宇宙世紀に転生し、自分から強化手術を望んだ異常TS少女の話   作:Xn

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第十一話:窮地、グラナダ

シロッコとの密約から日が経ち、リリアは彼から極秘裏に情報を与えられた。

それは、ティターンズが月のグラナダに対して、大規模な「示威行動」――サイド4の27バンチ廃棄コロニーをグラナダに向けて落下させる――を計画しているというものだった。

 

ジャマイカン・ダニンガン少佐が主導するこの非人道的な作戦は、ティターンズ内部でも一部の者しか知らないはずの事であった。

 

(やはり来たか、コロニー落とし……!ジャマイカンは小役人じみていながらも、やはり腐った男ですね。

そして、シロッコ大尉がこの情報を私に流したということも示すように、彼自身はこの作戦を止めたがっている。

これが、新型機を手に入れるための最初の『仕事』というわけですか)

 

シロッコは、これをリリアにリークすることで、彼女の「忠誠心」と「行動力」を試そうとしているのかもしれない。

そして、もしリリアがこの情報をエゥーゴ側に流すようなことがあれば、それもまた彼にとって都合の良い結果を生むだろう。

 

リリアは、この情報をどう扱うべきか、葛藤した。

原作知識によれば、このコロニー落としは、シロッコ自身の部下であるサラ・ザビアロフの行動もあり、エゥーゴの活躍によって阻止されるはずだ。

 

だが、リリアが介入している事実によって、歴史がどう変わるかは予測できない。

座視して良いものか。

 

(私の信念は「犠牲を最小限に」。この作戦が成功してしまえば、グラナダの多くの人々が犠牲になる。

それは絶対に阻止しなければならない。だが、私が直接介入できるのだろうか……。

それに、シロッコ大尉の真意もまだ読めない……)

 

リリアは、自室で一人、思考を巡らせていた。強化人間としての副作用である頭痛が、ズキズキと彼女を苛む。

 

 

彼女は施策の材料とすべく、シロッコから与えられた情報に加え、ティターンズ内部で入手可能な作戦関連の断片的な情報を繋ぎ合わせていき、作戦の概要と危険性を再確認した。

強化人間としての鋭敏な洞察力と、転生者としての知識は、限られた情報からでも多くのことを読み解くことを可能にしていた。

 

そしてついに、この世界での作戦決行の日時と、コロニーの軌道に関する重要なデータを特定することに成功する。

 

(これだけ情報があればエゥーゴに匿名で警告することは可能だ)

 

彼女の脳裏に、ロザミアの無邪気な笑顔が浮かんだ。そして、30バンチにあるであろうおびただしい数の死体。ブレックス准将の死を伝える通信。シルフィードの限界を感じた先日の戦闘。

 

(私は何のために強化人間になったのか。何のために、このティターンズにいるのか。

ただ成り上がるためだけではないはずだ。世界を良い方向へ導くために!

その信念を、ここで曲げるわけにはいかない。

そして、シロッコ大尉との約束を果たしてやるためにも……この『仕事』は成功させるべきだろう)

 

リリアは情報を外部に流すことを決断した。

これは、彼女の今後の歴史への介入行為の試金石となるだろう。

 

 

助けを求める先として彼女の脳裏に浮かんだのは、かつてデラーズ紛争末期の戦闘で、窮地に陥っていたところをシルフィードで援護し、命を救ったことのある、カノウ曹長の顔だった。

 

彼はその後、職種を変え、ティターンズの情報部に配属されたが、組織の非情なやり方に内心では強い疑問を抱いていることを、リリアは以前の短い会話から察していた。

カノウ曹長は、リリアに対して深い恩義を感じており、彼女の「甘さ」と批判される行動の中に、むしろ人間としての良心を見出し、時折協力していてくれていた数少ない人物の一人だった。

 

(カノウ曹長ならば、あるいは。

時折情報工作のために助けをもらっていたが、しかし、今回のような秘匿レベルが高い情報の流出に彼を巻き込むことは、彼のキャリア、いや命そのものを危険に晒すことになる。

それでも、私には他に手段が思い浮かばない……)

 

 

覚悟を決めたリリアは、カノウ曹長が勤務する情報部の通信施設に、深夜、単独で潜入した。

人の気配のない薄暗い廊下を進み、彼の仮眠室の扉を静かにノックする。

 

しばらくして、眠たげな表情で扉を開けたカノウ曹長は、そこに立つリリアの姿を見て絶句した。

彼女の瞳には、覚悟と、助けを求めるような切実な色が浮かんでいた。

 

「アストレア……中尉……? こんな時間に、一体……」

 

リリアは、周囲を警戒しながら、低い声で事情を説明した。

ジャマイカンによるコロニー落とし計画、その非人道性、そしてそれを阻止したいという自らの意志を。

 

カノウ曹長は、その話を聞き、顔面蒼白になった。

ティターンズの闇の深さを改めて思い知らされると同時に、目の前の少女が、どれほど危険な橋を渡ろうとしているのかを理解したからだ。

 

「中尉、それは危険すぎます。もし発覚すれば……」

 

「分かっています。ですが、見過ごすことはできません。

あなたに、無理強いはしません。

ですが、もし、あなたがティターンズの今のやり方に少しでも疑問を感じているのなら、力を貸していただけないでしょうか。

匿名で、エゥーゴ側に警告を発するだけでいいのです。

私一人では、安全なルートを確保できません」

 

リリアは、カノウ曹長の目を真っ直ぐに見つめて懇願した。

その瞳の奥には、彼への信頼と、そして彼を巻き込むことへの罪悪感が滲んでいた。

 

カノウ曹長は、しばらくの間、葛藤するように唇を噛み締めていた。

しかし、やがて彼は顔を上げ、静かに、しかし力強く頷いた。

 

「……分かりました、中尉。あなたには、命を救われた恩があります。

それに、私も、ティターンズのやり方には、もう我慢ならない。

危険は承知の上です。エゥーゴと繋がりのある、中立コロニーのジャーナリストに、匿名で情報を流すルートを確保しましょう。ただし、これが明るみに出れば、我々は……」

 

「その時は、全ての責任は私が負ってみせます。私が脅したことにしましょう」

 

二人の間には、言葉にならない覚悟が共有された。それは、一瞬の油断も許されない、息詰まるような密約だった。

 

そして、カノウ曹長は、彼の持つ情報部の知識と技術を駆使し、ティターンズの監視網を巧妙にかいくぐりながら、グラナダへのコロニー落としに関する警告情報を、暗号化されたデータとして、反ティターンズ的な報道を行う独立系ジャーナリストへと送信することに成功する。

 

 

 

数日後、宇宙世紀0087年8月。ジャマイカンによるコロニー落とし作戦が実行に移された。

 

しかし、エゥーゴ側は事前に情報を得ており、アーガマとラーディッシュを中心としたMS部隊が、グラナダへの落下コースを阻止するために展開。

エゥーゴの奮闘により、コロニーの軌道は変えられ、グラナダへの直撃は免れた。

 

原作通り、サラ・ザビアロフもまた、アーガマに投降し、情報を提供したという。

リリアのリークもあり疑いながらも準備を進めていたエゥーゴは迅速に動き、結果として悲劇は回避された。

リリアの介入あってか、エゥーゴの人命損失も、史実より少ないものとなった。

 

作戦失敗にジャマイカンは激怒し、情報漏洩の犯人捜しを躍起になって開始した。

ティターンズ内部は一時的に緊張に包まれたが、リリアとカノウの巧妙な工作は成功し、彼女に疑いの目が向けられることはなかった。

 

 

しかし、シロッコは、リリアの行動をどこまで見抜いていたのだろうか。

 

事の顛末を報告した時、彼はリリアに何も言わなかったが、その瞳の奥には、以前にも増して深い興味と、そしてどこか試すような光が宿っていた。

 

(私は、また一つ、渡るべきかも分からない危険な橋を渡ってしまったし、他人に渡らせてもしまった。

だがこれで、少しでいいから、未来が良い方向へ変わったのなら……。

また、シロッコ大尉との関係も、これで新たな段階に入ったのかもしれません。

約束の新型機。それが手に入れば、私の戦いは、また新たな次元へと進むはず……)

 

リリア・アストレアの孤独な戦いは、ティターンズという巨大な組織の闇の中で、さらに複雑な様相を呈し始めていた。

 

彼女がこれからする選択が、この歪んだ世界にどのような波紋を広げていくのか、それはまだ誰にも予測できなかった。




箸休め回です。
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