宇宙世紀に転生し、自分から強化手術を望んだ異常TS少女の話   作:Xn

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第十三話:静寂のダカール

宇宙世紀0087年11月。キリマンジャロ基地陥落の衝撃は、ティターンズ内部に大きな動揺をもたらしていた。

ジャミトフ・ハイマン総帥の威信は揺らぎ、強硬派はエゥーゴへの報復を声高に叫んでいたが、具体的な戦果を挙げられずに焦りを募らせていた。

 

一方、パプテマス・シロッコは、この混乱を好機と捉え、ティターンズ内での影響力をさらに拡大しようと画策していた。

 

そしてリリアは、新型MSアストライアーの習熟訓練を重ねながら、シロッコへの情報提供を続けている。

 

アストライアーは、彼女の強化人間としての能力を最大限に引き出し、その戦闘能力を飛躍的に向上させる。

ピーキーな操縦性と引き換えに得られた圧倒的な機動力と、バイオセンサーとMSI制御コアによる機体との一体感は、彼女にとってまさに新たな翼となった。

 

しかし、その力を使うたびに、彼女の精神は強化人間としての副作用と、その力で何を成すべきかという問いに苛まれる。

 

そして、MSI制御コアを起動するたび、脳の奥で鳴り響く幻のメロディー。コックピットからの景色が、見慣れた東京のネオンサインに一瞬変わることもあった。

それは副作用か、それともこの機体が見せる悪夢か。

 

 

 

「アストライアーの調整は順調かね、リリア君?」

 

ドゴス・ギアの艦橋で、シロッコがリリアに声をかけた。

彼の表情は常に冷静沈着だが、その瞳の奥には、リリアへの期待がかすかに窺えた。

 

「はい、大尉。アストライアーは、私の想像を超える機体です。

この力があれば、必ずや『勝利』に貢献できると確信しております」

 

キリマンジャロの戦いに参加させないでおいて抜け抜けとよく言う、と思いながらも、リリアは忠実な部下を演じてシロッコの真意を探る。

 

「うむ。君のその力には期待している。

……さて、ジャミトフ総帥は、キリマンジャロの失態を取り戻すべく、地球連邦議会での影響力拡大を画策しておられると私は推測している。

近々、ダカールで連邦議会総会が開催される。そこが、一つの焦点となるだろう」

 

(ダカール!シロッコも介入しようというのですか。

原作通りなら、あそこでクワトロ・バジーナ……シャア・アズナブルが、世界に向けて演説を行うはず。

ティターンズにとって、屈辱となる出来事。

この演説がティターンズの権威を失墜させることは間違いない。

エゥーゴの理念には共感するが、エゥーゴが正義として世界に認知されることは、私が目指すティターンズの内部改革と浄化にとって、必ずしも好ましい状況ではない。

ティターンズが完全に力を失えば、私の計画も頓挫する。

演説を阻止することが、結果としてティターンズの延命に繋がり、私が内部から変革を行う時間的猶予を生むかもしれない……)

 

リリアは、自身の知識とシロッコの言動から、今後の展開を予測しつつ、自らの行動指針を模索する。

 

ダカール演説は、ティターンズの非道さを世界に知らしめ、エゥーゴの正当性を高める上で決定的な役割を果たす。

それはリリアにとって、それは非常に複雑な意味を持つ出来事だった。

 

 

 

数日後、リリアはシロッコから新たな任務を与えられた。それは、ダカールで開催される連邦議会総会の警備任務、という名目だった。

しかし、その実態は、彼の私兵に近い役割だ。

 

「ダカールには、エゥーゴのシンパが潜伏しているという情報がある。特に、カラバと連携して何らかの行動を起こす可能性が高い。

君には、アストライアーでダカール上空の制空権を確保し、いかなる不測の事態にも対応してもらいたい。

君のその『瞳』で、戦場の全てを記録し、私に報告してくれ。アストライアーが、君に何を見せるのか……楽しみにしているよ」

 

シロッコは、リリアにそう告げた。彼の言葉からは、バスクの指揮系統から独立して行動する意思が明確に感じられた。

 

(ダカール上空の警備。そして、シロッコ大尉からの直接命令。これは、彼が私を完全に自分の駒として使おうとしている証拠。

いずれにせよ、私は私の目的のために動く。この演説のインパクトを可能な限り抑え、ティターンズが致命的なダメージを受けるのを避ける。

それが、今の私に打てる手だろう)

 

リリアは、シロッコの真の狙いを読み解こうとしながらも、この任務が彼女にとって大きなチャンスとなり得ることも理解していた。

 

ダカールの混乱に乗じて、ティターンズ内部の情報をさらに集めることができ、そして「本物のニュータイプ」を間近で再び目の当たりにすることになる。

 

それは、彼女の「偽物」としてのコンプレックスを刺激するだろうが、同時に、彼女自身の成長の糧となる可能性も秘めていた。

 

 

 

宇宙世紀0087年11月。西アフリカのダカール。連邦議会総会が開催される議事堂周辺は、ティターンズの厳重な警備体制が敷かれていた。

 

リリアはアストライアーに乗り、ベースジャバーを駆ってダカール上空を哨戒していた。

アストライアーのバイオセンサーとMSI制御コアは、パイロットの脳波パターンを読み取り、機体制御の最適化を行うと同時に、周囲のパイロットの精神的なプレッシャーや殺気に近いものを限定的に増幅する能力を持っている。

それは、彼女の強化された感覚と相まって、戦場における情報収集能力を飛躍的に高めていた。

 

(この感覚……シルフィードとは比較にならない。

だが、この力はまだ私のものになりきっていない。もっと、同調しなければ……)

 

その時、カラバのMS部隊が、アウドムラを母艦としてダカール市内に突入してきたという情報が入った。

同時に、エゥーゴのMS――カミーユ・ビダンのΖガンダム、そしてSFSに乗ったアムロ・レイのディジェなど――が、高速で飛行し、ダカール上空へと接近してくる。

 

ティターンズ側からは、ジェリド・メサ中尉の駆るバイアランも迎撃に出撃しているようだ。

さらに、アッシマーが可変機構を活かして高高度から戦場を俯瞰し、エゥーゴ・カラバ部隊の動きを警戒していた。

 

 

「来たか……!」

 

リリアの眼前に、カミーユ・ビダンのΖガンダムと、アムロ・レイのディジェが姿を現した。

(カミーユ……そして、アムロ・レイ!

私の目的は、この「本物」二人を足止めし、シャアの議事堂への侵入を阻止すること。

そして、止められなさそうな場合は、アストライアーの電子戦能力で、演説を妨害する……!)

 

彼らから放たれる圧倒的なプレッシャーは、リリアのバイオセンサーを通じて、直接彼女の脳を揺さぶる。

頭痛が、再び彼女を襲う。

 

だが、それ以上に、彼らの存在そのものがリリアの「偽物」としてのコンプレックスを抉り、激しい劣等感と、同時に強烈な闘争心を掻き立てた。

 

「リリア・アストレア、敵機の議事堂への接近を阻止します!」

 

リリアは、感情を押し殺し、アストライアーのレバーを倒した。碧き翼が、ダカールの空を切り裂く。

 

エゥーゴとカラバは、ティターンズの防衛網を突破し、議事堂へと向かおうとしていた。

彼らの目的は、シャア・アズナブルを議会の壇上に送り込み、ティターンズの非道を世界に訴えることだ。

 

「行かせはしません……!」

 

アストライアーは、その圧倒的な機動力でΖガンダムの進路を塞ぐように立ち塞がった。

 

大型ビーム・ランサーが、Ζガンダムの胸部を狙う。アストライアーとの同調が高まったリリアの動きは、一般的な人間の反射速度を超えていた。

それは、まるで未来を予知しているかのような、精密かつ流麗な機動だった。

 

「ティターンズの新型か!? なんて動きだ……!」

 

カミーユは、アストライアーの常軌を逸した動きに驚愕の声を上げる。彼のニュータイプ能力が、アストライアーのパイロットが放つ異様なプレッシャーを感じ取っていた。

 

「邪魔だ! 」とカミーユが叫ぶ。

 

Ζガンダムのビーム・ライフルがアストライアーを捉えようとするが、強化された反射神経でそれを回避。

アストライアーの指向性ジャマーが作動し、Ζガンダムのセンサーが一瞬だけアストライアーの姿を見失う。

 

その隙に、アストライアーはΖガンダムの背後に回り込み、ビーム・ランサーで攻撃。

咄嗟に向けられたΖガンダムのシールドが少し損傷し、カミーユのコックピットが揺れる。

 

まだ知られていないジャミング機能による不意打ちという二度と再現できない方法ではあったが、ニュータイプ相手に、リリアはついに攻撃を当てることに成功した。

 

「くっ! この感覚……強化人間か!? だが、その動き、見切った!」

 

カミーユは、リリアの感覚に強化人間の面影を感じ取り、一瞬動揺する。

 

しかし、すぐに怒りを力に変える。Ζガンダムは、アストライアーのトリッキーな動きに食らいつき、ビーム・サーベルで反撃。

アストライアーのビーム・ランサーとΖガンダムのビーム・サーベルが激しく交錯し、高熱の火花が空中に散る。

 

Ζガンダムは、ウェイブライダー形態に変形する暇もなく、MS形態のままアストライアーに格闘戦を挑む。その動きは鋭く、予測不能だった。

 

一方、シャアを降ろしたのか、アムロのディジェが戦闘に参加してきた。

アムロは、冷静に戦況を見極め、的確な射撃と熟練の動きで、アストライアーの動きを牽制し、カミーユを援護する。

その動きには無駄がなく、リリアはカミーユに感じる以上の圧迫感を覚えた。

 

ディジェのビーム・ライフルが、アストライアーの回避コースを塞ぐように放たれ、リリアは強引な機動でそれを回避。

しかし、その隙にコースを読んで上から急接近してきたディジェのビーム・ナギナタが、アストライアーの左肩部を浅く切り裂く。

 

(アムロ・レイ!なんという技量だ……

しかもこの連携、さすが本物のニュータイプ)

 

アムロのディジェの動きには、一切の無駄がない。教科書のように洗練され、しかしその一手一手はリリアの思考の数歩先を読んでいる。まるで、巨大な蜘蛛の巣に絡め取られていくようだ。

放たれるビーム・ライフルは、彼女の回避コースを予測し、確実に退路を断ってくる。

これが、戦場を生き抜いた英雄の「経験」と「技術」。

 

対して、カミーユのΖガンダムは荒々しい。

だが、その一撃一撃が、ニュータイプの直感によって恐ろしいほどの精度で私を捉えようとする。

 

熟練の技術と、荒削りな才能。

二つの異なる「本物」のプレッシャーが、アストライアーの装甲を、そしてリリアの心を同時に削り取っていく。

 

そして、ディジェのビーム・ライフルが、アストライアーを狙う。リリアはそれをかろうじて回避したが、ビームは至近を飛んでいたアッシマーに直撃。

その爆風でアストライアーの機体が大きく揺れる。

 

高性能機に乗っているとは言え、二人の連携攻撃の前にリリアはさすがに防戦一方とならざるを得なかった。

 

「これでは、演説を止められなさそうですね……」

 

そうつぶやき、彼女はアムロとカミーユの前から離脱することにした。戦いを続けても、死が刻一刻と迫るだけだ。

 

今回の彼女の第一目標は、彼らを倒すことではない。この機体で成せる他のことがある。

 

 

 

その間にも、地上ではシャア・アズナブルが、ベルトーチカと共に着実に議事堂へと近づいていた。

 

そして、シャアが議事堂の壇上に到達し、ティターンズの非道と地球環境の疲弊を訴える演説を開始しようとしたその瞬間。

MSI制御コアの力も借りてタイミングを察したリリアが、アストライアーの高度な電子戦システムを最大限に活用し始めた。

 

そして、ダカール周辺の放送電波に対して、強力な指向性ジャミングを照射する。

アストライアーの機体に配置されたジャマーとMSI制御コアが、高周波ミノフスキー粒子と電磁波の嵐を一点に集中させ、演説の全世界への同時中継を試みる通信機器を麻痺させようとする。

光ファイバーへの介入こそ難しいが、機械にエラーを起こさせることなら可能だった。

 

それに加えて、エゥーゴからの攻撃を回避しつつ、ティターンズの議事堂への無理な攻撃をリリアは制止し続けた。

シャアの演説の説得力を少しでも低下させたかったのもあるし、何より、ティターンズの「義」をここで完全喪失するわけにはいかなかった。

 

具体的には、リリアは、シロッコの協力のもと得た麾下のMS部隊に対し、「エゥーゴ及びカラバの暴走からダカール市民を守れ」という、歪んだ、しかし大義名分として成り立つ指示を下していた。

 

リリア派のMS部隊は、市街地で無差別に戦闘を行おうとする一部のティターンズ過激派とエゥーゴとの間に割って入り、意図的に戦闘を膠着させ、被害の拡大を抑制した。

 

それには、アストライアーのジャミング能力も活用された。

 

ジェリド・メサは、バイアランの機首を議事堂(の通信設備)へと向け、演説を物理的に阻止せんと強引な機動を開始していたが、上空で展開していたリリアのアストライアーが牽制のために一時的に放った指向性の強いジャミングを受け、バイアランのシステムが一時的なエラーを引き起こさせた。

その僅かな混乱の隙を突くように、アムロが遠距離攻撃を行い、激しい戦闘が発生する。

 

 

この一連の出来事の結果として、シャアの演説は、議事堂内にいる議員たちには辛うじて届くものの、全世界への放送は機器の「不調」によってほぼ行われず、かろうじて送られた音声や映像も著しく乱れているという事態に陥った。

また、議会に対しての攻撃が行われることもなかった。

 

演説の内容そのもののインパクトはあった。

ティターンズの非道と地球圏の現状を告発する、ジオンの遺志を継ぐ「シャア・アズナブル」の言葉は、議事堂内の議員たちに少なからぬ衝撃を与えた。

 

しかし、リリアのジャミングによって、その衝撃は全世界的な規模に広がることは阻止され、ティターンズが裏工作も含めた情報戦を行う余地が残されていた。

 

後にティターンズは、この時のリリアの部隊の映像を巧みに編集し、「我々は、テロリストによる議会占拠と、それに呼応した暴徒から、ダカールの平和を死守した」というプロパガンダを流布することになる。

この情報操作は、ティターンズの仲間割れの悪印象を軽減し、そして連邦軍内部の多くの将兵にティターンズの正当性を再認識させる上で、無視できない効果を発揮した。

 

これにより、ティターンズの権威失墜は致命的なものにはならず、またリリアの連邦とティターンズ内部での名声獲得にも有効に作用した。

 

 

 

リリアは、ティターンズとエゥーゴの戦いを上空から見つめていた。

 

演説の妨害こそ概ね成功したものの、シャアを議事堂に到達させてしまったという事実、そして「本物の英雄」たちに圧倒されたという無力感が、彼女の心を重く締め付けていた。

 

(シャア・アズナブルの演説……その影響を完全に消すことはできなかった。だが、少なくとも、全世界に彼の言葉が届くことは阻止できた。

カミーユ・ビダン、アムロ・レイ。彼のような本物がいる限り、私の「偽物」の力では。この程度が今の私にできる精一杯。

そういえば、かつて作中でアムロが言っていた。MS戦では「後ろにも目をつけるんだ」と。

MSに乗って改めて思うが、戦闘中に前にも後ろにも同時に気を配るなど、強化人間になっても難しい……。

やはり彼は異常だ)

 

リリアは、自嘲気味に唇の端を歪めた。カミーユ・ビダンだけでなく、アムロ・レイという戦士の存在も、彼女にとってあまりにも巨大な壁である。

 

だが、再び本物のニュータイプと接したことで、彼女の感応力と戦闘力が磨かれたことも事実ではあった。

 

 

 

ダカール演説は、リリアに自らの信念とティターンズという組織への関わり方について、改めて深く考えさせられる出来事となった。

 

ダカールでは、ティターンズの兵士の中にも、シャアの言葉やエゥーゴの行動に、少なからず動揺を見せる者がいた。

そして、ティターンズの暴走を諌めようとした者がいたという情報も、やはりある。

組織の末端では、既に亀裂が生じ始めている。

それは、リリアにとって利用できる隙となるはずである。

 

 

 

宇宙に戻ったリリアは、ジュピトリスのシロッコの私室で、ダカールでの戦闘状況とシャアの演説について報告していた。

 

彼女の報告には、アストライアーのセンサーが記録した客観的なデータに加え、彼女自身の鋭い分析と、時折未来を予見したかのような的確な行動が滲んでいた。

特に、シャアの演説に対して通信妨害をすぐに試みたという報告は、シロッコに強い印象を与えた。

 

シロッコは、黙ってリリアの報告を聞いていたが、その瞳の奥には、探るような光が宿っている。

 

「……リリア君、君の報告はいつも興味深い。特に、今回のダカールでの判断は見事だったな」

 

シロッコは、芝居がかった口調で続ける。

 

「まるで、シャア・アズナブルがどのタイミングで舞台に上がるか、あらかじめ脚本を読んでいたかのようだ。

その『予見』は、君の強化された感性が見せるものなのか、実に興味深いな」

 

シロッコの視線は、楽しげに、そして冷ややかに彼女の魂の奥底を探っている。

 

(見抜かれている?いや、試されている)

 

リリアは、背筋を流れる冷たい汗を感じながら、必死で表情を取り繕った。

 

「……私の強化された感覚が、通常では捉えられない微細な情報――例えば、敵パイロットの僅かな感情の揺らぎ等――を捉え、それを元に状況を再構築しているのかもしれません。

あるいは、アストライアーが、私の潜在能力を未知の形で引き出している可能性も。

演説のジャミングについては、通信設備を事前に分析し、アストライアーの電子戦能力を最大限に活用した結果です」

 

彼女は、動揺を隠し、冷静を装って答えた。

 

シロッコは、それ以上追及はしなかったが、彼の瞳の奥の疑念の色が完全に消えたようには見えない。

彼は、リリアという存在の底知れなさに、改めて興味と警戒を抱き始めていた。

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