宇宙世紀に転生し、自分から強化手術を望んだ異常TS少女の話   作:Xn

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第九話:アクシズの接近

宇宙世紀は0087年も半ばを過ぎようとしている。

エゥーゴとティターンズの抗争は激しさを増し、戦火は地球圏全域へと拡大していった。

 

リリア・アストレア中尉は、パプテマス・シロッコとの密会以降、ティターンズ内部での立ち回りをより慎重かつ大胆なものへと変えていた。

シロッコという存在は、彼女にとって危険な刃であると同時に、旧体制を覆すための強力なカードとなり得る可能性を秘めていたからだ。

 

(シロッコ大尉……彼の野心は、私の目的と完全に一致するわけではない。

だが、少なくとも現状のティターンズを壊すという点では、利害が一致するかもしれない。

問題は、その後、彼がどのような世界を望むか……そして、私がそれに対抗できるか、です。)

 

ティターンズ内部では、地球至上主義を絶対とする強硬派と、シロッコを中心とするより野心的な勢力との間で、目に見えない亀裂が生まれつつあった。

 

リリアは、その両者の間で巧みに立ち回り、双方から情報を引き出しつつ、自らの影響力を拡大しようと画策していた。

 

彼女の「碧き死神」としての戦果自体は、依然としてティターンズ内でも大きく、その実力は認められていた。

 

しかし、その一方で、彼女の「甘さ」――捕虜を不必要に殺害しない、民間人の犠牲を極力避けようとする姿勢――は、バスク・オムのような強硬派からは依然として不興を買っていた。

 

 

ある作戦報告の場で、バスクの堪忍袋の緒が切れた。

 

「アストレア中尉! 報告によれば、貴様は先の掃討作戦において、エゥーゴの残存兵力を『無力化』するに留めたそうだな! どういうことだ!」

 

バスクの怒声が司令室に響き渡る。周囲の士官たちも、固唾を飲んで二人を見守っていた。

リリアは表情一つ変えず、冷静に答えた。

 

「バスク様、命令の主旨は『敵戦力の無力化と、再抵抗の阻止』と理解しております。

当該宙域の敵MSは、主要武装及び推進システムを破壊され、完全に戦闘能力を喪失しておりました。

事実、作戦目標であった敵拠点からのデータ強奪及び施設破壊は、私の部隊が最も迅速に達成しております。

抵抗の激しかった一部の敵機に関しては無論パイロットごと排除いたしましたが、それ以外の戦闘能力を失った敵兵を殲滅するために弾薬と時間を浪費するよりも、速やかに次の戦略目標へ移行し、作戦全体の効率を最大化することが肝要と判断いたしました。

後ほど、敵兵は捕虜としております。

この判断については、今回の作戦の指揮を執られていたシロッコ大尉にも事前にご報告し、『戦術的合理性に基づく効率的な作戦実行』の一環として、ご理解を頂いております。

再利用される可能性のある機材は、自爆ないし破壊処理も確認済みです。詳細は報告書に記載の通りです」

 

彼女の言葉は、あくまで戦術的な判断とその結果、そしてティターンズ内で着実に権力を確立しつつあるシロッコの名を盾にすることを強調するものだった。

 

実際には、捕虜の扱いについて人道的配慮を指示してもいたが、それは公式報告書には迂遠にしか記載されない。

 

バスクは眉をひそめ、ギリギリと歯ぎしりをした。

リリアの報告は、そう安々と欠点を見つけられるほど粗く作られたものではない。何よりシロッコの名を出されるのは、バスクの癪に障った。

 

「口答えするな! 腕はあるようだが、たとえ貴様であろうと容赦せん! 少し頭を冷やせ!」

 

バスクは、リリアの頬を平手で打ち据えた。強化されたリリアの身体でも、その衝撃は強烈だった。口の中に鉄の味が広がる。

 

(これが修正……)

 

リリアは、燃えるような瞳でバスクを睨み返した。

 

バスクは、その怯まぬリリアの瞳に一瞬驚いた表情を見せたが、すぐに冷酷な表情に戻り、吐き捨てるように言った。

 

「……今回はこの程度で済ませてやる。

だが、次に同じようなことをしてみろ。その時は、貴様のその顔がどうなっても知らんぞ」

 

そう言って、バスクは部屋を出て行った。

残されたリリアは、床に落ちた自分の血を指で拭い、静かに立ち上がった。頬の痛みよりも、心の奥底の怒りと屈辱の方が遥かに強かった。

 

(バスク……あなたのような人間がいる限り、この組織は変われない)

 

この一件は、リリアにティターンズという組織の非情さと、自らの立場の危うさを改めて認識させると同時に、彼女の「改革」への決意をより一層強固なものにした。

 

 

 

その頃、宇宙の情勢はさらに複雑な様相を呈し始めていた。

ティターンズとエゥーゴの抗争が激化する中、宇宙のパワーバランスを揺るがす新たな影が、その輪郭を明確にしつつあった。

 

小惑星基地アクシズ――ジオン公国の残党が潜む、未だ侮れぬ戦力を秘めた牙城。

その若き指導者ハマーン・カーンは、地球圏から断続的に届く情報の中に、看過できない変化を感じ取っていた。

 

先のデラーズ紛争以降、ティターンズという組織が急速に台頭し、連邦軍内部で「ニュータイプ」あるいはそれに類する能力を持つ強化人間の研究が進展しているという不確かな情報。

そして何より、その「作られたニュータイプ」が、既に実戦で無視できない戦果を挙げ始めているという噂。

 

ハマーンにとって、ティターンズによる人工的なニュータイプの作成が成功しているという情報は、将来的にアクシズの優位性を脅かし、ジオン再興の計画に大きな影響を与えかねぬ、看過できない事態であった。

座視はできない。

 

故にハマーンは、当初の予定を早め、公式な帰還に先駆けて、自らを含む先遣部隊を地球圏へと送り込み、ティターンズにおけるニュータイプ研究の実態、そしてティターンズとエゥーゴの争いを徹底的に調査し、来るべき本格的な介入のため情報収集と勢力拡大の布石を打つこととした。

 

彼女の胸中には、ザビ家再興という目的と共に、ニュータイプという新たな力を巡る地球圏の動きへの強い関心と警戒があった。

 

 

そして、パプテマス・シロッコは、木星船団時代から培ってきた独自の情報網と、その類稀なる洞察力で、アクシズのこの不穏な動きをいち早く察知していた。

彼は、アクシズという勢力の潜在的な脅威と、同時に利用価値を、早期に見抜いていた。

 

(ティターンズもエゥーゴも、アクシズという新たなプレイヤーの存在を無視することはできない。

私の目的のためにも、先手を打つのもありだろう。

バスクなどはアクシズを単なるジオンの残党と侮っている節があるが、それは大きな間違いだ。

彼らを利用できるか、あるいは早期にその牙を折るか、見極めねばなるまい)

 

彼は、ティターンズ内部での自らの拡大しつつある影響力を背景に、極秘で、アクシズの先遣艦隊との非公式な接触を画策した。

それは、ティターンズの公式な外交ではなく、シロッコ個人の野心と計算に基づいた、危険な賭けであった。

 

そして、その危険な任務の同行者として、彼はリリア・アストレアを選んだ。

彼女の強化人間として能力も、ハマーンという未知数の女傑の本質を見抜く上で有用だと判断したからだ。

そして、この「非公式な会談」というイレギュラーな状況は、リリアの忠誠心と能力を試す格好の舞台ともなり得た。

 

このハマーンとの早期会談は、リリアの知る「物語」からの逸脱だった。

 

 

「リリア中尉、君には私の目となり耳となってもらいたい。

アクシズのハマーン・カーン……なかなかの切れ者らしい。

公式な接触の前に、我々だけで彼女の真意を探る必要がある。

君のその洞察力で、彼女が我々にとって使える駒なのかどうかを確認してもらおう。

これは、ティターンズの公式な任務ではない。あくまで、私個人の依頼だ。

君の返答次第では、今後の君との関係も変わってくるかもしれないぞ?」

 

シロッコの言葉は、リリアに選択を迫るものだった。

それは、ティターンズという組織への忠誠ではなく、彼個人への協力と、その見返りとしての『何か』を暗に示唆していた。

 

(ハマーン・カーンとの原作よりも早い接触……。そしてこれは、シロッコ大尉の独断行動。彼は私をその共犯者にしようとしている。

この会談の結果如何では、ティターンズとアクシズの関係、そしてグリプス戦役の行方すら変わるかもしれない。

私の知る歴史では、彼らはティターンズと一時的に手を組むはず……だが、その同盟は長くは続かない。

この歴史の分岐点に直接介入できるかもしれないのなら……)

 

リリアは、アクシズの出現という新たな要素が、グリプス戦役の行方を大きく左右することを理解していた。

そして、それを観測することは、彼女にとって危険な賭けであると同時に、シロッコの信頼を得るまたとない機会となる可能性があった。

 

 

そして、リリアは、シロッコからの「個人的な依頼」に乗る形で、アクシズの先遣艦隊との非公式な交渉の場に、彼の護衛兼オブザーバーとして同行することを決意した。

 

(ハマーン・カーンは、歴史のキーパーソンにして、強力なニュータイプ。

私のような『作られた存在』が、彼女とどう渡り合えるというのでしょうか……)

 

出発直前、リリアの心に「偽物」としての劣等感と、未知の強敵に対する純粋な不安がよぎる。

 

(しかし、シロッコ大尉が私を同行させるからには、彼なりの計算があるはず。

それが、私を試すためのものか、あるいは認めている証拠なのかは分からない。

だが、どちらにせよ、これはチャンスです。この目で、歴史が動く瞬間を確かめる……!)

 

彼女は、込み上げてくる不安を、意志の力でねじ伏せた。

 

 

 

リリアは長距離移動シャトルにシロッコと共に乗り込み、アクシズの先遣艦隊旗艦グワダンへと向かった。

 

謁見の間に現れたハマーン・カーンは、リリアの予想を遥かに超える存在だった。

 

髪を揺らし、冷たくも美しい瞳でシロッコとリリアを見据えるハマーン。

その全身から放たれるプレッシャーは、シャアやカミーユとも異なる、絶対的な女王のような威厳と、底知れないカリスマ性を感じさせた。

 

それは、リリアの強化された感覚を直接圧迫するような、強烈なものだった。

まるで、見えない力で心を締め付けられるかのようだ。

 

(これが、ハマーン・カーン! なんという存在感! なんというプレッシャー。私の作られた力とは次元が違う。

シロッコ大尉ですら、彼女の前では慎重にならざるを得ないように見える。

……いや、彼もまた、何かを探っているのか)

 

リリアは、強化人間として持つニュータイプ能力で、ハマーンの持つ強大な力と、その心の奥底に秘められた深い孤独と野心を感じ取っていた。

そして、同時に、自分自身の力の限界を改めて痛感させられた。

 

 

交渉では、シロッコとハマーンの間で、丁々発止の駆け引きが繰り広げられた。

 

「ハマーン殿、遠路からの帰還、ご苦労であった」

 

シロッコは、穏やかな口調で切り出した。

 

「我々ティターンズは、貴公らのジオン再興の志に敬意を表する。そして、共通の敵であるエゥーゴを打倒するため、協力関係を築きたいと考えている」

 

「ふふ……木星帰りのシロッコとやらが、随分と殊勝なことを申すのだな」

 

ハマーンは、薄く微笑みながら応じた。

 

「ティターンズが我らを利用しようとしていることは見え透いている。

だが、我らもまた、地球圏での足掛かりを必要としている。お互い、腹の中を探り合うのは時間の無駄であろう?

我らが求めるのは、地球圏におけるアクシズの影響力の確立。

そのためならば、一時的にティターンズと手を組むこともやぶさかではない」

 

「それは賢明なご判断だ」

シロッコは頷いた。

 

「我々は、貴公らが地球圏で活動するための便宜を図ろう。

その見返りとして、エゥーゴとの戦いにおいて、アクシズの軍事力を貸していただきたい。具体的な条件は、これから詰めていく必要があるが」

 

その後に続く会話は、まるで狐と狸の化かし合いのようであった。

ティターンズとアクシズの同盟。シロッコは、それを主導することで、立場をさらに強めたいのだろう。

それは、地球圏の勢力図を塗り替える可能性を秘めた、危険な取引だった。

 

リリアは、その交渉の行方を固唾を飲んで見守りながら、ハマーンの一挙手一投足から、彼女の真意を読み取ろうと必死だった。

彼女の強化された感覚は、ハマーンの言葉の裏にある微細な感情の揺らぎ――時折見せる慢心と警戒、あるいは隠しきれない野心――や、シロッコの計算高い表情の変化を捉えていた。

 

(ハマーンは、ティターンズを利用するつもり自体はあるだろう。だが、決して心からは信用しない。

彼女の目的は、あくまでもジオンの再興とザビ家の復権。

シロッコ大尉も、それを承知の上で、アクシズの力を一時的にでも利用しようとしている。それに、そもそもティターンズがジオン残党と手を組むということ自体に、原作時点から無理があることは否定できない。

両者とも、互いを駒としか見ていない……危険な綱渡りだ……)

 

 

不意に、ハマーンの視線がリリアに向けられた。その瞳は、まるでリリアの心を見透かすように鋭く、そしてどこか興味深げだった。

 

「そちらの可愛らしいお人形……君が『例の』強化人間か。

君は、シロッコ殿の趣味か?それとも、何か特別な役割でもあるのか?」

 

ハマーンの言葉は、リリアの美少女としか言いようのない外見と、強化人間という特異性を同時に揶揄するような響きを持っていた。

 

リリアは、一瞬顔をこわばらせたが、すぐに冷静さを取り戻し、ハマーンの視線を真っ直ぐに受け止めた。

 

「リリア・アストレア中尉と申します、ハマーン様。

私は、シロッコ大尉の護衛として同行させていただいております。

この地球圏の未来については、私なりに思うところもございますが、今はまだそれを申し上げる立場にはございません」

 

その言葉は、少女らしい声色とは裏腹に、確固たる意志を感じさせた。

ハマーンは、そのリリアの返答に、僅かに眉を動かした。

その時、リリアはハマーンの瞳の奥に、ほんの一瞬だが、何かを探るような、あるいは試すような光を見た気がした。

ハマーンほどのニュータイプならば、リリアの本質に迫ってしまっていてもおかしくはない。

 

そして、リリアはシロッコに対して『ハマーンは、やはり我々を完全には信用していないようです。慎重な対応が必要です』とでも言うように、警告を念の為送った。

 

シロッコは、リリアのその微細なサインを見逃さなかったようだ。

 

「ほう……面白い。ティターンズにも、そのような小鳥がいるとはな。

だが、小鳥はいつか籠から飛び立つものだ」

 

ハマーンは、意味深な言葉を残し、それ以上リリアに表立って興味を示すことはなかった。

 

 

 

結局、この交渉では、具体的な同盟締結には全く至らなかった。

リリアも、自分が役に立てたのか自信は持てなかった

 

シロッコとアクシズは、互いに利用価値があること、そして互いに油断ならない相手であることを認識し合う結果に終わった。

とくに、ハマーンはティターンズという存在を原作以上に強く警戒している様子であった。

 

そして、リリアは、この会見を通じて、新たな決意を固める。

 

(ハマーン・カーンもまた、私が超えなければならない壁の一つ。

もっと情報を、もっと力を)

 

ティターンズ、エゥーゴ、そしてアクシズ。三つの勢力が入り乱れようとしているグリプス戦役の渦の中で、リリア・アストレアの孤独な戦いは、新たな局面を迎えようとしている。

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