宇宙世紀に転生し、自分から強化手術を望んだ異常TS少女の話   作:Xn

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第三話:デラーズの烽火

宇宙世紀0083年10月。

 

ムラサメ研究所で「最高傑作」の烙印を押されてから、2年ほどの月日が流れていた。

 

リリア・アストレアは、表向きは10歳をしばらく過ぎた程度のうら若き少女でありながら、その内面は、過酷な強化処置と、転生者としての知識、そして数えきれないほどの犠牲の上に成り立った「力」によって、常人とはかけ離れた状態となっていた。

 

この間、リリアは研究所内で徹底的な戦闘訓練と「調整」を受け続けた。

 

与えられるMSも、ジム・トレーナーから始まり、より高性能な試作機へと変わっていった。

 

彼女のパイロットとしての技量は飛躍的に向上し、強化人間としての能力――空間認識能力、反射速度、ニュータイプ脳波への感応力――も、研究者たちの予想を上回るレベルにまで達していた。

 

しかし、その代償も大きかった。

 

強化処置による精神的な不安定さは常に彼女を苛み、定期的な薬物投与と精神安定化処置が欠かせなかった。

 

感情の起伏は激しく、時には些細なことで凶暴な衝動に駆られることもあったが、リリアはそれを必死に抑え込み、表面上は冷静沈着な「道具」を演じ続けた。

 

その仮面の下で、彼女の心は常に悲鳴を上げていたが、それを誰にも悟られるわけにはいかなかった。

 

(まだだ。まだ、力を蓄える時だ。この鳥籠から飛び立つためには、まだ足りない。

この作られた力で、本物のニュータイプが成し得なかったことさえ、やってのける。

そうでなければ、私の選択は……カズマたちの犠牲は、本当に無駄になってしまう)

 

そんな歪んだ野心と強迫観念にも似た使命感が、彼女を突き動かしていた。

 

 

 

その転機となるであろう出来事が、リリアの予測通りに訪れた。

 

ジオン公国軍残党、エギーユ・デラーズ率いる「デラーズ・フリート」による、ガンダム試作2号機強奪事件。そして、「星の屑作戦」の開始。

宇宙世紀0083年10月25日、デラーズ・フリートは地球連邦政府に対し宣戦を布告した。デラーズ紛争の勃発である。

 

(やはり来たか……。ここが、私の最初の大きな舞台になる。

私の力を、この世界の権力者たちに認めさせる絶好の機会だ)

 

リリアは、この歴史の転換点を見据えていた。

それは、彼女にとっての試練であり、同時に飛躍のためのステップでもあった。

 

 

「リリア・アストレア少尉。君に初の実戦任務を与える」

 

研究所の所長であり、リリアの「調整」を直接担当してきたナカハラ博士が、冷徹な目で彼女に告げた。

 

リリアは、この数年の間に、形式的ながら連邦軍の軍籍を与えられ、少尉の階級を得ていた。

その美しい銀髪と碧眼は、強化処置の影響か、以前にも増して人間離れした輝きを放っているように見えた。

 

「任務は、デラーズ・フリートの活動が活発化しているコンペイトウ(旧ソロモン)宙域における、新型MSのテスト及び実戦データ収集だ。

君には、現在開発中の試作MS『コードネーム:シルフィード』のテストパイロットとして、コンペイトウ駐留艦隊の指揮下に入ってもらう」

 

シルフィード。それは、リリアの強化人間としての特性――特に高い空間認識能力と反射速度――を最大限に活かすべく、ムラサメ研究所が独自に開発を進めていた高機動型試作モビルスーツだった。

 

ベースとなったのはジム・クゥエルなどの連邦軍系量産機のフレームだが、ジェネレーター出力は大幅に強化され、胸元をはじめに全身に多数追加配置された高出力スラスターおよびバーニアにより、既存の機体とは比較にならない三次元的な機動性を誇る。

武装は標準的なビーム・ライフル、ビーム・サーベルに加え、オプションで肩部バルカンや小型ミサイルランチャーなども装備可能。

 

最大の特徴は、不完全極まりないが、リリアの脳波パターンに最適化されたサイコミュ・システムを搭載している点である。これにより機体追従性と反応速度が極限まで高められている。

 

しかし、そのピーキーな性能は、安定性と引き換えだった。

 

高機動時のGの負荷はパイロットに多大な負担を強い、サイコミュ・システムもまだ不安定で、長時間の使用はパイロットの精神を著しく消耗させる。

 

装甲も、機動性を優先した結果、通常のジムと大差ないレベルにまで削られており、被弾は即、致命傷に繋がりかねない。

 

碧く彩られたその機体は、まさに、リリア・アストレアという「特異なパイロット」のためだけに調整された専用機と言えた。

そして、まだ開発途上であり、安定性には若干の不安を残すものの、その潜在戦闘力は当時の連邦軍主力機を上回ると期待されてもいた。

 

(コンペイトウか……。私の力を示すには、格好の場所だ。

そして、このシルフィードならば……この機体こそが、私の剣となる)

 

リリアは内心の計算を隠し、平静を装って答えた。

 

「了解しました、博士。任務を遂行いたします」

 

「期待しているぞ、リリア君。君は我々の最高傑作だ。その力を、存分に示してくれたまえ。

君の成果が、我々の研究の正当性を証明するのだ」

 

ナカハラ博士の言葉には、リリアを「作品」としてしか見ていない冷酷さと、この紛争を利用して研究所の成果をアピールしようという野心が滲んでいた。

 

 

 

数日後、リリアはシルフィードと共に、輸送艦でコンペイトウへと向かった。

 

彼女が配属されたのは、コンペイトウ防衛艦隊の下にある、MS実験部隊。そこには、様々な試作機や新兵器のテストを行うパイロットたちが集められていたが、リリアのような「強化人間」であると公言されている者は他にいなかった。

 

彼女の幼い容姿と、ムラサメ研究所出身という経歴は、部隊内で奇異の目で見られた。

好奇、憐憫、そして若干の恐怖。そんな視線が、常に彼女にまとわりついた。

 

しかし、リリアは周囲の視線を気にする素振りも見せず、黙々とシルフィードの調整と戦域情報の収集に努めた。

 

彼女の目的は、あくまでも任務の遂行と、この戦いの中で自らの価値を証明し、成り上がるための足掛かりを得ることだ。馴れ合いや同情は不要だった。

 

彼女は、誰にも理解されることを望んではいなかった。望めもしなかった。

ただ、結果だけを求めていた。

 

そして、最初の戦闘が訪れた。

 

コックピットに座り、精神感応システムを起動すると、シルフィードのセンサーが捉える情報が、まるで自分の五感のように流れ込んでくる。

同時に、強化人間の副作用である軽い頭痛と、時折襲ってくるカズマや他の脱落者たちの幻影が、彼女の集中力を削ごうとする。

 

リリアはそれを、薬物と自己暗示で強引に抑え込んだ。

 

連邦の警戒する宙域に堂々と侵入してきたデラーズ・フリートのMS部隊。

リリアはシルフィードで出撃する。

 

「リリア・アストレア、シルフィード、出る!」

 

コックピット内で、リリアはシルフィードのシステムと自らの神経を本格的に同調させる。

不完全とはいえ、サイコミュ・システムを通じて機体の隅々まで感覚が拡張されていく。

それは、まるで自分の手足のように、いや、それ以上にシルフィードを操れるという確信があった。

 

そして、同時に、この機械と一体化していくことへの言いようのない不安も。

 

初めて経験する実戦の宇宙。

訓練とは比較にならないプレッシャーと、死の匂い。

 

しかし、リリアの心は不思議と冷静だった。

 

強化された感覚が、敵機の位置、速度、攻撃の意図を的確に捉える。

 

シルフィードは、その名の通り風のように戦場を駆け巡った。

機体のメインスラスターと各部に配置されたバーニアが、リリアの思考に追従するように繊細かつ大胆な機動を可能にする。

 

眼前に迫るザクII F2型のマシンガン掃射。

 

リリアは操縦桿を僅かに操作し、シルフィードの機体を回転させながら回避。

その動きは予測の範疇を超えているのか、敵パイロットの動揺がサイコミュを通じて微かに伝わってくる。

「化け物め!」という罵声と共に。

 

回避と同時に、シルフィードの右腕に装備されたビーム・ライフルが火を噴いた。

高精度な照準システムとリリアの射撃センスが融合し、ビームはザクのコックピットを貫く。狙いを外した!

――命は奪わないはずだったのに!

 

一瞬の閃光の後、敵機は爆散した。

そのパイロットの断末魔が、リリアの脳内に直接響いたような気がした。

 

彼女は、さっそく、望まない殺人を終えた。なのに……。

 

(何も、感じない。感情が、凍り付いているようだ。ただ、目標を破壊したという、冷たい達成感だけがある。

これが実戦。これが私が手に入れた力。

……これが、私が望んだことなのか……?)

 

敵機が爆散する閃光が、リリアの碧い瞳に映る。初めてその手で人を殺めたという実感は、まだ薄かった。

ただ、アドレナリンが全身を駆け巡り、高揚感と、言いようのない虚しさが胸中で入り混じっていた。

まるで、心が空っぽになっていくような感覚。

 

「あの機体、何だ……!? 動きが尋常じゃないぞ! まるで幽霊みたいだ!」

 

友軍機のジム改から、驚愕の声が通信で入る。リリアはそれに構わず、次なる標的を索敵した。

 

リック・ドムIIが3機編隊で接近。

ジャイアント・バズを構え、一斉射撃を仕掛けてくる。

 

「甘い!」

 

リリアはシルフィードの機首を下げ、バズーカの弾道を潜り抜ける。

そのまま敵編隊の懐に飛び込むと、左腕でビーム・サーベルを展開。

 

一閃。リック・ドムIIの1機が、両腕を両断されて戦闘力を失う。

 

残る2機が慌てて散開しようとするが、リリアの動きはそれを許さない。

シルフィードは反転し、もう1機のドムの背後を取る。

ビーム・ライフルを至近距離から叩き込み、これも撃破。

 

最後の1機は戦意を喪失したのか、撤退しようとブーストを吹かす。

 

「逃がさない」

 

リリアは冷静に追撃。シルフィードの脚部スラスターが唸りを上げ、あっという間に距離を詰める。

ビーム・サーベルで敵機の両腕を切断し、戦闘不能にした。

 

やがて、捕虜になるか、デラーズ・フリートに回収されるか、するだろう。

 

(殺しは最小限に。だが、敵は無力化する。それが、私の戦い方。

そう言い聞かせなければ、私は……)

 

カズマとの模擬戦の記憶が、脳裏をよぎる。

あの時の虚しさが、ひそかに胸を締め付けた。

 

 

 

戦いは熾烈を極めた。デラーズ・フリートの攻撃は的確で、連邦軍は度々防衛ラインを突破されそうになる。

 

リリアは、戦況を冷静に分析し、最も効果的なポイントで戦闘に参加した。時には突出して敵編隊を切り崩し、時には味方の窮地を救う。

彼女のシルフィードは、まさに戦場の火消し役として、八面六臂の活躍を見せた。その戦いぶりは、敵からも味方からも「碧い死神」と囁かれるほどだった。

 

原作の知識も、彼女の戦いを助けた。

 

デラーズ・フリートの主力MSの特性(例えば、ザクII F2型は汎用性が高いが推力にやや難があり、リック・ドムIIは高機動と重武装が特徴だが旋回性能に劣る、など)や、彼らが好みそうな戦術(連携による飽和攻撃や、デブリを利用した奇襲など)を予測し、先手を打つことができたのだ。

 

(この宙域のデブリ密度ならば、奴らは必ず奇襲を仕掛けてくる。そして、あのドムの動き。

おそらく、僚機と連携して挟撃するつもりだ。ならば、私は……!)

 

 

しかし、敵もまた手強かった。中には、明らかに練度の高いベテランパイロットが駆るMSも存在し、リリアも何度か危うい場面に遭遇した。一年戦争を生き残った者の腕は生半可なものではない。

 

そのリック・ドムIIは、ジャイアント・バズとシュツルムファウストを巧みに使い分け、予測射撃でシルフィードを翻弄しようとする。

ジャイアント・バズの弾頭が、シルフィードの装甲を掠め、近接信管が作動して爆発する。警告音がコックピットに鳴り響いた。爆風と回避のために機体が激しく揺れる。

 

(手練れか……だが! 私のシルフィードは、こんなものでは落ちない!)

 

リリアは集中力を極限まで高める。

強化された空間認識能力が、敵機の次の動きを三次元的に予測。ミリ単位の回避行動で攻撃を避け、カウンターでビーム・ライフルを連射。

なんとかリック・ドムIIのジャイアント・バズを破壊し、その爆発で体勢を崩させる。

 

一瞬の隙。リリアはスラスターを全開にし、シルフィードを敵機に肉薄させる。

その動きは、もはや人間業とは思えなかった。

 

「もらった!」

 

ビーム・サーベルがリック・ドムIIの右腕を斬り飛ばし、続けざまに左脚部、スラスターを破壊。戦闘能力を奪われたリック・ドムIIは、慣性で宇宙を漂うだけとなった。

 

コックピットからは、パイロットの悪態が聞こえてきた、気がした。

 

 

 

戦闘終了後、リリアは疲労困憊でコックピットから降りた。

強化人間といえども、精神的な消耗は避けられない。むしろ、常人以上に鋭敏な感覚が、彼女の心を削り取っていく。

 

整備兵たちが、傷ついたシルフィードに駆け寄る。彼らの目には、畏怖と、どこか同情の色が浮かんでいた。

 

「少尉、無事か!」

 

実験部隊の隊長である初老のベテラン士官が、リリアの戦いぶりを記録した戦闘データを見ながら、複雑な表情で声をかけてきた。

 

「……アストレア少尉。君の戦闘データは、確かに素晴らしいものだ。

今日の戦闘でも、君のスコアは突出している。だが、君の戦い方はあまりにも危険すぎる。まるで、自分の命を顧みていないようだ。」

 

「結果が全てです。私は、与えられた任務を遂行したまでです」

 

リリアは淡々と答えた。

彼女にとって、自分の命は目的を達成するための駒の一つに過ぎなかった。そして、彼女が追い求めているものは、彼には到底理解できないだろう。

 

(少しは認められたか。だが、これだけでは足りない。私の力が、私の選択が正しかったと証明するためにも、もっと成果が要る。)

 

それは、成り上がりへの小さな一歩だった。

 

しかし、リリアは知っていた。デラーズ紛争は、まだ始まったばかりだということを。

そして、この戦いが終わった後に待ち受ける、さらなる混沌の時代を。

 

彼女の戦いも、まだ始まったばかりだった。

強化人間としての力と、転生者としての知識を武器に、彼女はこの硝煙渦巻く宇宙で、自らの道を切り開いていく。

その先に、彼女が望む未来があると信じて。

 




「オリジナル機体」タグにご注意を。

あと、ガンダム的な用法と違い、本来は、
【バーニア:宇宙機の姿勢制御に用いられるスラスター群のうち,微調整(バーニア)用の小出力の噴射装置】
【アポジモーター:楕円軌道の遠地点(アポジ)で用い,そこから円軌道や更に遠い軌道へ移行(アポジキック)するための大型の軌道変更用ロケットエンジン
したがって宇宙機の全質量を動かすために割と大きな推力が必要とされます】
らしい。
https://quasar.cc.osaka-kyoiku.ac.jp/~katsura/gundam.html

このあたりは、現実の用語に合わせてみたいと思います。
(私がボーっとしていなければ……)
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