あれから随分と年月が経ち、俺たちはとうとう15歳になった。この長い間で俺たちの関係性は少し変わった。アルトリアがませた。今まではおてんばですぐにキレては不貞腐れるそんな至って普通の少女だった彼女がおてんばさがなりを潜めたかのように彼女の口から淑女しか話さないような整った話し方をするようになった。何より一番驚いたのが彼女が俺の反論に対して、受け入れるような姿勢を見せ始めたのだ。こんなにも急激な心の成長があるのか?もしや彼女が言う夢の師匠からの影響か?わからないけど、まぁいいだろう。コレは俺にとっても喜ぶべきことだ。なんせ彼女が自身の理想に対して真面目に向き合っているのだから、子供の頃とは比べられないほど彼女の理想は日に日に高貴さを増していく。だが皮肉なことにその高貴さに人間が耐えられるはずがないのにね。人間は完璧なものより不完全なものを好む。これはそもそも人間という設計図が不完全だからこそだろう。本当に完璧な人間にしたいのなら知恵なんて備え付けなければよかったんだ。そうすれば思考なんてできないしそこから自我は生まれない。まぁ、所詮は絵空事だ。そうだった、今日は選定の儀の前日で、彼女の家に招待されていたんだ。時間は……
「まだ余裕はあるけど、流石に準備くらい手伝わないと、にしてももうこんなに時間が過ぎていたとは…」
ほんとこれだから頭を回すのは嫌になる、周りが見えにくくなってしまう。だけど仕方ない事だろう。コレは俺だけの特権であり呪いでもあるのだから。ようやく彼女の家に着いた。
「ふぅ、到着っと。」
「随分と余裕を持ってきましたねラグネル。」
アルトリアが玄関の前に立っていた。
「なんだいなんだい、もしかして俺のお迎えかい?いや〜君の成長を感じれて俺は嬉しいよ!」
「はぁ、誰目線で言っているのですか。
私はエクターから薪が切れてきたから取ってきてくれって頼まれたから外にいたんですよ。誰がわざわざあなたのために出迎えなんてしますか。」
本当に彼女の話し方は背筋が震えるなぁ。やっぱり彼女のおてんばな頃を知っているからか、その差の違和感さをどうにも拭えない。まるで無理矢理大人になったような、背伸びした子供のようにも見えてしまう。
(本当に業が深いね。吐き気がするよ)
コレを彼女の夢の師匠が施したものだと言うのならそいつは、よっぽどの人手なしだ。人の尊厳を、意思を、決意を、思考をあまりにも舐めているし、貶めている。
「うん?どうかしましたかラグネル?」
「いや〜別になんでもないよ。なら俺もエクターに何か仕事がないか聞いてこようかな。」
「それなら私と一緒に薪割りをしましょう。」
「おいおい、本気かい?薪割りなんて君の怪力でちょちょいのちょいだろうに。」
「確かに薪割りは簡単です。ですが簡単過ぎてかなり暇なのです。要は話し相手になってください。」
ふむ。最近のアルトリアはよく自分の意見を言うようになった。それは拡散していた自身のアイデンティティをうまいこと整理できたことによる、自我の成長なのか。それとも彼女の理想の大人とやらのペルソナを被っているのか。コレは下手につついたら、藪蛇どころじゃないなしばらくは触れないでおこう。せめてそれらを受け入れる下地ができるまで。
「なら、エクターに一言伝えてくるよ、流石に家主に黙って仕事をするのは礼儀がなってない。」
こうして俺はエクターがいるであろう部屋へと向かう。
「すまない、エクターはいるかい?」
「ラグネルか、息災か?」
「あぁ、元気いっぱいのやる気全開だとも。」
「ははっ、そんだけ言えたら元気じゃな。
それでどうした?まだ早い時間だぞ?」
「それはもちろん、準備の手伝いに来たのさ、流石に何もしていないのにご飯だけ食べるのは、あまりにも居た堪れないのでね。」
「そうか、だがいまは一通り済ませてしまったな、かなり暇なのだ。」
「なら丁度いい、そしたら俺はアルトリアの手伝いをしよう。」
「ふむ?あいつに薪割りなんて紙を割くのと一緒じゃろう?」
「なんでも、簡単過ぎて逆に暇なんだって、だから俺に話し相手になって欲しいとさ。」
「なるほど、そう言うことなら手伝ってやってくれ。何か仕事ができたら存分にこき使ってやろう。」
(うわー、藪蛇だったかなぁ。まぁ仕方ない吐いた言葉は飲み込めないのだから。)
「できれば手心を加えてくれると俺は嬉しいなぁ〜。」
「ふむ、まぁ仕事の内容によるかもしれんがな。そら早く行ってやりなさい。あいつは変なところで寂しがり屋なんだからな。」
「了解したとも、じゃあそっちも頑張ってね。」
そう言って俺は玄関を潜り抜ける。
そこからは、アルトリアの愚痴に付き合うことになった。なんでも彼女の夢の師匠の訓練があまりにもハードすぎるらしい。なんでも、お守りを身につけた状態での打ち合いをし体にあたるたびにお守りが増えていくという。他にも、勉学では覚えることに集中したいのに師匠がやたらちょっかいをかけてくる、しかも悪質なのがどれだけ抵抗しようと、それは幻でしかなく、本体に少しも衝撃を与えれないと言う。俺はコレを聞いて。こんなことを思ってしまった。人間がする鍛え方ではないな。まるで、鬼でも鍛えてるのかってくらい狂ってる。
「君の師匠、クソガキすぎない?流石の俺でもちょっと引いたよ。」
「そんなことはないんです。確かに彼のイタズラのようなものはこちらも引いてしまうことも多々ありますけど。真面目な時は真面目になれるのですから……たぶんですが。」
(おい…何最後信頼が揺らいでいるんだ。しかし…ふーん。そんな奴がこのブリテンにいるなんて。)
「なぁアルトリア、君の師匠の名前って聞いてもいいのかい?」
「うーん?どうなのでしょうか?すみません、今は答えられないですが、今日聞いて見ます。」
「ありがとう。俺もここまでアルトリアを鍛えてくれた師匠の名前は知りたいからね。それはそうと薪割りはもういいんじゃないかい?
これだけの薪があれば当分は困らないだろう。」
「わかりました。時間的にも頃合いでしょうし、いったんエクターに報告しに行きましょう。」
エクターため息を吐きながらこめかみを指で押す。
「確かに俺は薪割りをしてくれと頼んだ、だがこんなに割る奴があるかアホがぁ!!」
アルトリアに拳骨落ちる。
「ははっ!アルトリア大丈夫かい、可哀想に頼まれたから割ったのに、褒められるどころか、叱られるなんて、ハハハハハ!」
「もちろんお前にも責任はあるわ!
だいたいお前がいてどうしてこんなことになる!お前はアルトリアを抑える役割だろう!」
「いやぁ、ついつい魔が差してね、どこまで割るのか、気になってしまった、大変申し訳ない、これは俺の監督不行届だよ。
ほらアルトリアも謝るんだ。」
「張り切りすぎてすみません。」
「まぁ、仕方ない、後の手間が省けたと思えばマシだろう。
それより、ケイを呼んできてくる。もう時期完成するしお前たちも泥を落として待っていろ。」
「アルトリアお先にどうぞ。」
「ではお先にいただきます。」
数分後出てきた。
そして俺も入る。
数分後俺たちの前によりどりみどりな料理が並びは始めた。
「さて、今日は明日アルトリアが選定の儀にでる、その門出の祝いとしていつもより奮発した。アルトリア残さず食べろよ。もちろんお前たちもな。」
そうして俺たちは一心不乱に料理を食べる。どの料理もこだわりがあり、どれも新鮮だった、
(うまい!!エクターは一体どれほど奮発したんだ!)
気づけば、俺もアルトリアもケイも全ての料理を平らげていた。
俺たちはとてつもない充足感に浸っていた。
ケイが言う。
「俺もう普通の飯食えないかも。」
アルトリアは言う。
「エクターこの料理のレシピはありますか。あるのですか!!ならぜひ写させてください!」
(こいつ、あれだて食べていてもう次のことを考えてるよ、呆れるねホント)
俺は充足感に浸りながらも明日のことを考える。
(明日こいつは必ず剣を抜くだろう。それはどこか神秘的であり、神聖さすら感じさせるほどに、けど、同時にアルトリアにも変化が起きるだろう。一気に表面に現れるのか、じわじわと彼女の精神を侵食するのか、まだわからない、だが明日は彼女にとってもブリテンにとっても大切な日になるだろう。)
「…ネル、…グネル、起きなさいラグネル!!」
そして俺の意識は目覚めた。
(寝てたのか…)
「起こしてくれてありがとうアルトリア。」
「いえ、感謝されるほどでもないです。ですが疲れているのなら帰られたほうがいいのでは?」
ここは彼女の提案に乗っかろう。
「あぁ、そうさせてもらうよ、済まないけどエクターには君から伝えてくれないか。」
「ええ、任されました。それではラグネルまた明日。」
「ああ、また明日。」
こうして祝いは終わりを告げた。