ブリテン解釈譚(完結)   作:ミルトントン

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マーリンは現在、彼の夢魔生…いや人生において一二を争うほどの危機感に襲われていた。

 

マーリンside

 

ほんの出来心だったんだ。

 

普段の私ならこんな行動を起こさず黙って静観していただろう。

 

しかし……そうはならなかったんだ。

 

私は彼女のあの危機迫った気迫の籠った言の葉を聞いた時、漠然と理解した。

 

……彼女もまた彼と『いたい』ということに。

 

初めてなんだ、こんな…痛くて、苦しくて……けれど心がふわふわするような、そんな暖かい母の様な慈愛を、父の様な叱咤激励を、、友の様な信義を持って……全部が初めてで、新鮮で、、、心地が良いんだ。

 

こんな気持ちを私は知らなかった、、、いや知ろうとすらしなかった。

 

何せ私には理想のブリテン王、、、アーサー王を作り上げるという果たさなければならない宿願がある…ブリテンの未来のためにも、ウーサーとの契約を果たすためにも……そして私自身の欲を満たすためにも。

 

そのためならばどれだけ人々から信用されなくても、ひたすらに裏方に徹しようと構わなかった。

 

………けれど、私の脚本に変数が現れた。

 

ラグネルとの初対面では未だ彼のことを洞察が鋭いブリテン人とは思えない感性の青年だと思っていた。

 

……彼は、魔性だ。

 

彼と関わるたびに私という『個人』が引き摺り出される、本来出てくるはずのない『人としての私』が。

 

私は夢魔だ。

 

憐れな母が悪魔から子種を注がれたことで生まれてしまった、、、『人』にも『悪魔』にも属さない中途半端な人形だ。

 

母は私を愛してくれたと思っている。

 

けれどそれはどこか義務的な、、『私個人』ではなく『生まれてしまった憐れな子供』として愛してくれたと今にして思えばそう感じ取れた。

 

私は『悪魔』として、、『夢魔』として生きる事にした。

 

その方が都合がいいからだ。

 

『人としての私』を封印して『夢魔としての私』として生きるのは思いの外、、、簡単だった。

 

何せ彼ら人間を同じ視線で見る必要もなければ共感も、情動も起こす必要もなければわざわざ人としての立場に降りる必要性もない……つまり私は『自由』に『私』を表現できた。

 

……けれど世界はそれを許さなかった。

 

周りは感情を表に出さない私を排斥する様になった。

 

私は非常に困った、何せこれでは支障が出ると。

 

そんな時、私が身を寄せていた小屋にいた高僧が私に助言をくれた。

 

「人は、自分と似たものしか受け入れれない。」

 

この助言を聞き、私は彼らと同じ『感情』を出力していなかった事が原因だと判断した。

 

私は夢魔だ。

 

夢魔には特性として夢から発生する感情を主に主食とする。

 

私はこれを応用して食した感情を解析して、自身に出力する事に成功した。

 

…それから私は適宜、相手の都合が良い感情を出力する事で円滑に物事を進めてきた。

 

それはウーサー王やアルトリアも例に漏れない。

 

………けれど、、、彼は、ラグネルだけは違った。

 

彼の言葉は『私の人としての心』を揺さぶり

彼の仕草は『私の人としての情動』を掻き立て

彼の視線は『私の人としての立ち位置』を炙り出し

彼の情動は『私の人としての感情』を共鳴させた。

 

……彼は、、、酷く、鮮明に私を壊す。

 

だけど、、、だけど、、なぜかそれに心地よさと安心を覚えてしまう『私』がいる。

 

私は『私』がわからなくなって自暴自棄になってしまいそうだった。

 

故にこんな彼らを侮辱する行動を取ってしまったのだろう。

 

私は彼らが中をより深める事に、本来起こるはずのない『嫉妬』を抱いてしまった。

 

私は驚きよりも先に自身に対しての嫌悪を抱いて仕方なかった。

 

けれど神は悪戯にも私に祝福を授けた。

 

私は運悪く退席したラグネルと鉢合わせてしまった。

 

私は先程までの行為や苦悩を過剰に意識するあまり自身でもわからない程の勢い任せに彼を私の自室まで連れてきてしまった。

 

ラグネルside

 

少し整理させて欲しい。

 

まず俺はアルトリアとの会談を済ませて自室に戻ろうとした。

 

すると角からばったり出会したマーリンに手首を掴まれた。

 

そして気づけばマーリンの自室にいる。

 

………ふむ、、、なるほど(理解)

 

つまるところこいつは何か俺に話したい事がある。

 

しかしそれは雑談で済ませれるほど軽いものじゃない。

 

それに加えてこいつ自身がその話したい事でかなり苦悩している。

 

……仕方ない、、既に黎明は訪れているんだ、今日は休日にしよう。

 

マーリンside

 

………なぜ、私はこんなにも短絡的な行動を起こしてしまったんだ。

 

これじゃアルトリアと同じだ。

 

…………けれど、これは好機だ。

 

彼ならきっと私の悩みに的確な答えをくれるだろう。

 

私は数回深く深呼吸をして重い口を開ける。

 

「私は『夢魔』だ、、、、けれど最近、、特に君と話していると『夢魔』としての私ではなく『人』としての私が出てきてしまう。

こんな事今まで一度だってなかった。

……なのに君と関わるたびに一層『私という人』が浮き出てしまう。

ねぇ、、ラグネル、これはなんなんだい?」

 

私は無意識に彼に縋る様な声色で彼に尋ねる。

 

ラグネルside

 

俺はマーリンの話を聞いて数回深呼吸をして思案するまでもなく答える。

 

「マーリン、、あんたはさ拘りすぎなんだ。

お前は確かに『人』を理解しているだろう、、ならばさ人が一つの側面だけで生きていけるわけないことも知ってるだろ。

……人は脆弱な生き物さ適宜その場その場にあった仮面を身につけて生きていく。

それはお前にも当て嵌まる。

お前は『夢魔』である事に『自分』を委ねすぎているんだ。

もう少し肩の力を抜いて受け止めてやればいいんだ。

結局のところお前は『お前』なんだからさ。」

 

俺はそう言い切りマーリンに抱擁した。

 

優しく包み込む様に、慈愛を込めて。

 

今はこうすべきだと判断した。

 

マーリンside

 

私の頬に一筋の穏やかな水流が走る。

 

無意識に私は彼の抱擁に返す様に、離さないように力一杯抱き返す。

 

私は肩の力が抜けていく感覚を感じ取りながら、なぜか重たくなる瞼に従うように彼に体を預けるように倒れた。

 

ラグネルside

 

こいつ寝たよ。

 

………余程苦悩の嵐を歩いていたようだね。

 

俺はマーリンを寝床まで運び空いている所に腰を下ろし、、マーリンの髪を梳かしながら呟く。

 

「お前は子供みたいに悩んでいる方がずっとお似合いさ」

 

俺はマーリンから学んだ『眠りを深める魔術』をかけて静かに退室した。

 

俺は今日は何を読もうか思案しながらいつもの秘密の場所へと向かう。

 

 

黎明は眼を開く

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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