宇宙世紀に転生し、自分から強化手術を望んだ異常TS少女の話 作:Xn
デラーズ紛争は激化の一途を辿っていた。
かつての戦勝国である連邦軍も損害を被り、宇宙における軍事バランスは揺らぎだしていた。
コンペイトウ(旧ソロモン)宙域も例外ではなく、デラーズ・フリートの攻勢は日増しに激しさを増していた。
アナベル・ガトーに奪われたガンダム試作2号機による観艦式襲撃、そして核攻撃は、リリアが介入できない隙に起きた。
その、リリアが別の宙域での戦闘に参加している際に行われた大規模攻撃で、ワイアット大将も犠牲となり、コンペイトウの指揮系統は一時的に混乱に見舞われることとなる。
リリア・アストレアと彼女のシルフィードは、この絶望的な戦況の中で、連邦を支える一筋の光明のように、あるいは死神の鎌のように戦場を舞っていた。
彼女の戦果は目覚ましく、実験部隊という枠を超えて、コンペイトウ防衛艦隊の中でもその名は知られるようになっていた。
「碧いシルフィード」「ムラサメの魔女」――呼び名は様々だった。
特に、敵機を撃墜する際の冷徹なまでの精密さと、未来を予知しているかのような回避機動、そして時に見せる常軌を逸した攻撃性は、敵味方双方に強烈な印象を与えた。
しかし、リリア自身は、その名声に何の感慨も抱いていなかった。
彼女にとって重要なのは、その力でどう生き残っていくか、そして何を成せるのかという問いであった。そして、心の奥底では、どれだけ戦果を挙げようとも拭えない「偽物」であるという感覚が常に渦巻いていた。
ワイアット大将亡き後、コンペイトウの指揮は、後任として地球軌道艦隊から派遣されたバスク・オムを中心とする強硬派の士官たちによって再編されつつあった。
彼は、ソーラ・システムIIの設営と運用の現場指揮を執るため、前線に赴いていた。
表向きは改革派のジョン・コーウェン中将の派閥に属していたバスクだったが、その実、水面下では保守派のジーン・コリニー提督やジャミトフ・ハイマンといった人物たちとの繋がりを深めつつあった。
そんなバスクは、ジオン残党への徹底的な報復と、軍内部の綱紀粛正を声高に叫び始めていた。
リリアの存在は、そんな彼らにとっても無視できないものである。
ある日、リリアはバスク・オムに呼び出された。
彼の執務室は、ワイアット大将のそれよりも殺風景で、彼の厳格で非情な性格を映しているようだった。
「アストレア少尉。君の戦果は聞いている。素晴らしい働きをしているな。
特に、あの化け物じみた反応速度と戦闘技術……ムラサメ研究所というのは、興味深い研究をしているようだな」
その視線には、リリアの能力への純粋な興味と同時に、得体の知れないものへの警戒心、そして何よりも彼女を「道具」として利用しようという冷徹な計算が透けて見えた。
リリアは、その視線から目を逸らさず、冷静に彼の言葉の裏にある意図を探った。
(バスク・オム……。ティターンズの中核を担う男。
その地球至上主義とスペースノイドへの偏見は、いずれ地球圏に大きな災厄をもたらす。
だが、彼のような「力」を持つ者にこそ、私は食い込み、利用しなければならない。
それに、この男の冷酷さは、ある意味で私と似ているのかもしれない。目的のためなら手段を選ばない、という点においては)
リリアは、感情を排した声で答えた。
「恐縮です、バスク様。私は与えられた任務を遂行しているに過ぎません」
「ふん。謙遜か、あるいは本心か。どちらにせよ、貴様のような『力』は、正しく導かれ、有効に活用されるべきだ。
今の腑抜けた連邦軍では、宝の持ち腐れになりかねん」
バスクの言葉には、現状の連邦軍への不満と、新たな秩序を求める強い意志が感じられる。
「私は、ただのパイロットです。
ですが、このシルフィードの力は、もっと有効に活用されるべきだと考えております。
そして、『この戦乱を終わらせるためならば』いかなる任務も厭いません」
リリアは、あえて彼の思想に寄り添うように言葉を選んだ。
バスクは、リリアの言葉に満足げに頷いた。
「良い心がけだ。覚えておこう、アストレア少尉。
君の力が必要になる時が、いずれ来るだろう」
その頃、地球圏では、デラーズ・フリートの暴挙と連邦軍の失態に対し、ジャミトフ・ハイマンを中心とする一派が、水面下で新たな精鋭部隊の創設を画策し始めていた。
彼らは、この紛争を好機と捉え、連邦軍内部での発言力を高めようとしていたのだ。
リリアは、その流れを敏感に感じ取っていた。そして、その濁流に自ら飛び込み、それを内側から操ることを画策していた。
なぜエゥーゴではなく、ティターンズなのか。
リリアの選択は、彼女なりの合理的な判断と、痛みを伴う功利主義的な決断に基づいていた。
まず、ティターンズで無ければ、ムラサメ研究所をはじめとした強化人間開発機関の助けを得ることは難しい。
もはや薬と定期的な肉体メンテナンスが無ければ生きられないリリアにとって、エゥーゴを選ぶのは困難であるというのは大きな理由だ。
もちろん、エゥーゴは、原作主人公たるカミーユ・ビダンが参加していただけあって、確かに共感できる理念を掲げている。
だが、その実態は規模の決して大きくない反地球連邦政府組織であり、一枚岩でもない。
その活動は、結果として勢力均衡を崩し、新たな戦乱を招き、多くの犠牲を生む、とも考えられる。
そして何より、エゥーゴは「既存の権力」を持たない。
彼らのやり方だけでは、連邦という巨大な組織を変える戦力が圧倒的に不足しており、この巨大な世界の歯車を早急に動かしきることは困難だ。
実際に、ティターンズの暴挙の多くは、原作でも止められていない。
リリアが求めるのは、世界を内側から、そして迅速に変革できる「力」と「権限」だ。
そのためには、例え多くの犠牲を伴う非情な選択であったとしても、腐敗していようとも、社会全体の厚生を最大化するという名目の下、既存の巨大組織である連邦軍、そしてその中から生まれようとしているティターンズに食い込み、その頂点を目指す方が遥かに効率的だと考えたのだ。
(ティターンズは、確かに危険極まりない組織です。
その選民思想や暴力的な手法は、私の目指したい「善」とは程遠い。正直、嫌いです。
だけど、その力は本物。私がそれを掌握し、その方向性を正しく導くことができれば……。
エゥーゴのように、外から理想を叫ぶだけでは、この巨大な世界の歯車を早急に動かしきれない。
内側から、それも中枢から、強い力で変革をなさねばならない。
その過程で、多くの血が流れるとしても、それが、最終的により多くの人々を救うための最短経路だと信じるしかない。
偽物のニュータイプである私が、本物の理想を実現するためには、この茨の道を行くしかない)
そんな傲慢な考えと、自らの選択の重さに押し潰されそうな葛藤が、彼女の頭をよぎる。
これは、苦しい選択であった。
だが、後戻りはできない。
もう強化手術は受けた。選んでしまった道なのだ。
そして、この少女の身体で、どこまでその重責を担えるのか、という不安も、彼女の頭に重くのしかかっていた。
紛争は、ついに最終局面を迎えようとしていた。
デラーズ・フリートによるコロニー落とし――「星の屑作戦」の最終段階。
巨大なコロニー「アイランド・イーズ」が、地球への落下コースに乗ったのだ。
連邦軍は残存戦力を結集し、コロニー落下阻止作戦を開始。
リリアもまた、シルフィードを駆り、その戦いに参加していた。
戦場は、かつてないほどの混乱と狂気に包まれていた。コロニーの破片がデブリとなって飛び散り、無数のMSが入り乱れ、ビームがデブリを切り裂き、爆炎が宇宙を赤く染め上げる。
まるで、終末を描いた絵画のような光景だった。
「これが、戦争……。これが、人間の愚かさが生み出す地獄……!」
強化された感覚が、死にゆく兵士たちの絶望や恐怖を、まるで残留思念のように拾い上げ、リリアの精神を容赦なく苛む。
薬物で抑え込んでいるはずの感情が、奔流のように溢れ出しそうになる。
しかし、彼女は感情を押し殺し、歯を食いしばって操縦桿を握りしめた。今、感傷に浸っている暇はない。
「シルフィード、最大加速!コロニーのエンジンブロックへ向かう!
コロニー落としは阻止します!」
リリアは、周囲の友軍機に合図を送りながら、単機でコロニーへと突貫する。
彼女の脳裏には、コロニーの構造図と、最も効果的に破壊できるポイントが明確に描かれていた。
強化人間としての演算能力の賜物だ。
デラーズ・フリートのMSが、蝗のようにシルフィードに群がってくる。
ザクII F2型、リック・ドムII、そしてドラッツェ。その数は、シルフィード一機でどうにかなるものではない。
「邪魔をするなァァァッ!!」
リリアの絶叫に近い咆哮と共に、シルフィードが戦場を切り裂く。
後方からの友軍の支援射撃が、敵機の動きを僅かに牽制する。味方の援護も頼もしい。
ビーム・ライフルが閃光を放ち、次々と敵機の腕やスラスターを正確に撃ち抜く。ビーム・サーベルが血飛沫のようにビームの粒子を撒き散らし、敵機の四肢を、胴体を、容赦なく切り裂いていく。
その動きは、もはや人間の反射速度を超えていた。
コロニーが落ちることは、夥しい死体の山が築かれることと同義。
機会があれば見逃すが、悲劇を防ぐためにも、度々彼女は敵兵の命を奪っていく。
彼女はそのたび心を痛めた。
デラーズ・フリートは、確かに断罪されるべきであり、彼らを放置することがさらなる悲劇を生む可能性は高い。
しかし、リリアにとって、人の命を奪うという行為は、相手が誰であろうと、決して容易なことではなかった。
たとえ、自らの手を汚し、理想から遠ざかる行為であったとしても、阻止できる悲劇は阻止したい。
それが、平和な現世で日本人として生活していた「彼女」の倫理観の苦渋の決断であった。
それに――手加減をしていて、勝てる相手ばかりではない。
「な、なんだあの機体は!? 一瞬で3機も!?」
「連邦の新型か!? いや、パイロットがおかしいんだ! あの動きは、人間じゃねえ!」
「化け物め! 死ねぇぇっ!」
敵兵たちの錯乱した叫びが、リリアの強化された感覚に、まるで戦場のノイズのようにまとわりつく。
だが、彼女は止まらない。止まれない。
しかし、敵の数も多い。
波状攻撃がシルフィードを襲う。実弾が装甲を掠め、味方の爆風も機体を揺るがす。
警告音がけたたましく鳴り響き、リリアの額には脂汗が滲む。呼吸が荒くなる。
(まだだ……! こんなところで……! 私がここで折れたら、全てが無駄になる!)
その時、彼女は強烈なプレッシャーを感知した。
それは、他の誰とも違う、圧倒的な存在感。悪寒が背筋を走る。
(この感覚……! 間違いない、アナベル・ガトー!
そして、あの巨大なMAは、ノイエ・ジール!)
巨体が、戦場を蹂躙している。その圧倒的な火力と機動力。
そして、それを操る男の揺るぎない信念と、狂気にも似た執念。
彼の放つプレッシャーは、これまでのどの敵とも比較にならないほど強大で、リリアの脳を揺さぶる。
(あれが、ソロモンの悪夢! 本物のエース! まともにやり合える相手ではない。
……だが、ここで彼を足止めしなければ、コロニーが!)
リリアのシルフィードが、コロニーのエンジンブロックへ向かう最短ルートを塞ぐように、ノイエ・ジールが立ち塞がった。
偶然か、あるいはシルフィードの特異な動きを察知したのか。
「邪魔をするな!」
ガトーの警告を無視し、リリアはビーム・ライフルと肩部バルカン砲を連射。
しかし、ノイエ・ジールは巨体でありながらそれを躱し、メガ粒子砲の照準をシルフィードに合わせる。
(くっ……! 直撃すれば、シルフィードは持たない!)
回避行動を取るが、ノイエ・ジールの動きはリリアの予測を僅かに上回る。
メガ粒子砲が、シルフィードの左腕を掠め、肘から先を吹き飛ばした。
激しい衝撃と、左腕を失ったかのような幻肢痛がリリアを襲う。
「ぐうううっ……!」
(これが本物のエース! 私の力は、まだ……!)
圧倒的な実力差。
偽物のニュータイプ、作られた強化人間である自分と、歴戦の勇士との間には、埋めがたい壁があることを痛感させられる。
だが、ここで怯むリリアではない。
「まだだ……! 私のシルフィードは、こんなものでは!」
半ば左腕を失ったシルフィードは、しかし、残った右腕のビーム・サーベルを最大出力で展開。
ブーストを全開にし、ノイエ・ジールの懐へと突貫する。捨て身の攻撃。
ガトーも、その常軌を逸した動きに一瞬だけ目を見張った。
その機体から放たれる異様なプレッシャー――それは恐怖ではなく、何か得体の知れないものに対する警戒感だった。
まるで、飢えた獣が牙を剥くような、純粋な闘争本能とでも言うべきか。
(この小娘……ただの人間ではないのか……!?
この殺気、この執念、まるで、戦場の狂気に染まったかのようだ。
いや、それ以上に何か計算されたものを感じる)
「小賢しい!」
ノイエ・ジールのクローアームがシルフィードを薙ぎ払おうとする。それを紙一重で回避し、シルフィードのビーム・サーベルが、ノイエ・ジールのサブアームの一つを切り裂いた。
赤い火花が散り、ガトーの眉が微かに動く。その機体の反応速度は、明らかに異質だった。
「なにぃ!」
ガトーの驚愕の声。致命傷には程遠い些細な一撃だったが、彼のプライドを僅かに傷つけるには十分な一撃だった。
そして何より、この土壇場での反撃は、彼の計算を狂わせた。
しかし、リリアは、それ以上の追撃をするのは不可能だった。
ノイエ・ジールの反撃がシルフィードを捉えた。リリアはギリギリで回避したが、これ以上の継戦は自滅行為に等しいと判断せざるを得なかった。
(足止めにはなったはず! そして、奴に一矢報いた……!
圧倒的な力の差があったが、この経験を糧にしてみせる)
リリアは、そう決意し、急速に後退しながらも、コロニーのエンジンブロックへと視線を向ける。
ガトーの注意を僅かでも逸らせたのなら、その隙に他の友軍機が……。
直後、コウ・ウラキのガンダム試作3号機(デンドロビウム)が登場。
ノイエ・ジールと激しい戦闘を開始した。
巨大な機体同士の、壮絶な撃ち合い。その戦いは、周囲のMSを寄せ付けないほどのエネルギーを放っていた。
リリアは、彼らの戦いを横目に、損傷した機体で再びコロニーのエンジンブロックへと最短距離で接近する。
そこには、まだ稼働している補助エンジンと、それを守るべく布陣するデラーズ・フリートの部隊が待ち構えていた。数機のリック・ドムIIを中核に、ザクII F2型がその脇を固めている。
「来たか、しぶとい奴め! ここから先へは一歩も通さんぞ!」
リック・ドムIIの隊長機が、ジャイアント・バズを構えて突進してくる。
他の機体も、巧みな連携でシルフィードを包囲しようとする。
「地球を、こんな形で終わらせてたまるか!」
リリアは応戦。シルフィードのビーム・ライフルと、リック・ドムIIのジャイアント・バズ、ザクII F2型のマシンガンとが激しく交錯する。
ビームが敵機の装甲を溶かし、実体弾がシルフィードのシールドを揺るがす。爆炎と閃光が、視界を何度も白く染めた。
リック・ドムIIの1機とザクII F2型の1機がその隙を付いて、ジャイアント・バズとマシンガンを斉射。
片方は躱せたが、ザクのマシンガン弾が集中し、左腕を完全に破壊された。かろうじて行えたダメージコントロールの結果であった。
「まだまだ!!」
リリアは叫び、ブースターで距離を詰める。
「くっ……速い!?」
リック・ドムIIのパイロットが驚愕の声を上げる。シルフィードは、左腕を失いながらも、変幻自在の機動で敵を翻弄する。
まるで、傷を負った獣が最後の力を振り絞るように。
一瞬の隙を突き、リリアはスラスターを全開にして敵機の懐に飛び込む。
ビーム・サーベルでリック・ドムIIの腕を切り飛ばし、続けざまに胴体を貫いた。また、一人殺した……
爆炎がリリアの視界を覆う。しかし、休む暇はない。
残りのリック・ドムIIとザクII F2型が、連携攻撃を仕掛けてくる。シュツルムファウストが、シルフィードの肩部装甲を抉る。
機体制御が徐々に困難になっていく。
メインモニターにはノイズが走り、警告音が耳障りな協奏曲を奏でている。
「この程度で……私を止められると思うな!」
リリアは、強化人間としての能力を限界まで引き出す。
思考が加速し、周囲の時間がスローモーションのように感じられる。
敵機の動き、弾道、味方の位置――その全てが、彼女の脳内で完璧に処理されていく。薬物による強制的な覚醒状態。
その代償として、脳が焼き切れそうなほどの激痛が走る。
視界が明滅し、意識が途切れそうになる。血の味も口の中に広がった。
「うああああああああああっ!!」
獣のような、あるいは悲鳴に近い咆哮が、リリアの口から漏れた。
それは、痛みと怒りと、そして生き残ろうとする本能の叫びだった。
シルフィードは、まるで傷だらけの踊り子が最後の舞を踊るように、敵機を屠る。
右腕に残ったビームサーベルが空間を切り裂くたびに、リック・ドムIIの厚い装甲を、ザクII F2型の機体を、バターのように溶断する。
コックピットを貫けば、パイロットの断末魔が微かにリリアの脳裏を掠めるが、もはや彼女にそれを気にする余裕はなかった。
右肩部にマウントされたバルカン砲が火を噴き、敵機のセンサーを砕き、牽制の弾幕を張る。
時折、回避しきれない攻撃がシルフィードの機体を打ち据え、衝撃で意識が飛びそうになるのを、奥歯を食いしばって耐える。
シルフィードの機体はボロボロだった。左腕は完全になくなり、装甲のあちこちが抉れ、ときおり黒煙を吹き上げる。
それでも、その動きはなおも鋭く、鬼神のごとき迫力で敵を倒していった。
それは、生き残るための、そして託された(と勝手に思い込んでいる)目的を達成するための、リリアの常軌を逸した執念の現れだった。
敵にとっては、悪夢としか言いようのない光景だっただろう。
彼女の銀色の髪が、汗で額に張り付いている。
その美しい顔立ちは、極度の集中と苦痛と苦悩によって、暗く歪むことになった。
激戦の末、リリアはコロニーのエンジンブロックに到達。
シルフィードの残存火力を集中し、補助エンジンを完全に破壊することに成功した。
その直後、バスク・オムの指揮する連邦軍のソーラ・システムIIがコロニーへ照射される。
強烈な光が宇宙を焼き尽くす。
リリアの活躍の甲斐があり、コロニーは大きなダメージを負うことになった。そして、原作と違い、少なくない部分が地球への直撃コースを逸れることになる。
しかし、その光は無差別だった。
照射範囲内にいたデラーズ・フリートの残存兵力だけでなく、退避が遅れた一部の友軍機までもが、その業火に飲み込まれていった。
「な、何故だ!? タイミングが話と違う! まだ味方が……」
「味方ごと焼き殺す気か!」
ミノフスキー粒子の濃度が薄い宙域からの微弱な電波を拾ったのか、友軍の断末魔にも似た悲痛な叫びがリリアの耳にも断片的に届いた。
(これが、バスク・オム。これが、将来のティターンズのやり方なのか……。
目的のためなら、味方の犠牲すら厭わない……)
リリアは、コックピットの中で、力なく呟いた。全力を尽くした。だが、それでも、全てを救うことなど不可能。
そして、味方の手によって、さらなる犠牲者が生まれるという理不尽。
強化人間として生き続けるため、そして権力を欲しているとはいえ、後のティターンズに所属しようとしている、という自分の選択の重みが、胸に刺さる。
偽物の力では、これが限界なのか。
そんな無力感が、彼女の心を覆った。そして同時に、こんな非情な選択を強いる世界への、そしてそれを実行する人間への、静かな怒りが湧き上がってくるのを感じた。
星の屑作戦は、多大な犠牲と、地球圏に深い爪痕を残して終結することとなった。
そして、その混乱の中から、ジャミトフ・ハイマンを筆頭とするティターンズが、地球圏の新たな秩序の守護者として、急速に台頭し始める。
バスク・オムは、そのソーラ・システムII運用における「決断力」と、ジャミトフ・ハイマンらとの繋がりによって、その暴挙が問題視されることはなく、むしろティターンズの実戦部隊司令官として栄転することになる。
デラーズ紛争終結後、リリアはムラサメ研究所へ一時帰還した。
彼女のコロニー落下阻止作戦における戦果――特にエンジンブロック破壊という具体的な功績――は、バスク・オムを通じてジャミトフ・ハイマンの耳にも届いていた。
「リリア・アストレア少尉。いや、中尉に昇進だそうだ。おめでとう」
ナカハラ博士が、以前よりも敬意を込めた声でリリアに告げた。
「それと、君に新たな指令が下った。ティターンズへの出向だ。
ジャミトフ・ハイマン閣下が、君の能力に大変興味をお持ちだそうだ」
(ジャミトフ……! そして、バスクの推薦か。思ったよりも早く、そして深く食い込むことが出来た)
リリアは、内心の計算を隠し、冷静に頷いた。
「光栄です。今後も、私の力を存分に発揮する所存です」
「うむ。ジャミトフ閣下の作る組織は、これからの連邦軍の中核となる組織だろう。
そこで君が活躍すれば、我々ムラサメ研究所の評価もさらに高まる。
期待しているぞ、リリア君」
ナカハラ博士の言葉は、リリアという『道具』への信頼がにじみ始めていた。
ティターンズへの出向。
それは、リリアにとって新たな戦いの始まりを意味していた。
より大きな権力、より多くの情報、そして、より多くの敵。そして、より多くの「選択」を迫られることになるだろう。
彼女は、その中でどう立ち回り、どう成り上がっていくのか。
そして、その力の先に、彼女が望む「善」なる未来を築くことができるのか。
偽物のニュータイプとしてのコンプレックスを抱えながらも、彼女は自ら選んだ強化人間としての道を、ただひたすらに突き進むしかない。
原則的に感想を返さず、申し訳ありません。
感想返しの内容に対しても、何より本編に対しても、皆様の期待や要望等に添えるかどうか全く自信が持てないので、そういった方針を取らせていただいております。
この力不足について、ご容赦頂けますと幸いです。