ブリテン解釈譚(完結)   作:ミルトントン

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2ー16

ケイが口を開いた瞬間、空気が静かに変わった。

 

真っ先にアルトリアが喜色が籠った口調で答える。

 

「ええ、構いませんよ。

寧ろこちらから誘い掛けるべきでしたね、何せ貴方の指摘は尤もな事なのですから。」

 

アルトリアは快く了承した。

 

これにケイは内心ガッツポーズを決めた、、、だがここでラグネルは待ったをかけた。

 

「確かに貴方の意見は尤もな事だ、俺と王とマーリンだけでは『未来』を作れても、、『今』を蔑ろにしていた事だろう。

………だけどね、、貴方達の意見にどれ程の価値があろうと『貴方達全員の意見』全てを受け入れる訳にはいかないんだ。

…貴方達の怒りは理解している、、、だが、全てを受容した先にあるのは……『無』だ。

それを了承した上で、、貴方達の中から『代表者』を選出して欲しい。

それは統一性のない泡のような声を、一つの器に収めた価値あるものに『再創造』する儀式に必要な工程なのだから。」

 

マーリンはセキセイインコのようにさえずきながら、疑問点を突く

 

「なら、その代表者は誰が選出するんだい?民衆?それとも、私たちかい?」

 

ラグネルはアルトリアに視線を向けて尋ねる

 

「君は誰を泥舟に引き摺り込むんだい?」

 

アルトリアは熟考の果てに決断する。

 

「………ケイ兄さんにしましょう。」

 

ラグネルとマーリンは訝しむようにジッと見つめながら問う。

 

「「……身内贔屓かい?」」

 

アルトリアはそう返ってくることが予想できたのかハキハキと答える。

 

「ケイ兄さんは嘘がつけません、、、これは悪徳ではなく美徳であり、彼の誠実な心を表している証左なのです……それに彼はこのブリテンには珍しく物怖じしない性格ですのできっとより良い意見を出してくれること間違い無しです。」

 

ラグネルはケイに顔を向けて問う。

 

「貴方はそれで良いのかい?」

 

ケイは不安と焦燥などの重圧に押し潰されそうになりながらも答える。

 

「俺には不釣り合いだろう、、、それに代表者が身内の者なんて民衆が納得するわけがない。

謹んで辞退する。」

 

アルトリアはアホ毛を萎びせながら「そうですか…」と呟いた。

 

だがこれに意義を唱えたのは……まさかのマーリンだった。

 

「ケイを代表者に推薦するというのは私も賛成だ。

それは身内云々に限らず彼の思想と物怖じしない性格は評価するに値する。………それに私達だけで決めるのも、それはそれで不信感が積もってしまうことだろう、、だからこそ決めてもらおうじゃないか民衆にさ」

 

ラグネルは肯定を示しつつ異議を唱えた。

 

「だが、それは今じゃない。

今のアルトリアが民衆に問いかけたところで聞く耳を持つ奴は圧倒的に少ない、、だからこそまずは『代表者』ではなく『仮代表者』を『民衆』からではなく『この旅の苦楽を共にした仲間達』に決めてもらおうじゃないか。」

アルトリアとマーリンは納得と共に頷きケイもまた渋々だが頷いた。

 

「それでだがアルトリア、いつにするんだい?」

 

アルトリアは少しの思案を経て答える

 

「今日の夕食後にしましょう。」

 

ラグネルはケイに向かって言う

 

「すまないがみんなには貴方から事前に伝えておいてくれないかな」

 

ケイは快く承諾する

 

「そのくらいは当然だろう。」

 

それから時は進み夕食後

 

「今日集まってもらったのは、他でもない貴殿らの仮の代弁者を選出するためである。…だがその代弁者はもう既に決まっている。

ケイである、、ケイこそが代弁者として貴殿らを代表するに相応しいと私は判断した。けれど私は独善を嫌う。だからこそ貴殿らに問う『本当にケイは相応しいのか』と。」

 

周りは騒然としていた。

 

「ふーーん、もしかしてみんな反対なのかな?」

 

皆は黙する。

 

「ならさ、俺こそが相応しい!!と思う人は誰かいないのかい?

これじゃあ、貴方達は路上に落ちている小石と同等だ。」

 

すると一人の若人が叫んだ。

 

「なら、俺がなってやんよ!!俺がブリテンを変えてやるんだ!!」

 

「威勢はいいけどさ、、なら貴方は民衆が求めているものが何か知っているのかい?」

若人は間髪入れずに答える。

 

「そんなもの、三食の食事と雨風を凌げる屋根さえあれば十分だろうが、逆にそれ以上を望むなんて『民』じゃねえ、欲に取り憑かれた『悪魔』さ。」

 

これに対して周りは「確かに…」と感心を抱いてしまう。

 

「違う!!!そんなものは断じて違う!!!それは人への侮辱だ!!」

 

ケイの怒号が響く。

 

「……いいか、人はな『生きているんだ』。

どれだけ逆境に苛まれようと、明日の光景さえ不明瞭でも地に足をつけて生きているんだ。

だけどな、お前の言うそれは人じゃない、『家畜』だ。

確かに食事と屋根さえあれば人は生きていける、だがそんなもの『生きている』んじゃない『生かされている』んだ、、今のブリテンのようにな。

人には『熱』が『共感』が『尊厳』が『納得』が必要なんだ、、それを見過ごすなんてのは『統治』じゃねえ『管理』だ。

………だからこそ俺はお前の意見を認めない………認めてはいけないんだ。」

 

彼が言い終わるのと同時に周りは彼に向かって盛大な賛辞を送る。

 

現状を上手く飲み込めないのかケイが茫然としている中、アルトリアがまとめる。

 

「さて、彼の素晴らしい考えを聞いた貴殿達に再び問う。

『本当にケイは相応しいのか』

 

周りはアルトリアの問いに対してケイの賛辞で返答した。

 

アルトリアはこれに頷きを返して結論を出す。

 

「では、全会一致によってケイを仮の代表者に任命する。貴殿の活躍を心から期待している。」

 

ケイは彼女の前にひざまづく

 

「謹んで拝命いたします」

 

こうして彼等の歓声によって幕を閉じた。

 

とある一室にてケイは愚痴る

 

「何か作為めいたものを感じたね。」

 

マーリンは微笑する

 

「ははっ、存外世の中は作為めいたもので溢れかえっているものさ」

 

ラグネルは「はぁ〜」と息を吐く

 

「お前が言うと本当にありそうで困るよ。」

 

アルトリアはニコニコとした顔で言う。

 

「けど、これで無事彼も代表者に選ばれたのです。お祝いものですね。」

 

「あくまで仮の代表者ということを忘れないでくれよ」

 

そうラグネルは指摘する。

 

それから軽く談笑を終えた彼等はそれぞれが自室へと戻る。

 

寝床で転がりながらラグネルは内心でぼやく

 

(滅びまであと何年もつだろうね)

 

そんな泡のような思考を水に溶かすように、夜の深みに沈む。

 

 

 

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