GQuuuuuuX世界のマラサイ乗り、クレイジーサイコレズ   作:聖成 家康

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時間軸は五話と四話の間くらいのつもりです。


正史キャラがジークアクスに出れる基準って何なんだろう。

 

 放課後。

 ルカはアマテに呼び出され、人気のないところで会話をする。

 

 クランバトルについて、彼女の繰るモビルスーツについて、色々なことを聞きたいと思っていたが――いざ二人きりになると、別の感情がそれら全てに覆い被さる。

 

 

 夕暮れの校舎裏。人工太陽の嘘っぽい暁の光が木漏れ日のように漏れ出し、校舎の影が二人を包み込む。

 

 緊迫するアマテに対し、興奮するルカ。

 それを見てアマテはさらに警戒心を高めるのだった。

 

 

(アマテさんが近い……! どうしよ、頭おかしくなっちゃいそう……!)

 

 

 口から滴る体液を気にもとめず、自分を悪人のように睨みつけるアマテの姿にただ酔いしれるばかりだった。

 

 

「ねぇ、あなた何なの。何で、クラバのこと知ってるの」

「……勘?」

「ふざけないでよ」

 

 

 ふざけてなどいない。ルカのこれまでの推測は全て、直感から予測したものに過ぎない。

 

 それを聞き、彼女にはどうして? という疑問が募る。

 アマテ・ユズリハは、自分が特別な人間だと気づいていないのだろうか、という現状への素朴な疑問。

 自分が信じてきた”ニュータイプ”という存在は、本当はいないのではないかという芋づる式に出てきた疑問。

 

 

 それら全てを吹き飛ばすのが、アマテのじとっとした眼差し。

 

 ナイフで突き刺してくるような情熱的でバイオレンスみも感じる視線が、ルカにとってあまりに刺激的なスパイスで、脳が溶けてしまいそうだった。

 

 

「ねぇ、あなたのマヴってどんな人」

 

 

 それを聞いた瞬間、アマテの顔色が変わる。

 

 人が変わったかのように、金切り声にも近い音を喉から発した。

 

 

「関係ないッッッ!!」

 

 

 余韻を残して響くアマテの叫び。怒りと混乱を帯びたその声音は、静寂を生み出すには十分すぎるものであった。

 

 穏やかな表情で、ルカは彼女に歩み寄る。

 そして、何の躊躇いもなく彼女の小さな体躯を抱き寄せて、自分の胸元で包みこんだ。

 

 

「大丈夫。私は、アマテさんに危害なんて加えないから」

 

 

 一瞬ぐっ、と力が入る。だが、先ほどの事を思い出し、敵わないと察したのかアマテはあっという間に大人しくなる。

 

 

「むしろ、アマテさんのこと、だーいすきなんだよ。出会った時、頭に電流が走ったの。これって運命なんだ、って。私、確信したのよ」

 

 

 艷やかな赤色の髪をさすさすと撫でる。絹のように滑らかで、小柄な体躯も相まって子猫を抱えている気分になれる。間近から香る甘い匂いは、理性を失ってしまうほどに甘美な代物だ。

 

 

「赤いガンダムのパイロット。狙われてるよ」

 

 

 そう言うと、アマテは胸の中で顔を上げる。目は見開かれ、束の間、呼吸を忘れてしまっている。

 

 

「私が助けてあげるから。だから、アマテさんと一緒に遊ばせて」

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 クランバトルに参加するには、当然、そのクランとやらに所属しなければならない。

 ジェリドらが籍を置いたのは、彼ら極右派の根城であるアマラカマラ商会が支援している組織のうちの一つ”ユミルレイヴンズ”というクラン。クランとはいっても、ジェリド達がクランバトルに参加するために用意された変わり身に過ぎない。

 

 

「放送が始まると五分で軍警に嗅ぎつけられる。実質、制限時間は五分しかないってことだな」

《……》

 

 赤いモビルスーツ――”マラサイ”のコックピットに収まるジェリドは、サブモニターに映るカクリコンを見て怒鳴り声を上げる。

 

「カクリコン! いい加減スマホを触るのをやめろ!」

《アメリアの返信が――》

「あとにしろ!」

 

 

 ”マラサイ”の隣に屹立する、同じく赤いモビルスーツ”ガルバルディ”のモノアイにようやく火が灯る。

 

 もっとも、クランバトルは死ぬような戦いではない。負けたら膨大な借金を背負う羽目になるようだが、潜入している彼らには関係のないことである。

 

 それ以上に、ジェリドにはモビルスーツのパイロットとしての誇りがあった。

 やるからには負けない。これまでの経験と、バスク・オム少佐に認められ、極右派に招かれた誇りが、彼のハングリー精神に拍車をかけていた。

 

 

「スペースノイドもおかしな事を思いつく。軍警という縛りがあるのに、こんな事にうつつを抜かすとは」

《ジェリド、ハッチを開くわ。五秒以内に出て》

 

 通信機から聞こえてきた声に、ジェリドは違和感を覚えた。

 

「エマか? ルカはどうした」

《まだ帰っていないのよ。仕方ないわ。潜入捜査だから》

「そうかい。じゃあ出るぞ」

 

 ジェリドは大して気にすることなく、モビルスーツを操縦する。

 

 ”マラサイ”と”ガルバルディ”、かつての赤い彗星を彷彿とさせる二機のモビルスーツは、開かれたハッチの外へと飛び出していった。

 

 

「ミノフスキー粒子が撒かれているのか。本当に戦争でもしてるんみたいじゃないか」

《頭部破壊で勝利とのことだが、詳しいルールは教えられなかったぞ》

 

 

 カクリコンの疑問に、ジェリドは簡単に答えてみせた。

 

 

「非合法のゲームだぞ。何でもありに決まってる」

《融合炉を壊して誘発させても、そいつは頭部破壊って言うのか》

「あぁ、俺だったら認める」

 

 

 そんな会話を繰り広げながら、二人は宇宙の彼方へと飛び出していく。

 

 これから起こる最悪の事態を、考えないままに。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 宇宙はいい。アースノイドの自分がこんなことを言った良いのかと甚だ疑問ではあるが、本当に素敵だ。もっと、もっと自由になれる。

 

 

 アマテの所属するクランには、彼女の方から話をつけて、マヴの一時的な変更を要求した。

 向こうも不参加による違約金がかかっているからか、快く受け入れたらしい。

 

 

 アマテの駆るガンダム――”ジークアクス”は、歪なモビルスーツだった。彼女が乗るときに限り、アイカメラを覆う装甲がスライドされ、角のように変形する。それに、このモビルスーツからは異様な感覚を察知できた。少し気持ち悪いが、妙に惹かれる。そんな不気味で興味を唆られるモビルスーツがマヴとなると、やややりにくい感じもした。

 

 

「ふふ、アマテさん――いや、マチュと初めてのマヴ戦……わくわくするっ……!」

 

 

 身体のゾクゾクが止まらないルカ。

 赤のラインが目立つ黒いパイロットスーツに身を包んだ彼女は、これから起こる戦いに心を躍らせていた。

 

 

 彼女の駆る”マラサイ”のモノアイが、紺碧の海を背景に不気味に光った。赤いボディ、武者を思わせるデザイン。そして肩には、彼女のパーソナルマークである()()が刻まれていた。

 

 

「相手はあいつらか……まぁ、いいや。私とマチュの遊戯を邪魔するなら、誰であろうと殺すまで」

 

 

 ヘルメットのバイザーを下ろした、ルカの顔に鬼神が宿る。

 モビルスーツに乗ったら、もう、命の駆け引きが始まっているのだ。誰しも鬼神にならなければ、生き残れはしないだろう。

 

 

《ルカ……その。君の正体、って教えてくれないの》

「ふふふ、ひーみーつ。今は、マチュのマヴでしょ」

 

 

 ”マラサイ”と”ジークアクス”は、クランバトルの開催宙域に急ぐ。

 

 

 ミノフスキー粒子の匂いが満ちる。

 この匂いが好きだ。アマテの匂いの次に。

 これこそ、モビルスーツの戦場という香りだ。硝煙やオイルの匂いが満ちる従来の戦争と違い、有視界戦闘を強いられる戦場を強調するものだ。

 

 

 そして、クランバトルは幕を開ける。

 

 

 現れた二機のモビルスーツ。

 ルカと同じ”マラサイ”と、”ガルバルディ”。

 

 ジェリドの奴と当たったのが少し不運だ。マチュに怪しまれてしまうかもしれない。

 

 

 クランバトルに始まりの合図はない。

 接敵した時が、戦いの開始を示してくれる。

 

 

 先手を仕掛けたのは相手の”マラサイ”。

 ビームライフルによる射撃。ルカ機を掠めるように通過し、避けた彼女の機体を追撃するようバルカンを放った。

 

 それを唐突に止め、次いで”ガルバルディ”が攻撃を仕掛けてきた。

 

 

 マヴ戦。ミノフスキー粒子下の戦闘を最大限活用した、モビルスーツ二機一組のM.A.V。

 

 先手を仕掛けた側が有利ではあるが、それを躱されたが最後、せっかく勝ち取った優位性は瞬く間に失われる。

 

 ”ガルバルディ”はそれを取り戻そうと必死になって攻撃してくるのだ。

 

 

「遅いな、カクリコン!!」

 

 

 かつての仲間の名前を口にし、反撃に出る。

 

 

 

 サーベルを引き抜く”マラサイ”。

 ジェリドは、”ガルバルディ”に食ってかかるその機体の肩に、()()()()()()()()()を発見する。

 

 

「木星の意匠――ルカなのかっ……!? 何故だっ!!」

 

 

 

 ”ガルバルディ”をサーベルで退け、一旦後退。攻撃をマチュに任せた。

 

 

 ガンダムに見合わぬヒートホークで斬りかかる”ジークアクス”。”ガルバルディ”のサーベルを拮抗するも、絶叫を体現するような鍔迫り合いの後に、”ガルバルディ”は大きく吹き飛ばされる。

 

 

「ふふ、はははっ!! ざまぁないわ!! 地球に置いてきた女にうつつを抜かすからそうなるのよ!!」

 

 

 ”マラサイ”同士の鍔迫り合いを横目に、ルカは爆笑する。

 いつもいつも、アースノイドの誇りがどうだの言っている奴らに嫌気が差していた。

 

 人類はアースノイドかスペースノイドか、そんな大きな区分で振り分けていいものか。

 双方、何かに縛り付けられた愚かな人間に過ぎない。

 

 

《ルカ!! 何をしている!! 裏切ったのか!?》

 

 

 ジェリドの声が聞こえ、ルカは興奮した声音のまま声を上げた。

 

 

「裏切ったぁっ!? ははは!! 私はそもそも、あんたらを仲間なんて思ったことはない!!」

《なんだとぉっ!?》

 

 

 ジェリドの”マラサイ”を斬り飛ばし、バルカンによる追撃を回避しながら左腕を斬り落とした。

 

 

《何っ!?》

「私はね、()()()()と出会ったの。ニュータイプとニュータイプ、こんなに運命的なことはない!」

《ニュータイプだと……!? ふざけたことを!! そんなものはジオンの作ったまやかしだぁっ!!》

 

 

 ビームライフルを撃ち合うが、互いに外れ続ける。双方の腕は互角といったところ。ジェリドが腕を落とされたのは、動揺した隙を突かれた故だ。

 

 光剣と光剣が反発し合う。散っていく減速したミノフスキー粒子が宙に溶けるのを横目に、”マラサイ”の反応炉目掛けて斬りつける。

 

 回避行動を取られ、胸部装甲を掠めることしか叶わなかったが、マチュの気配を感じ、一時的に後退した。

 

 

(あぁ、互いが互いを感じ合える……これがニュータイプ、私の()()()()……!!)

 

 

 ヒートホークを携えた”ジークアクス”が、我武者羅にジェリド機に突っ込む。

 マチュははっきり言って、パイロットとしては未熟過ぎる。

 単調な攻撃に、ジェリド機は楽々回避してしまった。

 

 

 その回避後の隙を突くよう、ジェリド機の死角からビームライフルを放ち、”ガルバルディ”を相手取る。

 

 

《ルカ。貴様、我々を裏切ってどうする気だ。バスク少佐に拾ってもらった恩をもう忘れたか》

「話しかけるな!!」

 

 

 マチュとの共感覚を邪魔され、ルカは怒りのままにサーベルを振るう。

 強烈な二連撃を、”ガルバルディ”は捌ききれずに、思わず体勢を崩してしまった。

 

 

「貰ったァっ!!」

《させるかっ!!》

 

 

 背後からの衝撃。

 ジェリドの”マラサイ”が仕掛けた決死の突進は、奇しくもカクリコンの命を救った。

 

 

(っ!!)

 

 

 マチュの強い感情を察知する。

 痛み、恐怖。胸を突き刺すような痛々しい感情が、ルカの元にも届いてきた。

 

 

「貴様!! 私の運命の人に、何をしたぁぁっ!!」

 

 

 その高ぶりは、全て彼女の怒りへと変換された。

 脳が灼けるような感情。心臓が張り裂けそうなほど巡る血液。飛び出そうな目玉。

 

 その強い感情に突き動かされ、ルカは自身の身体など関係なしに”マラサイ”を繰る。

 

 ビームライフルを問答無用で投げつけ、怯んだところでサーベルで斬りかかる。

 無論受け止められるが、鍔迫り合いを中断し、脇腹へキックを食らわせた。

 

 体勢を大きく崩した”マラサイ”に飛びかかり、その頭部へと掴みかかった。

 

 

「殺してやるッ……!! 殺してやるッ!! 私のマチュを、傷つけた報いをォッッッ!!」

 

 

 一度や二度ではない。ジェリドの”マラサイ”を、力任せにぶん殴る。傍らに差すサーベルを引き抜けば終わることなのに、ルカは怒りを鎮めきれず、そうすることで発散した。

 

 

 彼女は気づいていなかった。

 

 自らのコックピットに組み込まれた()()()、妙な光を発していたことを。

 

 

 

「こいつ狂ってるのか……!? ”マラサイ”で――いや、モビルスーツでそんな動きなど」

 

 ジェリドは戦慄する。

 関節系統がイカれる行為を、まだ餓鬼とはいえ、曲がりなりにも正規の訓練を受けたルカが我を忘れたかのように殴りかかってくる光景に。

 

 

《ジェリドォッ!!》

 

 

 カクリコンの”ガルバルディ”が、その光景を見て救援に向かう。

 

 

「バカ! 来るな、カクリコン!」

 

 

 

 にぃ、っとルカは柔らかな唇の合間から恐ろしく鋭い八重歯を覗かせる。

 

 

「しくじったなぁ! カクリコン!」

 

 

 ジェリドの”マラサイ”を蹴り上げて、駆動系への配慮ゼロの機動で、”ガルバルディ”へと向き直る。

 

 腰部や肩部のネジがいくつか弾け飛ぶのが見えたが、興奮するルカにはそんなもの気にもとまらない。

 

 

 ”ジークアクス”が蹴り上げられた”マラサイ”を捉えた。

 

 

 刹那――二つの閃光が宇宙に走る。

 

 一つはビームの鮮やかな軌道、一つは熱せられた刃の放つ鈍い光。

 

 

 弧を描いて舞い上がる二機のモビルスーツの頭部を見据えながら、ルカは笑う。

 

 

「くっ……ははははは!! マチュ!! やったよ!! 私達、通じ合えた!! 言葉も交わさずに!! うふふふふっ!!」

 

 

 喜びを噛み締めながら、五体満足の”マラサイ”で全速力でその宙域を離脱した。

 

 

 コックピットに満ちていた妙な光は、とっくにその輝きを鎮めてしまっていた。

 尤も、当の本人は気がついていないのだが。

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