両者は沈黙を保ったまま、ただただ視線を交える。
幾許かの時を経て、畢竟、静寂は破かれた。
「ふふっ、こうして貴方の熱い眼差しを浴びて過ごすのも一興ですが、それは後回し。
今は本題に入るのが先決でしょう。
単刀直入に、貴方……私のものになりませんか?」
場の空気が急激に張り詰める。
「…これは光栄だな、まさか、かの稀代の魔術師モルガン殿に誘いかけてもらえるとは。
しかしだ、貴殿ほどの方となると私よりも適切な方がいるでしょう。
私には荷が勝ちすぎる地位だ。」
ラグネルは思案する。
(彼女の目的は何だ?単純に俺が目当てなのか?…いやそれはありえない。俺はしがない一宮中顧問官に過ぎない男だ、そんな俺に彼女がわざわざ目を掛ける可能性がどれほどあるか…だが現に俺は彼女から勧誘されているときた。
なら俺を使ってなにかしら事を起こそうとしているのか?…いやその線も薄いな、そもそもだが事を起こすのなら俺より彼女の身内であるガウェインを筆頭とした精鋭どもを使えばブリテンをひっくり返すことは厳しくとも、それなりの被害をもたらせれるのは火を見るより明らかだ。……ちっ、全ては憶測止まりか。)
ラグネルは内心(アグラヴェインに投げれないかな…)と愚痴りながらもモルガンが発する一字一句を逃さないよう、いつになく真剣な表情を形作る。
モルガンはそんなラグネルの様子に余裕そうな笑みを浮かべる
「そうやって幾重にも可能性を探る姿は可愛らしいが、ここは一つ提言しておくとしよう。
私が貴方を欲するわけはただ一つ、私たちは同胞だからです。」
そう言い切りモルガンはラグネルを愛しむように見つめる。
「最初は好奇心からでした。いつものようにアーサー王の動向を監視していた際、普段なら相変わらず担ぎ上げ具合に退屈と嫌悪感で一杯になりながらも作業のように鑑賞していたところ、不意にアーサー王の近くに一人の男がやってきましてね。彼は淡々と事務をこなしつつ、場の空気を整え、最後にはアーサー王に適切な助言をして去っていきました。あの時の衝撃と言ったら、鳩尾辺りが震えましたね。確かに貴方の働きには目を引くものがあります……ですが、私が最も衝撃だったのは貴方のあの眼ですよ。あれが見つめる全ては等しく現実であり、そこに期待やら理想やら信仰やらと言った装飾は映らず、ただひたすらに観つめるのみ。私の直感が囁いてくるのです、彼は私と同胞だーー彼は私を理解してくれるとーーそして二度目の再会によって貴方の昏い眼を直視した私は内心、震え上がりました。
何せあの日と変わらずの眼が、貴方がそこにいるのですから。
私は貴方にも選択があってしかるべきだと、そう思っていますーーだからこそ、貴方に二つ提示しましょうーー私と和姦するかーー私に襲われるかーー是非よしなに。」
ラグネルは彼女が提示してきた不条理な選択に呆然としてしまうが、そこは彼の持ち前の頭脳がどうにか情報を処理し切ることに成功する。
ラグネルはこの案件をどう対処するか暫し考え込むが、適切な解決法が見つからないまま彼はとうとう腹を括り、一か八かの大勝負に出る。
「……貴殿ーーモルガン嬢の熱烈な告白は大変私の胸にくるものがありました、ですが私が選ぶ選択はただ一つーー選ばないーーそう、私は、、いや、俺は俺だ。俺以外に俺を預けられるほど俺は強くなくてね、どうか臆病で小心者な俺を許してほしい。」
モルガンは彼の返答にますます笑みを深めた
「ふふふっ、貴方はきっとそう答えると思っていましたよ。だからこそ益々貴方を欲するこの情動は無限の鼓動を奏でて仕方ないのです。ふふっ、ふふふふふっ。」
ラグネルは興奮によって頬が蒸気するモルガンに対し辟易しながら、内心で深いため息を吐く。
(……モルガン嬢、確かに俺と貴方は同類だ、そこは俺も納得できるとも。しかしだモルガン嬢、俺たちは同類ではあっても決して『同胞』にはなれないんだ…。)
ラグネルは意を決して語る。
「まず前提として、貴方の経歴は一通りマーリンから教えてもらった。その上で応えようーー俺と貴方は同胞にはなれないーーと。
そもそもだが、俺と貴方ではあまりにも中身が、『本質』が異なり過ぎている。」
モルガンは数回の瞬きの末、唖然としながらもかろうじて口を開く。
「……そんなはずがありません。貴方のあの眼は!昏さは!虚無は!あれらの一体どこが私と違うと言うのですか!?」
「貴方は未来を見ているではないか。」
ラグネルの突然の発言にモルガンの脳は疑問で埋め尽くされる。
「…未来?」
ラグネルは「ええ」と同意する。
「そうです。貴方は俺と違い未来を見ている。自身がどれだけ空っぽであるか知っていながらも、動機が私怨であろうと、義憤であろうと、使命感であろうと、貴方はただひたすらに未来を、前を向いて走っているではないですか。
それこそが俺と貴方の明確な違いです。現実に順応しているだけの俺が今も尚未来へ走り続けている貴方の同胞を名乗るのは非常に烏滸が、ま、し…」
泣いていた、彼女はひたすらに立ち尽くしながらも顔色ひとつも変えずにただただ、一筋の水流を走らせる。