GQuuuuuuX世界のマラサイ乗り、クレイジーサイコレズ 作:聖成 家康
「アマテさんっ!」
弾むような声音で、アマテ・ユズリハを振り返らせたのは、彼女と同じハイスクールに通う女子生徒だった。
規定のエメラルド色の制服を清楚に着こなし、桃色の髪をお嬢様らしく巻き巻きにして、人形のように精巧な顔を可愛らしい笑みで埋め尽くしていた。
「どした」
「これ、クッキー作ったの! アマテさんにも食べてほしいなぁ、って!」
彼女が手のひらに乗せていたのは、女子っぽい小包に包まれたいくつかのクッキー。
「あー、ありがと」
「い、いま! いま食べて感想聞かせてくれる?」
少女――ルカは、渋々袋を開けたアマテ・ユズリハを、目をキラキラさせながら眺めていた。
「ん。おいしいよ」
「ほっ、ほんと!? やったぁ!!」
彼女とアマテは同級生だが、友達のような会話はほとんどしたことがなかった。
ある時彼女は、どういう訳か、アマテ・ユズリハという少女に心惹かれ、それ以来こうしてストーカー……ではなくお近づきになろうと奮闘しているのだ。
「君さ。なんであたしに、こうまでしてくれるの」
アマテはシンプルな疑問をぶつけてくる。
「アマテさんが、好きだから」
それに対しルカは、何の躊躇いもなくそう言い放ってきた。
「……そう。クッキーありがとね」
「うんっ! いっぱい食べてね!」
アマテの背中を見ながら、ルカは込み上がってくる嬉しさを噛み締めていた。
「アマテさんと、お話できたぁぁっ!!」
ほのかにその場へ残った彼女の残り香をすぅっと吸い込み、しばらく鼻腔に閉じ込めながらルカはその場でくるくる回る。
周りの目も気にせぬ奇行に、周囲から人の気配は消え始める。
「アマテさん良いにおーい……直接嗅ぎたい、頭皮とか」
目を血走らせながら放たれた爆弾に、周辺から人がそそくさと去っていく。
「明日もお話しする口実作らなきゃ!」
ルカはふん、と息を吐き、明日に希望をよせるのだった。
◇
イズマコロニーのとあるホテル。
そこには、多くの連邦軍人がその正体を隠したまま滞在していた。
「赤いガンダムと、ジオンの作った新しいガンダム。バスク少佐はそれがご所望なんだとさ」
連邦軍人であり、バスク・オム率いる極右組織にスカウトされているジェリド・メサは、ため息混じりに答えた。
「ご所望って……破壊ということ?」
ベッドに座る女性、エマ・シーンが彼に尋ねた。
隣に立つカクリコン・カクーラは、スマホを気にするばかりであまり話を聞いていない様子である。
「破壊だ。鹵獲は現実的ではない」
「その二機は、このコロニーで行われている違法なゲーム――クランバトル? に現れるのよね。私達に手の出しようがあるの?」
エマはとにかく、ジェリドに問いを投げかけ続けた。
彼がだんだん苛立ちを募らせるのが目に見えてわかる。
「俺達も参加するしかないだろう!! そのクランバトルとやらにな。手筈は少佐が済ませてくれているようだ」
ジェリドが言い放つと、エマはようやく黙り込んだ。真面目な彼女だ、任務の概要を理解せずにはいられないのだろう。
「機体に制限とかはないの」
「当たり前だ。非合法のゲームだから、何でもありだ。俺とルカには”マラサイ”、エマには”ハイザック”、カクリコンには”ガルバルディ”が輸送される予定だそうだ」
地球連邦軍の最新兵器が、彼らには与えられる。そうまでされるのは、星の数だけ地球にジオンを――スペースノイドを恨み、忌み嫌うものがいるからである。
「ルカ。お前はどうなんだ。新しいガンダムのパイロットとされる女学生は見つかったのか」
スカートの下に履いたショートパンツを、恥ずかしげもなく露出しながら、椅子に座るルカは不機嫌そうな顔で答える。
「そう簡単には無理」
「だろうな。お前のような餓鬼には」
「言ってなよ、戦うことしかできない馬鹿が」
ジェリドの眉間にしわが寄る。
腹を立てた彼は、十七の彼女に対しても容赦なく殴りかかろうとした。
だが、彼女の放つプレッシャーに気圧されてその手を沈めるのだった。
――ルカには、とっくに分かっていた。
アマテ・ユズリハが、
(オールドタイプが、私に指図するな)
ルカ・ヨルムガンド。
◇
クランバトルとは、モビルスーツが二機一組となりMAV戦術を駆使し、クラン同士で戦い合う非合法の競技だ。
優勝すれば多額の賞金が出る、金に困る難民やジオンの勝利で終わった、あの戦争を忘れられない者にとっては最適な拠り所である。
軍警がすっ飛んでくる関係上、その時間はわずか五分しか与えられていない。
だが、裏の世界では根強い人気を誇る一種のスポーツに近いものだ。
「アーマテさんっ!」
ルカは性懲りも無くアマテに話しかけた。
ぶっきらぼうな返ししかされないのだが、彼女にとっては、それすらもご褒美のようなものであるのだ。
「なに」
「アマテさん……その、クッキーどうだった?」
「あー。お母さんにもあげたけど、美味しかったって」
「……」
第三者の存在を切り出され、ルカは一気にテンションがだだ下がる。
今は私とアマテさん、二人だけの時間なのに――何もしていない彼女の母に怒りを通り越した激情を抱きながらも、この時間を大切にしたいと抑え込む。
「そのさ、アマテさんと遊びに行きたいな……なんて」
「ごめん、あたし塾行かないといけないの」
普通なら望みを打ち砕かれるような返しをされたが、彼女はそうはならない。
ルカには感覚で分かっていた。
彼女がジオンのガンダムに乗って、毎晩クランバトルに勤しんでいること。本当は塾になんか行かずに、戦いを楽しもうとしていること。そのクランバトルの先に、何か大きな野望をいだいていること。
――さながら薬物に溺れるもののように、何かに執着していること。
「そうなんだ、塾かぁ。私てっきり違うことしてるのかと思ってた」
「違うこと……って?」
ルカは不敵な笑みをこぼす。それは、アマテにとって背筋が凍るような代物であった。
「クランバトル、とか」
ルカの感じる彼女の気迫が、大きく揺らぐのが分かった。
それを感じて初めて、彼女が
「なん……で」
「大丈夫。話したりしないから」
動揺する彼女の顔に、あり得ないほど痺れるような快感を覚え、高揚に突き動かされて歩み寄る。
初めて近くで彼女の匂いを嗅ぐ。あまくて、やわらかくて、とてもいいにおい。
「ね、私も混ぜてよ」
囁くように言うと、アマテの身体が強張るのを感じた。
逃げようとしたため、その細い腕を掴む。
正規軍としての訓練を積んだ彼女に、単なる女学生が叶うはずもなかった。
「お願い、アマテさん。私、アマテさんと楽しいことがしたいの」