと一緒にハンバーグ作りの練習をしていた。

 我が家の食卓を殆ど担っているだけあり、母さんの指導は分かりやすく、お陰様で大体のやり方は理解出来た。

 が、一つだけ問題があった。

 

「や゛っ゛ば、た゛ま゛ね゛ぎ、し゛み゛る゛」

 

 そう。

 玉ねぎを切る際に、硫化アリル?が目に入ってどうしても涙目になってしまうのだ

 一応、少しでも染みないように冷やしてみたりと色んな対策は講じているのだが、今世の身体は滅法催涙成分に弱いらしく効果を一切感じられなかった。

 ……。

 いや、嘘だ。

 一つだけあるにはあったが、どうしてもそれを認めたくなかったのである。

 

「本当玉ねぎに弱いわね、アンタ。さっさと諦めて明日はゴーグル持っていきなさいよ」

「死ぬほどダサいからい゛や゛た゛」

 

 俺が眼鏡男子で体育の授業ならばまだしも、家庭科の授業でゴーグルを付ける馬鹿が何処にいるんだよ!?

 仮にもそんなことをしたら、周囲から嘲笑を浴びせられ、以降最悪の学校生活を送ることになること間違いなし!

 田中さんからの評価はガタ落ちどころか、口も一切聞いてもらえなくなる可能性がある。

 それだけは絶対嫌だ!

 でも、だからと言って泣いているところを見られたくない。

 一体どうすればいいんや!?

 

「もう目を瞑ってきる」

「危な過ぎるから止めなさい、この馬鹿息子が!」

 

 結局、家中にある玉ねぎが無くなるまでの間に良い案が思い浮かばず、俺は目を腫らしながらベッドにつくのであった。

 

 

 

 ◇

 

 

「というわけで、この間の授業で話した通り本日はハンバーグを作ります。刃物や火を使うので充分気をつけて、皆さん調理してください」

「「はい」」

「うーす」

 

 そんなわけでついにやって来てました調理実習。

 朝起きてからも玉ねぎ対策を行ったが、良い案は出てこなかったせいで若干ナイーブである。

 卓上にある憎き茶色の野菜から思わず目を背けた次の瞬間、俺は失明した。

 

(ぁぁぁぁぁぁーー!可愛い!田中さんの制服エプロン姿が可愛過ぎるーー!)

 

 まぁ、ずっと妄想していた田中さんのエプロン姿があったんだ。致し方ないよな。

 普段の制服にただエプロンをつけただけなのに、そこはかとない大人の色気というか良妻感が出ていて、魅力が百倍マシである。

 特にふわふわとした長い髪を後ろで、一本に纏めたことで見えるうなじがエグ過ぎた。

 あれは、まさに殺人兵器。

 少し見ただけなのに、軽く鼻から血が吹き出てしまった。

 田中さんと普段触れ合っていることで耐性が付いている俺でこれなのだ。

 教室は血の海で染まっていると思って、下を見たら床は真っ白。

 

「春野さんのエプロン姿可愛過ぎるだろ」

「いやいや、冬空さんの方がエグいって!」

 

 と、平然とした表情でクラスの馬鹿野郎共は田中さんが近くにいるにも関わらず、春野達の方に夢中になっていた。

 解せぬ。

 田中さんの方が一億倍可愛いのにそれに気が付かないとは、本当この世界の男子高校生達は見る目がない。

 いくらメインヒロイン達のオーラがパナいとはいえ、田中さんほどの美少女に目が向かないのはあり得ない。

 マジ強いものに巻かれがちなミーハー日本人共がよ。

 精々、田中さんの魅力に気が付いた時に俺が彼氏と知って脳破壊されるんだな。っけ!

 

「ねぇ、中山君。玉ねぎの皮を剥いてくれる?」

「お、おう」

 

 俺が一人熱くなって気が付かなかったが、どうやら調理実習は始まっていたらしい。

 ツンツンと俺の脇を突いて来た班員女子Aの指示に従い、俺は茶色の悪魔に手を伸ばした。

 自らの手で敵を第一形態から最終形態するというのは、緊張感が半端ない。

 が、周りの目があるので俺はバリバリと皮を剥いでいく

 

(やべぇ、このまま俺が玉ねぎ切る流れだよな?マジどうすんべ?)

 

 背中に冷や汗をかきながら、どうやってこの場を切り抜けようかと考えていると、俺が剥いた玉ねぎをひょいと横からかっさわれた。

 

「中山君。剥き終わった玉ねぎは私に下さい。みじん切りにしますから」

 

 そう言って、ふわりと笑う田中さん。

 誇張抜きで、俺には彼女の姿が女神に見えた。

 

「わ、分かった。助かる」

 

 (やっぱ、田中さんは最高や!)

 

玉ねぎもマトモに切れない自分が料理出来るアピールをするんじゃなかったと、猛省しながら、それと同時に俺は自ら玉ねぎを切る役を買って出た田中さんに心の底から感謝した。

 

 

 少しして、タンタンタンタンと、小気味よく動く包丁の音を背中に俺は一人洗い物をしていた。

 

「わぁ、田中さん。凄い手際いいね!普段から料理作ってるの?」

 

 班員の一人が田中さんの華麗な包丁捌きに気が付いたらしく、感嘆の声を上げる。

 

「はい。夕飯とかたまに。……後は、お弁当とかもたまに作ったりしてます」

「そうなんだ!田中さんは偉いね」

「そ、そんなことないですよ。私がやりたくてやってるだけなので」

 

 クラスメイトに褒められ、少し早口になる田中さん。

 可愛い!

 俺も出来れば混ざりたいが、憎き玉ねぎフィールドが展開されているせいで、見ることも叶わない。ちくしょう!

 照れ顔の田中さん見てぇーー!

 こんなことなら視力が悪くなった設定で、ゴーグルを付けてくれば良かったぜ。

 が、今更後悔しても遅い。

 俺は涙を見せぬため、泣く泣く全員が玉ねぎを切り終わるまで自班や他班の洗い物を手伝った。

 その途中、何度か視線を感じたが、後ろを振り向くと涙腺崩壊するため、誰か確認することは出来なかった。

 

「ソース俺が作ろうか?」

「おっ、もう洗い物終わったのか。それなら、頼むわ」

「中山君、分量間違えてたりしないでよ〜?」

「大丈夫。そんな簡単な失敗はしねぇよ」

(なんてたって散々家で練習したからな)

 

 地獄の時間がようやく終わったところで、一見平静を装いながらも俺は内心ノリノリで小さな鍋を手に取る。

 そして、玉ねぎを炒めている田中さんの横に並び、空いているコンロに鍋を置いた。

 すると、田中さんの顔がこちらに向く。

 

「中山君。洗い物お疲れ様です。すいません、手伝いに行きたかったのですが、色々忙しくて離れられず、結局中山君一人に任せてしまいました」

 

 おずおずと頭を下げる田中さん。

 自分の仕事があるのに俺の手伝いをしてくれようと思ってたなんて、本当ええ子や。好き。

 本人には決して言えないけど、田中さんに気にかけてもらえていたという事実だけで、洗い物のお釣りは十分過ぎる。

 

「気にすんな。家庭科実習の時に男がする仕事は大抵水仕事だって相場が決まってるもんだ。どうしても気になるなら、その分美味しいハンバーグを作ってくれよ。実は今日田中さんの初手料理が食べれるの楽しみにしてたんだ、俺」

 

 だから、俺はそう言ってはにかめば、「分かりました。期待に応えられるように頑張ります」と田中さんから元気な返事が返ってきた。

 そして、フンスと、胸の前でガッツポーズをする田中さん。

 ──愛らしい。

 ──めっちゃ抱きしめたい。

 ──せめて、写真撮りたい。

 当然、俺の情緒はぶっ壊されかけた。

 もし、MP(メンタルポイント)バーがあれば、間違いなく一割を切っている。

 俺は緩みそうになる顔を片手で隠しながら、気を逸らすために机の上にある調味料に手を伸ばした。

 そして、昨日散々練習したソースのレシピを記憶の海から引っ張り出し、分量を計りながら入れていく。

 全部を入れ終えてから、一煮立ちしたところで鍋から食欲をそそる甘いソースが沸き立った。

 

「よし、上手く出来たな」

 

 計量スプーンを使って味見をしたところ、練習通りバッチリ美味しいソースが出来ていた。

 めっちゃ緊張して分量を間違えてないか、内心ハラハラしていた俺はホッと息を吐く。

 すると、近くにいた班員の男子が「おっ、マジ?それなら、俺にもちょっとくれよ」と声を掛けてきた。

 はい、出た。味見小僧。

 こういうやつって小学校から絶対一人はいるんだよな。

 そんで、俺が使ったスプーンを引ったくって、平然と間接キスをしてくる。

 女子(田中さん)相手ならまだしも、野郎にそんなことをされても全く嬉しくない。

 単純に不愉快というか、何よりそれを見ていた腐った視線を思い出すだけで身震いしてしまう。

 

「ヘイヘイ。じゃあ、そこの小皿を持ってこい」

 

 なので、俺は先んじて対策を講じた。

 これは中学時代に俺が編み出した技で、間接キスを無難に回避出来る。

 

「おう。分かったぜ」

 

 見事に俺の思惑通り、班員A(秋空)は小皿を持ってきた。

 

「うまっ!」

「だろ?」

「あっ、ずるい。私も味見したい」

「俺も俺も」

 

 一人が味見をしたのを皮切りに、他の班員達も声を上げた。

 俺はそんな班員(きかんぼう)達に苦笑いを浮かべながら、小皿を持ったガキ達に順番にソースを分けてやった

 その途中、女子の番が来たところで一度洗おうとしたのだが、早く食べさせなさい!という眼力に負けて結局そのまま。

 どんだけ食い気張ってるんだよ、ウチの班員は。

 

「私もいいですか?」

 

 そんなことを考えていると、俺が知る中で一番の食いしん坊が現れた。

 思わず、朝にいつもパンを咥えている田中さんの姿を思い出し、微笑ましい気持ちになった俺は、ソースを小皿に乗せようとして固まる。

 

「っ!?田中さん、皿は?」

 

 何と、田中さんの手に小皿が無かったのだ。

 一班に人数分用意されているはずなので、無いのはあり得ない。

 だとすれば、小皿は何処に?

 俺はキョロキョロと周りを見渡すと、視界の端で真っ二つに割れた皿を申し訳なさそうな顔で先生に渡す冬空がいた。

 そういえば、今の今まで忘れていたがアイツメシマズ属性とかあったな。

 読めたぞ!

 優しい田中さんは後で、冬空が困らないよう自分の小皿をあっちの班にこっそり分けたのだ。

 ──何という慈悲深さ!やっぱり、田中さんは女神だ!

 

 ──……って!そんなところに感動してる場合じゃねぇ!?

 今だけはその優しさがめっちゃ裏目に出てちまってる。

 

(こうなったら手の甲に乗せるか?いや、それだと田中さんに火傷をさせる可能性が。ならば、同じ班の女子から皿を借りれば──)

 

 脳内コンピュータを最大稼働し、俺が最適解を後もう少しで導き出そうというところで、僅か一歩早く田中さんが動いた。

 

「──あの、ないのでこれにお願いします」

 

 そう言って、田中さんが取り出したのはしゃもじを置いておくためのお椀。

 俺はそれを見た瞬間、途轍もない安堵感と何とも言えない落胆を覚えた。

 

(まぁ、そうだよな。普通、間接キスとかしないよな。うん。夏瀬達はともかく、俺達モブだし。定番ラブコメイベントなんか起きるわけないか)

 

「凄く美味しいです。中山君は料理も上手なんですね」

「そうかぁ?あ、ありがとう」

 

 けれど、チョロい俺は田中さんによるお褒めの言葉で気分は一気に急上昇。

 

(めっちゃ、昨日頑張って練習してよかったぁ!?)

 

 今までの努力が報われたことに、感動の涙を流した(勿論、心の中)。

 

 それから、俺はルンルン気分でハンバーグの焼ける良い匂いを横に、レポートをまとめることしばらく。

 

「皆さん試食用のが焼けましたよ」

 

 と、田中さんがハンバーグが出来たことを告げた。

 そして、俺達の前に冷凍ハンバーグくらいの大きさのものが出され、班員達から「「待ってました」」と声が上がる。

 何でこんなものを作ったのかというと、班のメンバーが「ハンバーグが焼ける時間を待つのキツいから、すぐに焼ける小さいの一個作って良いか?」という食いしん坊発言から始まったもの。

 で、作っていることからも分かる通り、班員のほとんどがそれに賛成を示し、試食用と銘打って一つ作ることになったのである。

 マジでこの班食い意地張りすぎだろ。

 田中さんが巧みな包丁さばきで綺麗に六等分したところで、班員達が一斉に箸を伸ばす。

 

「美味い!」

「やっぱ、肉よね肉。ダイエットとかしてらんないわ!」

「おいしい。明日から頑張ろう。瞳ちゃん!」

「肉汁が溢れてきて、小籠包みてぇ。美味すぎる」

「うん、美味しいですね」

 

 味の感想を次々、口にするメンバーに呆れながら俺は味の感想と書かれた部分に、班員の食レポをまとめていると、ちょんちょんと背中を叩かれる。

 

「どうし──むぐっ!?」

 

 振り向いた瞬間、急に口の中に熱いものを放り込まれた俺は目を白黒させていると、顔を真っ赤に染め、瞳を潤ませる田中さんがいた。

 

「ど、どうですか?」

「えっ?あっ、美味いけど」

 

 何が起きているのか事態を把握出来ないでいる俺は、反射的にそう返すと、田中さんの顔がパァッーーと華やいだ。

 

「本当ですか!?なら、良かったです!」

 

 そう言って、田中さんは声を弾ませ赤い顔のまま、未だ火の上に乗っているフライパンの前へ戻っていく。

 俺はそれを呆然と見送り、口の中のハンバーグが無くなったところで思わず唇を撫でた。

 

 

 

 

 

 

「……もしかして、俺田中さんに『あーん』された?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




悲報 ストック終了
原稿にかまけてる場合じゃねぇ

残りのストックについて 

  • 一気に全部見たい
  • 毎日1話ずつ見たい
  • 田中さん可愛い
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