宇宙世紀に転生し、自分から強化手術を望んだ異常TS少女の話   作:Xn

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第十五話:権謀のゼダンの門

宇宙世紀0088年1月。グリプス戦役は最終局面に差し掛かろうとしていた。

ティターンズ、エゥーゴ、そしてアクシズ。三つの勢力は互いに牽制し合い、地球圏の覇権を巡る最後の戦いへと突き進んでいる。

 

リリア・アストレアは、バスク・オムによる「修正」という名の暴行と、その後のシロッコの介入を経て、ティターンズ内部での立場を相変わらず危ういものとしながらも、同時に新たな覚悟を固めていた。

 

アストライアーとリリアは、いつしかティターンズの「碧き死神」、そして跳ねっ返りとして、味方だけならず敵からもその名を認識される存在となっていた。

特にエゥーゴの諜報網は、規律を重んじると噂されるティターンズ内の独自集団と、その中心にいる謎多き強化人間の少女の存在を掴んでいた。

 

彼女の周囲には、ティターンズの現状に疑問を抱き、リリアの行動に共感する者たちが集まり始めていたのだ。

彼らは、リリアにとって貴重な情報源であり、来るべき「改革」のための布石となり得る存在であった。

 

 

 

そんな中、ティターンズが使用する宇宙要塞「ゼダンの門」(旧ア・バオア・クー)において、ジャミトフ・ハイマン総帥とアクシズのハマーン・カーンによる頂上会談が行われることになった。

表向きはティターンズとアクシズの同盟関係の模索と、対エゥーゴ戦略の協議とされていたが、その実態は、互いの腹を探り合う、緊張感に満ちたものになるだろう。

 

リリアは、シロッコの命令により、この会談が行われるゼダンの門周辺宙域の「警備」という名目で、アストライアーと共に展開することになっていた。

 

「リリア君、ゼダンの門での会談は、我々にとって重要な意味を持つことになるだろう。

何が起きても冷静に対処し、私に正確な情報を上げるのだ。君のその『目』が頼りだ」

 

シロッコは白々しくそう告げていた。

 

(このタイミングで、しかもゼダンの門で、初の公式会談ですか。

おおかた、ティターンズの軍事力が原作よりも強く残っているから、アクシズがティターンズを相当警戒していたのでしょう。

……会談は決裂する可能性が非常に高い。

そして、戦力を保てているこの世界のティターンズが、わざわざ「ジオン残党」などと組むことにはメリットが少ないので、今後の会談もまず無い。

もはや原作知識が役に立つかは分からないけれど、この状況に至っては今後の機会も望めないだろうし、この辺りでシロッコがジャミトフ暗殺へ向けて動き出してもおかしくはない。

そして、ハマーンもまた、ジャミトフを排除しようと動くでしょう。

エゥーゴの介入も想定せねば……。

三つ巴の策謀が渦巻く場所。私は、この混乱の中で、何をすべきか。

ジャミトフを失脚させ、シロッコに実権を握らせることは、新たな独裁者を生むだけだろう……)

 

リリアは、思考を巡らせる。

 

 

 

会談当日、ゼダンの門周辺は、ティターンズとアクシズの艦隊が睨み合い、異様な緊張感に包まれていた。

 

そして、その緊張は、突如として破られる。

 

ハマーン・カーンが、ジャミトフとの交渉決裂を理由に、会談場所であるゼダンの門内部でジャミトフ暗殺を試みたのだ。

しかし、これは失敗に終わる。

 

ハマーンはゼダンの門から脱出を行いつつあった。そして、アクシズに頼まれたのであろうエゥーゴの部隊も介入を始めていた。

 

「やはり、動き出したか……!」

 

リリアは、ゼダンの門からの緊急通信を傍受し、即座に状況を把握した。

 

(ハマーンのジャミトフ暗殺は失敗したようです。でも、これで戦端は開かれた。

護衛のジェリド中尉が奮戦しているようですが、私にとっては些事。

シロッコ大尉は……どこにいる……? )

 

その時、アストライアーのセンサーは、ゼダンの門内部から急速に外に出てくる複数のMSの気配を捉えた。その中には、シロッコが搭乗していると思われる、未確認の新型MSの反応も含まれていた。

 

(来た! シロッコ大尉が直々に出ているとは、この混乱に乗じてジャミトフを謀殺する恐れがある……!)

 

彼女は、ジャミトフを自らの手中に収めることを目的と決めていた。

ジャミトフの失権までは認めるが、その命が損なわれては彼女の計画に差し支える。

 

ジャミトフの失権の混乱の中で、ティターンズ内部の良識派や、自分に同調する者たちをまとめ上げ、新たな勢力を形成するための布石を打つ。

それがリリアの望みであ合った。

 

そのために、こうなる前、彼女はあらかじめ、極秘裏に信頼できる部下――彼女のティターンズ改革への意志に共感し、忠誠を誓ってくれた者たち――に、短く指示を与えていた。

 

「会談場所周辺で待機し、私の合図、あるいは会談の決裂や外部からの攻撃といった『非常事態』を察知次第、何をおいてもジャミトフ総帥の身柄を確保し、安全な場所へ退避させよ。

場合によっては、指定した外部拠点へ脱出させよ。

抵抗する者は排除もやむを得ない。

成功の暁には、ティターンズの新たな未来が開かれる」と。

 

それは、シロッコの目を欺き、彼の計画を出し抜くための、危険な賭けだった。

このおかげで、シロッコの関与は不明だが、リリアの手の者はどうやらジャミトフを生き延びさせられたようだ。

 

そして、戦闘は原作よりも激しいものとなり、ジャミトフもシャトルで一時脱出することを決意したようであった。

無論、リリアの手の者による恣意的な説得もあったのだろう。

 

リリアは、アストライアーを、ジャミトフが使うはずの、敵があまり展開していないシャトルの出入り口へと向かわせる。

 

 

ゼダンの門周辺では、ティターンズ、アクシズ、エゥーゴのMSが入り乱れる大混戦が発生していた。爆炎と閃光が通路を照らし、ビームが壁を穿つ。

 

リリアのアストライアーは、その圧倒的な機動力と、ジャマーを駆使して、敵味方の識別すら困難な戦場を駆け抜ける。

彼女の強化された空間認識能力と反射神経が、この混沌とした状況下で真価を発揮していた。

 

(シロッコ大尉の機体は……あそこか!)

 

彼女の能力が、強力なプレッシャーを放つ機影を捉えた。それは、パプテマス・シロッコの専用機として開発された、ジ・O(ジオ)だった。

その巨体と、禍々しいオーラは、リリアに強烈な印象を与えた。

そして、彼女の限定的なニュータイプ能力でも、彼がやはり何かを企んでいることを察することが出来た。

 

ジ・Oは、ジャミトフが戦地となったゼダンの門から脱出しようとして乗ったシャトルへと向かっている。

 

シャトルには、ジャミトフ総帥と共に、リリアが事前に送り込んでいた腹心たちが、総帥の「介助」という名目で同乗している。

彼らの現在の任務は、シャトルの航路をリリアが指示した連邦管轄の宙域へと誘導すること。

 

(間に合わせなければ……!)

 

リリアのアストライアーは、デブリや味方のMSを巧みにかわしながら、ジ・Oへと急速に接近する。

 

「シロッコ大尉! お待ちください!」

 

リリアは、専用回線でシロッコに呼びかける。

 

「……リリアか。何のようだ?」

 

ジ・Oのコックピットから、シロッコの冷静な声が返ってきた。彼は、リリアの接近に気づいていたが、特に警戒する様子はない。

だが、その声には、リリアの意図を見透かしたような冷ややかな響きがあった。

 

「ジャミトフ総帥を殺害……いや、『流れ弾』による犠牲にするおつもりですね?」

 

「さて、どうだろうな。

……だが、彼がこれ以上ティターンズを率いることは、地球圏にとって不幸でしかない。そうは思わないかね?」

 

シロッコの言葉は、その目的を暗に肯定していた。

 

「総帥を排除することには、私も異論はありません。

ですが、その手法には一考の余地があります。

総帥を政治的に失脚させる方が、ティターンズの浄化のためには、より効果的かと存じます。

その方が、大尉がティターンズの新たな指導者として立つ際にも、暗殺が発覚するような余計なリスクを抱える必要がなくなるはずです。

総帥にはしばらく一線から遠ざかっていただきましょう」

 

リリアは、シロッコの野心に訴えかける形で、自らの提案を述べた。

 

シロッコは、リリアのその言葉に、一瞬だけ動きを止めた。

ジ・Oのモノアイが、リリアのアストライアーをじっと見つめているように見えた。

その視線は、まるでリリアの魂の奥底まで見透かそうとするかのように鋭く思えた。

 

「……ほう、面白いことを考える。君は、私がティターンズの指導者になることを望んでいるとでも?」

 

白々しい言葉であった。

 

すでに、二人の間には、協力関係という仮面の下で目に見えない火花が散っていた。

 

「私は、ティターンズが真に地球圏の守護者となることを望んでいます。

そのためには、今の腐敗した体制を変革し、新たな指導者の下で再編される必要があると考えています。

そして、その指導者として、シロッコ大尉ほど相応しい方はいないと、私は信じております。

しかし、そのやり方については、熟慮が必要かと」

 

リリアは冷静に答えた。もっとも、彼女はシロッコに媚びたことは言っても、完全に服従するつもりはなかった。

あくまでも、利用し合う関係として、しばらく彼と渡り合っていく覚悟だった。

 

しばらくの沈黙の後、シロッコは低く、しかしどこか楽しげな声で笑う。

 

「……面白い。実に面白い女だ、リリア・アストレア。」

 

彼の言葉は、そう笑いながらも、同時に全てを計算し尽くしたつもりであるかのような静けさを持っている。

 

ジ・Oのコックピットで、シロッコは思考を巡らせていた。

彼の鋭敏な感覚は、目の前の少女から放たれるプレッシャーの異質さを捉えていた。

 

(この小娘から感じられる感覚の奥には、私への服従とは異なる、別の光が揺らめいている。

ジャミトフを生かすという提案……まさか、あの老獪な古狐を、自らの手駒にできるとでも考えているのか?

ふっ、ありえんな。子供の浅知恵だ)

 

シロッコは、リリアの底知れなさと、常識の枠に収まらない発想に、彼はある種の愉悦を感じていた。

ここで彼女の提案を退け、ジャミトフを排除するのは簡単だ。だが、それではあまりに芸がない。

 

それに、リリアという存在そのものへ、天才故に持った好奇心が彼を惹きつけていた。

 

これまでも、彼女の「活躍」によって、シロッコが想定したよりも遥かに多くの戦力がティターンズに残っており、リリアは彼の役に立っていた。

 

この異質な強化人間が、この状況からどのような手を打つのか。

その過程を間近で観察したいという欲求が生まれ、それが彼の判断に影響した。

 

(まあいい。万が一、リリアが私の想定を超える動きを見せたとしても、最終的に全ては私の掌の上で収束する。

この小鳥がどれだけ羽ばたこうとも、私の作る鳥籠から逃れることはできん。

むしろ、少し自由に飛ばせた方が、より面白い見世物が見れるというものだ)

 

すでに打ってある布石と、何よりも絶対的な自信。それこそが、シロッコがリリアの危険な提案を、一種の「遊び」として受け入れた最大の理由だった。

彼は、このゲームの支配者が自分であることを、微塵も疑っていなかった。

 

「いいだろう、君のその小賢しい提案に乗ってやろう。

だが、もしこれが君の浅知恵にすぎず、私の計画の邪魔をするようなことがあれば……その時は、分かっているな?」

 

声の甘美な響きとは裏腹に、それは明確な脅迫だった。

シロッコは、リリアの能力を認めつつも、決して彼女を対等なパートナーとは見ていない。

あくまでも、使える部下、あるいは危険な小動物として、自らの欲望のためにその手綱を握っているつもりなのだ。

 

「光栄です、大尉。必ずや、ご期待に沿えるよう尽力いたします」

 

リリアは、内心の緊張を押し殺して答えた。

 

その直後、ジャミトフの脱出シャトルが加速を始める。

アクシズ側のガザCは、それを追撃する素振りをときおり見せたが、アストライアーがそのたび巧みに撃墜し、シャトルは辛うじて戦域を離脱することができた。

 

 

 

このゼダンの門の攻防は、多くの犠牲者を出すこととなった。

そして、ジャミトフ・ハイマンは会談で負傷し、シャトルで辛くも脱出する。

無論彼は権力を維持しようと抵抗を試みたが、その動きはシロッコの策略の前に封じ込められた。

 

シロッコはこの機を逃さず、積み重ねてきた工作を一気に結実させる。

まず「総帥は重傷であり、療養に専念すべき」との公式見解を流布し、ジャミトフを指揮系統から合法的に切り離す大義名分を確保。

この情報操作が効果を発揮したのは、リリアの部下による「保護」という名の物理的な隔離が、ジャミトフ本人からの反論を不可能にしていたからに他ならない。

 

その結果、ジャミトフは多くの支持者を残しながらも政治的に幽閉され、表舞台から追いやられることとなった。

その支持者には強硬派を疎む者も少なくなかったとはいえ、ジャミトフがバスク派との連携を断たれたことは特に致命的であった。

 

無論、アクシズとエゥーゴは、この混乱に乗じてティターンズの戦力を割ごうと活動した。

ただ、ゼダンの門にアクシズを衝突させ、破壊するという原作であったような展開は発生しなかったようであった。

 

なにせ、目の前のティターンズは強力だった。

リリアという存在の介入によって戦力の脱退と消耗を抑制されたティターンズは、指揮系統に混乱をきたしながらも、依然として地球圏最強の軍事力を保持していた。

 

ここでアクシズをぶつけてゼダンの門を破壊したとしても、その後の戦闘で、復讐に勢いづいたティターンズ残存艦隊から受けるであろう反撃は計り知れない。

なにより、ティターンズは依然としてコロニーレーザーを保有し、その防衛戦力も十分に割いている。下手な動きを取れば、コロニーレーザーによる妨害が行われることが想定され、作戦が成功する保証はない。

 

自軍の拠点たるアクシズそのものを危険に晒し、多大な犠牲を払ってまで今この場でゼダンの門と刺し違えるのは、その後の覇権を狙う彼女にとって、割に合わない賭けであった。

 

原作の歴史においてティターンズが急速に衰退した一因は、この拠点とそれに付随する戦力の損失にもあった。

しかし、この世界線のティターンズは、ゼダンの門という宇宙要塞を保持し続けたのだ。

 

しかし、ティターンズの戦力がダメージを受けたことは事実であり、これにより、アクシズの地球圏における影響力は高まることとなった。

 

そして、パプテマス・シロッコは、ジャミトフが失脚したティターンズにおいて、その実権を着実に掌握し始める。

リリア・アストレアの「助言」と行動が、彼の野心にどのような影響を与えたのか、そしてジャミトフの生存が今後のパワーバランスにどう作用するのか、それはまだ定かではない。

しかし、彼女の行動が、原作の歴史の流れを、少しずつ、しかし確実に変え始めていることも間違いなかった。

 

(ジャミトフを生き延びさせることに、成功した。

私の部下たちが、あの混乱の中で見事に彼を「保護」してくれているはずです。

彼は、私にとって、利用価値のあるカードになる。

ティターンズの混乱はまだ始まったばかり。残されたバスク派、シロッコ派、そして、私が築き上げつつある、新たな勢力。

これからが、本当の戦いです)

 

リリアは、自らが踏み入れてしまった修羅の道を、改めて見据えていた。

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