ブリテン解釈譚(完結)   作:ミルトントン

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2ー13

報告を済ませたラグネル一行はその足で朝日が照らす屋外へと赴く。

 

マーリンはラグネルとの外出に高揚感を隠せないのか軽く鼻歌を歌いながら歩みを進める、、、、ラグネルは彼の足跡に花が咲き乱れている光景に気付かぬふりをしつつ歩調を合わせる。

 

まずマーリンは書店へ向かった。

 

ここはマーリンが勧めるだけの事はありラグネルが見たことも聞いたこともない書籍が幅広く陳列されている。

 

書棚には書籍が隙間もなく並び、まるで知識という名の金銀財宝がぎゅうぎゅうに詰め込まれた宝物庫のようだった。一冊ごとの背には異なる時代の息吹が宿り、どれもが手に取れば魔法のように口を開きそうな気配を纏っている。

 

そんな光景にラグネルは息を呑み込む。

 

ラグネルは『読書』が好きだ、、けれど彼にだって嗜好がある。

 

彼は技術系や恋愛系などの書籍より『哲学』系の書籍を非常に好む……だからこそ彼にとってこの書店はさながらダナキル砂漠内に生まれし楽園、オアシスの如く奇跡の産物なのだ。

 

ラグネルは自身の枯れ果てた砂の海に、星の涙が沁み込んでいくような感覚を悟る。

 

「お気に召してくれたかな?ここの書籍は私ですら未だに読み切れていないほどに存在するんだ、、この書店はブリテン諸島において最も質も量も密度も、全てが優れていること間違いなしさ。」

 

マーリンはまるで自分のとこのように得意げになって語る。

 

しかし今のラグネルには右から左に聞き流してしまう。

 

それからラグネルは書籍以外の存在全てを一旦隅に追いやり書籍にのみ意識を向け、貪るように読み漁る。

食いつき、かぶりつき、舐め尽くし、知識を簒奪するかのようにーーまるで、飢えた魂が活字を喰らうかのごとく。

 

マーリンは呆れつつも口元を緩めながら自身もまた叡智の神殿へと踏み入る。

 

それから幾星霜を経て、海淵を体感し溶けて混ざり一つとなる。、、さながら知恵の深淵を遊泳するマンタが如く。

 

しかし人は天からの恵み無く生存は不可避だ。

 

だからこそ地へと這い上がり世界を食すために海から顔を吐き出す様に本を閉じる。

 

「おや?もういいのかい?」

 

マーリンは目敏く気付いたのか彼に近寄りながら話しかける。

 

「今日はここまでにするーーーお前は蠱毒を知っているか?」

 

マーリンは急な方向転換に訝しみながらも答える。

 

「もちろん知っているとも、確か毒を持つ生物を同じ壺に入れて殺し合いをさせーー最後に生き残った生物の毒を生成する呪法のことだろう。」

 

ラグネルは頷く。

 

「ああ、それで合っているとも。

俺はね本を読む事はーー知識を蓄える事はーーー人類史を記すと言う事は蠱毒そのものなんじゃないかって、つくづく思うんだ。」

 

ラグネルは一度眼を閉じるーー視点を変える様に。

 

マーリンはただひたすらに聞き役に徹する、、それは彼の解釈を一字一句聞き逃さないために。

 

「世界にはさ様々な解釈があるだろ、、代表例として信仰がある、これは単純に偶像崇拝が原因で解釈が多岐に分かれる事でその数だけ増殖された『神擬き』が生まれてしまう、、、けれど要点これじゃないーー真の問題はこの『神擬き』を殺し合わせる事で勝ち残った『神擬き』を統一された『神』に再生成する事だろうさ。ーーほらこれで立派な孤独の完成だ。」

 

マーリンは何も言わずに聞く。

 

「そしてこれは神に限られた話じゃあないーー後世ではアーサー王だって対象だろうさ。

どの文学作品においても『史実』と言うのは非常に重要だーー何せこれを破る事は即ち物語の崩壊を引き起こす事と同義なのだから、、、もしかしたらアルトリアは後世では男として浸透する事だってあり得ない話じゃない、、、何せ後世の書き手が男としてのアルトリアを最も民衆受けするように書ければーーそれは遥か未来での『史実』になりそれ以外の作品は『ありえなかった世界』という烙印を押される。」

 

ラグネルは深く、深く、深く、自身の深層意識に触れるように呼吸を繰り返す。

 

「ふぅー、、、別にどの作品が『史実』になろうと現代の俺たちには何も痛くも痒くもないーー何せ俺たちは今を生きる呼吸し、触れ合い、繋がれるーーそんな人間なのだから。

けどまぁ、さっきから世界視点で話していたけどこれは個人にだって関係するーーお前さ本を読む度にさ『ここの解釈おかしくないか?』『ここの心理描写、私ならこう書くのに。』とかとか色々思い当たるところはあるだろうが、それもまた自身の『史実』と相手の『史実』との殺し合いさ、そして、勝ったやつは自身の『史実』を守り切り、負けた奴は『史実』への嫌悪感から逃避する。そうして敗者は共感を求めて嗜好と言う方位磁針を片手にもう片方に気力と言う灯りを持って知恵の荒野を突き進む………つまり『知性』も『歴史』も全てはーー『知という蠱毒』ーーの集大成あるいは副産物なのだろうさ、、、まぁ、、所詮は個人の思想なんだ、忘れてもらっても構わないさ。」

 

話を聞き終えたマーリンはニヤケを抑えずに拍手しながら賛美する。

 

「いや〜すごいね!!その穿ち過ぎた視点!!

その解釈は初めて聞いたがとても新鮮で斬新な瑞々しい果実のような甘さがある!

………ならさ、最後に一つだけ質問を君にとって『知恵』は呪いかい?」

 

ラグネルは少しの思考を経て「ふっ」と微笑した後に答える。

 

「『知恵』は『道具』だ。

『道具』に噛みつかれる奴が『知恵』を手にするなんて笑い話すらならないね。」

 

そう締めくくり彼は二冊の本を片手に受付にて購入を済まし本屋を後にする。

 

マーリンはそんな彼の後ろをついていくように店を後にした。

 

しかし彼らは知る由もないが宿へと戻った二人は嫉妬と寂しさが有頂天に達したアルトリアに凄まじく気迫の籠った口調で説教を食うことに

 

 

 

 

 

 

 

 

今話の蠱毒解釈の深掘りは欲しいでしょうか

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