宇宙世紀に転生し、自分から強化手術を望んだ異常TS少女の話   作:Xn

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第十話:密約

宇宙世紀0087年8月。

ティターンズはアポロ作戦を実行することとなる。

 

アポロ作戦とは、ティターンズが、月の要衝であるフォン・ブラウン市を制圧し、エゥーゴに打撃を与えることを目的とした大規模な軍事行動である。

 

この作戦において、リリア・アストレア中尉は、フォン・ブラウン市外縁部での遊撃任務に就かされることになった。

 

彼女の駆るシルフィード・カスタムは、デラーズ紛争期に開発された機体をベースに、リリアの強化人間としての特性に合わせて徹底的なカスタマイズが施されたMSである。

高い機動性と、リリアの脳波に直結した不完全なサイコミュ・システムによる追従性は、当時のティターンズ主力機の1つであるハイザックを超えてはいた。

 

だが、エゥーゴが投入してくるリック・ディアスやネモといった新型機を前に、シルフィード・カスタムの基本設計の古さは隠せない。

ジェネレーター出力は常に限界で、特に装甲は最新鋭機に比べれば大きく劣る。

リリアの強化人間としての技量と、機体が悲鳴を上げるほどの乱暴な操縦で性能差を埋めているに過ぎなかった。

 

 

 

フォン・ブラウン市近傍。リリアはシルフィード・カスタムで、エゥーゴの哨戒部隊と思われるネモ3機と遭遇した。

ネモは、エゥーゴ向けにアナハイム・エレクトロニクス社が製造する量産型MSであり、バランスの取れた性能と高い生産性を誇る。

 

「こちらリリア・アストレア。敵哨戒部隊と接触。ネモ3機。これより交戦に入る」

 

冷静な報告と共に、リリアはシルフィード・カスタムを加速させる。

そして、自分の操縦技術があればシルフィードはまだ戦えるはずだ、とリリアは自身を勇気づける。

 

ネモ部隊は、ティターンズの「碧き死神」の噂を知ってか知らずか、標準的な三機編隊による連携攻撃を仕掛けてきた。

中央の一機がビーム・ライフルでリリアを牽制しつつ先行し、その隙に左右の二機が回り込もうとする。

 

(教科書通りの動き……だが、油断は禁物。ネモの運動性は侮れるものではない。

一瞬の油断が命取りになる)

 

リリアは、ネモのビーム・ライフルの射線を読み切り、シルフィード・カスタムをバーニアで微調整しながら回避。

その動きは滑らかで、敵パイロットの予測を僅かに上回る。

 

回避と同時に、シルフィード・カスタムのビーム・ライフルが火を噴いた。狙いは、先行してきたネモの脚部。

しかし、相手もリリアの動きを警戒しており、巧みにシールドで防御し、致命傷を避ける。

 

「ちぃっ、速いだけじゃない、正確だ!」

 

ネモのパイロットから焦りの声が漏れる。

 

回り込んできたネモの1機が、側面からビーム・サーベルで斬りかかってくる。

リリアはバックステップでそれをかわし、シルフィード・カスタムの機体を相手に向ける。

 

左腕に装備された小型シールドで、そのネモからの追撃のビーム・サーベルを受け止めつつ、安全のために距離をとる。

 

そして、右腕のビーム・ライフルを正確に連射。ほぼ同地点に何発も食らったネモのシールドには穴が空き、胴体部にビームが吸い込まれる。

 

ネモのコックピット周辺が爆ぜ、火花を散らしながらコントロールを失い、デブリの彼方へと流されていく。

敵もなかなかの精鋭で、数の差も性能差もある。殺さない余裕は無い。

 

「一機!」

 

しかし、休む間もなく、もう一機のネモが背後から迫る。強化されたリリアの感覚が、その殺気を捉えていた。

 

(この機体では、同時に多数の相手は厳しいか……!)

 

シルフィード・カスタムのメインスラスターが悲鳴のような音を立てる。

リリアは機体を限界まで捻り、背後からのビーム・ライフルを紙一重で回避。

だが、その余波で左肩部アーマーの一部が溶解し、警告音がコックピットに鳴り響いた。

 

「くっ……!」

 

リリアは歯を食いしばる。強化人間としての副作用である頭痛が、戦闘の緊張感と相まって、脳を締め付けるように痛む。

 

(集中しろ……! この程度の痛みで……私の動きが鈍るものか!)

 

反撃に転じようとした瞬間、またも背後から接近していたもう1機のネモが、シルフィード・カスタムの動きを予測したかのように、偏差射撃を仕掛けてきた。

そのビームは、シルフィード・カスタムの右脚部を正確に捉え、推進力を奪う。

 

「しまった……! 連携が取れている……!」

 

体勢を崩したシルフィード・カスタムに、最後のネモがとどめを刺さんとビーム・ライフルを構え、撃つ。

 

(いや、まだだ!)

 

リリアは、破損した脚部を意に介さず、残った推進力を全て回避に回し、強引に姿勢を制御。

シルフィード・カスタムの肩部小型ミサイルランチャーを反撃に放つ。

 

ネモはミサイルの接近に気付き、回避行動を取るが、そのうちの1発が右腕を掠め、爆風がビーム・ライフルを吹き飛ばす。

 

その一瞬の隙。リリアはシルフィード・カスタムを急接近させ、右腕のビーム・サーベルでネモの胴体部を両断。

 

これで二機目!

残るは、最初に牽制行動を取っていた一機のみ。

そのネモは、僚機二機が瞬く間に撃破されたのを見て、一瞬動きを止めた。

 

しかし、すぐに怒りと恐怖をないまぜにしたような殺気を放ち、シルフィード・カスタムへと突撃してきた。

 

(単独で突っ込んでくるとは……!

怒りに我を忘れているか、あるいは覚悟を決めたか。

どちらにせよ、このシルフィードの状態で、まともにやり合うのは危険すぎる……!)

 

シルフィード・カスタムは、既に左肩部と右脚部を損傷し、戦闘で衝撃を受けたのが理由かジェネレーター出力も低下し始めている。

 

リリアは、残された肩部小型ミサイルランチャーの全弾を、突進してくるネモに向けて発射。

同時に、爆炎を目眩ましにしつつ機体をデブリの影へと滑り込ませるように後退させた。

 

ネモは追撃してくるが、リリアはデブリを盾に、一瞬だけ敵の視界から完全に消える。

 

そして、ネモがデブリを回り込んで姿を現した瞬間を狙い澄まし、強化人間の反応速度でビーム・ライフルを発射。右腕に直撃。

その衝撃と破片がネモの機体を激しく揺るがす。

 

ネモのパイロットは、予期せぬ攻撃に体勢を崩し、コントロールを失った。

その隙を見逃さず、リリアはデブリから飛び出し、シルフィード・カスタムの右腕のビーム・サーベルで、ネモの両足を正確に切り裂き、武装を破壊し、戦闘力を奪った。

 

「……三機目」

 

コックピット内には、焦げ臭い匂いが充満している。ノーマルスーツの中は、汗の匂い。

シルフィード・カスタムは、もはや満身創痍だった。

 

激しい戦闘の後、リリアは荒い息をつきながら、損傷したシルフィード・カスタムで辛うじて帰投した。

この戦いで、彼女は改めて自機の限界と、新型機の必要性を痛感することになった。

 

 

 

アポロ作戦は成功した。だが、その後の推移は史実通り。

エゥーゴが反攻に出るとティターンズはすぐに撤退することになり、フォン・ブラウン市の実質的な占領期間はわずか数日にとどまった。

 

そして、エゥーゴの指導者、ブレックス・フォーラ准将が、バスクの指示を受けたと思われるティターンズの工作員によって暗殺されるという衝撃的な事件も発生してしまった。

ブレックス准将は、ティターンズの専横を憂い、スペースノイドの権利を守るためにエゥーゴを組織した穏健派の軍人であり、その死はエゥーゴにとって計り知れない打撃となった。

 

指導者を失ったエゥーゴは、クワトロ・バジーナ(シャア・アズナブル)がその重責を事実上引き継ぐ形となり、ティターンズとの対決姿勢をより鮮明にしていく。

 

(やはりブレックス准将が狙われましたか。

そして、シャア・アズナブルの影響力がさらに増す……。

ティターンズにとっても、これは大きな転換点となるでしょう。)

 

リリアは、ブレックス准将暗殺の報を、ティターンズ内部の通信で知った。

その冷酷な手口と、ティターンズのなりふり構わぬやり方に、改めて強い憤りと、この組織に身を置くことへの深い葛藤を覚えた。

 

 

 

そんな中、リリアにとって一つの転機、あるいは試練とも言える出来事が起こる。

 

バスク・オムが、オーガスタ研究所に対し、ロザミア・バダムの「再調整および保護監督」という名目で、リリアの部隊から引き離すよう指示を出したのだ。

表向きは「リリア中尉の負担軽減と、ロザミア少尉のより専門的な施設での療養が必要」という、もっともらしい理由がつけられていた。

実際、最近は別の戦闘に参加することも多くなっていた。

 

しかし、その真意はリリアにも明らかだった。バスクは、リリアがロザミアに対してこれまで育んできた(ように見える)庇護欲や同族意識をついに利用し、リリアに対する強力な「首輪」をはめようとしていたのだ。

 

リリアがティターンズの意に沿わない行動を取りすぎた場合、ロザミアの処遇を盾に彼女を牽制し、コントロールするための本格的な布石であった。

オーガスタ研究所側も、リリアが研究所の想定よりも大きくロザミアに影響を与えていることを快く思っておらず、自らの管理下に取り戻すことを内心望んでいたため、このバスクの指示に異を唱えることはなかった。

 

リリアは、この命令に怒りを覚えたが、今の彼女にはバスクの決定を覆すだけの力も立場もない。

ロザミア本人も、リリアとの別離を強く拒んだが、組織の決定には逆らえなかった。

 

「リリアお姉さま……いやです……。私、お姉さまと一緒にいたい……。あそこは……怖い……」

 

オーガスタ研究所へ移送される直前、ロザミアは涙を浮かべ、リリアの軍服の袖を掴んで懇願した。

「ロザミア……今は、耐えるのです。あなたは一人ではありません。

強く生きて。いいですね?」

 

リリアは、込み上げる感情を押し殺し、努めて冷静に、しかし力強くロザミアを諭した。

強く生きて、とはロザミアを安心させるための言葉だったが、それは同時に、自分自身に言い聞かせる言葉でもあった。

 

 

 

ティターンズ内部では、ジャミトフ総帥の統制と、パプテマス・シロッコの台頭、そしてバスク・オムの過激な行動が、複雑な権力闘争の様相を呈し始めていた。

リリアは、その渦中で、シロッコとの繋がりを保ちつつ、圧力を受け流しながら、自らの目的のためにも情報を収集し影響力を高める機会を窺っていた。

 

しかし、彼女の「犠牲を最小限に」という戦い方は、相変わらずティターンズ強硬派の不興を買い続けていた。

 

その結果、彼女の出身母体であるムラサメ研究所からの支援も、徐々に冷淡なものへと変わっていっていた。

かつてはリリアを「最高傑作」と持て囃し、シルフィード・カスタムのような専用機の開発・改修にも前向きだったナカハラ博士らも、ティターンズへのリリアの「反抗的」とも取れる行動への失望、そして何よりも彼女の存在が研究所自体に危険を及ぼしかねないという判断から、彼女への支援を、強化人間としての体調管理と最低限のメンテナンスのみに限定するようになっていた。

 

加えて、ティターンズ内部における強化人間開発の複雑な力学も、リリアの立場をより困難なものにしていた。

オーガスタ研究所は、ムラサメが生み出したリリアという「成功例」に対し、対抗意識を燃やしているようである。

彼らは、自らの研究成果をティターンズ内でより優位に立たせるため、ムラサメへの予算配分やリソース提供に関して、裏では横槍を入れるようになっていたのだ。

無論それは表立ってはやられないし、上の指示があれば協力も行われはするが。

 

一方で、他の研究施設等は、ムラサメ研究所の「聖域」とも言えるリリアの処遇や専用機の開発に、あえて積極的に関与しようとはしなかった。

それは、ティターンズ内部の派閥争いに巻き込まれることを恐れたためでもあり、また、ムラサメの技術的優位性(あるいはその危険性)を暗黙の内に認めていたからでもあった。

もっとも、ムラサメの技術が特段飛び抜けている、というのはただの誤解で、リリアが異例なだけなのだが。

 

結果として、リリアとシルフィード・カスタムは、外部からの支援を期待できない状況に追い込まれていった。

 

もはやリリアは、かつての輝かしい「最高傑作」ではなく、その規格外の能力故に無視はできないだけの、持て余した「問題児」になり果てていたのかもしれない。

 

それは、新たなる強化や新しいMSの開発はおろか、シルフィードの改良すらも期待できない状況を意味していた。

 

 

 

ティターンズの混乱の中、ティターンズ内で独自の行動をとることが多くなっていたシロッコは、彼の現在の拠点の一つである大型戦艦ドゴス・ギアの艦内にリリアを呼び出した。

 

(シロッコ……今度は何を望んでいるのでしょうか。

アポロ作戦でのティターンズの不手際、そしてブレックス准将の件で、ティターンズ内部もエゥーゴも、新たな動きを見せている。

彼はそれをどう見ているのか。そして、私のこのシルフィードでは、そろそろ限界だということも、彼なら見抜いているはず……)

 

ドゴス・ギアのシロッコの私室は、やはり、彼の特異な感性を映し出すかのように、静謐な緊張感とどこか退廃的な美意識が同居する空間である。

 

部屋に入ると、シロッコは珍しく軍服ではなく、趣味の良い私服姿でリリアを迎えた。

その手には、宇宙用のグラスに入った赤い液体――おそらくはワインだろう――が揺れていた。

 

部屋には、彼らしいクラシック音楽が小さな音量で流れている。おそらく、ベルリオーズの『ファウストの劫罰』(La Damnation de Faust)。

魂と引き換えに力を得る男の物語。その選曲に、自分を神か悪魔にでもなぞらえていそうなシロッコの傲慢さを感じ、リリアは静かに身構えた。

 

「よく来てくれた、リリア中尉。まあ、座りたまえ。

先日の戦闘、見事だったと聞いている。あの旧式機でよく凌いだものだ」

 

シロッコは、リリアに優雅に席を勧める。

 

「お呼びいただき、光栄です、シロッコ大尉。お褒めの言葉も、恐縮です。

ですが、正直なところ、今のシルフィードでは、日増しに戦闘が厳しくなってきております」

 

リリアは、差し出されたノンアルコールのカクテルを一口含みながら、あえて自機の現状を率直に伝えた。

 

「だろうね。君ほどのパイロットが、いつまでもあのような骨董品に乗っているのは惜しい。

……単刀直入に言おう。

君に、私の『目』として本格的に役立ってほしい。より深くティターンズの現状を観察し、そして情報を上げ、私に協力してほしい。

その見返りとして、君には私が設計した君用のモビルスーツを与えよう。

君のその類稀なる能力を、最大限に引き出せる機体をね」

 

シロッコの言葉は、リリアを自らの道具として利用しようという明確な意思表示であり、同時に、彼女が渇望していた「新たな力」の提供を約束するものだった。

 

リリアは一瞬、息を飲んだ。シロッコは、彼女の強化人間としての能力――特に情報収集能力や分析力――を高く評価しているのだろうか。

そして、彼女がティターンズ内部の既存の派閥に属しきれていない「異分子」であることも、彼にとっては都合が良いのかもしれない。

 

そして何より、新型MSの提供は、リリアにとって抗いがたい魅力を持っていた。

ただ、シロッコのことだ。裏の意図があるとリリアが疑うのは当然のことだった。

 

(私の力を買っている、ということですかね。そして、その見返りが、彼の設計した新型MS……。

シルフィードでは限界を感じていた私にとって、これ以上の申し出はありません。

しかしシロッコのことですから、裏で何を企んでいるか、わかったものではありません。

……ただ……危険な取引ですが、これを利用しない手はないかもしれない)

 

「……大尉のお言葉、光栄に存じます。

ですが、現在、私は大尉の指揮系統に属しておりはしません。そのような行動は、非常に危険を伴いますが……」

 

リリアは、あえてリスクを口にすることで、シロッコの本気度を測ろうとした。

 

「ふふ、君ほどの実力者ならば、その程度の危険は乗り越えられるだろう?

例えば、バスクのような男は、力しか理解できない。君が彼以上の『力』を示し、そして私という『後ろ盾』を本格的に得て、さらに『新たな機体』も得れば、彼もそう簡単には手出しできなくなるさ。

それに、君は、今のティターンズのやり方に疑問を感じているのではないかね?

ブレックス准将の暗殺……30バンチでの出来事……君も心を痛めているのだろう?」

 

シロッコの言葉は、リリアの内心を見透かすように鋭かった。

そして、シロッコの内心はともかく、ブレックス准将暗殺や30バンチ事件を持ち出すことで、ティターンズの非道さを改めて印象づけ、リリアの「正義感」に訴えかけようという意図も感じられた。

 

リリアは、シロッコの言葉に、静かに頷いた。

 

「お察しの通りです。私は、ティターンズの全てを肯定しているわけではありません。

ですが、私一人の力では、この巨大な組織を変えることは――」

 

「だからこそ、私と手を組む必要があるのだよ、リリア君」

シロッコは、リリアの言葉を遮るように言った。

 

「私は、ティターンズを、そしてこの地球圏を、より良き方向へ導きたいと考えている。

そのためには、君のような聡明で、力ある協力者が必要なのだ。共に、未来を築こうではないか」

 

シロッコの言葉は、甘美な響きを持っていた。それは、リリアが心の奥底で求めていた「変革」への誘いでもあった。

しかし、リリアは知っていた。彼の言う「未来」が、必ずしも自分の望む「善なる未来」とは限らないことを。

 

(この男は、私を利用するつもりだ。だが、私も彼を利用する。お互いに利用し合う関係。

それでいい。今はまだ、力を蓄える時。

そして、いずれは……この新型MSが、私の求める世界を作るための大きな武器になる)

 

リリアは意思を固め、シロッコの目を見つめ、ゆっくりと答えた。

 

「大尉のお言葉、お受けいたします。私にできることがあれば、喜んで協力させていただきます。その新型機、楽しみにしています。

……ですが、一つだけ条件がございます」

 

「ほう、条件とは?」

 

「私が集める情報、そして大尉から与えられるであろう新たな力は、真に地球圏の秩序を回復し、ティターンズを、今の一部の者たちの私欲と狂気に染まったティターンズではない、本来あるべき姿へと導くために使わせていただきたい。

バスク様のようなやり方では、憎しみしか生まれません。私は、それを変えたいのです」

 

それは、リリアのささやかな抵抗であり、譲れない信念の表明だった。

この男は私の理想を一笑に付すだろうか。リリアはそう思い、シロッコの反応を窺った。

 

シロッコは、リリアのその言葉に、一瞬意外そうな表情を浮かべたが、すぐにいつもの自信に満ちた笑みを浮かべた。

 

「ほう。ティターンズの改革、か。

もちろん、そのつもりだ。私の目的もまた、地球圏の真の平和と安定にある。君のその清廉な理想は、私も共有するところだよ。

新型機についても、君が望むように使うがいい。理想実現のための便宜も図ろう。

君の力が最大限に発揮されることが、結果として私の目的にも繋がるのだからな」

 

その言葉が本心であるかどうかは、無論疑問が残る。

 

しかし、少なくとも現時点では、彼と協力関係を結び、新型機を得ることが最善の策だと、彼女は不安を押し殺しつつ判断した。

 

「……ありがとうございます。それでは、今後ともよろしくお願いいたします、シロッコ大尉。その新型機、期待しております」

 

「君に与える機体は、君のその特異な能力を限界まで引き出すだろう。

だが、それは同時に、君の精神と肉体に多大な負荷を強いることになる。並の人間では、数分と持たぬかもしれん。

君は、それに耐えられるかね?」

 

「望むところです。その力でなければ、私の目的は達成できませんから」

 

リリアは、力強く返答した。

 

「そうか。頼りにしているよ、リリア君。

準備が整い次第、機体を君に与えよう。それまでは、今のシルフィードで、もう少しだけ辛抱してくれたまえ」

 

二人の間に、新たな、そして危険な協力関係が結ばれた瞬間だった。

リリアの胸の中では、新型MSへの期待と、あのシロッコとの関係が深まることへの緊張感が入り混じっていた。

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