こうして、ブリテンに君臨した愚王は死んだ。
彼女は彼の亡骸を僕に預けたのち、彼と取って代わる様に再び、その玉座に君臨した。
彼女はその後、彼が編み出した土壌改革をベースに、より安定した土壌を生み出すべく、ローマだけでなく、様々な国々と交易を始めた。
そして、彼の統治において、最も異例だった宗教・信仰禁忌に彼女は多少の緩和を入れつつも撤去する事はなかった。
彼女が改めて制定した条例をかいつまんで話すと
・仕事を持つものだけが信仰を許可する
・祈りは神ではなく、隣人に授ける
・神へ供物ではなく、労働で捧げよ。
という結果に落ち着いた。当初は多少の反論があったが、彼の統治より幾万も軽い事から案外、素直に順応していった。
だが、ここまでは順調だった。しかして彼が結んだローマとの盟約が彼女の頭を抱えさせた。
彼は随分とローマ王に気に入られていたらしい…ローマ王は何と、彼の亡骸をこちらに明け渡せと命じてきたのだ。
勿論こちらは却下としたともさ、何せ彼はブリテンの人間だ。ブリテンで生まれたのだから、ブリテンに埋めてあげるべきだとアーサー王は主張したが。ローマ王はこれに、『彼の心はローマだった。故に彼はローマとしてローマに埋めてやるべきだ。』と返したのだ。これに切れたアルトリアは『自分は彼の王にして、半身だ!!そんな屁理屈が罷り通ると思うな!!』とキレ気味に返してしまったね。危うく戦争に発展するところだった。けどまぁ、結局は彼の武装と血液を譲り渡す事でなくなく了承してもらったのさ。けどまぁ、こう言ってはあれだけど、彼の亡骸のおかげで、我々はローマに生息する植物や果実の種を得れたんだ。彼に感謝だね。
けどまぁ、こうして順調に栄えながらも、終わりは等しくやってきた。
モードレッドが反乱を起こしてね。まぁ、今にして思えば、彼女の考えも理解できる。彼亡き後のアーサー王の統治は酷く、完璧だった。
何せ、彼の代わりにモルガンがアーサー王の側についたんだ、この結果も存外あり得ないものではなかったのだろう。
モードレッドは自国だけの反乱では彼女達の極まった国家に傷一つつけれずに無駄死にすると悟ったのだろう。だからこそ彼女は諸国に頼ったのさ、それも、彼女達の政治を厄介がる連中にね。結果、諸国は彼女達の政治のおかげで、自国の民達が次々と離反していく始末な現状への苛立ちを晴らす様に、あるいは目の上のたんこぶを取るように各々の最大戦略を持って、彼女達がいるブリテンへと乗り込んだ。
今でも鳥肌が立つよ。あの人が塵のようにモルガンの魔術で粉々にされては、アルトリアの聖剣で一切合切を踏み滲む。けれどね、どれだけ極めた強者でも、圧倒的な数の差には負けてしまうのさ。
結果、モードレット率いる反乱勢力は散り散りになりながらも、その統領であるモードレットはアルトリアと相打ちになり死亡。
モルガンは瀕死の重傷を負いながらも、私をアヴァロンへ封じ込めた。
あの時の彼女の言葉は今でも突き刺さっている。
『お前は、見ているだけだ。あの日も、今も!お前はやはり人でなしだ!マーリン!』
そうさ、僕は人でなしだ。彼との日常がそれを薄れさせただけで、僕の本質はどうしようもない人でなしさ。
僕はいつもいつも、肝心な場面では何もせずに傍観するだけだ。
……ほんと、嫌になるよ。
………ああ……そうか、これが………『後悔』なんだね、ルシウス。
全てが終わって、漸く気付かされたよ。
あんなにも、君は注意してくれていたのに………ねぇ、会いたいよ。
一度でいい、君に会いたい、会って話したいんだ、僕だって頑張ったさ。アルトリアはいつも夜遅くまで自分を追い詰めるように仕事ばかりして、
モルガンもひたすら魔術の研究に没頭するばかり、ああ……君との日常が凄く恋しいんだ。どうか、どうか
「ああ、君の顔、もっと良く、見ておけば良かったな。」
「くくく、お前も存外寂しがりやだったか。」
なぜ?
「なぜ、君がいるんだ?だってここは、」
「ああ、噂程度には聞いていたが、ここがアヴァロンか。
確か『罪あるものは通れない秘境』だったか。」
「ならなぜ、君はここにいるんだい!?だって、君は、大勢の人々を」
「ああ、殺したさ、だが、前提として、『罪』とは何だ?
あまりにも抽象的すぎる。故に、抜け道なんぞ容易く用意できた。」
「………参考までに聞いてもいいかな?」
「単純だ、『罪』とはお前との別離だと、解釈したに過ぎん。
だが、所詮はこんな小細工、数分も持つまいよ。だから簡潔に言おう。」
「ええ!?……ちょっと待って!!まだ心の準備が!!」
「いいや待たない。俺は…存外お前との日常が嫌いじゃなかったよ。
そら、受け取れ。」
「わっ!とっとっと!」
間一髪で受け取る、しかし僕の前から彼は既に消えてしまっていた。
僕は先程彼がくれた物を確認するように開く。
「これは。」
彼がくれたのはたった一輪の、さりとて最も暖かい『ワスレナグサ』だった。
「丁寧に髪飾りにまでしてくれちゃって。
ははっ。……ありがとう、ルシウス、大事にするよ。」
彼は確かにブリテンにおいて、最も残忍な殺戮者であった事だろう。
だが、それ以上に彼はブリテンにおいて、最も『人間』の『可能性』という物を愛していた。そんなどうしようもなく『不器用』な『男』なのだ。
一人の少年が魔法陣に手をかざし、降霊の詠唱を読み上げる。
「ーー告げる。
汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に
聖杯の寄るべに従い、人理の轍より応えよ
汝、星見の言霊を纏う七天
降し、降し、裁きたまえ、天秤の守り手よーー!」
魔法陣から盛大に風が吹き荒れる。
「サーヴァント、クラスは……ふん、ルーラーか
俺の名は……ルシウスだ。俺なんぞ、所詮は一介の人間に過ぎん。
あまり期待はするなよ、マスター。」
彼は淡々と告げた。
「うんうん、来てくれただけでありがたいよ!
まだ設備とかは復旧中だけど、これからよろしく!ルーラー!」
少年とルーラーは握手をした。彼の物語はとうに終わりを迎えた。
ならこれから先は、ちょっとした小休憩なのかもしれない。
fin