宇宙世紀に転生し、自分から強化手術を望んだ異常TS少女の話   作:Xn

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第七話:揺れる魂

グリーン・ノア1でシャアに敗北したことと、カミーユ・ビダンという「本物」の出現は、リリアの心に爪痕を残した。

それは、彼女がどれだけ努力し、どれだけ力を得ようとも、決して埋めることのできない絶対的な壁の存在を突きつけられたような感覚だった。

 

強化人間としての力は増していく一方で、その力の根源が自らの内から湧き出るものではないという感覚は、常に彼女の足元を揺るがす。

そして、強化手術の記憶、撃墜した敵パイロットの断末魔、30バンチの死の静寂。

すべてが混濁し、リリアの意識を苛む。

 

自分は戦闘兵器にすぎず、人類種の可能性の体現たるニュータイプでは決してないという自覚。

強化人間としての力を振るうたびに、それは、まるで呪いのように彼女の心を苛み、夜ごと悪夢となって現れた。

 

戦闘中こそ冷静でいられるが、夢の中では、名も知らぬ兵士たちの血飛沫と断末魔が、彼女の五感を責め立てる。

 

しかし、彼女はいつまでも感傷に浸っているわけにはいかなかった。

ティターンズという組織は、感傷や弱さを許容するほど甘くはない。

 

結果を出せなければ、居場所はなくなる。

そして何より、彼女自身が、このまま終わることを許さなかった。

 

(私の借り物の力でも、出来ることがあるはずです。

この腐りきった組織を内側から変えるために、私はもっと強くならなければ……!)

 

リリアは、強化人間としての副作用による断続的な頭痛と、悪夢にうなされる夜を過ごしながらも、与えられた任務をこれまで以上に冷徹に、そして効率的にこなしていった。

その戦いぶりは、ますます人間離れし、機械のような精密さを持つと評された。

 

「碧き死神」の異名は、ティターンズ内部だけでなく、敵であるエゥーゴ側にも、少しずつ届き始めていた。

その名は、畏怖と共に、ある種の不気味さを伴って囁かれた。

 

少女のような可憐な容姿のパイロットが、戦場では悪魔のように敵を屠るという噂は、兵士たちの間で格好のゴシップとなる。

 

 

 

ティターンズの作戦は、ますます過激化の一途を辿っていた。

 

スペースノイドへの弾圧は日常茶飯事となり、かつてリリアが目の当たりにした30バンチのような悲劇が、いつ繰り返されてもおかしくない空気がティターンズ内部には蔓延していた。

反抗的なコロニーへの無差別攻撃や、反ティターンズ運動の指導者とされる人物の「排除」といった、良心の呵責を伴う汚れ仕事がリリアにも回ってくるようになった。

 

バスク・オムのような強硬派の彼女への不信感は根深いのか、依然として彼女を危険な任務に優先的に割り当てている。

そこには、彼女を使い潰すか、あるいはティターンズの非情さに染め上げるかしようという意図が見え隠れしていた。

 

リリア自身も、その考えを薄々感じ取ってはいたが、いま表立って反抗すれば即座に排除されるであろうことは火を見るより明らかだった。

今はまだ、力を蓄え、情報を集め、そして何よりも信頼できる味方を増やす時だと、彼女は冷静に判断していた。

 

 

それでも、彼女は自分にできる範囲で、密かに抵抗を試みていた。

 

例えば、民間人に被害が及ぶ可能性のある作戦では、シルフィード・カスタムのセンサーが『ミノフスキー粒子濃度の影響で一時的に不調をきたした』と偽り、攻撃目標の座標を意図的に僅かにずらす。

あるいは、数少ない内部の協力者の力を借り、コロニーの難民支援組織へ、匿名で、周辺宙域での『軍事演習』が行われるという曖昧な警告情報を放ち、民間人の避難を促す。

 

軍人はともかく、民間人に被害は出したくない。

もちろん、それは極めて危険な行為であった。それでも彼女は、綱渡りを続けた。

 

彼女は前世に起因する「犠牲を最小限に」という信念を、そして強化人間になる際に誓った「善を成す」という歪んだ理想を、まだ捨てきれなかったのだ。

 

(これが、私の贖罪。私が強化人間となり、この組織に身を置くことの、せめてもの…。

焼け石に水かもしれない。それでも、何もしないよりはいい。

この手を汚す覚悟はできている。だが、無辜の人々の血は流したくない)

 

 

 

その少女のような可憐な容姿は、ティターンズの厳格な雰囲気の中では異質であり、時に侮蔑の対象となり、時に好奇の的となった。

だが、リリアはその外見すらも利用した。

 

上官に取り入る際には少女らしい従順さを演じ、情報を引き出す際にはその美しい顔立ちと時折見せる年齢不相応な鋭い洞察力で、相手を油断させ、あるいは逆に威圧した。

 

その危ういバランス感覚と、任務における圧倒的な成果は、一部のティターンズ士官に倒錯的な興味を抱かせ、彼女を特別扱いする者も現れ始めていた。

 

リリアは、そうした感情すらも計算に入れ、彼らから情報を収集し、組織内での影響力を少しずつ、しかし確実に高めていった。

ティターンズという組織の闇の深さを知りながらも、その中で生き抜く術を、彼女は血反吐を吐くような思いで身につけつつあった。

 

 

そんなリリアにとって、数少ない心の拠り所となっていたのが、同じ強化人間であるロザミア・バダムの存在だった。

オーガスタ研究所出身のロザミアは、原作よりも早い登場故に調整不足なのか、リリアよりも精神的に不安定だった。

 

ある時、ロザミアの様子が急変したことがあった。

 

「いや……来ないで……!」

 

突然、ロザミアが頭を抱えて叫びだした。

その瞳は虚ろで、オーガスタでの記憶がフラッシュバックしているのは明らかだった。周囲の兵士が戸惑う中、リリアは静かに彼女に近づき、その肩を優しく抱いた。

 

「ロザミア、私の声が聞こえますか? 大丈夫。ここは研究所ではありません。

息を吸って。そう、ゆっくり。この痛みは、あなたの敵じゃない。あなたの力の一部です。

飼いならすのですよ……私のように」

 

その声は、強化人間としての冷たさと、姉のような温かさが奇妙に同居していた。

ロザミアは、リリアの声に導かれるように、少しずつ呼吸を取り戻していく。

 

ロザミアの、調整不足ゆえの純粋さは、常に仮面を被って生きるリリアにとって、どこか眩しく、そして安心できるものだったのかもしれない。

 

 

 

「今日の訓練はリリアお姉さまも一緒ですか?」

 

とある任務の合間、格納庫でシルフィード・カスタムの調整をしていたリリアに、ロザミアが駆け寄ってくる。

その笑顔は、戦場の狂気とは無縁の、ただの凛々しい少女のものだった。

 

「ええ、ロザミア。午後から模擬戦の予定が入っています。

あまり無茶をしてはいけませんよ。あなたのギャプランは体に強いGがかかりますから、精神状態が安定していないと危険です」

 

リリアは、恐る恐るロザミアの頭を撫でてみる。

その瞬間だけは、「碧き死神」の仮面が剥がれ、年相応の少女の穏やかな表情が浮かんだ。

ロザミアの存在は、リリアにとって、強化人間として失いつつある人間性を思い出させてくれる、数少ない灯火だった。

 

(私がこの子にしてやれることは少ないかもしれないけれど、それでも、この子が少しでも穏やかに過ごせるように。)

 

それは、リリアが強化人間として失いかけた人間性の発露であり、同時に、自分自身への慰めでもあった。

ロザミアを守るという行為は、リリアにとって、自分がまだ「人間」であることの証明でもあったのだ。

 

しかし、そんな束の間の安らぎも、ティターンズの非情な現実は容赦なく打ち砕く。

ロザミアの精神状態は、過酷な任務と調整によって、少しづつ「兵器」と化していくのがリリアにも分かった。

彼女に施される調整は、治療ではなく、性能を維持するためのメンテナンスに過ぎなかった。

 

 

 

そんな中、地球圏の戦況を揺るがす大きな事件の報が、リリアの耳にもたらされた。

エゥーゴが、地球連邦軍総本部であるジャブロー基地に対し、大規模な降下作戦を敢行したというのだ。

クワトロ・バジーナやカミーユ・ビダンも降下し、基地で激しい戦闘を繰り広げた様子だ。

 

(ジャブロー攻撃……! 原作通り、エゥーゴは大胆な手を打ってきましたね。いや、打たされた、というべきか。

ティターンズにとっては一応打撃ではあるはずですが、同時に、ジャブローが既にティターンズにとって重要な拠点ではなくなっていたこと、そして核爆弾による自爆計画があったことを、エゥーゴは知らなかったはず。

この作戦の後、エゥーゴはカラバとの連携を深め、アムロ・レイも合流することになる。

戦局はますます混沌としていく……)

 

リリアは、ジャブロー襲撃の情報を冷静に分析しつつも、その報がティターンズ内部に与える影響――特に強硬派のさらなる過激化――を警戒していた。

 

彼女はバスクをはじめとしたティターンズの一部に疎まれているのだろう。

カミーユの両親との「悶着」にも、巻き込まれなかった。もちろん、機会があれば確実に止めたかったが、立場上命令無視などできようもない。

 

ジェリドのような原作の登場人物と接する機会も、あまりなかった。

勿論、このジャブローの作戦に直接関与する立場にもなかった。

 

ただ、組織人であるということは、歴史に立ち会えないことも多い、ということが確かであった。

 

 

そのようなティターンズでの生活の中、ある時、リリアは、木星帰りの男、パプテマス・シロッコから個人的な呼び出しを受けた。

彼は、ティターンズ内部で急速に影響力を増している要注意人物であり、その知性とカリスマ性はジャミトフ・ハイマンも内心で警戒するほどだった。

 

その権力者による誘いを断れるはずもなく、リリアはシロッコの乗艦へと向かう。

 

シロッコの私室は、彼の趣味を反映してか、無機質な軍の施設とは違い、どこか芸術的な調度品で飾られていた。

 

(パプテマス・シロッコ。この男は、油断ならないことこの上ない。

一体何を考えている……?)

 

リリアは、差し出された紅茶を警戒しつつも一口含みながら、シロッコの言葉を待った。

彼女の強化された感覚は、シロッコから放たれる、常人離れしたプレッシャーと、どこか甘美で危険なオーラを敏感に感じ取っていた。

 

この男との会話は、一言一句が駆け引きになるだろう。そして、その結果次第では、彼女の運命が大きく変わるかもしれない。

 

それは、新たな力を得るチャンスであると同時に、さらに深い闇へと引きずり込まれる危険性も孕んでいた。

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