宇宙世紀に転生し、自分から強化手術を望んだ異常TS少女の話   作:Xn

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第六話:ガンダムの影

宇宙世紀0087年。

ティターンズがその勢力を拡大し、ブレックス・フォーラの手によって反ティターンズを掲げて設立されたエゥーゴとの対立が先鋭化し始めた頃。

 

リリア・アストレア中尉は、ティターンズの特務部隊の一員として各地を転戦する日々を送っていた。

彼女のシルフィード・カスタムは戦果を挙げ、その名はティターンズ内部でも「碧き死神」として畏怖と共に囁かれるようになっていた。

しかし、その裏で彼女の精神は、強化人間としての副作用と、ティターンズの非情な任務によって確実に摩耗していっていた。

 

 

そんなある日、リリアはサイド1の30バンチコロニー近傍宙域での哨戒任務中に、ティターンズの別部隊による「作戦」の余波に遭遇する。

 

そう、30バンチとは、ティターンズが反地球連邦運動の鎮圧のためコロニーに毒ガスを散布したという、あの悪名高い事件の跡地であった。

 

(これが……30バンチ事件。知識としては「知って」はいましたが、実際に目の当たりにすると……。

この静寂、これが、人間のやることですか……!)

 

リリアは、シルフィード・カスタムのセンサーが捉えた、生命の気配を完全に失ったコロニーの残骸に、言葉を失った。

 

激しい吐き気と頭痛が彼女を襲う。

 

(こんな……こんなことが許されていいはずがない! ティターンズは、本当に狂った組織です!

「犠牲は最小限に」? 笑わせます。

この惨状を前にして、私がこれまで貫いてきたつもりのその信念は、ただの自己欺瞞、独りよがりの綺麗事では?

私がシルフィードで敵を殺しすぎるのを躊躇したところで、この組織の巨大な悪意は、こうしておびただしい数の無辜の命をいとも簡単に奪い去る。

私は、この組織にいて、本当に世界を良い方向に変えられるのでしょうか?

私のやっていることは、ただの自己満足なのではないのでしょうか……?)

 

彼女は、ティターンズの非道さに改めて戦慄すると同時に、そんな組織に身を置く自分自身への強烈な嫌悪感に襲われた。

犠牲を最小限に、という彼女の前世の記憶に由来する信念は、組織全体の巨大な悪意の前ではあまりにも無力だった。

 

(それでも、私はここで諦めるわけにはいきません。

……そして、いつか私がこの組織の頂点に立った時。

このような悲劇を二度と繰り返させないためにも、私は、この手を血で染める覚悟を、本当の意味で固めなければならないのかもしれない。

平和ボケした日本で生きていた頃の倫理観は、この宇宙世紀では、時として足枷にしかならないのだろう。

理想を捨てては駄目だが、それを認めなければ、私は生き残れない……)

 

彼女は、強化人間らしい感情の乱高下を抑えるための精神安定剤を噛み砕き、無理やり平静を取り戻そうとした。

もっとも、この憤りの強さが、不安定な精神のみによるものな訳もなかった。

 

(この銀髪碧眼の少女の身体も、このように、同じように無惨に奪われていたのかもしれない。

この身体に、かつて宿っていたかもしれない、名も知らぬ誰かのささやかな日常や夢も。

その「失われた可能性」の重みも、私は背負っている。

強くあらねば……)

 

そして、その碧い瞳の奥には、深い絶望と、迷いながらも前に進む意思が、宿りつつあった。

 

 

 

そんな精神状態の中で、リリアは同じ強化人間であるロザミア・バダムと出会うことになる。

 

オーガスタ研究所で強化された強化人間であるロザミアが、バスクの命令でリリアの部隊に「増援」として配属されたのだ。

 

司令室で初めてロザミアと顔を合わせたリリアは、その不安定な雰囲気に息を飲んだ。

紫色の髪を肩まで伸ばし、大きな瞳はどこか虚ろで、落ち着きなく周囲を見回している。

強化処置への恐怖がまだ色濃く残っているのか、時折、何かに怯えるように肩を震わせていた。

 

その姿はまるで戦場に置き去りにされた迷子のようだった。

 

(ロザミア・バダム。オーガスタの強化人間。

原作よりも早い登場ですね。そして、この状態は……明らかに調整不足のようです。

なぜ、こんな彼女が私の部隊に?バスクめ、何を企んでいる?)

 

リリアは、ロザミアの痛々しい姿に同情を禁じ得なかったが、同時にバスクの真意を探ろうと警戒心を強めた。

 

その後、リリアはティターンズ内部で彼女に密かに情報を流してくれる、数少ない協力者の一人――強化人間の医療記録を管理する部署にいる、ティターンズの内情を知る内にリリアの善を志向する意思に共感していった若い医療事務官――から、ロザミア配属に関する不穏な噂を聞くことになる。

 

表向きは「戦力増強」と「強化人間同士の連携によって観測されるであろう戦闘能力向上の調査」が目的とされていたが、その裏には複数の思惑が絡んでいるようであった。

 

まず、オーガスタ研究所側は、ムラサメ研究所が生み出したリリアという「成功例」に対抗意識を燃やしており、ロザミアをリリアと行動させることで、リリアの戦闘データや精神的な安定性を間近で観察し、自らの強化人間調整技術に取り込もうという狙いがあった。

リリアのデータはティターンズ内でもトップシークレット扱いであり、オーガスタが直接アクセスすることは難しいため、ロザミアを「生きたセンサー」として利用しようとしたのだ。

 

だが、それ自体は上手く行けば儲けもの、という程度の大した事はない理由だ。

 

何よりも、バスク・オムにとっては、ロザミアはリリアを監視し、その忠誠心を試すための「首輪」のような存在だった。

リリアがエゥーゴ側に寝返るような素振りを見せれば、ロザミアの身柄(あるいは精神状態)を人質に取り、善人ぶろうとするリリアをコントロールしようという、非情な計算が彼の背後にはあった。

 

 

 

「リリアお姉さま……」

 

初めて会った時から、そういった調整でも受けているのかロザミアはすぐにリリアに懐き、「お姉さま」と呼ぶようになった。

その瞳は、どこか焦点が定まらず、常に不安げに揺れていた。

しかし、リリアを見つめる時だけは、不思議と信頼の光を宿していた。

 

「私、お姉さまと一緒なら、頑張れる気がする。だって、お姉さまは、私と同じだから」

 

その純粋で、しかしどこか壊れかけたような瞳に、リリアは戸惑いを覚えた。

 

(ロザミア。あなたも、私と同じ「作られた存在」。

依存先を求めて、私にすがるしかなかった哀れな子。私が人に好かれる人間だなんて、思い上がることなんて出来ない。

そして、ロザミアは、私と同じく、このままだとティターンズの道具として使い潰される運命。

私に、何ができるだろうか。

この子を救うことは困難極まる。だが、せめて、この子が少しでも安らげる場所を)

 

彼女は、ロザミアの中に、かつての自分自身や、あるいはムラサメ研究所で「処理」されていった者たちの面影を見たのかもしれない。

 

そして、自分と同じ「作られた存在」である彼女への、複雑な感情も芽生えた。

それは、同族嫌悪と、憐憫と、そして人間的な庇護欲が入り混じったものだった。

 

アニメで見るのと、実際に触れ合うのでは感情の移入の程度がまるで異なる。

この少女を守ってやりたい、という、ティターンズの兵士としてはあるまじき感情が芽生えつつあった。

 

TS転生したこの少女の身体は、時に邪魔になることもあったが、ロザミアのような精神的に不安定な者に対してはある種の「母性」のようなものを自然と引き出させるのかもしれない、とリリアはぼんやりと思った。

 

それは、彼女が強化人間として失いつつあった、人間性の欠片だったのかもしれない。

 

 

 

数週間後、リリアとロザミアは、ティターンズの新型MSガンダムMk-IIのテストが行われているグリーン・ノア1(グリプス)を防衛する任に就くこととなった。

 

その最中、エゥーゴによるガンダムMk-II奪取を目的とした奇襲作戦が開始された。

クワトロ・バジーナ大尉率いるリック・ディアス隊が、アーガマの支援を受けながらコロニーの宇宙港付近に強襲をかけてきたのだ。

 

「敵襲です! 正体不明のMSがコロニー宇宙港付近に強襲! 数は3!」

 

コロニー防衛部隊のオペレーターからの緊急連絡が、リリアの所属する部隊にもたらされた。

 

(クワトロ・バジーナ、いやシャア・アズナブル。あの赤いリック・ディアスで来たのでしょう。

やはり、ガンダムMk-IIを狙ってきましたか。ティターンズが即座にそれに気付けているとは、原作とは少し違うが、予想できる展開……

ならば、こちらもそれに対応するまでです)

 

「ロザミア、出ますよ!私たちの任務は、敵部隊の排除とガンダムMk-IIの防衛です!

コロニー内部への侵入は阻止します!」

 

「はい、お姉さま!」

 

リリアのシルフィード・カスタムと、ロザミアのギャプランが、ティターンズのハイザック部隊と共に迎撃のため、コロニー近傍の宇宙空間へと発進する。

 

リリアはここから、原作に本格的に介入していくことになる。

ティターンズで成り上がり、権力を得るために。

 

それに、ここで頑張れば、カミーユを待ち受ける過酷な運命……精神崩壊から救ってやることが出来るかもしれない。

それがどのような影響を与えるかは無論分からないが、リリアは戦うことを決意した。

 

宇宙港周辺では、既にシャアの赤いリック・ディアスが、アポリー、ロベルトのリック・ディアスと共に、ティターンズの防衛ラインを突破しつつあった。

その卓越した操縦技術と連携は、ティターンズのパイロットたちを圧倒していた。

 

(これが……シャア・アズナブル……! その力、見せてもらいます!)

 

リリアはシルフィード・カスタムでシャアのリック・ディアスに肉薄する。

 

「ティターンズのリリア・アストレアです! あなたの相手は、私が務めます!」

 

リリアは自分を奮い立たせた。

 

「ほう……ティターンズにも、あれほどのMSを乗りこなすパイロットがいたとはな。

その若さで、そのプレッシャー……強化人間か? 面白い」

 

シャアは、リリアのシルフィード・カスタムの動きに一瞬の油断も見せず、冷静に分析する。そして、そのパイロットが放つ異質な気配を感じ取る。

 

シルフィード・カスタムのビーム・ライフルが、リック・ディアスの胴体を狙って精密な連続射撃を行う。

だが、シャアはまるで未来を予知しているかのように、最小限の機動でその全てを回避。リック・ディアスの機体は、赤い残像を残しながら宇宙を舞う。

 

逆に、リック・ディアスのクレイ・バズーカが火を噴いた。その弾道は、シルフィード・カスタムの予測回避コースを塞ぐように、絶妙なタイミングで放たれる。

 

「くっ……! 読まれている……!?」

 

リリアは、シルフィード・カスタムの機体を限界まで捻り、バズーカの直撃を回避するが、近接信管が作動したのか爆風で機体が激しく煽られる。

 

「くっ……!速い、だけではない。

この読みの鋭さ、まるで私の動きが全て見透かされているようだ!これが、赤い彗星……

この差は今の私では埋められないか!」

 

リリアは歯噛みする。

パイロットの技量、経験、加えて「ニュータイプ」としての直感が、シャアを絶対的な強者たらしめていた。

 

(これが、本物のエース……! 私の作られた力では、まだ……!)

 

強化人間としての鋭敏な感覚で、シャアの次の動きを予測しようとするが、その予測を彼の行動は常にコンマ数秒上回ってくる。

 

焦りが、リリアに狙いを定めきれていない射撃を行わせた。

 

その隙を、シャアは見逃さなかった。リック・ディアスのクレイ・バズーカが、シルフィード・カスタムを正確に撃ち抜かんとする。

盾で防ぐことは出来たが、衝撃で機体が大きく揺れ、コントロールが一瞬困難になる。リリアは歯を食いしばり、必死に体勢を立て直そうとする。

 

「リリアお姉さま!」

 

ロベルトを相手にしていたロザミアのギャプランがMA形態に変形、ビーム・ライフルを乱射しながらシャアのリック・ディアスに突撃する。

その猛攻は、シャアをもってしても無視できない。

 

「ちぃっ! 新型可変機か!」

 

シャアはリック・ディアスを後退させ、アポリー、ロベルトと連携してギャプランの攻撃をいなす。

そうして出来た隙で、シャアはコロニーの無人部の壁面に正確に穴を開け、内部へと向かう。

 

リリアとロザミアは、シャアたちのその一連の動きに反応するも、アポリー、ロベルトの連携の取れた巧みな牽制射撃によって、効果的な追撃態勢を整える前に、彼らのコロニー内部への侵入を許してしまった。

 

リリアは当然彼らを追撃しようとするが、コロニー防衛の指揮系統からの命令で、宇宙港周辺の防衛ラインを優先することとなった。

ティターンズの防衛網は、エゥーゴの奇襲によって混乱していたのだ。

 

(やられましたか……!

ですが、ここで命令に背くわけにもいきません。

内部の部隊が対応するまで、来るやもしれないという外部からの敵の増援を待つしか無い。)

 

 

その頃、コロニー内部では別の騒動が起きていた。

ティターンズのジェリド・メサ中尉に名前をからかわれ激昂し暴力をふるったカミーユ・ビダンが捕まり、ガンダムMk-IIの墜落を起点にMPによる尋問から脱走。

そして、衝動的に無人のガンダムMk-IIに乗り込んでしまったのだ。

 

シャアたちは、コロニー内部に潜入していた。その道中で、ティターンズのMS部隊と交戦。

そこに、突如としてガンダムMk-IIが現れた。

 

「大尉、もう1機います!」

 

アポリーが驚きの声を上げる。

 

「アポリー、やめろ、敵ではない」

 

そして、現れたガンダムMk-IIは、ティターンズ側のガンダムMk-IIと交戦を始めた。

 

シャアは、新しく現れたガンダムMk-IIのパイロットが素人とは違う動きを見せることに興味を抱きつつ、状況を利用してもう一機ガンダムMk-IIの奪取にも成功する。

 

 

宇宙空間で戦闘を続け、コロニー外部からの増援を警戒させられていたリリアは、コロニー内部から放たれる、新たな、そして強大なプレッシャーを感じ取っていた。

それは、シャアとはまた異なる、まだ未熟で、そしてどこか不安定な、しかし純粋なニュータイプの波動だった。

 

(カミーユ・ビダン! そして、ガンダムMk-II!

なんてこと……本当に、原作通りに。

そして、この感じ、荒削りですが、間違いなくニュータイプのそれ!)

 

リリアは衝撃を受けた。

 

(これが本物のニュータイプ。作られた私には決して届かない。

この輝き、あの純粋さ。私には、ないものだ……!)

 

近づいてくるカミーユの放つニュータイプの原石としての存在感は、リリアの脳波に微細な乱れを生じさせた。

そして、その乱れた脳波が、シルフィード・カスタムの不完全かつピーキーに調整されたサイコミュ・システムに予期せぬフィードバックを引き起こし、機体のコントロール系に一瞬、僅かなノイズと反応遅延を発生させたのだ。

 

その絶妙なタイミングで、コロニー内部からガンダムMk-IIを連れてアポリー、ロベルトと共に脱出してきたシャアのリック・ディアスが、リリアのシルフィード・カスタムの僅かな挙動の乱れを正確に捉えた。

 

「まだ若いな、ティターンズのパイロット」

 

シャアの声は冷静だったが、その言葉には歴戦の勇士としての余裕と、相手を見透かすような鋭さが込められていた。

彼の赤いリック・ディアスの射撃が、シルフィード・カスタムの脚部を破壊した。

機体はコントロールを失い、回転しながら吹き飛ばされる。

 

「リリアお姉さま!」

 

ロザミアの叫びが虚空に響く。

 

 

 

その後、戦局は、カミーユの予期せぬ行動と、シャアたちの作戦成功により、エゥーゴ有利に傾いた。

ティターンズ部隊はガンダムMk-IIの2機を奪われ、大きな損害も出した。

リリアもまた、ダメージを負った機体でロザミアと共に戦線を離脱した。

 

このグリーン・ノア1での戦闘は、リリアにとって屈辱的な敗北であり、同時に多くのことを突きつけられる経験となった。

シャア・アズナブルという伝説のエースの実力。

そして、カミーユ・ビダンという「本物」の出現とその才能の輝き。

 

それは、彼女の「偽物」としてのコンプレックスを強め、同時に、それでもなお「善」を目指そうとする彼女の覚悟を、より一層困難なものへと変えていく予兆であった。

 

(私はどうすればいい……? この作られた力で、本物のニュータイプに、歴史の流れに、どう抗えばいい?

いや、抗うのではない。利用するのだ……)

 

薄暗い自室で、リリアは一人、答えの出ない問いに苦悩していた。

強化人間としての副作用である頭痛が、まるで彼女の葛藤を嘲笑うかのように、ズキズキと響いていた。

 

彼らが光ならば、リリアは影であった。それを選ぶしかなかった。

 

少女の身体は、その過酷な運命を背負うにはあまりにも華奢に見えた。

しかし、その瞳の奥には、敗北を知り、それでもなお折れるわけにいかない炎が残っていた。




ついにZに入り、いよいよ不安でいっぱいです。

前話までについて:
前話までにおける主人公の行動につきまして、皆様に様々なご理解があると存じており、特にジオン残党に対しては、より厳しいご意見が一部あることも承知しております。
主人公の判断は、宇宙世紀の常識から見れば「甘い」ものでしょうし、またティターンズに属する組織人としても危うい側面がございます。
その背景には、主人公が持つ(平和な現代日本にて大人にまで育ったことに由来する)倫理観と理想主義、そこから生じる葛藤、そしてその上での戦略的意図もあったことを描写したいと考え、前話の内容を構成いたしました。
蛇足で大変恐縮であり、また不十分かもしれませんが、この点について説明させていただきます。
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