宇宙世紀に転生し、自分から強化手術を望んだ異常TS少女の話   作:Xn

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第二十三話:涙

閃光が飛び交い、爆発の光が明滅する主たる戦場は、依然として無数のMSと艦艇が死闘を繰り広げる地獄であったが、そことエースパイロットたちの居場所には、やや距離が生まれていた。

 

シャア・アズナブルの百式はキュベレイとの戦闘で大破し、戦闘不能。

彼自身も重傷を負い、エゥーゴ艦隊旗艦アーガマへと後退し、収容されていった。

 

カミーユ・ビダンのΖガンダムも、ヤザン、そしてハマーンとの激戦で機体は深刻なダメージを負い、推進剤も少なくなっていた。

パイロットであるカミーユ自身も、ニュータイプ能力を酷使した反動と、度重なる激戦による疲労で、その精神は極度に消耗していた。

 

リリア・アストレアのアストライアーは、もはやスクラップ寸前だった。

右腕を失い、左脚も損傷。ジェネレーターの不調で、背部のビーム砲も使えなくなっている。

残された武装は、ビーム・サーベルとビーム・ライフルのみ。

リリア自身も、強化人間としての限界を超えた戦闘と、調整薬の副作用、そして仲間たちの死の記憶に苛まれ、精神が追い込まれている。

 

リリア派のMSも、これまでの激戦で少なくない数が撃墜されるか、あるいは損傷し、戦力を損なっていた。

エゥーゴもまた、アクシズ艦隊とシロッコ派艦隊の双方からの攻撃を受け、その戦力は削がれていた。

 

もはや、この付近に、パプテマス・シロッコのジ・Oに対抗しうるエースパイロットは、カミーユとリリアの二人しか残されていなかった。

 

 

 

ジ・Oがついに迫ってくる。

 

リリアは、最後の調整薬を自らに投与し、朦朧とする意識の中で、アストライアーのセンサーをそちらへと向けた。

強化人間としての感覚が、シロッコの放つ強烈なプレッシャーと、彼の心の奥底にある歪んだ支配欲を捉える。

それは、あたかも巨大な暗黒が自分を飲み込もうとしているかのような、圧倒的な恐怖と絶望を感じさせるものだった。

 

「リリア・アストレア、まだ生きていたか。やはりしぶといな。」

 

シロッコの表情には、リリアへの嘲りと、勝利への絶対的な確信が浮かんでいた。

彼の背後には、ジュピトリスを中心とするシロッコ派の残存艦隊が陣形を組み、現在も抵抗を試みるエゥーゴ艦隊とリリア派艦隊にプレッシャーをかけている。

 

「シロッコ!あなたの野望は、私がここで終わらせる!

これ以上、あなたの好きにはさせない!」

 

リリアは、掠れた声で叫び、アストライアーの残されたスラスターを用いて、ジ・Oへと向かい攻撃を敢行する。

それは、もはや勝算など度外視した、捨て身の攻撃だった。

 

アストライアーの機体は、まるで血を流しているかのように冷却材やオイルの雫を垂らしつつ、それでもなお主の意志に応える。

 

「愚かな……。そんな損傷した機体で私を倒せるとでも思っているのか?

君のその歪んだ理想もここで終わりだ。

君は、私の作る新たな世界の礎となるべきだったのだ。」

 

シロッコはアストライアーを迎え撃つ。

その巨体から放たれる圧倒的なプレッシャーが、リリアの精神を押し潰そうとする。

視線は、まるで獲物を嬲る猛獣のようだった。

 

ジ・Oのビーム・ライフルが火を噴き、アストライアーの進路を塞ぐ。

回避されたビームは、アストライアーの周囲のデブリに直撃し、爆炎のカーテンが生まれる。

 

アストライアーのビーム・ライフルも反撃に出る。

その一射は、ジ・Oのコクピットを狙ったものだったが、シロッコはそれを軽々といなし、カウンター攻撃を仕掛ける。

 

アストライアーは、損傷した左脚を庇いながら、必死の回避運動を行うが、ビームが掠る。

コックピット内の警告灯が激しく点滅し、耳障りなアラート音が鳴り響く。

 

「くっ!私の動きが読まれている!?」

 

接近してきたジ・Oの隠し腕から放たれる不意のビーム・ソードが、アストライアーの残された左腕を狙う。

その太刀筋は、先の戦闘よりもさらに鋭く、リリアの回避パターンを完全に読み切っているかのようだ。

 

リリアは、最後の力を振り絞り、アストライアーを回転させ、ビーム・ソードの直撃を回避。

しかし、その刃はアストライアーの胴体部を浅く切り裂き、コックピットにまで衝撃が伝わる。

メインモニターの一部が機能を停止し、黒い亀裂が走る。視界が悪化し、機体のコントロールがますます困難になる。

 

(ダメだ……!このままでは……!)

 

リリアの意識が遠のきかけた、その時。戦場の喧騒の中に、聞き覚えのある声が響いた気がした。

 

「リリア・アストレアァァァッ!!」

 

別の敵と戦っていたカミーユ・ビダンのΖガンダムが、最後の力を振り絞り、ジ・Oの側面に突撃してきたのだ。

その機体もダメージを受けており、推進剤も残りわずかだった。

しかし、カミーユには、諦めない意志が宿っていた。

 

「カミーユ・ビダン!なぜあなたは……!もう、あなたは限界のはず……!」

 

リリアは、驚きと、そして申し訳なさの入り混じった感情でZガンダムに目をやる。

 

「これ以上、人の死なんか見たくないんだ! 僕たちは、まだ生きているんだ! 」

 

カミーユの叫びが、リリアの心に強く響く。

その言葉は、リリアが心の奥底で押し殺していた、誰かに助けを求めたいという、か細い叫びと共鳴したのかもしれない。

 

Ζガンダムは、ジ・Oの注意を引き付け、その巨体に体当たりを敢行する。

ジ・Oは、その衝撃で体勢を崩し、アストライアーへのとどめの一撃を放つことができない。

 

Ζガンダムとジ・Oが斬り結ぶ。

 

「何度邪魔をすれば気が済む!」

 

シロッコは一瞬苛立ち、そして計器に目をやり、自信満々に宣言をした。

 

「だが、もう遅い、準備は整ったようだ。君はコアを使いすぎたのさ、リリア。

その『特異な魂』は、私が探し求めていたピースだ。

MSI制御コアよ、目覚めろ! そして、彼女を私に捧げよ!」

 

そして、シロッコの自信に満ちた叫びと共に、ジ・Oのコックピットから、アストライアーのMSI制御コアに向けて、特殊な制御信号が発信される。

 

それは、彼が密かに布石として仕込んでいた、コアを強制的に最大共振させるためのトリガーだった。

 

アストライアーのMSI制御コアが、その制御信号に呼応し、凄まじいエネルギーを放出して暴走を始める。

 

コックピット内は、もはや視界を奪うほどの強烈な光と、内側から空間が引き裂かれるような激しい振動、そして脳髄を直接かき混ぜられるような耐え難い高周波音で満たされた。

リリアの意識は、そのエネルギーの奔流に抗う術もなく、時空の深淵へと引きずり込まれていく。

 

高周波ミノフスキー粒子を起点に、目の前に、かつてないほど鮮明なビジョンが、奔流となって流れ込んできた。

 

それは、アストライアーのMSI制御コアが、過去の「時空の歪み」の際に記録していた、膨大なミノフスキー粒子の変動パターン……そのパターンの中に、まるで光の波形に重畳された信号のように圧縮保存されていた「情報」がデコードされ、リリアの脳に直接再生されているかのようだった。

 

 

 

――一年戦争末期の月面グラナダ近郊にあった、ジオンの秘密研究衛星。

ミノフスキー・スペクトラム・インターフェアランス(MSI)フィールド実験の制御盤の前。

アラートが鳴り響き、パニックに陥る白衣の研究者たち。

「高周波ミノフスキー・バースト、制御不能!」

「 エネルギー逆流! 緊急停止シーケンス、間に合わん!」

宇宙空間に迸る指向性の強いエネルギー奔流。

それは、まるで時空の壁に亀裂を入れるかのように、一点へと収束していく。

 

場面は変わり、地球上のどこかの都市の外れ。

ミノフスキークラフト搭載機であるアプサラスの秘密実験場の一つの跡地なのか、ミノフスキー粒子を放つ実験装置が残されている。

そこで、装置の暴走により放出され、不安定に揺らめく比類ないほど強烈な濃度のミノフスキー溜まり。

オゾンの臭いが満ちたその空間では、宇宙からのエネルギー奔流と周波数が同調し、その「溜まり」と「共振」を起こす。空間が歪む。

 

その歪みの中心で、戦火から逃れようと迷い込んだのか一人の幼い少女が血塗れで倒れている。

彼女の生命は、まさに風前の灯。その瞳孔は、もう光に反応しない。

全ての律動はか細く、魂は既に肉体から離れ、霧散しようとしていた。

やがて、脳波は完全にフラットラインを示す。

 

そして、全く異なる世界。

高層ビルが林立する、見慣れた日本の街並み。横断歩道。迫り来る大型トラックのヘッドライト。

「危ない!」という誰かの叫び。全身を砕く衝撃。

薄れゆく意識の中で、青年は「ああ、こんな終わり方か……。平凡な俺でも、もう少し、人の役に立つ事が出来れば人生変わったのかな……」と、叶わぬはずの、そして手遅れなはずの願いを呟いていた。

 

その刹那、肉体を失い霧散しかけた彼の思念の波――脳波の残滓は、全く異なる宇宙で発生したミノフスキー粒子の異常な奔流と、奇跡的に共振した。

 

ジオンのMSI実験の暴走が生んだ高周波ミノフスキー粒子は、時空に微細な亀裂を生じさせた。その亀裂は、死にゆく魂が放つ微弱な波と偶然にも周波数が合致したことにより、その異物を引き寄せてしまう。

 

彼の魂に刻まれたガンダム知識、そして何より強烈な無念が、その偶然の一致を引き起こしたのかもしれない。確かなことは、誰にも分からない。

 

再び、ジオンの秘密実験場跡地の光景。

時空の歪みの中心で、生命活動を停止したはずの少女の肉体に、異世界から飛来した脳波が、吸い寄せられるように流れ込み、融合していく。

ミノフスキー通信のような環境が意図せず揃い、本来繋がりようもないそれらを強く繋いでしまう。

 

それは、二つの世界の悲劇と、そして敗戦間際のジオンがやぶかぶれで行った技術的に無理のある実験の暴走が生み出した、万に一つという表現では到底足りない偶然が織りなす、「再誕」とでも言えるものだった。

 

そして、MSIの高周波ミノフスキー粒子によって変性した「彼」の魂によって、少女の脳波に、微弱ながらも新たな活動の兆候が現れる。

 

(ああ、そうか、これが、私。そして、この身体の持ち主の少女は、あの時、もう、本当に、いなかったんだ。

私は誰の命も奪ってはいない……。ただ、奇跡的に、空っぽの器に流れ着いただけ……。

それに、強化処置の時に高周波ミノフスキー粒子に安らぎを覚えたのも、これが原因か……)

 

 

 

そして、自分の真実を知った彼女はなけなしの力を振り絞って怒り、叫ぶ。

 

「シロッコ!あなたが私に目をつけたのは、私が優秀な強化人間として、MSI制御コアの実験に都合の良い『素体』だったからでしたか!

そして、その後の私の戦いぶりや、アストライアーとの異常なまでの同調を知り、あなたは私の脳波のMSI制御コアとの親和性に気づき始めてた。

あなたは最初から、このコアの真の力を……適合した私のような人の魂すらも支配する力を求めていた! 」

 

シロッコは、やはり並外れた天才だとリリアは改めて確信した。

 

MSI実験の副産物の、精神干渉すら理論的予測で把握してみせるなど、並の科学者なら10人集まろうと出来ることではない。

 

転生の真実。シロッコの真の狙いと布石。その全てが、リリアの意識の中で一つに繋がった。それは、彼女の存在そのものを揺るがす事実であった。

 

シロッコは、転生時の影響で高周波ミノフスキー粒子に並外れた親和性を持つリリアの脳を、MSI制御コアで乗っ取ろうとしている。

 

そして、リリアがティターンズの力に可能性を見出し続けることに貢献したシロッコの「協力」も、リリアを「ティターンズ」でもって精神的に消耗させ、精神的抵抗力を奪う算段のもとの行いだったのかもしれない。

 

――シロッコの思念が、MSI制御コアを通じてリリアの精神に直接流れ込んでくる。

 

「そうだ、リリア・アストレア! 君のその強化人間としての特異な精神構造と、高周波ミノフスキー粒子への適応性が、私の理論を証明する!

君のその特殊な脳と強化された能力ごと、私の下に付け!」

 

シロッコの歪んだ歓喜と支配欲が、リリアの自我を塗り潰そうとする。

 

 

その時、リリアの危機を察知したカミーユが、最後の力を振り絞って叫んだ。

 

「そいつに飲み込まれるな!」

 

カミーユは、Ζガンダムのビーム・サーベルでジ・Oのビーム・ライフルを切り飛ばす。

その一撃は、Ζガンダムのバイオセンサーが放つ強烈なオーラと共に、シロッコのプレッシャーを一時的に打ち破るほどの勢いを持っていた。

 

しかし、ジ・Oの反撃も速く、別の隠し腕のビーム・ソードがΖガンダムの左腕を破壊する。

Ζガンダムは大きく体勢を崩し、カミーユのコックピットにも激しい衝撃が走る。

 

(痛い、苦しい! この重圧……この絶望……! 私が……私でなくなっていく……!

でも、カミーユ、あなたの助けは無駄にはしない。

私は信じたい。この絶望の先に、まだ、希望があると……!

あの少女が生きられなかった未来を、私が作るんだ)

 

「二度目の命を、お前なんかにくれてやるものか! 」

 

転生の真実を知り、そしてカミーユの捨て身の援護によって自由を得たリリアの心に、最後の、そして最も強靭な「個」としての意志が燃え上がった。

 

「これで……終われえええええええええええっ!!!!」

 

リリアは、MSI制御コアの暴走エネルギーを、自らの強靭な意志でなんとか制御し、アストライアーの残された左腕のビーム・サーベルへパワー集束させる。

そして、アストライアーの最後の推進力を込め、ジ・Oのコックピットへと、魂を燃やすような最後の突貫を敢行する。

 

その姿は流星のように戦場を切り裂いた。アストライアーの機体は、大気圏突入時のように赤熱し、その軌跡に燐光を残す。

 

「ば、馬鹿な……この私が……こんな……作られた人形ごときに……! 」

 

シロッコは、リリアの常軌を逸した執念と、アストライアーから放たれる、もはや理解不能なエネルギーに、初めて純粋な恐怖を覚えた。

そして迎撃しようと、巨体を僅かに後退させて間合いを確保しようとする。

 

そのコンマ数秒の隙を、カミーユ・ビダンは見逃さなかった。

 

「行かせるかッ!」

 

左腕を失い、満身創痍のΖガンダムが、最後の推進剤を燃焼させてジ・Oの背後に回り込んでいた。そして、ビームサーベルでジ・Oの巨大なバックパックのスラスターユニットへ攻撃を行う。

 

「小僧、まだ動けたのか!」

 

シロッコは、完全に意表を突かれた。背後からの攻撃に体勢を崩したジ・Oの巨体が、リリアの眼前にわずかに無防備な隙を晒す。リリアが最後の一撃を放つには、その一瞬で十分すぎた。

 

リリアは、がら空きになったジ・Oのコックピットへと、アストライアーのビーム・サーベルを深々と突き立てる。

最大出力のビーム・サーベルは、ジ・Oの厚い装甲をバターのように溶断し、シロッコのいるコックピットブロックを貫通する。

 

「……私だけが、死ぬわけがない! 貴様らの心も一緒に連れていく!」

 

シロッコの最期の怨嗟の声が、リリアの脳内に直接響き渡る。

それは、単なる言葉ではなく、彼の強大な精神エネルギーが、リリアの精神を汚染し、破壊しようとする、呪詛にも似た力だった。

 

ジ・Oのコックピットから、禍々しい紫色のオーラのようなものが噴き出し、アストライアーを、そしてリリアの精神を直接攻撃する。

 

そのオーラは、MSI制御コアを通じて、彼女の脳神経を焼き切るかのような激痛と、シロッコの見ていた歪んだ世界のビジョン、彼の孤独、絶望、そして底知れぬ支配欲を、奔流のように流し込んできた。

 

 

 

そして、目の前に、シロッコの見ていた世界が広がる。

 

強烈な意志と、全てを見下すような傲慢さが、リリアの精神を圧し潰そうとする。

シロッコの嘲笑が、怨嗟の声が、そして彼が感じていたであろう内心の孤独と虚無が、リリアの意識の奥深くまで侵食していく。

 

(痛い……!シロッコの心が、私の中に。

強化人間になったのは……力を求めた結果が、これなのか。後悔なんてそんな簡単な言葉では、言い表せない。

やめて……やめてくれ……!私の心に入ってくるな……!)

 

リリアの意識は、強い覚悟もむなしく、強烈な精神的ダメージによって、再び、闇の底へと沈んでいく。

 

それほど、シロッコの最期の念は強かった。

 

アストライアーのコックピット内で、彼女は気を失い、その美しい顔は苦痛に歪み、銀色の髪は汗で濡れそぼっていた。

口からは、血の混じった虚ろな咳、そしてうめき声が漏れる。

全身の神経が焼き切れるような感覚、内臓を直接握りつぶされるような苦痛、そして何よりも、シロッコの負の感情が自らの心と混じり合い、自我が崩壊していく恐怖。

 

シロッコの強烈な念は、リリアの覚悟を、またもや容易に踏みにじる。

 

それは、魂の凌辱だった。

 

 

カミーユのΖガンダムもまた、シロッコのジ・Oとの戦闘と、その最期の思念の影響を受け、コックピット内で激しい頭痛に襲われていた。

しかし、彼の純粋な怒りと悲しみと、何よりも、彼を守りたいという関係者の強い想いが彼を辛うじて支えていた。

そして彼は、ファの存在に導かれるように、辛うじて意識を保った。

 

 

一方、リリアは、ただ、一人だった。

彼女の「偽物」のニュータイプ能力、作られた強化人間としての精神構造は、シロッコの強大な負の思念を完全に受け流すことも弾き返すこともできなかった。

MSI制御コアの存在も、リリアの心に強く影響を与えた。

彼女の精神は、シロッコの思念によって深く傷つけられ、彼の怨念がまるで呪いのように彼女の心に刻み込まれてゆく。

 

それは、強烈な体験だった。

 

……しかし、彼女の精神は、カミーユのような純粋で繊細なものではない。

ロザミアを救えなかった無力感。ボルク少佐をはじめに、指揮官として大勢に死を命じた罪悪感。自らの手で殺めてきた名もなき兵士たちの壮大な怨嗟。

そして、ティターンズの非道に加担しながら、それでも善を成そうとするという巨大な矛盾。

リリアは、ある意味で「鍛え上げられ」そして徹底的に「歪められて」いた。

 

そして何より、リリアは強化人間であった。

ニュータイプ能力が戦闘向けに歪められていて、相互理解の力は本物に到底及ばない。

 

それは、彼女が「偽物」であったが故の、あまりにも皮肉な救いだった。

「本物」であったら、シロッコの念を純粋に受け止めてしまっていただろう。

だが。

 

それ故に、彼女の精神は完全には崩壊しなかった。

 

ギリギリのところで、踏みとどまったのだ。

 

 

 

ジ・Oは、コックピットを完全に破壊され、その機能を停止。そして、数秒後、大爆発を起こし、宇宙の塵と消えた。木星帰りの天才、パプテマス・シロッコは、その野望と共に、グリプスの宙域に散った。

 

シロッコの死は、ティターンズ(シロッコ派)の終焉を意味した。

ジュピトリスは、指揮官を失い、エゥーゴ艦隊とリリア派艦隊の猛攻の前に降伏。

他の残存艦艇も、戦闘継続の意味を失い、次々と白旗を揚げていった。

 

グリプス戦役は、シロッコ派ティターンズの事実上の消滅と、リリア派とエゥーゴの勝利という形で、原作とは異なる結末を迎えようとしていた。

 

いや、正確には、ティターンズはまだ終わっていない。リリア・アストレアのもとで「新生」しようとしている。

 

意識を失ったリリアのアストライアーは、駆けつけたリリア派のMSによって回収され、旗艦エーオースへと帰投した。

 

そして、彼女の心には、シロッコの最期の言葉と、決して消えることのない深い傷跡が刻み込まれていた。

それは彼女がこれから背負っていく、重い十字架となるだろう。

 

しかし、昏睡しながらも、それでも彼女は立ち上がりたい、と願い続けた。

自らが信じる「善」のために。そして、多くの犠牲の上に成り立つ、新たなティターンズを率いて、地球圏の未来を切り開いていくために。




次回、エピローグになります。
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