ブリテン解釈譚(完結)   作:ミルトントン

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ケイside

 

俺は一人家族だった。

 

父エクターは昔、騎士として名を轟かせ一躍円卓の騎士に至った。

 

母は知らない……何せ物心がつく頃にはうちには父エクターしかいなかったのだから、しかし父曰く『俺の甲斐性不足が原因だ』とのこと、真偽は分からないが一応納得はしている。

 

そうして俺は非日常を知らずに平穏を貪っていた。

 

だがそんな日も長くは続かなかった。

 

ある日、いつもより帰宅が遅い父を案じていた中、ようやく帰ってきた父の腕に抱えている何かに気づいた瞬間俺は呆然とした。

 

父が見ず知らずの誰かの赤子を抱えて帰ってきたのだ。

 

俺は真っ先に誘拐を疑ったが少し考えればわかるようにあの父が誘拐なんて姑息なことをするわけがないと軽率な考えを振り払い、父に尋ねた。

 

「父さん、その子は?」

 

父は少しの逡巡を経て答えた。

 

「新しい家族だ」

 

それから俺の日常は平穏とは程遠いものに早変わりした。

 

父は不器用だ。

 

赤子を泣き止ませるのを真顔でする親が果たしてこのブリテンに何人いるだろうか。

 

父は料理が卓越して上手だ。

 

洪水のような涙を流す赤子も父の料理を食べれば手のひらを返す様に料理に夢中になる。

 

父の手は暖かい。

 

父は俺や赤子を撫でることを躊躇うが俺は父の手の温かさが好きだ、、これは赤子も同意見だろう。

 

父は自分のことを不器用な男と言うが俺や赤子にとっては偉大な父であり、大木のような安心感を与えてくれるそんな親だ。

 

いつまでも赤子と呼ぶの不憫だと思い父に尋ねたところ

 

「こいつの名はアルトリアだ」

 

その名を聞いた時、俺の中に今まで存在しなかったものが溢れ出した。

 

それは父に向けるものでも剣に向けるものでもない別の何か。

 

今だからこそわかる、それはきっと『兄妹愛』というやつなんだろう。

 

その時俺は決心した、こいつだけはなんとしても守らなければならないと幼いながらにも決意を抱いた。

 

それから時は移ろいアルトリアが8歳になった時、あいつは家に一人の少年を連れてきた。

 

今にして思えば、ここが俺にとっての分岐点であり『運命』なんだろう。

 

アルトリアが少年を紹介する。

 

「ケイ兄さん!紹介するね、私の友達のラグネルだよ!!」

 

第一印象は哀愁だった。

 

まだアルトリアと同い年である少年が、達観したような目をしていることに……俺は不快感が全身を走った、、それはこの国の現状に対してかそれとも彼に対して慰めの一つもかけられない自身の不甲斐なさか。

 

そんな情動をかけらも出さずに俺はいつもの『表情』を保つ。

 

それからは何気ない会話を続けていた気がする、、、そう思いたい。

 

それからはラグネルの家と俺たちの家が近いことから自然に距離は縮み夕食を共にする中にまで進展した。

 

近頃のアルトリアはよく『私の理想』とやらを語るが、そんなものこの国を知っている者からしたら夢物語に過ぎない、だからかあいつは真剣に聞いて反論までしてくれるラグネルに執拗に話しかけていた。

 

ふと、あいつとラグネルが議論が耳に入り様子を見て見ようと覗きに行った時があった、、、あいつは相変わらず自身たっぷりに語っているが……ラグネルの顔を見た瞬間、驚きに染まった。

 

ラグネルの目は泣いていたのだ。

 

俺は無意識に血が滲むほど強く拳を握っていた。

 

当時を振り返った今でも、この時叫び散らさなかった俺を褒めてやりたい……それ程までにあの光景は凄まじかった。

 

それ以降俺はアルトリアと同等の愛をラグネルへと注いでいる、、、それは今でも変わらない……どれだけ達観してようと、、、あいつもまだ守られるべき存在なんだ。

 

そして運命の日、アルトリアは剣を抜いてしまった。

 

俺は悟ってしまった……あいつは王になるべくして生まれたのだと。

 

ラグネルを一瞥するとあいつは、、、隠す素振りもせず、顔にこれでもかと嫌悪を滲ませていやがった………俺は少し安堵した、、ラグネルが人間だと思い知らされたから。

 

その日を境に日常は怒涛の変化に襲われた。

 

父との別れに放浪旅での数々の出会い、、、たくさんの変化があった。

 

そんな中俺たち一行はとある街に滞在していた。

 

そこで俺たちは聞いてしまった、、、夜中に何やらラグネルとアルトリアが白熱とした議論をしている所を………俺たちは時間も忘れて聞き入っていた。

 

それ以降俺たちは度々あいつらの議論を盗み聞いては次の日に各々の意見を武器に議論を繰り返していた。

 

だが、俺はそれでは意味がないと考え、仲間たちに思い切ってあいつらの議論に加わろうと呼びかけた。

 

当たり前だが、意見とは聞いてもらわなければ所詮は独り言だ、、、それに、これは俺たちの生死が密接に関わる議論なんだ……一切の妥協が許されてたまるか。

 

それは仲間たちにも響いたのか、皆が賛同してくれた。

 

ある日、俺に幸運が転がり込んできた、、、あいつらが一つのテーブルを囲っていたのだ。

 

俺は頃合いを見計らってあいつらに背筋を伸ばして提案した。

 

「俺達もお前たちの議論の席に加えて欲しい。」

 

こいつらにはまだ重要な視点が足りない。

 

ラグネルの不条理さ?

 

アルトリアの理想?

 

マーリンの俯瞰視?

 

だめだだめだ、こいつらは抜けている……最も必要な視点『今を生きている者の視点を』

 

人は夢だけじゃ生きてはいけないんだ、だからこそ真の意味で現実を生きている俺たちの声を届けなくちゃあいけないんだ。

 

ぶつけてやるんだ、、俺たちの『意志』を。

 

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