宇宙世紀に転生し、自分から強化手術を望んだ異常TS少女の話 作:Xn
コロニーレーザーは沈黙した。
これはシロッコ派にとっては最大の切り札を失ったことを意味し、エゥーゴとリリア派にとっては、勝利への大きな一歩となった。
しかし、戦いの狂騒はまだ終わらない。むしろ、それぞれの野望と憎悪が剥き出しになり、より熾烈な最終局面へと突入していく。
パプテマス・シロッコは、リリア、そしてエゥーゴの攻撃を受けて損傷したジ・Oの応急修理を行うため、一時的にジュピトリスへと帰艦していた。
シロッコ派は優勢であり、その余裕があった。
彼の額からはかすかに汗が流れていたが、その瞳はリリア、エゥーゴ、そしてアクシズへの底知れぬ怒りと、なお潰えぬ野望の炎で輝いていた。
「この私を、よくもコケにしてくれる。だが、これで終わりと思ってもらっては困るな」
モニターに映る乱戦を眺めながら、彼は不敵に呟く。
「フン……ここで奴らを泳がせ、互いに潰し合わせるのも一興か。
私はジ・Oを万全の状態に戻し、最後に生き残った者の首を狩ればいい。
勝利の果実は、最も熟した時に味わうものだ」
ジュピトリスのブリッジでシロッコは、応急修理を急がせながらも戦況を冷静に分析し、次の一手を練る。
その判断は、戦術家としての冷徹さと、それをゲームとして楽しむ天才の傲慢さに満ちていた。
彼にとっては歯がゆい時間だが、アクシズ、エゥーゴ、リリア派が潰し合うこの状況自体は、好都合でもあった。
一方、リリアのアストライアーは、右腕を失っていながらも、まだ戦闘行動は可能であり、戦場へと舞い戻っていた。
コロニーレーザーを破壊したという達成感よりも、シロッコという最大の脅威がまだ健在であることへの焦燥感が彼女を駆り立てる。
(シロッコは一時的に退いたようだ。だが、必ず戻ってくる。
その前に、少しでも戦力を削ぎ、そして……私自身も、この戦いを生き延びなければ)
リリアは、最後の調整薬を自らに投与し、朦朧とする意識の中で、アストライアーのセンサーを周囲の敵影へと向けた。
強化人間としての感覚が、戦場に渦巻く殺気と、兵士たちの断末魔の叫びを拾い上げ、彼女の精神をギリギリの状態に追い込んでいく。
その時、カミーユ・ビダンのΖガンダムが、リリアのアストライアーの前にゆっくりと接近してきた。
その動きからは、先程までの敵意が薄れたことが感じられる。しかし。
「リリア・アストレア!」
カミーユの叫びが通信回線に響く。Ζガンダムは、リリアへの警戒(あるいは心配)を完全には解いていない。
「お前は、まだ戦うつもりか。……その身体から、死者を感じる。
その力は、その悲しみは、お前をどこに連れていくつもりなんだ!」
「カミーユ、やめないか」
シャアが制止する。だが、その百式のメインカメラは、カミーユではなく、満身創痍のアストライアーを値踏みするようにじっと見つめていた。
(このプレッシャー、やはり強化人間のそれを感じる。だが、同時にこれまでの誰とも違う。
シロッコに近い、強固な自我と野心。いや、それだけではない、何か……)
シャアは、リリアという存在に、理解できない異質さと、それ故の危険性、そして同時に、利用価値のある可能性を感じ取っていた。
「リリア・アストレア大尉。君の行動でコロニーレーザーの脅威は消えた。
その点については評価しよう。だが、カミーユの懸念ももっともだ。
シロッコ亡き後、君が率いる新生ティターンズの『力』が、我々の新たな敵とならないと、どうして言える?」
シャアの声は、リリアの覚悟を試す、最後の問いだった。
その声には、リリアをシロッコと同類の危険な存在と見なす、冷ややかな響きがあった。
(……試されている。このシャア・アズナブルという複雑な男は、私という存在を天秤にかけている。
だが、彼もまた合理的を持った人間のはず。この状況で潰し合いを演じることの愚を理解していないはずがない。
彼らが求めるのは、私の覚悟と、未来への担保。
私の理想は、本来エゥーゴにも通ずるもの。それを示せば……!)
リリアは、二人のニュータイプからの強烈なプレッシャーを肌で感じながら、覚悟を決めた。
「クワトロ大尉。私の目的は、ティターンズの再編と、地球圏の恒久的な平和です。そのためには、スペースノイドとの融和が不可欠だと考えています。」
そこで一度言葉を切ると、リリアはシャアだけでなく、カミーユのΖガンダムにも語りかけるように続けた。
「ですが、ティターンズは、連邦というシステム……いや、宇宙世紀が生んだ必然の膿です。
この組織をただ潰しても、病んだ母体が変わらぬ限り、いずれ新たな『絶望』が、より歪んだ形で生まれて世界を荒らすだけでしょう」
その言葉は、後の宇宙世紀を知る転生者として、そしてティターンズという組織の矛盾を内側から見てきた者としての、重い真実であった。
「だからこそ私は、この巨大な『力』そのものを内側から掌握し、その体質ごと変える道を選んだのです。
シロッコのような独断も、バスクのような弾圧も、私は決して認めない。この戦いが終わった後、ティターンズはエゥーゴとの対話の席に確実に着く。
それを、このリリア・アストレアの名において約束しましょう」
それは、彼女ができる譲歩であり、同時に未来への誓いだった。
カミーユは、その言葉に嘘がないだろうことを直感で感じ取った。そして、彼女の奥にある、覚悟も。
シャアも、その覚悟を認めた上で交渉のカードを切る。
「……いいだろう。その言葉を信じるに値するかは、君の働きで見せてもらう。リリア大尉、今はシロッコを討つのが先決だ。我々と共同歩調をとれ。
ここで戦力をすり潰すのは、ハマーンと奴を喜ばせるだけだからな」
今度こそ、それは明確な共闘の申し出だった。
「……分かりました、クワトロ大尉。一時的にですが、あなたたちと協力いたします」
「カミーユ、聞こえたな。今はシロッコを討つのが先決だ」
「分かりました」
カミーユは、まだ完全には納得しきれない表情ながらも、Ζガンダムの警戒を解いた。
こうして、リリアのアストライアー、カミーユのΖガンダム、シャアの百式という、本来ならば敵同士であるはずの三機のMSが、打倒シロッコという共通の目的のために、一時的な共闘関係を結ぶことになる。
同時に、リリア派とエゥーゴの艦隊に連絡し、無用な消耗を避けるように指示もなされた。
そうして休戦し、合同で戦闘を行っていた三機の前に、新たな脅威が立ちはだかる。
それは戦場の混乱に乗じる、ヤザン・ゲーブルが駆るハンブラビだった。
彼はシロッコ側に付き、新たな獲物を求めていた。
そして彼の背後からは、シロッコ派のマラサイたちが支援砲火を行い、包囲網を形成しようとしている。
ヤザンは独りごつ。
「まだ骨のある奴らがうろついているみたいじゃねえか」
ヤザンの獰猛な目が、三機のMSを捉える。その言葉には、戦闘への渇望が滲んでいた。
ハンブラビはMA形態で急加速し、彼の指揮下にあるマラサイ部隊が巧みな連携で三機の進路を塞ぐように展開、厚い弾幕を形成する。
「ちっ、統制が取れている!」
シャアが舌打ちする。
ヤザンは、その弾幕の死角を縫うように、まるで戦場の指揮者のようにハンブラビを操り、三機の連携を的確に分断していく。
まず、海ヘビが鞭のようにしなり、Ζガンダムの腕部を狙う。カミーユはそれをビーム・サーベルで的確に切断しようとするが、その対応に集中した一瞬、マラサイのビームが回避後のΖガンダムの軌道を予測して放たれ、至近を掠める。
「邪魔を……しないでください……!」
リリアのアストライアーがビーム・ライフルでハンブラビの進路を塞ごうとするが、ヤザンはその射線を読むと、絶妙なタイミングで回避し、その射線を別のマラサイへと誘導する。
リリアのビームはマラサイがシールドでなんとか受け止め、ヤザン本体には届かない。
ヤザン隊の反撃がアストライアーに迫る。
だがその直後、アストライアーの機体が、まるで物理法則を無視したかのように動いた。
メインスラスターを吹かさず、機体各所に配置された無数の補助バーニアを、コンマ数秒単位で断続的に噴射させる。それは、三次元的な回避機動だった。
パイロットに掛かるG負荷は凄まじく、普通の人間ならば一瞬で意識を失うかであろう動きだ。
「なっ……! なんだ、あの動きは!?」
ヤザン隊のマラサイパイロットの一人が、そのありえない挙動に驚愕の声を上げる。
アストライアーは、彼らの予測射撃のパターンを完全に外れた軌道で弾幕をすり抜けていく。
それでも、ヤザンの部隊は、機体性能で勝るが急ごしらえで連携の拙い三機を、巧みなフォーメーションと指揮官の技量で消耗させていく。
(へっ、噂に聞いてた『碧き死神』ってのは、あの碧いMSのことだよな。強化人間だかなんだか知らねえが、こいつは……)
ヤザンの脳裏に、アストライアーの人間離れした機動がフラッシュバックする。
(噂通りの自分を顧みない判断をしやがる。だが、それだけじゃねえな。攻撃の中に妙な迷いも混じってやがる。
まるで獣の皮を被った凡人だ。……いや、逆か? 凡人のフリした獣か?)
ヤザンは笑みを浮かべ、ハンブラビの操縦桿を握りしめた。
そして、MA形態で急接近したハンブラビが、アストライアーの回避軌道を読み切り、海ヘビで左脚を完全に捕らえた。高圧電流が機体を駆け巡り、リリアのコックピットが激しく揺れる。
「くっ……!」
このままでは機体ごと動きを止められる。
リリアは一瞬の逡巡の後、左腕に構えたビーム・ライフルで、自らの左脚部を付け根から撃ち抜く。
「カミーユ・ビダン! クワトロ大尉! このままではジリ貧です!
集中してまずヤザンを狩る!」
リリアは、二人に呼びかける。
「言われなくても!」「良いだろう!」
三機は弾幕を強引に突破し、ヤザンのハンブラビ一点に狙いを定める。
だが、ヤザンはそれを嘲笑うかのように、ハンブラビを急上昇させ、部下のマラサイに三機を足止めさせた。
「遊びでやってんじゃないんだよッ!」
カミーユの怒りが頂点に達した。Ζガンダムのバイオセンサーが光を放ち、その動きは常軌を逸した鋭さを見せる。
彼はマラサイの弾幕を紙一重で潜り抜け、単独でヤザンへと肉薄する。
「突出するな、カミーユ!」
シャアが制止するが、もう遅い。
「いい度胸だ、小僧!」
ヤザンは、突出してきたカミーユを迎え撃つべく、ハンブラビをMS形態に変形させる。
一対一の死闘。だが、その背後から、リリアとシャアが猛追している。
「ちっ、面倒な奴らだぜ! だが、面白い!」
ヤザンは、三機の包囲網が完成する刹那、ハンブラビを再びMA形態へと高速変形。
Ζガンダムの頭上を錐揉み回転で飛び越え、シャアの予測すら裏切る軌道で包囲網から離脱しようとする。
百式の銃口が閃光を吐くが、すんでのところで回避される。
だが、その回避コースの先に、アストライアーが回り込んでいた。連射されるビームが退路を焼き、ハンブラビの動きを一瞬、鈍らせる。
その千載一遇の隙を、カミーユが見逃すはずもなかった。
バイオセンサーを唸らせながら、Ζガンダムが肉薄する。
「生命は、生命は力だって、宇宙を支える力だって!」
カミーユは叫ぶ。渾身のビーム・サーベルの一撃が、ヤザンのハンブラビを縦に切り裂く。
「なに! 」
ヤザンは、ギリギリで爆発する機体から脱出。
ヤザンという頭を失い、マラサイ部隊の動きが一瞬乱れる。
その隙を、三機のMSが見逃すはずもなかった。
「……邪魔です」
リリアは、誰に言うでもなくそう呟くと、最も近くにいたマラサイのコクピットをビーム・ライフルで正確に撃ち抜いた。
ヤザンとの激戦で昂った神経と苦戦が、彼女から「手加減」という選択肢を奪っていた。
シャアの百式も別のマラサイを撃破する。
「これ以上、やらせるか!」
カミーユのΖガンダムも、残った最後の一機にビーム・サーベルで斬りかかり、撃墜した。
そうして、ヤザン・ゲーブルという思わぬ強敵を退けたものの、それぞれが少なからぬダメージとパイロットの疲弊を抱えることとなった。
リリアは、荒い息をつきながら、ある事を思い出していた。先程のジ・Oとの戦闘でアストライアーが見せた異常なまでのエネルギーの高まりと、それの自分への流入だ。
あの力は一体何だったのか。そして、あの時、自分は本当に自分で戦っていたのだろうか。
だが、今はそれを深く考える余裕はない。
別のシロッコ派が戦場に姿を表し、戦闘は続いていく。
そして、息つく暇もなく、全く質の違う強大な存在が戦場の支配を企む。
それは、シロッコ派との対決に区切りをつけたハマーン・カーンが駆るキュベレイと、それを中心とするアクシズ艦隊だった。
「シャア! そしてエゥーゴの小僧! ティターンズもろとも、ここで消えよ!」
ハマーンの宣言と共に、キュベレイからファンネルが射出され、三機のMSに襲い掛かる。
その動きは、まるで意思を持った蜂の群れのように統制が取れており、予測不可能かつ回避困難な弾道でビームを乱射する。
その背後で、アクシズ旗艦グワダン、そしてグワンバン級戦艦数隻が、シロッコ派の主力艦隊を睨みつけながらも、戦場全体を攪乱するかのようにメガ粒子砲を放った。
宇宙空間が、再び灼熱の光と衝撃波で満たされる。エゥーゴのアイリッシュ級巡洋艦が、グワダンの直撃を受け、一瞬にして閃光の中に消滅。
リリア派、エゥーゴも負けじとメガ粒子砲を発射。エンドラ級が沈む。
「もしも、私の元へ戻る意志があるのならば……」
「何を言う!」
シャアの百式が、ファンネルの弾幕を巧みにかわしながら、ビーム・ライフルをキュベレイに向ける。その一撃は、キュベレイの肩部アーマーをかすめるが、ハマーンは顔色一つ変えず、キュベレイを滑るように後退させ、ファンネルをさらに射出する。
「こんなところで朽ち果てる己の身を呪うがいい!」
ハマーンの声が、響く。
百式は、キュベレイ本体に肉薄しようと試みるが、ファンネルによるオールレンジ攻撃は濃密で、接近することすらままならない。
そして、キュベレイのビーム・ガンが百式の脚部を奪い、機動性が低下する。
シャアは、額に汗を滲ませながら、必死に操縦桿を握りしめる。
カミーユのΖガンダムも、ビーム・コンフューズを牽制に使いキュベレイに肉薄しようとするが、ガザC部隊の砲撃を突破しきれない。
ならばとウェイブライダー形態に変形し、高速でキュベレイに接近しようとするが、ハマーンは冷静にそれを見極め、的確に迎撃する。
Ζガンダムの翼にファンネルのビームがかすめる。
リリアは、ハマーンを前に、焦りを覚え始めていた。
アストライアーは、左脚を損傷し、右腕を失った満身創痍の状態ながらも、シャアとカミーユを援護しようと奮闘していた。
だが、アストライアーの表面装甲がファンネルのビームに焼かれ、コックピットに衝撃が走る。
(このままでは押される……! コロニーレーザーを食らったはずなのに、ガザCがこんなに残っているとは。
アストライアーの出力も、もう限界に近い……!)
ガザCも、シロッコ派と小競り合いをしつつも、三機のMSを包囲しようとしていた。
ビームの雨が降り注ぎ、三機のMSは必死の回避行動を繰り返す。
シャアの百式が、キュベレイのファンネルの集中攻撃を受け、ビーム・ライフルが破壊され、戦闘続行が困難な状況に陥る。
「くっ……!」
シャアは、己の失敗を感じ、悔しさに顔を歪める。
リリアのアストライアーは、度重なる激戦でエネルギー消費が激しく、残されたビーム・ライフルの出力も不安定になっていた。しばらく、格闘ないし回避行動に専念するしかない。
だがその時。
「舐めるな! 」
シャア・アズナブルが、最後の力を振り絞るように叫んだ。彼の百式は、損傷した機体で、キュベレイ本体へと特攻を仕掛けたのだ。
右腕のビーム・サーベルを抜き放ち、敵の弾幕を強引に突破しようとする。
「シャア!」
ハマーンが叫ぶ。
「ハマーン! お前の野望も、ここで潰える!」
シャアはキュベレイに接触し、ファンネルの動きを封じようと試みるが、ハマーンのニュータイプ能力はそれを許さず、逆にファンネルの集中砲火を浴びてしまう。
「まだだ、まだ終わらんよ!」
シャアは叫び、機体を限界まで酷使して反撃を試みる。
百式は、数発のファンネルのビームを受けながらも、キュベレイの懐へと飛び込む。
しかし、ハマーンもまた、百戦錬磨の戦士。キュベレイのビーム・サーベルが、百式のビーム・サーベルと激しく交錯し、火花を散らす。斬り結ぶ。
因縁の二人の高機動下の戦闘は、もはや他者の介入を許さない聖域のようだった。
同士討ちのリスクを考えれば、迂闊に手出しはできない。
リリアは、その凄絶な戦いから目を離さずにいながらも、周囲に群がるガザCを片付けるしかなかった。
シャアは、コックピットで血反吐を吐きながらも、最後の力を振り絞り、百式のメインスラスターを最大出力で噴射。相打ちを覚悟しているかのように、ビームサーベルを無理やりに振りかぶっていく。
「シャアアアアアアアッ!!!!」
ハマーンの絶叫が響く。
しかし、その瞬間、リリアのアストライアーが、最後の力を振り絞って動いた。
(ここで、あなたを失うわけにはいかない……! 戦後の『均衡』が崩れる!)
リリアは反射的に動く。同士討ちへの躊躇いを、計算を、全て振り払う。
アストライアーは不安定なビーム・ライフルをキュベレイの背部へ暴走覚悟で撃ち、強引に回避行動を取らせる。
そして、エネルギー不足で自身の動きが一時的に完全に止まることを受け入れ、リリアは禁断のスイッチに指をかけた。彼女の脳を直接焼くかのような激しいフィードバックノイズが襲う。
エネルギーを指向性ジャマー、そしてMSI制御コアに強引に集中させ、キュベレイのサイコミュに向けて最大出力で照射する。
「なっ…… これは……!?」
キュベレイの全てのファンネルが一瞬ではあるがその動きを止めた。
「今です! カミーユ・ビダン!」
リリアが叫ぶ。
その瞬間を、カミーユのニュータイプの直感は見逃さなかった。
Ζガンダムは、まるでリリアの意志を読み取ったかのように空間を蹴り、キュベレイの背後を取る。
ビーム・サーベルの一閃が、純白の装甲を切り裂いた。
「ぐうううっ……!」
ハマーンは、キュベレイの深刻な損傷と、サイコミュ・システムの不調、そして引き連れていたガザC部隊の損耗により、戦闘続行が不可能と判断。
アクシズ艦隊に後退を指示し、自らもキュベレイを撤退させた。
「貴様らの戦力は十分削った。いずれ、我々の前にひれ伏すことになる。地球圏は、我々が頂く!」
ハマーンは、不敵な言葉を残し、戦場から姿を消した。
アクシズ艦隊の一時的な撤退により、戦場には僅かに安定が訪れた。しかし、それは束の間のものである。
最大の脅威であるパプテマス・シロッコが、ジ・Oの修理を終え、再びその姿を現そうとしているはずだからだ。
シャアの百式は、キュベレイとの戦闘で大きな損傷を負い、戦闘不能となっていた。
彼自身も重傷を負っている。
カミーユも、ヤザンやハマーンとの連戦で消耗しきっている。
そして、リリアのアストライアーは、もはやスクラップ寸前だった。
百式は、辛うじてアーガマへと後退しようとしていた。
満身創痍のアストライアーは、追撃してくるシロッコ派のMS数機を左腕のビーム・ライフルで牽制し、百式の進路を確保する。
「リリアか。借りができてしまったようだな。
……時折、ティターンズの非道な作戦を裏ルートで告発していたのも、君なのだろう?」
シャアは、続ける。
「だが、君のその力、そしてその異質な気配。
どうして、それだけの能力をティターンズという旧い殻の中で弄ぶ?
貴様がやっていることは、泥舟の穴を必死で塞いでいるに過ぎんと、何故気づかない」
リリアは一瞬言葉に詰まる。シャアの言葉は、彼女の最も触れられたくない部分を的確に抉っていた。
「君はニュータイプらしい世作りをすべきではないのか?」
シャアの声には、負傷による苦痛が滲んでいたが、それだけではないようにも感じた。
「我々が自らの手で未来を掴み取らねば、地球も人類も変わらんのだ。
君はその力を、なぜそのために使おうとしない」
リリアは、悩みながらも静かに答えた。
「……大尉。私は、あなたのような人間ではない。凡人です。それに、ニュータイプとしてもあり方が歪んでいる。
作られた、偽物の力で足掻くことしかできません。
私の目的は、オールドタイプの感性を理解できる者として、この世界を少しでも良い方向へ……犠牲を最小限にして変えること。
そのために、今ある力を利用する。それが、私のやり方です」
シャアは苦々しげに返す。
「……偽物だと? その言葉で、自らの可能性に蓋をしていただけではないのか?」
そう言い残し、百式はアーガマの方向へと離脱していく。
リリアは、シャアの言葉を胸に、再び迫り来る敵影へとアストライアーを向ける。
決戦は、最終局面へと向かう。
青息吐息です……。