ラグネルside
俺は顔に浮かぶ確かな熱量を持った情動を逃すように彼女に軽口を叩きつつ思考に避難した。
(はぁーー、くそっ!顔が熱い熱すぎる!あの人誑しめ!
よくもまぁ、あんな流暢に歯の浮くような言葉を吐き出してさぁ!
心底この場にいるのが俺とアルトリアだけで安堵したよ。
……それにしても彼女、随分と己を知れているとは…
幾らマーリンから入れ知恵を授かっていようと彼女はまだ年端も行かぬ少女だ。
そんな彼女が己を知り他者を受容し自我を確立させるとは……マーリン…お前の意思なき道を体現せし者はとうに彼女の内に灯火がともらせ天の名に背かぬ者に至ったぞ!!
……ふふふっ…くくっ……はははははっっつ!!)
俺はそんな考えをおくびに出さず、腹を裂くように、己を見せびらかすように堂々と言の葉を紡ぐ。
「君の思いも覚悟も全てが俺に注がれ、混ざり、俺自身に融和されていった。……ありがとうアルトリア、君はここに至るまでに数多の己を知り、対話し、受容する。
それはさながら道なき闇の荒野を一つの灯火を片手に歩みを進める事と同義だ。
だからこそ俺は君に敬意を表し、そして俺と君のこの傾いた天秤を平衡に
するためにも……俺もまた君に俺という心臓を曝け出そうじゃないか。
聞いてくれるかいアルトリア。」
アルトリアはゆっくりと頷いた。
「ええ…聞かせてください、貴方の全てを。」
俺は今罪を吐き出すような、脳を開くよな…そんな心持ちだった。
俺は邪魔な思考を焚書するが如く溶かして内臓を吐き出すように言葉を出す。
「幼い頃の俺はお前を憐れに思えてならなかった。
このどうしようもない現実を知らず、目の前の幸福しか写せない……そんな夢みがちなお前がどうしようもなく憐れで…憐れで……けど本当はそんなお前に憐憫以上に希望を抱いてしまって仕方なかった。
お前の理想は確かに幼稚なものだった……けれどそれに夢を見てしまうほどに俺はこのブリテンに失望していた。
けれど俺はお前に期待するたびに俺自身に激しい憤怒と失望と嫌悪感が生まれていく。
……何せこの国の王に就く事は即ち人柱と同義だろう。
こんな先の見えない行き詰まったような国にお前を焚べるなんて地獄をもたらすなんて当時の俺にはできなかった。
だからこそ俺はお前に現実という伏魔殿を認知させるようにひたすらお前に反論をぶつけた。
けれどお前は俺の目論みから外れるように一層輝かしい未来を遂げようと奮闘していく。
それに拍車を掛けるようにマーリンの介入やお前自身の精神的・肉体的成長は飛躍的に上昇していく一方だ。
……俺は悟ったよ。
お前はこの国の王になるために生まれてきた人間だと。」
アルトリアは静かに聴いている。
「だからこそ俺は方針を変えた。
『彼女を王にさせない』のではなく『彼女に人間性という現実の不条理を叩きつける事で彼女の凝り固まった空想を変革化させよう』と。
そこからは徹底的にお前が自身が掲げる理想に疑念を抱くようにひたすらに種を蒔いていた。
そしてこの悲願は達成された。
お前があの日俺に悩みを打ち明けてくれた時俺は……心の底から歓喜した。
何せようやくお前の理想を堕とせたんだ、これを起点にお前の理想をより盤石にし、より現実に沿った、そんな『先』ではなく『今』に焦点を当てたものにしようとした。」
「けれど俺にとっての誤算はお前がとうの昔に『理想』を見出していた事だ。
確かにお前の理想は我欲に濡れているかもしれない……けれど俺は非常に好ましく思う。
それはお前が導き出したお前だけの『真理』なのだから。
だからこそ俺は心の中で恥じた。
お前の精神の強さを、お前がどれだけ苦悩し不安の深淵から這い上がろうと奮闘したかを……俺は侮っていた、君を…君を構成する全てを。
故に俺は君を『王にさせられた憐れな少女』ではなく『理想を掲げる一人の王』として見るべきだと実感させられた。」
アルトリアは沈黙を保っている。
「君は後世で偉大な王として讃えられるだろう。
人々からは親愛を、騎士からは忠誠を、神からは祝福を、それぞれから授かりし真の王として君臨する事だろう。
………しかし俺は君に忠誠を誓うつもりはない、忠誠とは下が上に首輪を渡す事と同義だ。
だからこそ俺は君に『忠誠』ではなく『俺自身』を預けよう。
マイ・バディ」
俺は堂々と宣言した後彼女の頬に軽いキスを送った。
アルトリアは顔をザクロを被ったが如く顔を真っ赤にしながらか細い声で糸のような言の葉を紡ぐ。
「……貴方だって、充分歯が浮いてますよ…」
俺は未だ彼女の少女さが存在していることに心の中で安堵しつつ再び椅子に腰を下ろした。
黎明は揺り籠より眼を擦る。
途中ラグネルの口調がおかしくなっているかもしれませんが温かい目で見てもらえると助かります。