昼ドラゴン   作:のんびりスイミー

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第11話 夏風邪フィルちゃん

 

 

「にゅぁ~」

 

 夏の夜。

 今日はフィルと俺の実家の近く。

 さらさらと流れる浅い川に二人並んで身を(ひた)していた。

 

 最近はフィルのおかげで村と街とを行ったり来たり。

 街の生活も刺激があっていいが、比べてみると静かな村も悪くはない。

 何よりこの時期、山の上の方が気温が体感四度くらいは低かった。

 

「しあわせなのじゃー……」

 

 暑いのが苦手なフィルは最近は夜の方が過ごしやすそうだ。

 岩の上にタオルを一枚。枕として頭を乗せ、ふよふよ手足を浮かべている。

 尻尾はうまい具合に川底の(みぞ)()めているらしい。

 

 リンリンと鳴く夏の虫。澄んだ川辺には黄色、黄緑、白にピンク。色とりどりに光る蛍がゆらりゆらりと辺りをほんのり照らしていた。

 川辺には岩を積んで作った焚火炉(たきびろ)に、まだ少しパチパチと(たきぎ)が燃えている。

 

 かれこれ一時間くらい並んでせせらぎに揺られ。

 気持ちはいいがそろそろふやけそうだった。

 

「フィル……そろそろ戻らないか?」

「そーじゃの~……」

 

 フィルはのんびり返事をする。

 

 今日の目的は一応キャンプ。

 ただ、キャンプといっても別にどこかに行ったり、テントを張って一泊するようなことはせず一緒にバーベキューして水浴びしただけだった。

 はたしてこれをキャンプといっていいのかは(はなは)だ謎だったが、フィルは喜んでいるのでよしとする。

 

「なんだったら今日はここで寝てもいいんじゃが」

「風邪ひきますよ」

「それもそうじゃの。戻ってアイスでも食べるの――くしゅん!」

 

 既に手遅れのようだった。

 フィルはザブリと川から身を起こす。夏でも羽織っているローブは川辺に畳んでいたが、黒のワンピースは水でピタリと肌に張り付いていた。

 けれど立ち上がってふるふると長い髪ごと身を振るえば衣服は一瞬で乾いてしまう。

 

 俺も肌着一枚。

 立ち上がって着たまま軽く絞るがなかなか気色悪い感触だった。

 

「うー……なんだかちょっとだけフラフラするのじゃ」

 

 まだそこまで体調が悪そうでもないがそんな風に言う。

 

「ちょっといいか?」

「んー……」

 

 おでこに手を持ってくるとフィルはされるがまま目を細めた。

 フィルの体温はもともと人より十五度くらい高い。それだったらむしろ夏は涼しく、冬は暖かそうなものだが、夏は暑いし、冬は寒いらしい。

 

 ずっと触っていると低温ヤケドしそうなくらいにはフィルのおでこは熱かった。

 

「微熱かな」

「メディの手は冷たくて気持ちいいのー」

(うち)まで歩けるか?」

「うむ、戻ってゆっくりするのじゃ」

 

 ここから家まで5分もない。

 無理そうなら背負っていくつもりだったが、そこまでではないようだった。

 焚火(たきび)を消した後、ゆっくり水辺を下っていく。

 

 この年になって一人夜の森を出歩くこともない。

 けれど、夏の森。星と蛍に照らされた暗がりを歩く心地は案外悪くなかった。

 

 

「にゃふ……っ」

 

 家に戻るとすでに敷かれた布団の上、ぽすんとフィルは身を投げ出す。

 中央に囲炉裏(いろり)のある狭い居間。両親の別室もあるにはあるが、せっかくなので囲炉裏を挟んで二人分の布団を並べている。

 

「ふぅ。この時間になるとようやくちょっと涼しいの」

「そうだな」

 

 そういって玄関の横。

 氷室(ひむろ)を持っているご近所さんから貰ってきた氷袋(こおりぶくろ)に羊牧場で作っているシープミルクのアイスクリームの入った銀色の容器。腐るものではないし年中あるのだが、この時期は夏みかんやブルーベリー、木苺(ラズベリー)味などが揃っていた。

 器に一掬(ひとすく)い乗せて木のスプーンをアイスに差すとフィルのもとへ持っていく。

 

「ブルーベリーの方でいいか?」

「うむ」

 

 器を差し出すがされどフィルはそれを受け取らず。

 

「あー」

 

 そういって口を開けてくる。

 フィルと過ごして感じることがいくつかあるが、彼女は甘えると決めた時はもう恥も外聞も竜のプライドもかなぐり捨てて全力で甘えてくる(ふし)がある。

 ……いや、逆にそれが竜族の潔さということか。

 

 まぁ、体調の優れない彼女にノーということもない。

 スプーンですくって口元まで運んでやるとぱくりと頬張った。

 

「うむ、美味いのじゃ!」

 

 フィルは元気だ。

 

「それは結構」

「お主が体調が優れない時はわらわが看病してあげるのじゃ」

「あんまり体調崩さないんだけどな。俺は」

「それならそれが一番じゃ」

 

 そういってまたフィルはんあーと口を開けるのだった。

 

 深夜。

 時間が()つにつれて少しだけ熱が出てきたようなので頭には氷袋。

 けれどそれも本当に一瞬で溶けてしまうので隣で手の脈に触れ涼しくしてあげる。

 

「明日は一緒にこれができるじゃろうか」

 

 そういってフィルはごそごそと手を伸ばしてパーティのいる街で手に入れたらしい白い円盤を胸元に持ってきた。

 どうやらたまには外で遊びたい気分なこともあるらしくその手には白いフリスビー。

 正直いってこのクソ暑い中、別にやりたくもないのだが、遊ぼうと言われて悪い気はしない。

 

「体調がよくなったらやろう」

「そうじゃの。わらわの絶技(ぜつぎ)を魅せてやるのじゃ」

 

 フリスビーに絶技とかあるの?

 気になったが尋ね返す前にフィルはすーすーと目を瞑って眠ってしまった。

 額の汗に髪が張り付いていたので、ゆっくりタオルで拭いてやる。

 

「……ふふ」

 

 夢見は案外悪くなさそうだった。

 

 

 **

 

 

 翌朝。

 

「よしっ。では行くのじゃ!」

 

 フィルは全回復していた。

 羊牧場の草原の上。

 

「じゃ、じゃあいくぞ……!」

「準備OK、なのじゃ!」

 

 俺は隣にいるフィルに声をかけるとフリスビーを全力で投げた。

 一秒、二秒。フィルは目を瞑ってまだ動かない。

 そして三秒経過した瞬間。

 

 びゅん! と風切り音を立て一瞬。途中側転にバク転を組み合わせ地面に落ちる前にキャッチしてズサリと地面を滑った後。

 ぴょんぴょんとこちらに戻ってきた。そうしてフリスビーを手渡しされる。

 

「この遊び、フィルの負担デカすぎないか?」

「でも、こういう遊びって聞いたのじゃ」

 

 騙されてるぞ、フィル。

 

「案外楽しいのじゃ」

 

 まあ、一概に間違ってるとも言い切れないが、楽しんでるならいいだろう。

 

「それならもう一回いくぞ!」

「うむ! なのじゃ!」

 

 

 俺たちはいっぱいフリスビーで遊んだ。

 

 

 

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