自室に戻ったアルトリアは先ほどまでの勢いが風船が急速に萎むかのように恐ろしいまでに冷静になってしまっていた。
すなわち否が応でも彼女の大胆な行動は夢なんかではなく確かな現実として脳に叩きつけられるのだ。
アルトリアは二つの思考に支配されていた。
一つは自身の軽率な行動に対する後悔と自己嫌悪だ。
本来ならしっかりとした段取りを行いそれまでに確かな答えを見出し、彼との関係を改善する予定だった。
しかしマーリンとラグネルの仲睦まじそうな姿に甚大な危機感を抱いてしまったことにより……当初の段取りを全て谷底に捨て去り、理性という檻から解放された飢えた獣が如くラグネルという餌に飛び掛かるが颯の如く急な約束を取り付けることを決行する。
そんな淑女とは程遠い…まるで婚期を逃すまいとひたすら男を漁るようなそんな残念女が如くの勢いを振り返る彼女は
(もう少しいい誘い方があったでしょう私!!『なんですか今夜私の部屋に来てください』ってこれではまるで淫乱女ではないですか!)
などなど彼女はひたすらに他に良い方法がなかったのか、そもそもまさかマーリンと彼があんなにも仲を深めているなんて……私は全く気づけませんでした…王失格です。
などと反省を繰り返しているが、彼女の中には後悔の念や自己嫌悪、自省と同等の…いやそれ以上の思考が存在していた。
それが二つ目の…自身の大胆なまでの行動に対する賛美と過程はどうであれ確かな約束を結べたことに対する歓喜だ。
確かに彼女の段取りは現代で言うアポイントメントを取り事前に話す場を設けてかつ話をまとめる極めて常識的なものだろう。
……しかし本当に彼女はそれを実践できていただろうか?
今考えたところで所詮は覆水盆に返らずなのだが、それでも彼女は思ってしまう
(…多分でしょうが、いくら頭の中で綺麗に段取りできていても肝心な部分……そうラグネルへ約束を設ける所で尻すぼみしていた事でしょう。だからこそあの時の私には感謝しても仕切れない。おかげでこうして話す機会は設けられたのですから。)
彼女は基本ネガティヴ思考よりだ、しかしこの一時は自身の軽率な…けれど確かにファインプレイだった行動に賛美が尽きぬことはなかった。
そしてなんといっても彼が誘いを断らなかったことも大きな要因だろう。
いくら勢い任せの獣が如くの気迫の彼女からの誘いとは言え彼ほどの人なら即座に受け止め処理することだって容易いだろう……それでも彼は断らなかった。
それすなわち彼もまたこの何処か気まずい関係を精算したい気持ちがあるのだろう。
しかしそんな事をアルトリアは知ることはなく、ただただ約束を設けれたことに歓喜しか湧かなかった。
〜〜〜〜〜……一頻り思考との格闘を行っていた彼女もようやく整理できたのかいつものような凛々しい顔つきに戻っていた。
彼女は反省などよりもまずは彼に対しての答えを考えなければと思考を傾けるが……何故か驚くほどにすらすらと淀みなく思考が周り一つの結論に導く。
それは彼女がマーリンと彼の仲睦まじい姿を認識しかからなのかはたまた潜在的に彼に対して一つの要素ではなく全てを欲しているのか……それともそれら全てを複合したものか、答えは当人にだってわからないかもしれない。
しかし彼女の心は自然と穏やかだった。
今なら心から全てをさらけ出せるかのような、自暴自棄とは違う…そんな、彼と全てをぶつけ合いたい……いや合わなければいけない、何せ私は理想を遂行する野望を抱いているのだからラグネルの一人や二人受け止める度量と全てをぶつけきる器量を持っていなくては国を制するなんてそれこそ子供が語る夢物語だろうと。
だからこそ彼女は宵が訪れるのを今か今かと初恋を患う生娘が如く恋願うのである。
〜〜〜〜〜こうして真昼は堕ち宵が巡る。
彼は彼女の自室の前で手のひらに人を書いては飲み込むを3回ほど行っていた。
彼が今行っている一連の動作は彼がマーリンから教わった魔力を使わず行える魔術なのである、なんでも緊張を和らげる効果があるらしいとのこと。
彼は一連の動作を終えた後ドアをノックする。
コンコン 「は、ははは、は、はい!!どうぞ!!空いていますので!!」
いつもの彼ならこんなアルトリアにからかい混じりに軽口を叩いていただろう、しかし彼はしなかった……いやできなかったが正しいだろう。
何せ彼もまた無意識にだがいつもの飄々とした顔が真剣さしかない顔に変化しているのだから。
彼はアルトリアの自室に入室した後近くの椅子に座る。
アルトリアもまた彼の対面に位置する場所に椅子を置いて座る
両者が対面したまま数秒が経過した。
ラグネルの口が開かれる…まるで咎人に罪の告白を求めるが如く。
「……聞かせてくれないかい、君が見出した答えってやつを」
アルトリアは深呼吸をしてラグネルの瞳を見つめながら答える。
「聞いてください、ラグネル…この答えの軌跡を」
こうして火蓋は切られた