ラグネルがやってきた事もあり、周囲の騎士たちは落ち着きを取り戻したかのように元の仕事へと戻っていく、そんな中、未だ席に座る一堂、円卓の騎士たちは未だ立ち尽くしているラグネルに何かしらの見当がついたと推測し、彼に問いかけた。
「ラグネル、君は王の行方についての大体の見当はついているんじゃないのかい?」
マーリンの問いに対しラグネルは曖昧な反応しか返せなかった。
「すまないが、彼女の行方についてはさっぱりさ。“何せ、その時には既に夢の中だったからね“…けれどもだ、そんなものは所詮は些事に過ぎない。故に真に求めるべきは『ハウダニット』じゃあない…『ワイダニット』さ」
ラグネルはそう断言する。
「はぁぁーーー……」
ケイは疲労が籠った、鈍重なため息を吐く。
「それで、そこまで言い切れるってことはだ……『それ』は俺たちが介入できないものなんだろう?」
ラグネルは肯定の意が籠った首定を返す
「そうだ。これは彼が解決すべき問題であり、そこに他者の介在は許されない。
(……まぁ、例外はいるにはいるけども……所詮は皮算用か)
ケイはじっとラグネルの目を見つめる、それは数秒あるいは数分か、時が長く、重く、冷たく、彼らの周囲を覆い包む。ケイは自身の中で納得のいく結論が出たのか、先程までの張り詰めた空気が霧散していきいつもの雰囲気へと帰っていく。
「ふん、ならいいさ。それじゃ俺は元の業務に戻るわ。」
そう言い残し、ケイは席を後にした。他の円卓の騎士たちもケイを皮切りに席を後にしていく、、しかしマーリンを除いて未だ一名席に座ったままだった。
ラグネルは残った『彼』に尋ねた。
「貴殿は行かないのかい?」
彼は答える。
「いや、現状があまりにも好都合でね。この際そこにいる夢魔のことは置いて貴方に尋ねたいことがある。」
ラグネルは好奇心に駆られて問う
「貴殿は何が知りたいんだい?」
彼は空気を張り詰めさせながら述べた。
「貴殿の目的は何だ?」
彼……アグラヴェインは冷徹な眼差しを向けてラグネルへ刃を向けた。
時は遡り前日の夜更け
アルトリアは走っていた。
アルトリアside
走る 走る 走る 走る 走る
走る 走る 走る 走る 走る
無意味に 短絡的に 空虚に 逃げるように
がむしゃらに 愚直に 孤独に 悲嘆に暮れるように
ただひたすらにあてもなく闇の中を走る。
彼女は叫ぶ。
辛さを 苦しさを 喪失感を 嘆きを 郷愁を
無力さを 失望を 不安を 恐怖を
彼女は吐き出す。
しかし無情なことに晦冥は彼女の慟哭に一瞥を与えず、許容するのみだ。
彼女は過大評価していたのだ。
民の人間性を、騎士の忠誠を、国家の清廉さを、そして自身の能力すらも。
語弊が生まれる恐れがあるため一応補足するが、彼女は極めて有能でありかの先代国王ウーサーとも引けを取らぬほどの傑物である。
しかし彼女は王である前に一人のなのだ、故に彼女に期待が籠ったのは自明の理……彼女の衝撃は天地すら揺るがすほどのものだった事だろう。
これが『ifのアーサー』であったのなら話はこも複雑にはならなかった事だろう、何せそれは『ブリテン王』として完成されているのだから……しかしそうはならなかった、ならなかったんだ。
彼女は自身の期待と現状の擦り合わせによって生まれた差に嘆き、苦しんだ。
端的にいうと、彼女は疲れたのだ。
疲れた彼女はふと空を見た。
空は沈黙を保っていた。
彼女は無性に消えたくなった。
それから彼女は全てを置き去って暗闇へ駆け出した。
彼女は初めゆっくりと歩いていた、それはまるで輪郭を溶かすように
しかしその速さは徐々に加速していった、それはまるで人格をすりおろすように
彼女は走った、、しかし天は無情にも彼女の歩みを遅らせる。
突如暴雨が降ってきた。
彼女はふと我に帰る、、それは自責からか、それとも疾走からの疲労か、はたまた冷や水をかけられたからか……兎にも角にも理性を取り戻した彼女は自責の念に囚われながらも少し先に館があることに気づく。
館についた彼女は雨が当たらない具合の場所で三角座りで頭を抱え込む。
それから一体どれほどの時が流れただろうか、永遠にも思える時間彼女はひたすらに現実から逃避するように抱え込む……そんな彼女の頭上に一人の女性の声が響く。
「随分と苦しそうですね?」
一人の女性が問う。
「ブリテンの王ともあろう貴様がそのような体たらくとは、この国も終焉ですね」
彼女の愚痴は暗闇に消える。
「…貴様は王になるべきではなかったな」
そう言って彼女は去ろうとした……しかし彼女は小さな力によって踏み留まる。
アルトリアが彼女の服の裾を掴んでいたのだ。
彼女はアルトリアの弱々しい姿に憤怒と憐憫といた諸々の感情がないまぜになり、しばしの間沈黙する。
ようやく現状を飲み込めた彼女は「ハァァーー」と大きめのため息を吐いて目頭を抑える。
「まったく、世話の焼ける奴だ。」
そう言って彼女は蹲る彼女を姫抱きする、アルトリアは従順に身を委ねる。
彼女はそのまま空いている部屋にまで連れていき寝床へ放り込む。
「訳は明日聞きましょう、今は休みなさい。」
そう言い残し彼女は退室する。
アルトリアは疲労が限界に達したのか重い瞼に促されるように夢境へと旅立った。
彼女は自室にて愚痴る。
「ハァ、まさか私があれを匿う日が来るとは」
「しかし、これは好機でもあります。」
「これを機にあれの心を壊し、私こそが真のブリテンの王になりましょう」
彼女……いやモルガンは卑しく口角を上げて謳った