無自覚に周囲へ悪影響を与えるタイプのTS転生者 作:バラフバフ
こんにちは!
転生オリジナル主人公です!
いきなり何言ってんだって話なんですけどね?私、実は、一回死んでるんです。
死因とかはセンシティブなんで話さないっすけど、死ぬ瞬間はめっちゃクリアに覚えてるんですわ。
んで、次意識はっきりしたらなんとびっくり!金持ちの家の赤ん坊になってたんですわ。とどのつまり転生ってやつですわね。
しかも女児。私、前世は男性だったんで、要するにTSってやつです。作り手の癖が如実に表れるジャンルっす。
まあそんなことより、そもそもこのテンションは何なんだって話なんすけど、実は私が生まれ変わったこの世界、私が生前に読んでいた漫画の世界なんですわ。いや、アニメかもしれねーけど、いやはたまた実写の方か?どれでもいいや。
『かぐや様は告らせたい』って作品ご存知っすか?
将来国を背負って立つであろう名家の子息、息女たちが通う、日本有数の名門私立学校である秀知院学園を舞台に、その生徒会副会長を務める大財閥四宮グループの本家トップ
何でそう判断したか、つーとまあ端的に存在したからっすね、四宮財閥が、四宮雁庵が、四宮かぐやが。
つまりここは創作物の世界で、私がいる時点でSSで、その場合ポジション的に自分は転生オリ主って訳です。
いやービックリっすよ。そんでワクワクもしますわ。
勿論死にかけの私が見ている夢なんてつまんねー可能性も大いにありますよ?
でもさあ、どうせ夢ならさあ?精一杯本気で楽しまねーと勿体無くないっすか?
私は今世で名家の生まれ、しかも歳は四宮かぐやとドンピシャ同い年。
とくればもう、原作世界を楽しむにはうってつけの環境なんじゃねえの?
これ活かさない手はないっしょ?
だから私は全力でフィクション世界に転生したと信じ込んで、フィクションに合わせた痛いテンションで、滅茶苦茶第二の人生エンジョイしてやろうと思いますわ。
つっても、ね?私は、転生者が原作ぶち壊すのはちょい地雷なんですわ。
だからといってモブに徹するのは味気ないっす。やっぱり、折角キャラが近くにいるってのに関わりが0ってのはあまりに勿体無い。ゲスト以上準レギュラー未満なポジションが理想っすかね。
出しゃばりすぎず、かと言って完全な無名でもなく、程々に主要キャラと親しくて、何なら物語に関係のないところでは一緒に遊んでいたりもする。
そういう人間に私はなりたいわけですよ。
と、来ればもう努力しかないっす。
こっからバリバリの進学校で存在感示していかなきゃならないっすからね。主要キャラどもはどいつもこいつも癖のある連中ばっかりです。彼らと親しくなるには必然、私も何か特異なところが欲しいところですわ。
まあ最悪、生徒会に押しかけて入り浸る人間ぐらいになれたらいいんですが、とにかく努力して損はありません。
勉学に習い事、我が家特有の処世術とやることは異常に多いですが、しかし不思議と苦ではないっす。好きこそものの上手なれ、ですかね。将来を考えればモチベしかないっす。
いやー、これからの青春、わっくわくですわ。
―――――
扉。
内と外を区切る物理的障壁であり、閉ざし開かれるその性質から様々な示唆に富むアレゴリーとしても機能する。
固く施錠された心の在り方として、或いは新たな世界に踏み出す好奇の象徴として、そして或いは、内に抱えた秘密を外から隠す壁として。
その先にあるものが果たして希望か、絶望か、それは開かれる瞬間まで分からない。
そして今、また1人、扉の前でその先の秘密に対峙する少女がいた。
彼女は四宮かぐや。
日本有数の進学校にして古くは貴族や豪族を多く抱え、現在においても多くの名家や富裕層の子どもを擁する由緒正しい名門校、ここ私立秀知院学園で生徒会副会長を務める彼女だが、まさに今その生徒会室の扉の前で、その扉を開くでもなく、この場から立ち去るでもなく、ただただ扉の隙間から中の様子を覗いていた。
彼女は文武に優れた天才であり、その血筋と能力に裏打ちされた確かな自信を持っている。
そんな彼女が、彼女が所属する生徒会の活動場所に立ち入れずにいるこの状況、内部では一体どんなおぞましい事態が起きているのか。
「ほら土産物買ってきたよ」
「ああ、ありがとう。悪いな」
(会長が女子生徒と親しげに会話している!?)
彼女が密かに思いを寄せる秀知院学園生徒会長白銀御行が女子生徒と会話していた。
彼女の視点からでは女子生徒の顔を伺うことは出来ないが、会話を聞くにかなり親密な関係であるようだ。
(会長が生徒から慕われているのは当然として、こんな親しげに話す相手が女子生徒に居たなんて…完全にノーマークでした)
「フランスだったか?どうだった?」
「いやー、何度行っても新鮮な発見があるね。行く度に先進的で独創的な価値観と巡り会えるよ。例えば…」
「昆虫食とか」
「………そうか」
「お!気絶しなかったか!流石に生きてない虫はイケるのかな?」
「……なあ、折原。貰ったら返すのが礼儀だと思わないか?」
「………はい」
「ありがとう、この礼はきっちり返してやろう」
「そ、そんな怒るなよー。そのタガメのパックはちゃんと回収していくからさー。ほら、底の方にはちゃんと普通のお土産もあるよ?」
「……ハアー、まあいい。誤魔化されてやる」
(何ですか。今の気の置けないやりとりは)
勝手知ったる仲のようなやりとりにかぐやの中で沸々とどす黒い感情が渦巻き始める。
それと同時に彼女は女子生徒の正体に思考を巡らす。
(…しかしこの声、聞き覚えがありますね。それにオリハラという名前…いえ、まさか。彼女が会長と親しくするはずがありません)
「そういえばこうしてゆっくり話すのも久しぶりだね。一年の時以来じゃないかな?」
「…確かにそうかもな。新学期から何かとお互い忙しかったからな」
「ま、遊びたいときは気軽に声掛けてくれよ。じゃ」
「ああ、また」
(…!)
かぐやが思案している間に二人は会話を終え、謎の女子生徒が扉へと向かってきた。
かぐやは素早く身を翻し、扉を開いた際丁度死角になるよう扉の脇へと移動した。
すぐに扉が開け放たれ、女子生徒の顔が目に入る。
癖のあるミディアムショートヘアに覇気の無い眠たげな目、整ってはいるがどこかだらしなさを感じる相貌は、かぐやも確かによく知っているものだった。
(よりにもよって彼女ですか…)
秀知院学園二年、
学期末試験においては学年四位の実力者。
学園の高等部風紀委員長を務め、その才は勉学に留まらず音楽、絵画、スポーツなど様々な分野で幾度となく勝利を勝ちとってきた天才。
とはいえ、それらの経歴のみであれば特段かぐやの目に留まることはなかっただろう。
折原巡がかぐやから
折原家はかつて主要な財閥に数えられていた折原グループの支配者であった。
しかし、その苛烈な利益第一主義は内外より反発者を生み、結果として折原グループは彼らの手によって様々な不祥事が明るみに出たことにより崩壊、買収や倒産によってグループの殆どを失うことになった。
ここで終わっていれば、折原という名にかぐやが注視することはなかっただろう。
折原グループの帝国は確かに崩れ去った、しかし、彼らはまた新たな帝国を築こうとしていた。
その立役者が現折原家のトップ、折原巡の父親である。
彼は折原グループの崩壊後、自身の手に残された僅かな会社を元手に、僅か十数年で新たなグループを形成してみせたのだ。
彼の神業とも言える復活劇は、彼の経営能力によるところも勿論大きいが、何よりその人脈の広さが強く働いていた。
彼は学生時代より人望に富んでおり、帝国崩壊前から外部に自身の交友関係からなる巨大なコネクション網を形成していた。彼が築いた新たな帝国はそれが多少装いを変えたに過ぎないとも言えるが、彼の強みはそれでも尚、彼を支配者としてグループを機能させる求心力の高さにある。
瞬く間に復活した折原グループ、依然としてかつてほどの力を取り戻すには至っていないが、それも時間の問題だろう。
そんな折原だが、実のところ四宮との関係はかなり険悪である。
古きより鎬を削りあってきた商売敵であったこともそうだが、グループ崩壊時に四宮が多数の引き抜き、不祥事のリーク、企業買収を行ったことも強く尾を引いていた。
加えて現在グループのトップである折原巡の父親がその反四宮の急先鋒ときている。
そうなれば当然、その娘である折原巡をかぐやが警戒するのも当然と言えるだろう。
そんな彼女が白銀御行と友人関係にある。
これは一体どうしたことか。
確かに折原巡の学内における交友関係は広い。人望の厚さは学内でもトップクラスである。
まるで彼女の父親のように。
だが、それはあくまで有望な人材との人脈形成という意味が強く、故に優秀であれど一般家庭出身である白銀御行と交流を持つ意味は薄いとかぐやは考えていた。
だからかぐやは折原巡を
それがまさかあれほど親しげにしているとは。
考えられるのは、親外部入学生側への目配せ、そして有望株の引き抜き。
白銀御行は優秀だ。学年一位、それも四宮かぐや、四条眞妃、折原巡ら天才たちを抑えての一位だ。
いずれひとかどの人物となるのは間違いない。
家格は確かに劣るが、それを差し引いても手間を掛けて懐柔するだけの価値を認めたということだろう。
慕う人間が評価されることはかぐやにとって嬉しくはあるが、今回ばかりは素直に喜べそうにない。
(…面倒なことになったわ)
何故ならかぐやはよく知っていたからだ。
折原巡が実に狡猾な難敵であることを。
ーーーーー
転生したと自覚してからそこそこ経ちましたけどね。
いやー、どうにもね。
色々なことが思い通りにいかないですわ。
まずね、皆さん、自分が幼児になったと考えてください。
どういう態度で生活します?
そりゃ幼児になりきりますよね?ベラベラ大人みたいに喋る子どもとかめっちゃ怖いし。
しかし私の場合ですね、気に入られようと変に我を出してしまったんですよ。
結果、余計な気を回し過ぎたせいで、大人並みに妙に目端のきくキモい子ども、になってしまったわけです。
それで従者さんからはドン引かれることになりましたわ。
あーあ、私も四宮かぐやと早坂愛みたいな関係の人欲しかったなあ。
さらにそんな私の様子が親父殿の目に留まり、何が彼の琴線に触れたのか、当主直々に人心掌握術を教え込まれることになりましたわ。
んー、違う!私が目指してたのってもっとこう、フワフワした感じのね?何かこう、違うんですよ!
そんな人を上手く使役する方法だとかアジテーションの極意だとかは求めていないんです。私はただ何となく他人の青春を眺めてニヤニヤして生きていきたいだけなんですから。
いや、いいんですけどね?あって困るようなものでもないですし、その結果さりげない気の遣い方が出来るようになってキモさは大分減りましたし。
しかし問題は親父殿の私の教育に対するモチベーションの強さの理由なんす。
それが才能溢れる私への期待100%なら良かったんですけどねー。
どうやら彼、四宮家に滅茶苦茶恨みがあるみたいなんですわ。
んで、私が丁度四宮の娘と同学年になるもんだから、何か矢鱈と対抗心燃やしてるんですよね。
そんな感じだから折角秀知院学園幼等部に入っても、こっちから四宮かぐやに近づける訳もないし、こっちの素性知ってんのかあっちも何かこっちを避けてる感じあるしー、あーあ、ままならねー。
更には四宮憎しのついでとばかりに、うちは四条にも睨みを利かせてやがりまして、その関係者、当然そのご令嬢とお近づきになるなんてもっての他なんでございますわ。
あー、畜生。
本当はさー、キャラと広く浅く幼なじみになってさー、たまに彼らの恋愛話を聞くみたいなさー、そういうポジションとかも想像してたわけよ。
幼なじみどころか近づくことすら無理ですわ。
となると、消去法であの子しかないわ。
まあ、一応大本命ではありましたよ。何せ彼女友達多いから1人ぐらい増えても物語に影響なさそうだし。
問題はあのノリに自分は対応できるのかですが、まあ、親父殿仕込みのコミュ力を信じましょう。
という訳で早速アプローチに行きますかね。
未来のラブ探偵さんに。
ーーーーー
さて、折原巡の狙いが何であれ、四宮かぐやが気掛かりなのは白銀御行の彼女に対する認識である。結局のところ彼が彼女を単なる友人として認識しているのであれば一先ずは問題ないのだ。
しかし…
(…会長に直接訊いてしまえたなら話は早い。でも、でもそんなことをしたら…
『会長!折原さんとはどういう関係なんですか!?一体お二人はいつ頃からのお知り合いで、どういった出会いで、お互いどういう認識でいらっしゃるんですか!??』
『ほう?そんなに気になるのか?俺がたかだか数分女子生徒と会話している様を見て、そうも取り乱すとはな。
お可愛い奴め』
(…そんなこと出来るわけないじゃない!!)
というわけで、かぐやは少し迂遠な方法を選択することにした。
折原巡が去り、少し経ってから。
「こんにちはー!」
「おう、来たか。四宮、藤原」
「遅れてすみません、会長」
「いや、構わない。俺もついさっき来たところだしな」
四宮かぐやは生徒会書記である"
それは覗き見に対するアリバイ作りもあるが、もう一つ、藤原千花を用いたある目論見があった。
「あ、お菓子がある!」
「ああ、友人から旅行土産として貰ったんだ。生徒会役員にだそうだから、二人とも好きに食べてくれ」
「ホントですか!じゃあ折角なので今頂いちゃいます!」
「では、私も。会長も如何です?少しお茶にしませんか?」
「…そうだな、頂こう」
入室とともに折原巡の持ち込んだものへと話題が向く。
ここまでは想定通り。
「んん-久しぶりに食べましたけどやっぱり美味しいですね。でもよく手に入りましたね、これ確かお店の高級会員になって予約しないと買えなかったはずですよ?」
「……そんなものの上に虫を載せるなよ」
「?会長、何か?」
「いや、何でもない」
そう、遠目に見ても分かるほど明らかに折原巡が持参した土産菓子は高価で希少なものだった。
「こんなのポンとくれるなんて……会長のお友達ってもしかして女の子だったりします?」
「ああ、まあ…」
「やっぱり!その人、絶対会長に気がありますよ!だれだれだれ!?二年生ですか!?私の知ってる人!?」
となれば、当然のようにその友人の正体へと話題はシフトする。
そしてそれが折原巡であることが藤原千花を必要とした理由だ。
かぐやは何度となく藤原の家に外泊したことがある。当然、彼女の部屋に訪れたこともあり、その際に彼女と折原巡が二人並んで写っている写真が飾ってあるのを目にしていた。
本人から直接聞いた訳ではないが、恐らく藤原と折原巡は友人関係にあるのだろう。
また自身の部屋にツーショット写真を飾るほどだ、相当親しい仲と見て間違いない。
「知っているかは分からんが…二年C組の折原だ」
意外な人物が共通の友人を持っていた。
話が盛り上がらないはずがない。
そのまま話題の流れに乗る形で問いかければ、自然な形で白銀から折原巡との関係についても聞き出せるだろう。
そうかぐやは考えていた。
しかし誤算だったのは
「…え?折原って、巡ちゃ…折原巡さんですか?」
藤原の折原巡に対する心情だった。
彼女に似つかわしくない、何処か沈んだ戸惑いの声にかぐやは驚きを隠せなかった。
てっきり意外な名前に好奇心を露にした明るい声が聞けるものと思っていたのに。
藤原の反応に白銀もまた怪訝そうにしながら答えた。
「ああ、そうだ。…藤原書記とも知り合いなのか?」
「…ええ、まあ、ははは、そう、ですね、はい。知り合い……まあ、はい…知り合い……です」
煮え切らず、歯切れも悪く、ひたすらまごついて要領を得ない。
普段の話したがり聞きたがりの彼女は何処へやら、天真爛漫さは鳴りを潜め、ただただ居心地悪そうに言葉を濁すのみだった。
結局その日その話題が続けられることはなく、下校の時間まで一度も触れられることもなかった。
その間も藤原の調子は戻ることがなくぎこちないままで、かぐやは懸念を解消するどころか、新たに抱えることとなってしまった。
ーーーーー
さて、藤原千花に近付くために何をするべきか。
ボードゲームや犬、恋愛話。彼女と接点を持つ手段は数あれど、やっぱりここは一番エモい奴で行こうと思いますわ。
それは音楽。やっぱりピアノとも思いましたが、あちらは天才、同じ土俵で挑むのはちょっとね。
というわけでヴァイオリンを始めることにしました。まあ、ピアノでライバルになるよりもね、別分野で意識し過ぎないながらも、お互い尊敬できる関係になるのがいいかなと。あと、あわよくばデュオとかして相棒的ポジションに収まりたいというのもあるっすね。
つーわけでヴァイオリンを滅茶苦茶練習してから彼女に近づいたわけですが、拍子抜けするほどあっさり仲良くなれましたわ。
いや、彼女超フレンドリーで、別に音楽やってなくてもイケそうな程でしたわ。何だかねー。
ま、その後すぐにデュオでコンクール出るか的な話にもなったんで、無駄ではなかったんすけど。
それはいいんすけどねー、彼女、天才過ぎるわ。
何か全然敵わない感じ?
もう小等部の間は毎年どっかのコンクールに一緒に出てたんすけど、その度に才能の地力ってのかなー、資質の違いがどんどん浮き彫りになるっていうかねー、マジ辛いよ。
私も散々練習してんだけど、何かもう、自分の天井が見えるっていうかさあー、追い付けてない感じがして。
早々に自分の才能の無さには気づいてたからさー、見捨てられたくなくて他の楽器も始めてみたりしたんだけど、逆にオーバーワーク過ぎて全体の質が下がったりしてねー、バカか。
一方で彼女は彼女で何か病みがちってか、何か疲れてるっぽいんですけど、なかなかやめないんですよ。
原作読んだ感じ中等部の頃にやめてるはずだと思ったんですけど、中等部に上がって暫くしてからも全然続けてるし。
これ、私がいるせいだったりします?
いや、やめるきっかけはかぐやの『ピアノやめたら?』発言だから私は関係ない………はずはないよなあー。
てか、私が把握してないだけで、もうそのイベント消化してるかもしれないし…。
だとしたらヤバくね?
ピアノやめねーとかぐやと友達にならないし、あのちゃらんぽらんな感じにもならねーじゃん。
ここでやめなきゃキャラ改変のキャラ崩壊よ。
あー、参った。
てか、よく考えたら私邪魔だな。
あ、そうじゃん。私が疎遠になりゃいいんじゃん。
ーーーーー
折原巡さん…巡ちゃんとは、その知り合いです。
……いえ、ごめんなさい。誤魔化しました。
昔の友達です。
あ、別にその!あの子が嫌いだとかじゃなくて!
寧ろ大切な、凄く大切な人なんです。
友達だって今はもう言えないけれど、少なくとも私はそう思っています。
巡ちゃんと友達になったのは思い出せないくらい昔です。
何しろ幼等部の頃からの付き合いなので。
自慢じゃないですけど、あの頃巡ちゃんと一番仲が良かったのは私だったと思います。
何処に行くにもいつも一緒でー、お互いに名前で呼び合っててー、本当に自他共に認める大親友って感じでー。
本当に……"普通の親友"でした。
仲は凄く良かったけれど、あくまでも友達だったはずなんです。
その関係が変わったのは、あの子がヴァイオリンをやっていると知ってから…私があの子と二重奏を組むようになってから。
話変わりますけど、巡ちゃんって凄いんですよ。
勉強もスポーツも何でも出来る天才って感じで。
でも凄いって思ってた反面、ちょっと悔しかったんですよね。
それに昔の私って真面目ちゃんだったので、頑張ってるのに巡ちゃん程上手く出来ないのが不満だったりもしたんです。
だから、あの子も音楽をやっているって聞いて、やっと自分の得意な分野でいいところを見せられるチャンスだと思ったんですよ。
私が二人で二重奏をしたいと言ったら、どうやら巡ちゃんも私と演奏してみたいと思っていたみたいで巡ちゃんも快く引き受けてくれました。
その時点で嫌な予感はしていたんですけど、やっぱり巡ちゃんも相当上手くて、あんまり思っていた通りのことにはならなかったんですけどね。
ただ、周りの評判はとても良くて、お互いの音楽の講師からコンクールに出ることを勧められる程だったので、私も巡ちゃんも周囲に押されるままに出てみることにしました。
そうしたらなんと初出場で最年少ながらに入賞。
確かな実績が出来たことで、お互いソロの練習だけでなくデュオの練習も本腰を入れてやることになりました。
それから毎年必ずコンクールで名前を残すようになって、当然名前もソロの時以上に知られるようになって、周囲の期待も大きくなっていって。
そして、そして。
私達の関係は歪んでいきました。
毎日毎日何時間も練習して、個人の練習もあるのに、毎日毎日顔を合わせて。
次第に顔を見るのも嫌になって、次第に親しみが薄れてきて、次第に憎しみが顔を見せるようになって。
互いに同じレベルでいなくちゃいけなくて、互いの成長が恐ろしくて、互いの失敗に安堵して。
そんなに苦しいのに、そんなに辛いのに。
互いがいるから続けられた、でも互いがいるからやめられなかった。
もう互いに限界が近いのは分かっているのに、それでも私達に逃げ道はありませんでした。
それなのに辞められたきっかけは2つあるんです。
一つは大切なある人の言葉。
そしてもう一つは、
巡ちゃんが私から離れたからです。
きっかけは何だったんでしょう。
でも多分ですけど、巡ちゃんも嫌だったんでしょうね、あの状況が。
いつの間にか彼女のデュオのコンクール出場が取り消されていて、練習にも来なくなって。
あの子が突然そんなことをしたものだから、私は問い詰めに行ったんです。
そうしたら
『ああ、私はもうやめるから』
『今まで仲良くしてくれてありがとね、藤原さん』
『さようなら』
そう答えたっきり、あの子は今に至るまで私と会話することはなくなってしまいました。
答えを聞いて私も怒りましたけど、でもやっぱり、内心ではほっとしていたのかもしれません。
巡ちゃんと友達のままだったら、きっとずっとあのままでしたから。
だからこうして今の距離感になったことは正しいことだったんだと思います。
でもこうも思うんです。
もしかしたら別の道があったんじゃないかって。
もし、巡ちゃんが私から離れようとしたあの時にきちんと話し合っていたなら。
もし、巡ちゃんが言い出すより早く自分からピアノをやめていたなら。
もし、私がそもそもデュオを組みたいと言い出さなければ。
きっと私達は今も大親友のままでいれたんじゃないかって。
……あはは、たらればなんて考えてもしょうがないですよねー。
後悔しても、全部遅すぎますし。
だから……
友達じゃないけど、大切な……いつかまた友達になりたい知り合いなんです。