(なんだって?マーリンだと?こいつは今、マーリンと言ったのか?おいおいおいおい、ただの気さくな青年かと思わせて、その実、かの先代ウーサーの右腕のような存在だったやつが、アルトリアの師匠だったなんて、物語でもそうそうないぞ、けれど、そうだ、確かに、アルトリアの師匠がかのマーリンだったのなら、色々辻褄が合う。マーリンほどの魔術師なら夢を渡ることも可能だろうし、彼女の精神的、肉体的急激な成長も頷ける。だが、こいつの視線ハッキリ言って不快だ。まるで俺たちのことチェスの駒のように見ている。こいつの目は相手を見ているようで、その実、何も見ていない。ただただ相手の内面を機械的に解剖して、理解しているように気取る。悪質がすぎるよホント。けどそれだけだったらまだ許容できる、なんせそんなのは所詮一個人が抱く生きていく上での処世術に過ぎない。だが本当に不快なのは散々周りを引っ掻き回すくせに、自分は観客席でふんぞり帰っているところだ。だがこいつがいることはアルトリアの理想を調整する上で貴重な存在だろう。なんせこいつほどこの国を客観視できる奴は存在しないだろう。さて吉とでるか凶と出るか。)
ラグネルはある程度結論を出して、マーリンに返答する。
「まさか、アルトリアの夢の師匠がかの有名なマーリンだったとは、会えて光栄です、俺の名はラグネルと申します。」
「ほお!!君がアルトリアがよく話していたラグネルか!いやあ確かにこうして顔を合わせて話しているとアルトリアの評価は正確だ。なんせ君は相手と親しい関係になればなる程、毒を出して相手を翻弄する。…うん…いいね!私そういうの結構好きだよ。なんせ信頼が目に見えてわかりやすい。だから、私相手にそんなにかしこまった話し方をしなくてもいい。そういう堅苦しいの苦手だからね。」
そうして、マーリンは手を差し出してきた。
アルトリアは驚いた顔をしていた。彼女は魔術師が相手に手を差し出す危険性をマーリンから教えられていたのだ。
ラグネルは訝しんだ。
(こいつ何を考えている?ただ単に仲良くなりたいがために握手を求めているのかそれとも俺を解剖するための必要な過程なのか。……わからん、判断を下すにこいつのことを知らなさすぎる。だが仮にマーリンが俺を解剖する気なら、こちらも相応に、俺もマーリンを解剖してやろう、じっくりと、懇切丁寧に。故にここは素直に応じよう)
「それじゃあ、お言葉に甘えて、礼節を取っ払ってお前と話そう。それじゃよろしくねマーリン。」
「ああ、こちらからもよろしく頼もう。なんだかんだ言って君とはアルトリアの次くらいにはよく関わりそうだ。」
こうして両者が手を合わせる、各々が企みを抱きながら。
「じゃあ次は、うん、君がケイだね。」
「ああ、確かに俺の名はケイだ。だがなぜ俺の名と俺が合致した?」
「それは簡単だ、私は昨日、アルトリアに同伴者を連れてきていいか?と尋ねられた際、快く承諾した。だけど流石に同伴者の名前ぐらいは知ってた方がいいなと思い聞いておいたんだ。だからこそ、ラグネルの名前さえ合致させることができたら、あとは消去法でわかるというわけさ。」
「なるほどな。ついでに俺も義兄としてお前に言いたかったことを言おう。まずは感謝をお前のおかげでアルトリアは俺たちの想像以上の成長をした…それは俺たちだけではなし得ないことだ、感謝する。そして最後にアルトリアの師匠をするというのなら、あらかじめ一報をくれると助かった。お前はわからないだろうが、こいつが起きてから急に体の節々が痛いと訴えてきたり、暇な時間に鍛錬し始めたりと普段と違いすぎる行動をし始めた。その違和感の差はアルトリアからお前の存在を聞き出すまで拭えなかった。その時の気持ちは今でも鮮明に思い出せる…誰かにいじめられているのか、何か心の変化があったの、それは聞き出した後も変わらずしこりのように残った、もしかして騙されているんじゃ、そんなに生き急がなくてもいいじゃないか、とめどなく溢れ出した。だから、マーリンもし次もアルトリアに何かするのならせめて俺たちにも教えてほしい。心配なんだ。」
マーリンは絶句した。己の思慮の浅さを恨めしく思った。彼にケイの訴えを完全に理解することは難しい、だが彼の中では感情的な後悔は薄く、ただただ自分は何か失敗をしたんだなと受け止めていた。だから彼はこう言う。
「状況によっては君たちに伝えることは逆に不利を招くかもしれない、だから確約はできない。だけど善処はしよう。」
この言葉にケイは表に出さなかったがマーリンに確固たる不信感を抱いていた。
(こいつ、本当に人間か?あまりにも情動が薄すすぎないか?けどどれだけ考えても俺がこいつに敵うことは不可能だろう。ならばせめて、せめて俺はアルトリアの日常であり続けよう。)
こうして三者三様に思想が絡まっていく、アルトリアを中心に。