宇宙世紀に転生し、自分から強化手術を望んだ異常TS少女の話   作:Xn

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第八話:パプテマス・シロッコという男

リリアが呼び込まれたパプテマス・シロッコの私室は、彼の特異な感性を映し出すかのように、静謐な緊張感とどこか退廃的な美意識が同居する空間だった。

 

壁には抽象画が飾られ、棚には難解な哲学書が並び、そして部屋の中央には、彼が設計したという複数の新型モビルスーツのホログラムが淡い光を放っていた。

 

その中には、木星の高重力圏での活動を前提とした高機動可変モビルアーマー「メッサーラ」や、重武装・重装甲の試作MS「パラス・アテネ」と思しき機体の姿もあった。

それらは、既存のティターンズMSとは一線を画す、有機的で流麗な、あるいは異形とも言えるフォルムを持っていた。

 

(メッサーラにパラス・アテネ。彼がこれらを私に見せる意図は?

自らの才能を誇示し、私という駒の価値を見定め、そして引き込もうという魂胆でしょうか。

……私が知る『物語』の通りなら、この男の野心は計り知れない。ティターンズを掌握し、最終的には地球圏を操ろうとしていた節がある。

そして、その過程で多くの人間を魅了し、破滅させていく。カミーユ・ビダンを精神崩壊に追い込む。

この男は、味方にすればこれほど頼もしい存在はないが、敵に回せば最悪の相手だ。

慎重に対応しなければ、私も彼の奏でたがっている物語の登場人物の一人にされ、使い潰されるだけになってしまう)

 

リリアは、内心で転生前の知識と照らし合わせながら、シロッコの意図を探ろうとした。

この男は、ただの軍人ではない。その野心は、ティターンズという枠組みすらも超えている可能性が高い。

そして、その才能は本物だ。

 

 

「紅茶は、君の口に合ったかな?」

 

シロッコは、優雅な仕草でカップを置き、リリアに微笑みかけた。

その微笑みは、どこか全てを見透かしているようで、リリアは油断なく警戒を続けた。

 

「ええ、とても美味しいです、シロッコ大尉。このような素晴らしいお茶をいただける機会は、戦場ではなかなかありませんから。

……そして、素晴らしい設計ですね。これらの機体は、シロッコ大尉の?」

 

リリアは、少女らしい無邪気さを装いながらも、言葉の端々に知性を滲ませる。

この男との会話は、一瞬たりとも気を抜けない。

 

「ふふ、目敏いな。そうだよ、私が設計した。木星の過酷な環境は、MS開発において新たな着想を与えてくれる。

ティターンズの旧態依然としたMSでは、これからの戦いには対応できないだろう」

 

シロッコは、自らの才能を隠すことなく語る。

その自信に満ちた態度は、リリアに彼の野心の大きさを改めて感じさせた。

 

「君のような美しい女性が、血と重金属粒子と硝煙に塗れた戦場に身を置いているのは、実に嘆かわしいことだ。

君は卓越した戦闘能力を発揮していると聞き及んでいるが、その才能の活かし方はもう少し考えるべきだとも思うのだがね」

 

シロッコの言葉は、甘く、そして蠱惑的だった。

彼は、リリアの強化人間としての能力だけでなく、その若さと美しさにも価値を見出しているようだった。

それは、リリアにとって武器にもなり、同時に最大の弱点にもなり得る。

 

(私の美貌に目をつけたのか、それとも、強化人間としての私に興味があるのか。あるいは、その両方か。)

 

「お褒めの言葉、恐縮です。ですが、私には戦うことしかできません。

この力は、そのために与えられたものですから」

 

リリアは、あえて自嘲気味に答えた。

強化人間としての悲哀を滲ませることで、相手の油断を誘い、本心を探ろうという計算もあった。

 

シロッコは、そのリリアの言葉に、楽しげに目を細めた。

しかし、彼の目は笑っていなかった。

 

「本当にそうかな? 君の瞳の奥には、もっと大きな何かが見える。

それは、単なる兵器としての宿命を超えた、強い意志の光だ。君は、本当は何を望んでいるんだい?

リリア・アストレア中尉。力を持つ者が、ただ使われるだけの存在で満足できるはずがないだろう?」

 

シロッコの問いは、核心を突いていた。

そして、それはリリアの心に深く突き刺さる言葉でもあった。

強化人間として、道具として扱われることへの反発。生き残りたいという願い。

そして、この転生した世界で何か善きことを成し遂げたいという渇望。

 

(この男、やはり、ただ者ではない。

私が知る物語の通り、彼は人の心を読むことに長けているようだ。

そういえば、ジャミトフの真意を見抜いていたのもシロッコだったか。)

 

「私が望むもの、ですか」

 

リリアは、視線を床に落とし、しばし沈黙した。

そして、ゆっくりと顔を上げ、シロッコの目を真っ直ぐに見据えた。

 

「それは、この戦乱を終わらせ、人々が平和に暮らせる世界を築くことです。

そのために、私はティターンズという力を利用しているに過ぎません。

例え、この力が作られたものであっても……それを使って、何か意味のあることを成し遂げたいのです」

 

それは、葛藤の末に絞り出した、彼女の本心に近い言葉だった。

そして、シロッコが望んでいるであろう「野心」の片鱗を、あえて見せる言葉でもあった。

 

シロッコの表情が、微かに変わった。興味深そうに、そしてどこか満足げに。

 

「平和、か。素晴らしい理想だ。だが、その理想を成し遂げるためには、強大な力が必要だ。そして、その力を正しく導く指導者もね。

君は、ジャミトフ総帥が、もしくはバスクのような粗忽者が、その指導者たり得ると本気で思っているのかね?

彼らのやり方は、ただ新たな憎しみを生むだけだとは思わないか?

なんなら、君は、彼らの限界を既に知っているのではないかね?

いいかね、リリア君。常に世の中を動かしてきたのは、一握りの天才なのだよ。

そして、私はその一人だと自負している。君もまた、その資質を秘めているように見えるがね」

 

シロッコの言葉は、ティターンズ内部の権力構造への明確な批判を含んでいた。

彼は、リリアを自らの陣営に引き込むために、ティターンズの現状の矛盾を突きつけ、彼女の「理想」に共感する姿勢を見せようとしているのだ。

 

そして、「知っている」という言葉。リリアは、シロッコの真意を測りかねていた。

言葉の綾や偶然ではあろう。ティターンズに属しているのだから、彼らの限界を知るのは当然とも解釈できる。

 

(いずれにせよ、彼はジャミトフやバスクを快く思っていない。

そして、いずれは彼らに取って代わろうとしている……。そのために、私を利用するつもりか。

その行動は、私が知る物語の筋書きと符合する。だが、それ故に利用価値もある)

 

リリアは、シロッコの野心を改めて確信した。

 

 

「……私は、ただの一兵士です。組織のあり方について意見する立場にはありません。

ですが、真に世界を良い方向へ導ける指導者が現れるのなら、私はその方に力を貸すことを厭いません」

 

リリアは、あえて忠誠の対象を曖昧にすることで、シロッコに含みを持たせた。

 

シロッコは、そのリリアの返答に満足げに微笑んだ。

 

「賢明な判断だ、リリア中尉。君のような聡明な女性は好きだよ。

……ところで、君は『ニュータイプ』という存在について、どう思うかね?」

 

不意に、シロッコは話題を変えた。その瞳は、先ほどよりもさらに鋭く、リリアの心の奥底を探るように光っていた。

 

(ニュータイプ……! 私のコンプレックスを……!)

 

リリアの心臓が、ドクリと大きく跳ねた。「偽物」であるという意識が、彼女の心を締め付ける。

強化人間も、ニュータイプのような感応能力を持つが、それは本物のニュータイプとは似て非なる歪んだものだと彼女は理解していた。

 

「ニュータイプ……それは、人類の革新、新たな可能性、人と分かりあえる存在と言われていますね。

そのような力が戦争に利用されている現状は、嘆かわしいことだと思います」

 

リリアは、教科書のような当たり障りのない答えを返した。だが、その声は僅かに震えていたかもしれない。

 

シロッコは、そのリリアの動揺を見逃さなかった。

 

「ふふ……。君は、自分自身をどう思っているのかな?

君もまた、ある意味では『ニュータイプ』のような存在だと言える。

その感応力、その戦闘能力……。作られた力だとしても、それは紛れもなく君自身の力だ。

だが、君のこれまでの動きは、どこか満たされていなかったように見える。

まるで、何かを失ったかのように……あるいは、何かを求めて止まないかのように。

君は、自分を『偽物』だとでも思っているのかね?」

 

シロッコの言葉は、リリアの心の最もデリケートな部分に触れていた。

彼は、リリアが強化人間であること、そしてその苦悩を、正確に見抜いていたのだ。

 

(この男には、全てお見通しということですか。ニュータイプ能力によるものか、推測か、両方か。人心掌握はこうしてやるものなのですね。

……だが、それがどうしたというのです。

私は、私の道を行くだけだ。偽物だろうと、作られた力だろうと、それを使って生き延び、世界を変えてみせる!)

 

リリアは、シロッコの視線を真っ直ぐに見返し、毅然とした態度で答えた。

 

「私は、私が何者であるかなど、些細なことだと考えたいと願っています。

重要なのは、私が何を成すか、です。

そして、私は私の目的を達成するためならば、全力を尽くします。

この力は、そのためにあるのですから」

 

その言葉は半ば宣言で、彼女の覚悟が滲んでいた。

 

シロッコは、リリアのその言葉を聞き、初めて心からの称賛にも似た表情を浮かべた。

 

「……素晴らしい。実に素晴らしい覚悟だ、リリア・アストレア。

君のような人間こそが、次の時代を築く女性として相応しいのかもしれんな。

覚えておくといい。いずれ、君の力が必要になる時が必ず来る。その時は、私に力を貸してほしい」

 

シロッコは、そう言って立ち上がり、リリアに手を差し伸べた。それは、同盟の誘いであり、同時に、彼の野望への誘いでもあった。

そして、リリアの持つ「特異性」への興味も、そこには含まれていたのかもしれない。

 

リリアは、一瞬ためらった後、その手を静かに握った。その手は、意外なほど温かく、そして力強かった。

 

その瞳の奥には、冷徹な計算だけでなく、どこか芸術家のような純粋な探求心や、あるいは孤独の影のようなものも垣間見える気がした。

 

この男は、単なる天才ではない。複雑で、危険で、そして確実にどこか魅力的な存在だ。

 

だからこそ、多くの人間が彼に惹かれ、そして利用されるのかもしれない。

 

「……光栄です、シロッコ大尉。その時が来ましたら、喜んで」

 

 

その握手は、リリアにとって新たな選択であり、そして新たな危険への第一歩でもあった。

シロッコという男を一度敵に回せば、ジャミトフやバスク以上に厄介な相手になるだろう。

 

そして、彼の述べた「次の時代」が、リリアの望む「善なる未来」と一致する保証はどこにもない。

 

(この男を利用できるのか、それとも利用されるだけで終わるのか。

いずれにせよ、私の運命は、また大きく動き始めたようだ。私が知る物語の筋書きから、少しずつ逸脱していくのかもしれない。

それは私が望むところでもある。この手で、未来を書き換えたいのだから。)

 

シロッコの私室を後にしたリリアの胸中には、期待と不安、そして新たな野望が複雑に絡み合っていた。

 

ティターンズという巨大な組織の中で、彼女の孤独な戦いは、さらに深淵へと向かおうとしていた。




(ジークアクスでシャリア・ブルのやった読心は、いくら天然のニュータイプ同士だからといっても、他作品と比べてちょっと超越的すぎると感じたので、ジークアクスはパラレルと考えて程々に目を瞑ることといたしました。
ご了承いただければ幸いです!)
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