宇宙世紀に転生し、自分から強化手術を望んだ異常TS少女の話   作:Xn

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第五話:濁流へ

宇宙世紀0084年終盤。

デラーズ紛争の爪痕が未だ地球圏の各地に残る中、ジャミトフ・ハイマン率いる「ティターンズ」は、その発足から一年余りを経て、連邦軍内部における影響力を確固たるものとしつつあった。

そして、地球至上主義を掲げ、ジオン残党の掃討とスペースノイドへの圧力を強める彼らの存在は、宇宙に新たな緊張を生んでいた。

 

リリア・アストレア中尉は、デラーズ紛争における目覚ましい戦果と、強化人間としての規格外の戦闘能力をジャミトフらに高く評価されていた。

だが、その異質さとムラサメ研究所という出自故の政治的な力関係、そして彼女自身の強化人間としての不安定な精神状態の「再調整」と、それに伴うシルフィードの専用調整に時間を要したため、ティターンズへの正式な合流は紛争終結から遅れることとなった。

 

この間、彼女はムラサメ研究所で更なる過酷な訓練に明け暮れていた。

それは、新たな戦場での生存率を高めるためのものであり、同時に、彼女の持つ特異な能力を最大限に引き出すためのものでもあった。

 

そして、彼女の機体であるシルフィードは、強化人間である彼女の鋭敏過ぎる反射神経と、予測の難しい三次元機動を可能にする特異な操縦センスに追従できるよう、さらに推力を微増強するなどの「カスタム」を受けることができた。

特に、各関節部の駆動系レスポンスと、スラスターの出力調整は、リリアの微細な操縦桿の動きにも即応できるよう、ピーキーに調整されている。

 

この徹底的な個人対応の改修により、彼女の機体は「シルフィード・カスタム」と呼称されるに至る。

 

しかし、ムラサメ研究所から、より根本的に新しい設計の高性能機が彼女に与えられることはなかった。

その背景には、ムラサメ研究所内部の技術水準を超えたと判断されたイレギュラーな存在であるリリアに、これ以上の力を与えることを警戒する一派が現れたという問題がある。

また、他の研究機関との予算獲得競争や縄張り意識といった政治力学も影響し、結果としてリリアはシルフィードの運用を続けることとなった。

 

 

ティターンズが宇宙に設けた拠点の一つに降り立ったリリアは、その異様とも言える雰囲気に息を飲んだ。

黒い制服に身を包んだ兵士たちの、規律正しくもどこか冷酷な視線。ジオン残党やスペースノイドへの憎悪と、選民意識にも似た傲慢さが、基地全体を覆っているようだった。

 

(ここが、ティターンズ。私が成り上がるための、新たな舞台。

だが、この空気は息が詰まるようだ。ムラサメ研究所とはまた違う、組織的な狂気を感じる。

ここで生き残るためには、彼らに染まるか、あるいは彼らを利用し尽くすしかない、のだろう)

 

リリアは、内心の緊張を押し殺し、背筋を伸ばして歩を進めた。

彼女の銀髪碧眼の美しい容姿は、この厳格で男性的な組織の中では否応なく目立った。

好奇、侮蔑、そして僅かな欲望。様々な種類の視線が、彼女の華奢な身体に突き刺さる。

 

TS転生したこの美少女の身体は、時には武器にもなり、時には弱点にもなることを、彼女はこれまでの経験で学んでいた。

特に、このような男が多数派の組織では、その「少女」という外見は、能力を正当に評価される上で大きな障害となり得る。

 

(舐められるわけにはいかない。まずは、実力で認めさせるしかない。

そのあとは外見を活かして取り入ってやろう)

 

彼女は、絶妙なバランスで自らを演じ分ける必要があった。

 

 

 

配属されたのは、特務MS部隊。

そこには、ティターンズが選りすぐったエースパイロットたちが集められていたが、リリアのような強化人間、それもこれほど若い少女は他に存在しなかった。

 

彼女の着任初日、ティターンズの兵士たちはリリアの銀髪碧眼の美しい容姿と、華奢な体つきを値踏みするような視線で眺め、ヒソヒソと噂話を交わしていた。

 

『おい、見たか? あの新人、硝子細工みたいじゃねえか。あんなんで本当に戦えるのかね?』

『ムラサメの出らしいぜ。強化人間ってやつか?』

『どこぞのお偉方のお若い愛人って線もあるぞ』

 

そんな下卑た言葉が、リリアの耳にも届いた。

 

古参兵であろう大柄な戦士であるボルク少佐は、その中でも特に露骨に侮蔑的な態度で絡んできた。

 

「おい、そこの嬢ちゃん。ここはティターンズだぞ。お人形遊びに来たのか?

それとも、どこぞのお偉いさんの愛人でもやって、コネで入ったクチか?」

 

周囲の兵士たちから、下品な笑い声が上がる。

リリアの美しい顔立ちと、まだ幼さの残る体つきは、彼らにとって格好の嘲弄の的だった。

 

リリアは、表情一つ変えずにボルクを見据えた。その碧い瞳は、底なし沼のように深く、冷たい光を湛えていた。

 

「リリア・アストレア中尉です。ボルク少佐、でしたか。

私は、実力を期待されてここに参りました。お言葉ですが、そのような下賤な憶測で私の価値を測られる筋合いはありません」

 

その声は、少女のものとは思えないほど冷たく、そして有無を言わせぬ威圧感を放っていた。

ボルクは一瞬怯んだように見えたが、すぐに顔を真っ赤にして怒鳴り返す。

 

「な、なんだと、このアマ!

……よし、ならばその実力とやらを、模擬戦で見せてもらおうじゃねえか!

泣きべそかいてママのところに帰りたくなっても知らねえぞ!」

 

「望むところです。お手合わせ願います。機体は、少佐と同じ配備間もないハイザックで結構です」

 

リリアは、挑発に乗る形で即答し、乗り慣れない機体を使うことも宣言した。

彼女は、この組織で生き残るためには、まず「力」を示すことが最も効果的だと理解していた。

 

 

 

模擬戦は、基地内の最新型全天周モニターを備えたシミュレーション・ドームで行われることになった。

舞台は、重力下(1G)の市街地。地球出身のボルクの得意とするフィールドだ。

 

無重力の宇宙拠点にいながら、遠心力を用いて地球上の重力環境を再現したこのシミュレータールームは、アースノイド出身者が多いティターンズにおいて、地表での戦闘技術を維持・向上させるための重要な訓練設備の一つであった。

パイロットたちは、無重力状態とは異なるGの感覚を、コックピット内で疑似的に体験しながら操縦桿を握ることになる。

 

リリアもボルクも、当時としては最新鋭のハイザックに搭乗する。

機体性能に差はない。純粋な技量のぶつかり合いとなる。

 

しばらくすると、開始の合図がモニターに表示される。

 

ボルクは、合図と共に、ハイザックのマシンガンをリリア機に向けて定期的に掃射しながらリリアに迫りだした。ときおりビル街の遮蔽物を巧みに利用しつつも、一気に距離を詰めようという算段だ。

それは、重力下での戦闘経験の豊富さを感じさせる、老獪な動きだった。

 

「舐めるなよ、小娘ェ! 重力下での戦いを教えてやる!」

 

ボルクの声が、シミュレーターのスピーカーから響く。

 

対するリリアのハイザックは、その弾幕を予測していたかのように、最小限の動きで回避していく。

ブーストを細かく制御し、ビルの壁を蹴って跳躍し、時に建物の影に一瞬身を隠す。

 

ハイザックは良好な操縦性を持っているようで、慣れない機体でも、少しづつ調整していけば、高機動を見せつけることも出来た。

もっとも、尖った調整をしてある機体に慣れたリリアからすると物足りなさもあったことは事実だが。

 

いずれにせよ、リリアのハイザックの動きは、まるで重力が軽くなったような軽快さと、精密さを兼ね備えていた。

 

「なっ……!? 当たらねえだと!?」

 

ボルクの焦りの声。彼の照準は、リリア機のトリッキーな動きに翻弄され、的を絞ることができない。

それでも、ボルクは長年の勘でリリアの動きを追い、数発の弾がリリア機を掠めた。

彼は油断できる相手ではない。

 

リリアは、ボルクの攻撃パターンを冷静に分析し、その隙を突く。

 

ボルクがマシンガンをリロードしようとした一瞬、リリアのハイザックはビルの屋上から死角を突いて彼の前に現れ、急降下し、その勢いのままヒートホークをボルク機の右肩に叩きつけた。

 

「ぐわぁっ!?」

 

激しい衝撃がボルクを襲う。右腕が破壊され、機体がよろめく。

 

「まだだ! こんなもので!」

 

ボルクは左腕のシールドでリリアの追撃を防ぎつつ、バックステップで距離を取ろうとする。

同時に、残った左腕でヒートホークを抜き放ち、反撃の構えを見せる。その眼光は、まだ死んではいない。

 

しかし、リリアのハイザックは逃がさない。ブーストで一気に距離を詰め、今度は左脚部の関節を狙ってヒートホークを振るう。

 

「させるか!」

 

ボルクも必死にヒートホークで応戦。

白熱した金属同士が激しくぶつかり合い、火花を散らす。

シミュレーターとはいえ、その衝撃と音はリアルそのものだ。

 

ボルクの太刀筋は荒々しいが、一撃一撃に重みがあり、リリアも的確に捌かなければ押し切られかねない。

 

数合の斬り合いの後、リリアのハイザックはボルクの太刀筋を見切り、カウンター気味に放った一撃が、ボルク機の左脚部を的確に捉えた。

 

「しまった!」

 

バランスを崩し、片膝をつくボルクのハイザック。

ヒートホークごと、その巨体が、市街地の道路に大きな音を立てて倒れ込む。

 

「おのれ……おのれぇぇっ!」

 

ボルクはとっさに反撃しようとするが、リリアのハイザックは既にその場を離脱し、別のビルの影に隠れている。

 

ボルクは、さすが古株、スラスターを巧みに操縦してなんとか機体を起こし、左脚を庇いながら索敵を始めた。

 

「どこだ! 出てこい、卑怯者め!」

 

ボルクが叫んだ瞬間、彼のハイザックの背後から、リリア機のマシンガンが火を噴いた。

メインスラスターを正確に撃ち抜かれ、ボルク機は完全に推進力を失う。

 

「な……馬鹿な……いつの間に背後に……!?」

 

絶望するボルクの目の前で、リリアのハイザックは距離を詰めていき、その背中にマシンガンの銃口を突きつけた。

連射すれば、コクピットまで届くだろう。

 

「……私の勝ちですね、少佐」

 

リリアの冷たい声が、ボルクのヘッドセットに響いた。

その声には、感情の起伏が一切感じられず、それがボルクのプライドをさらに打ち砕いた。

 

 

シミュレーション終了のブザーが鳴り響く。

 

シミュレーターから降りてきたボルクは、全身から滝のような汗を噴き出し、床に膝から崩れ落ちた。

その顔には、怒りよりも恐怖と、そして信じられないものを見たという驚愕の色が浮かんでいた。古強者としてのプライドをズタズタに引き裂かれた、敗北者の顔だった。

 

リリアは、汗一つかいていない涼しい顔で、ハイザックのコックピットから降り立った。

そして、呆然とするボルクと、水を打ったように静まり返った周囲の兵士たちを見据えた。

 

その小さな身体から放たれる威圧感は、先程まで彼女を嘲笑していた兵士たちを完全に沈黙させていた。

 

「これが私の実力です。まだ、何かご不満でも?」

 

その言葉に、誰も何も言えなかった。ただ、彼女を見る目が、嘲弄から畏怖へと変わっていた。

 

特に、少女のような可憐な外見と、MSを操る際の悪魔的なまでの強さのギャップは、彼らに強烈な印象を与えた。人によってはある種の倒錯的な魅力を感じたかもしれない。

 

(これで、少しは静かになるだろうか。だが、油断はできない。この組織は、馴れ合いを許さない。

常に結果を出し続けなければ、すぐに蹴落とされる。

そして、この「少女」という外見は、これからも私を試すだろう)

 

リリアは、この最初の「挨拶」で、ティターンズにおける自身の立ち位置を明確にした。

 

彼女は、愛玩人形でも、コネで入った小娘でもない。

戦うために生まれ、そして勝つために存在する、「強化人間」なのだと。

 

 

 

さて、ティターンズでの最初の実戦任務は、ジオン残党が潜伏しているとされるサイド1の、放棄されたコロニー群が漂う危険なデブリ帯――通称「亡霊の海域」――の掃討作戦だった。

 

リリアは、数機のハイザックと共に、シルフィード・カスタムで出撃した。

 

作戦ブリーフィングでは、「残党は徹底的に排除せよ」という命令が下されていた。

会議室の空気は重く、異を唱える者は誰一人いない。

 

(これが、ティターンズのやり方……。だが、無用な殺戮は避ける。犠牲は最小限に。それが、私の戦い方だ)

 

リリアは、命令に表面上は従いつつも、内心ではそう決意していた。

彼女が目指したいのは、恐怖による支配ではなく、真の秩序と平和だ。

 

そのためには、たとえティターンズという組織を利用するとしても、その手段まで染まりきるわけにはいかなかった。

 

「亡霊の海域」は、無数のデブリが漂いセンサーも効きにくい、その名の通り亡霊でも出てきそうな危険な宙域だった。

ジオン残党は、そのデブリを巧みに利用し、ゲリラ的な戦術を展開してきた。

 

「全機、散開して索敵! 油断するなよ! ここのザクは、そこらの新兵とは違うぞ!」

 

隊長機のパイロットが、緊張した声で指示を出す。リリアは、シルフィード・カスタムのセンサーを最大感度に設定し、慎重にデブリ帯を進む。

バーニアを細かく噴射させ、デブリとの衝突を避けながら、敵の気配を探る。

 

その時、強化された彼女の感覚が、大型デブリの影に潜む複数の敵影を捉えた。

事前情報によると、敵機の合計は、どうやら軽巡洋艦ムサイと、ザクII F2型4機と、リック・ドム1機。MS数は5機。

待ち伏せをしているのだろう。

 

(彼らは……戦う意志があるのか? それとも、ただ追い詰められただけか……?

いや、この殺気は……歴戦の兵士か)

 

リリアは、攻撃を仕掛ける前に、国際救難信号の周波数で警告を発した。

 

「こちら地球連邦軍ティターンズ、リリア・アストレア中尉。前方のジオン残党に告ぐ。

武装を解除し、投降せよ。抵抗は無意味だ」

 

数秒の沈黙の後、敵の隊長機と思われるリック・ドムから、老練な男の声で返信があった。

 

「ティターンズの小娘が、何を甘っちょろいことを。我らに投降などという選択肢はない!

ジオンに栄光あれ!」

 

その言葉と共に、リック・ドムがジャイアント・バズを発射。他のザクも一斉に攻撃を開始してきた。

 

「……交渉決裂、やむを得ませんね」

 

リリアは小さく呟き、シルフィード・カスタムのスラスターを全開にした。

 

敵の弾幕を巧みにかわしながら、リリアはまずリック・ドムに狙いを定める。

高性能なシルフィード・カスタムといえども、数で劣る状況は不利だ。隊長機を潰し、指揮系統を混乱させるのが最善手。

 

リック・ドムは、その巨体に似合わぬ機敏な動きでリリアを翻弄しようとするが、リリアの強化された空間認識能力は、その動きを完璧に予測していた。

 

「そこ!」

 

シルフィード・カスタムのビーム・ライフルが火を噴き、リック・ドムの脚部を破壊。動きが鈍ったところに、ビームサーベルで両腕を破壊した。――旧式機が相手なら、手加減のしようもある。

 

残るはザク4機。彼らは隊長機を失い、一瞬動きが止まる。リリアはその隙を見逃さない。

シルフィード・カスタムは残像を残すほどの高速機動でザクの編隊に切り込み、次々とその戦闘能力を奪っていく。腕を、脚を、メインカメラを。可能な限りパイロットの命は奪わずに。

 

しかし、敵も必死だ。一機のザクが、シルフィード・カスタムの背後に回り込み、マシンガンを乱射してきた。リリアはそれを察知し、急反転して回避。カウンターでザクの頭部と両腕を破壊した。

 

「……やはり、甘いですか」

 

リリアは自嘲気味に呟く。それでも、彼女は最後に残ったのザク2機に対しては、あえて攻撃の手を緩めた。戦闘能力を奪われた彼らが、被撃墜機のパイロットを拾ってデブリの影に紛れて逃走するのを、見逃すかのように。

レーダーの索敵範囲を意図的に狭め、彼らが確実に離脱できる時間を作った。

 

その直後、隊長機から厳しい声で通信が入った。

 

「リリア中尉! 敵影2機を見失ったぞ!ムサイも宙域を脱出しつつある。何をしていた!」

 

「……申し訳ありません。私の索敵ミスです。

ですが、残敵の脅威度は低いと判断します。彼らは既に戦意を喪失し、武器も弾薬も尽きかけているようでした。これ以上の追撃は、無用な犠牲を増やすだけかと」

 

「馬鹿者! 奴らが再武装して襲ってきたらどうするつもりだ!

未だに残党などやっている連中が簡単に改心するとでも思っているのか?

貴様のその甘さが、やがては『地球』を危険に晒すことになるかもしれんのだぞ!」

 

リリアは唇を噛んだ。隊長の言葉は正論だ。

 

平和な日本で育った彼女の倫理観は、この期に及んで、たとえ敵であっても命を奪うことに強い抵抗を覚える。

 

しかし、この宇宙世紀という血塗られた世界では、その甘さがより大きな悲劇を招く可能性があることも理解していた。

強化人間となり、このティターンズに身を置くと決めた以上、時には非情な決断も下さなければならない。だが、それでも――。

 

「……その時は、私が全ての責任を負い、必ずや彼らを殲滅いたします。

このリリア・アストレアの名において、『地球圏』の脅威となる者は、決して見逃しません」

 

リリアは、あえて殲滅という強い言葉を使い、毅然と言い返した。

その瞳には、先程までの僅かな逡巡の色はなく、ティターンズの軍人としての冷徹な光が宿っていた。

しかし、その心の奥底では、自らの言葉と信念の矛盾に、静かな痛みが走っていることも確かであった。

 

隊長は苦虫を噛み潰したような顔をしたが、リリアの圧倒的な実力の前に、それ以上は何も言わなかった。

 

 

 

この一件は、リリア・アストレアというパイロットが、ティターンズの中では異質な存在であることを、改めて周囲に印象付けることになった。

 

「甘い」のか、あるいは「何かを企んでいる」のか。彼女への評価は、ますます複雑なものになっていく。

 

その後も、リリアは数々の作戦に参加し、驚異的な戦果を上げ続けた。

彼女のシルフィード・カスタムは、まさしく戦場の死神として敵に恐れられ、味方からは畏敬の念で見られるようになった。

 

しかし、彼女は決して無益な殺戮は行わず、可能な限り投降を促し、戦闘能力を奪うことを優先した。

その戦い方は、ティターンズ内部では「手ぬるい」「危険な理想主義者」と厳しく批判された。

 

特に、先のジオン残党掃討作戦で、結果的に一部の敵兵を見逃したという噂は、強硬派の兵士たちに『あの女は信用できない』『いつか裏切る』『強化人間など、所詮は道具だ』といった疑念と不快感を抱かせるには十分だった。

 

だが、彼女の圧倒的な戦闘力は、そうした批判の声を力ずくで封じ込めた。

「結果」が全てのこの組織では、彼女の異質なやり方も、黙認せざるを得なかったのだ。

 

 

それに、その「甘さ」と見えた行動の裏には、リリアの計算が隠されていることもあった。

先の「亡霊の海域」での作戦においても、彼女は戦闘能力を奪った一部のジオン残党兵をあえて見逃し、彼らがムサイ級で離脱するのを黙認した。

だが、実は、それは決して単なる温情だけによるものではなかった。

リリアは、事前に情報部隊をなんとか説得し、彼らの離脱ルートと潜伏先を極秘裏に追跡させていたのだ。

 

その結果、数日後、追跡対象の残党兵が、コロニーの闇ルートを通じて補給を得ようとしていることをキャッチした。

ティターンズ情報部は、リリアから提供されたこの情報を元に、残党の巧妙に隠された補給拠点を摘発し、少ない犠牲でさらなる敵兵力の無力化をすることにも成功した。

 

リリアも、テロ行為を肯定したい訳では決して無かったし、そのために手を汚す覚悟自体はあった。

 

この一件は、リリアの行動の是非について新たな議論を呼んだ。

強硬派は「たまたま上手くいったに過ぎない」「最初から殲滅していれば済んだ話だ」と依然として彼女を批判した。

実際、それは真実であり、彼女の行為は綱渡りそのものだった。

それに、彼女の企みが失敗した事例もあった。

懐疑の姿勢は正しいものと言える。

 

たが、一部の穏健派のティターンズ上層部は、リリアの戦闘力を評価し彼女の犠牲を抑える意思を静観する姿勢を見せた。

 

そして、その「甘さ」とも取れる行動の裏にある人間性に、組織の行った非道を知り心がティターンズから離れつつあった一部の良識派たちは、密かに希望の光を見出し、彼女に期待を寄せる者も現れ始めていた。

彼らにとって、リリアの行動は、一筋の光明に見えたのかもしれない。彼女のその「甘さ」が、密かに評価されることも、ありはした。

 

 

リリアは、ティターンズという巨大な濁流の中で、自らの信念を貫き通そうとしていた。

それは、非常に困難で、危険な綱渡りだった。

 

強化人間としての力、そして心の奥底に残る平凡な日本人としての倫理観。

それらが複雑に絡み合い、彼女を突き動かし、同時に苦しめていた。

 

(私は、この組織を変える。内側から、少しずつでも。そのためには、もっと上に……もっと力を持たなければならない)

 

彼女の戦いは、まだ始まったばかりだった。

そして、その道は、血と硝煙、そして多くの犠牲者たちの骸で舗装されていくことになるだろう。

 

リリア・アストレアは、その運命を、静かに受け入れていた。いや、受け入れざるを得なかった。




ボルクさんは架空です。亡霊の海域も架空です。
こんな感じで、今後も独自設定を生やします……!
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