宇宙世紀に転生し、自分から強化手術を望んだ異常TS少女の話   作:Xn

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第十二話:碧き翼

グラナダへのコロニー落としが阻止されてから、また時間が経過した。

宇宙世紀は0087年も後半に入り、地球圏の情勢はますます混迷を深めていた。

 

リリアは、シロッコとの密約に基づき、ティターンズ内部の情報を収集して彼に報告し、ときに彼からも情報を受け取る日々を送っていた。

その巧妙な立ち回りと、シロッコという後ろ盾の存在は、強硬派からの直接的な圧力を大きく軽減させる効果をもたらしていたものの、依然として彼女の立場は危ういものであった。

 

 

 

そして、ついにその日が訪れた。シロッコから「約束の品」の準備が整ったとの連絡が入ったのだ。

 

(ついにシロッコ大尉の設計した新型MSが!

このスピードを見ると、シロッコは私にMS提供の話を出す前に、もう準備を進めていたのでしょう。

これで、私の戦闘力は飛躍的に向上するはず)

 

警備兵に案内されたのは、ジュピトリス艦内にある、厳重に警備されたドックだった。

そこには、リリアのイメージーカラーとなった碧色に塗装されたばかりの機体が静かに佇んでいた。

 

鋭角的なラインと流麗な曲線が、猛禽類を思わせる獰猛なシルエットを描き出している。

全身に配置された無数のスラスターは、まるで獲物を狙う獣の牙のようにも思え、背部のバインダーは、今にも宇宙へと羽ばたかんとする猛禽の翼そのものだった。

リリアは、そのあまりにも攻撃的で、そしてどこか退廃的な美しさに息を飲んだ。

 

その機体は、リリアがこれまでに見たどのティターンズのMSとも異なっていた。

ベースとなったのは、シロッコが設計した重武装MS「パラス・アテネ」のフレームと思われたが、その面影はあまりない。

 

その姿は、パラス・アテネの重厚さを捨て、過剰なまでの高機動性を追求した、極めてピーキーな設計思想を色濃く反映していた。

 

武装も、標準的なビーム・ライフルとビーム・サーベルに加え、特殊な形状の大型ビーム・ランサーや、強化された背部バインダーに取り付けられたビーム砲など、一撃離脱戦法に向いたものが搭載されているように見えた。

 

「美しいだろう? これが、君のために私が用意した、新たな翼だ。

コードネームは『アストライアー』。

君の名を冠した、君だけのモビルスーツだ」

 

いつの間にか背後に立っていたシロッコが、満足げに言った。その声には、自らの作品に対する絶対的な自信と、リリアへの期待が込められていた。

 

アストライアー。その名は、ギリシャ神話に登場する正義と純潔を司る女神であり、黄金時代が終わり、人類の堕落と共に地上を去った最後の神とも言われている。

そして、「いつか再び地上に正義をもたらすために星々の中に身を隠した」という解釈もなされることがある。

 

彼女にとってそれは、ムラサメ研究所から与えられたその望まぬ名前をスティグマの如く再び刻みつけられる、不愉快なネーミングであった。

 

皮肉にも、強化人間として汚れ仕事にも手を染め、古い秩序の崩壊の中で新たな力を得ようと藻掻くリリア・「アストレア」に、シロッコはその忌むべき名前の古代ギリシア語表現を冠した機体を与えた。

 

あるいは、彼はこの名前に、彼の手先として新たな時代を切り開く「星乙女」の復活という、壮大で歪んだ願望を託したのかもしれない。

 

(重たいMSであるパラス・アテネをベースに、ここまで尖った高機動化を……。

並のパイロットでは、まともに操縦することすら難しいでしょう。だが、今の私なら……)

 

リリアは、その機体に見入っていた。

それは、彼女がこれまで乗ってきたどのMSよりも鋭利で、そして乗り手を選ぶ危険な香りを放っていた。

 

彼女は、この機体が持つ機動性と、その代償としての低い防御力を瞬時に理解した。

そして、なぜか、この無機質な機械の塊から、微かな「呼び声」のようなものを感じ取ってもいた。

 

「このアストライアーは、君の強化人間としての能力――特に高い空間認識能力と反射速度――を最大限に引き出すべく設計されている。

操縦系には、私が独自に開発したバイオセンサー・システムを搭載し、君の思考と機体の動きをよりダイレクトに繋ぐ。

君の反応速度ならば、このじゃじゃ馬も乗りこなせるはずだ。

この機体には、君が戦場でより効率的に立ち回るための、いくつかの『仕掛け』も施してあるからな。」

 

シロッコはそう言うと、得意げに続けた。

 

「……特に、この機体には、特別な装置が備え付けられている。

グラナダ近傍の暗礁宙域で、私がジュピトリスのセンサーで偶然発見した、一年戦争末期のジオンの遺物。それを元に、私が復元・改良を加えた『MSI制御コア』とでも呼ぶべき代物だ。」

 

シロッコは、アストライアーの滑らかな装甲を撫でながら続けた。

 

「ああ、MSIとは、Minovsky Spectrum Interference(ミノフスキー・スペクトラム・インターフェアランス)の略だ。

私が集めた断片的な記録と推測によれば、ジオンはこれを使って高周波ミノフスキー粒子を精密に制御し、敵のセンサーやサイコミュを広範囲に無力化する戦略的なジャミングフィールド、あるいはミノフスキー通信の超長距離・高密度化といった、情報戦における優位性を確立しようとしていたらしい。

この試みは、結局のところ、彼らの技術力の限界を遥かに超えていたようだがね。」

 

彼の説明自体は淡々としていたが、その瞳の奥には、科学者としての側面の探求心と、何かを試すような光が揺らめいていた。

 

「しかし、私はこのコアの残骸に、ジャミング以外の別の可能性も見出した。

この高周波粒子は、人間の脳波、特にニュータイプや強化人間が発するサイコミュ波と極めて高い共振性を示すことが、私の実験データから示唆された。

つまり、このコアは、高周波ミノフスキー粒子を介して、パイロットの精神状態に深く干渉し、その潜在能力を未知の領域へと引き上げる可能性を秘めている。いわば、独自性を持ったサイコミュだ。

特に、君のような……そう、強化人間としての『精神的受容性』と、時折見せる『常軌を逸した情報処理能力』を持つパイロットならば、このコアの真の力を引き出し、我々がまだ見ぬ『何か』を見せてくれるかもしれない」

 

リリアは息を飲んだ。

 

何よりも、シロッコが、原作にない道具を繰り出してきたことがリリアにとって驚きであった。

MSI制御コアとやらは、ジャミング装置でもあり、サイコミュの一種としても捉えられるような、謎の装置だ。

 

「もちろん、これは諸刃の剣だ。君の精神が、このコアの力に耐えられるかどうか、あるいは、このコアが君の精神に何をもたらすのか、私にも予測できない。

だが、君ならば、このじゃじゃ馬を乗りこなし、新たな時代の先駆けとなってくれると信じているよ」

 

シロッコの瞳の奥には、リリアへの期待と共に、彼女を壮大な実験の被検体と見なす冷徹な光、そして自らの手で未知の力を解き放つことへの歪んだ興奮が宿っていた。

 

(バイオセンサーと、このMSI制御コア……。私の思考と機体の動きを繋ぐだけでなく、私の精神そのものに干渉するのか? )

 

リリアは、シロッコの言葉に、期待と同時に、この機体を乗りこなせるかという好奇心、そして、自らがシロッコの壮大な実験の一部に組み込まれようとしていることへの抵抗感を燃やした。

 

「試してみるかね?

君がこのアストライアーを乗りこなせるかどうか……私にも興味がある」

 

シロッコの挑発的な言葉に、リリアは静かに頷いた。そうするしかない。

 

「……喜んで。この翼が、私をどこへ連れて行ってくれるのか、試させていただきます」

 

 

 

アストライアーのコックピットに乗り込むと、リリアはこれまでにない高揚感と、同時に背筋が凍るような緊張感を覚えた。

 

起動シーケンスが開始され、バイオセンサーがリリアの生体情報を読み取り、機体システムとリンクしていく。

 

その瞬間、リリアは鋭敏な一体感に包まれた。シルフィードのサイコミュとは異なる、より直接的で、荒々しい情報フィードバック。

しかし、それは驚くほどリリアの思考に追従し、機体の隅々までが自分の手足のように感じられた。

 

そして、コアユニットが起動した瞬間、脳の奥深くで、遠い昔に聞いたような、あるいは夢の中で体験したような、懐かしくも切ないメロディーが微かに響いた気がした。

それは一瞬のことで、すぐに訓練への集中にかき消された。

 

(すごい、これが、アストライアー!

私の思考に、狂いもなく、そしてシルフィード以上に鋭敏に反応してくる。

この力があれば……!)

 

模擬戦闘訓練で、リリアはアストライアーの性能を存分に試した。その機動性は、まさに異次元だった。

 

スラスターをわずかに吹かしただけのつもりでも、機体は矢のように加速し、急制動や方向転換も、リリアの思考とほぼ同時に行われる。

 

しかし、その反動は凄まじく、強化されたリリアの肉体でさえ、Gに耐えるのがやっとだった。

高速化の代償として防御力には課題が残るため、一瞬の判断ミスが即、ダメージに繋がる。

(とはいえ、装甲材はガンダリウム合金になっているため、シルフィードよりは防弾性は高い。)

まさに、乗り手の技量を要求する機体だった。

 

そして、シロッコが語っていた「仕掛け」とは、機体各所に配置されたMSI制御コアと小型の指向性ジャマーとが連動した高度な電子戦システムであった。

 

これは、敵機のセンサーに対してピンポイントで強力な妨害電波を照射し、一時的に目標のMSをレーダーや各種センサーから「消失」させたり誤動作させ、相手に混乱を生じさせることが可能である。

 

強化人間としてのニュータイプ脳波と高機動戦闘と組み合わせることで、リリアはあたかも自機が消失したかのような錯覚を敵に与え、翻弄することができるだろう。

 

これは、リリアの「犠牲を最小限に」という戦い方をサポートする機能となるはずであった。

 

 

 

アストライアーの受領は、リリアにとって大きな転換点となった。

シロッコの後ろ盾を本格的に得られたことは単なる戦力増強以上の意味を持ち、彼女がティターンズ内部でより大胆な行動を取るための、そして自らの理想を実現するための、強力な手段となる。

 

 

 

そして、宇宙世紀0087年11月、カラバとエゥーゴは大胆な行動に出る。

ティターンズの地球における重要拠点の一つである、アフリカのキリマンジャロ基地を襲撃し、これを陥落させたのだ。

この作戦には、カミーユ・ビダンのΖガンダムや、シャア・アズナブルの百式も参加することとなり、ティターンズは地上における本拠地を失うことになった。

 

(キリマンジャロが……! やはり、エゥーゴはこのタイミングで動いてきましたか。

原作通りの展開ですが、実際にティターンズが地上の一大拠点を失うというのは、影響が大きい。

これでジャミトフ総帥の地球における影響力は確実に削がれる。

そして、ティターンズの戦力は、宇宙にさらに集中せざるを得なくなる。)

 

リリアは唇を噛んだ。本来であれば、アストライアーと共に自分が真っ先に投入されるべき局面だった。

しかし、彼女はキリマンジャロから遠く離れた宙域での、別作戦に従事させられていたのだ。

 

(これも、シロッコ大尉の差配だろう。私という駒を、宇宙という彼の庭に留め、完全に自分の手の中で管理しようとしている……)

 

表向きの理由は、「アストライアーの地上運用データが不足しており、最終調整に時間が必要」という、もっともらしいものだった。

実際、アストライアーは主に宇宙空間での高機動戦闘に向けて作られており、重力下での運用には再調整が必要なのは事実だった。

 

だが、リリアはその調整期間が不自然に引き延ばされ、同時に彼女の部隊がキリマンジャロから意図的に遠ざけられたのではないかと疑っていた。

 

強硬派も、自分たちの息のかかっていないリリアがキリマンジャロという重要な防衛戦で手柄を立てることを快く思わず、このシロッコの判断に異を唱えなかったことが容易に想像できる。

 

ティターンズ内部の派閥対立が、結果的にリリアという強力なカードの一枚を遊兵化させたと考えられた。

 

(おかげで、みすみすキリマンジャロを落とされる結果になった。愚かなことです。

ですが……)

 

リリアは、悔しさと同時に、計算を始めていた。

 

(シロッコ大尉は、ティターンズの地上戦力が消耗することを、むしろ望んでいた可能性があります。

地上はシロッコ以外の力が強く及んでいる領域。そこが弱体化すれば、相対的に宇宙に拠点を置く彼の影響力は増大する。

キリマンジャロの陥落すらも、彼は自らの権力基盤を固めるための計算に入れていたのではないでしょうか?)

 

リリアは思考を続ける。

 

(この敗北の結果として、主戦場は宇宙へと移行する。

そして、ティターンズ内部での主導権を握るのは、宇宙での戦いを制した者になる。

シロッコ大尉、あなたは私を自分の駒として手元に置きたかったのでしょうが、その判断が、あなた自身の首を絞めることになるかもしれませんよ)

 

そこには、新たな好機を見出そうとする必死の思考があった。

 

(シロッコ大尉の掌の上で踊らされ、みすみす歴史の大きな転換点を見過ごしてしまった。

このままでは、私が望む未来を手に入れる前に、全てが手遅れになるかもしれない……!)

 

込み上げてくる焦燥感を無理やり抑え込み、彼女は思考を切り替える。

 

(……いや、この混乱の先にある宇宙での戦いこそが、新たな好機となるはず。利用するのです)

 

彼女は、自らを鼓舞するように、そう結論付けた。その決意は、崖っぷちに立たされた者が放つ執念であった。

 

 

キリマンジャロ陥落の報により、ティターンズの士官たちの間には動揺が広がっていた。

 

そんな折、リリアの元に、ムラサメ研究所に籍を置く、数少ない情報交換が可能な研究員の一人から、個人的な回線を通じた暗号通信が届いた。

その男は、リリアという存在を未だに高く評価する一方で、彼女の「異質さ」を警戒する研究所内の空気をリリアに伝えてくれる、数少ない情報源だった。

 

連絡の内容は短く、しかしリリアの心を激しく揺さぶるには十分だった。

 

『キリマンジャロ基地、陥落。ムラサメから派遣されていた被検体ナンバー4(フォウ・ムラサメ)は、サイコ・ガンダム大破の末、行方不明。公式記録上はMIA(作戦行動中行方不明)扱いとなる。

だが、非公式情報では、彼女は生存し、カラバに保護された可能性が高い。』

 

(フォウ・ムラサメが生き残った?原作では、彼女はここで命を落とすはず。

これは嬉しい誤算だが、一体、何が歴史を変えた……?)

 

リリアは、混乱する思考の中で、通信を送ってきた研究員からの補足情報を読み解き、なんとか状況を理解した。

 

研究者たちは、リリアの持つ特例的な戦闘能力が、その比較的安定した(ように見える)精神状態に支えられていると結論づけた。

彼らは「第二のリリア」を渇望するあまり、フォウに対してはこれまで以上に強力な薬物投与や侵襲性の高い外科的処置を施し、能力の底上げを急いだ。

しかし、その一方で、リリアのケースを参考に、精神が完全に崩壊しては元も子もないと判断もした。

 

そして、被検体の精神状態をモニタリングし、過度な負荷を避けるための「セーフティ」を設けるという、矛盾した調整方針を採ったのだ。

その結果、フォウは過酷な処置に悲鳴を上げながらも、精神的な負荷には一定のリミッターがかけられたまま、キリマンジャロへ派遣されることになったという。

 

研究所のその判断が、結果として彼女が生き残る僅かな隙を生み出したのかもしれない。

全ては偶然の産物。私の行動が意図せずにもたらした、予期せぬ結果だった。

 

しかし、安堵と同時に心配もよぎる。

 

(彼女はカラバに保護された。もう、ティターンズに戻ることはないだろう。人として生きる道を歩めるのなら、それが彼女にとって最良の選択だ。

しかし、エゥーゴやカラバに、強化人間としての彼女を「治療」できるだけの医療技術があるだろうか。彼女はまた別の苦しみを味わうことになるかもしれない。

……確かなことは、もう私のいるこの血塗られた世界で、彼女と再会することはないということ。

それで、いい)

 

フォウの生存は、リリアにとってささやかな救いとなった。

 

しかし、キリマンジャロの戦いでは、ティターンズもエゥーゴもカラバも、多くの兵士が命を落とした。救えた命がある一方で、失われた命はあまりにも多い。

リリアが「善」などというものを追い求めている間に、世界は無慈悲に犠牲を積み重ねていくのであった。




あらためて、独自設定を始めとする当作のタグにご注意ください。

また、リアリティを出せないかと色々考えてみたところ、リリアの歴史介入が現在のところ限定的になっております。
この点につき、どうかご了承願います……!
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