昼ドラゴン   作:のんびりスイミー

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第15話 御者のお仕事

 

 

 ギルドで依頼を受けてみる。

 受けた仕事は荷馬車での素材の運搬。

 

 まだまだ暑い夏の盛り。

 せっかくの休みにフィルを付きわせるのも悪いかと思ったが、頼んでみたら「んー、よいぞ」と二つ返事で頷いてくれた。

 

 まだ朝の早い時間。

 (ほろ)馬車の荷台の前。

 フィルと俺でギリギリ並んで座れる御者(ぎょしゃ)台の上、ゆらゆら荷台を引く一頭の馬の歩みに揺られるのは案外ゆったりとしていて心地いい。

 

 フィルは日除けに麦わら帽子をかぶっていた。

 狭いが馬が通れるように(なら)された山の道。麦わら帽子の上にさらさらと木漏れ日が流れている。

 

「案外この仕事も悪くないな」

「お主も勤勉じゃのー」

 

 フィルは呆れたように帽子の影からこちらを覗く。

 

「ちょっと前からやってみたかったんだ」

 

 御者は常に人手不足の仕事の一つ。

 その理由の一つが単純に街の外が危ないということ。

 街のすぐ近くはそれなりに魔物も討伐されているのだが、一里も超えたら安全の保証はない。

 人の安全というより積荷の安全確保のためだろうが、この仕事を受けるときは、少なくともCランク以上の護衛の同行が必須だった。

 

 もちろんその相手をこちらで探す必要はない。

 しかし、フィル以上に安心のお(とも)もなかなかいないだろう。

 

「もうちょっと涼しかったら悪くないのじゃがのー」

「中で涼むか?」

 

 馬車の荷台は白い天蓋(てんがい)が掛かっている。

 荷物が積まれているとはいえ、フィル一人が足を伸ばせるくらいのスペースはあるはずだった。

 

「ここでいいのじゃ。お主が寂しかろう」

 

 からかうように牙を見せて、そんなことを言ってくる。

 

「ほう?」

 

 俺は少し笑った。

 

 

 

 お昼時。

 目的地は日が沈んだ頃合いに着く隣町。

 荷馬車は特に馬を休ませながら進む必要があるので、少し開けた泉の近くの草原でお昼休憩を取る。

 

 準備してきたバスケットを広げると二人分のサンドイッチが三つずつ。

 むしゃむしゃとおいしそうに平らげるとフィルはころりと草原の上に横になった。

 

 フィルはすぐにゴロゴロする。

 

「スライムが遊んでおるのじゃ」

 

 視線の先は泉のほとり。

 岩場の周りでまんまるの透き通った色とりどりのスライムが十匹ほどぴょんぴょん水を跳ねさせて遊んでいた。

 

「スライムも暑いんだな」

「知っておるか? この世界で最も人を殺しおるのはオークやデーモンなどではない。実はスライムなのじゃ」

 

 ……。

 蚊、みたいだな……。

 

「ドラゴンじゃないのか」

「な、なんじゃとー」

 

 少し意地悪をいってみるとフィルはくるりと仰向けにころりとこちらに近づいてぐさぐさと自分の角で太ももを攻撃してきた。

 地味に痛い。

 

 そのまま膝の上に頭を乗せてジトっとこちらを見上げてくる。

 

「竜は威を以って他を従える種族なのじゃ。不要な殺しはしないのじゃ」

「そうなのか」

「うむ。気高き孤高の種族。それが竜族なのじゃ」

 

 うんうんと膝の上でフィルは二度頷いた。

 少なくとも細かいことを気にしない種族であることは間違いなかった。

 

 その後、フィルは少し目を瞑って眠ってしまった。

 俺はドラゴンを膝の上。

 水辺で喉を潤す馬を眺めながらしばらくのんびりお昼を過ごした。

 

 

 **

 

 

 そんなことをしているものだから。

 

 夜。

 

「うーん……これもう絶対間に合わないな」

 

 納期に。というわけではない。

 

 こういった運搬仕事は、ギルド職員だけでなく、馬を世話する厩務員(きゅうむいん)や荷物を点検・管理する人など多く関わっているため、急ぎの場合以外は夜遅くだと受付できないようになっているらしい。

 

 一応予備のテントは荷台に積んであるのだが一人用が一人分。

 

「フィルは帰らなくて大丈夫か?」

「明日の朝くらいまでなら大丈夫なのじゃ」

「フィルだけ先に街に戻るか?」

「今日のわらわは護衛なのじゃ。夜中に帰ったりはせぬ」

 

 わらわに任せろ、と言わんばかりにぽんと自分の胸を叩く。

 戻る気はないという強い意志を感じる。

 

 まぁ、実際暗い山中。

 一寸先も見えない暗闇。

 どこからか獣の遠吠えが響くこの場所でこれ以上ないくらい心強いことは間違いない。

 

 夜食は軽く野草やキノコを()んで常備している黒パンと一緒に食べ、お昼にかいた汗を木陰で軽く拭いておく。

 夏用の寝袋は一つあったが、二人で寝るならと荷台に緩衝材代わりにたくさん積まれていた柔らかい藁を敷物代わりに敷いておく。

 

 男女がこんな狭い……よくわからない空間で寝るのは如何(いかが)なものかと思いもするが、旅にトラブルは付きものだ。

 

「まさかこんな藁小屋で寝る日がくるとは思いもしなかったのじゃ」

「藁小屋か、いい表現だ」

 

 入って奥で寝ころんでいるとフィルもころりと躊躇いもなく入ってくる。

 まぁ、実家の同じ部屋で寝たこともある。それより多少距離が近いだけ。

 近いというか。ほぼくっついているのだが、大事なのは理の性だ。

 

「たまにはこういう非、日常もいい。それとも、旅をしてると案外あるか? こういうことも」

「まずないのじゃ」

「それならよかった」

「……どーいうことなのじゃ」

 

 なんていいながらフィルはクスクス小さく笑った。

 吐息が首筋に掛かって擽ったい。

 

 もう少し話してみる。

 

「でも、今日御者やって思ったが、全然魔物と会わなかったな。こんなものなのかな? 案外」

「まー、運もあるじゃろうが、わらわがおるからな。竜に挑戦したい魔物なぞそうはおらんということじゃ」

「凄い自信だな」

「自信ではない。事実なのじゃ!」

 

 ドヤァっと眉を上げてそんなどこかで聞いたことのあるセリフを言ってしまうあたりフィルは締まらない性格をしていた。

 

「でも、メディも気を付けるのじゃぞ。わらわがいない時は、慎重にの」

「任せろ」

「し、心配なのじゃー」

 

 だらだらと喋ることはいくらでもあったが、明日寝過ごすわけにもいかなかった。

 

「そろそろ寝よう」

「うむ。そうじゃの」

 

 夜は少し雲が出て来ていたためかなり暗い。

 そういって目を瞑ると慣れていた暗闇には淡い光すら見えず、虫の音のする森の中。

 フィルの息遣いを聞きながら、ゆっくりと意識は沈んでいった。

 

 

 **

 

 

 ――Side フィル

 

 

 おやすみを言ってから一時間ほど。

 目の前にはすぅすぅと静かに寝息を立てる見慣れた男の顔。

 

 この状況下ですっと眠れる辺り、普通に冒険者としての才能はありそうだが、自分だけうまく寝付けないのは負けた気がして面白くない。

 

「フィルちゃん可愛い。フィルちゃん可愛い」

 

 こっそり耳元で洗脳してみる。

 

「ふふ」

 

 それがくすぐったかったのかメディは少し笑ってくれた。

 

 そんな時、ふっとテントの外から視線を感じる。

 わらわは別に索敵能力が高いとか、他人からの視線に常に気づけるとかそういったことはない。

 けれど、敵意にだけは種族のせいなのか人族よりも格段に敏感だった。

 

 

 魔物に溢れたこの世界。

 わらわは父が人間であるし、母はそんな人間と愛を()んだだけあってわらわも人種(ひとしゅ)は好きだった。

 

 けれど、どんなに弱い魔物でもわらわを恐れるが、どんなに弱い人間でもわらわを恐れない。

 それは、ある種救いでありながら、残酷なことでもあった。

 さらりとメディの頭を一度撫でるが、起きる気配はない。

 

 音を立てないようにゆっくりと外に出る。

 向こうもこちらに気付いているが、まだ近くではない。

 

 こちらの姿を見て下卑た感情を向けられるのはあまり好ましい気分ではなかった。

 

 今日のわらわは護衛だった。

 仕事はきちんとこなす。

 

 ……まぁ、護衛じゃなくても守るけど。

 

 そんな風に思いながら、わらわはぴょんとその場で翼を(ひるがえ)した。

 

 

――Side Out

 

 

 **

 

 

 朝。

 

「ん、んん」

 

 なんとも言えない重さで目を覚ますと俺の体の上。

 フィルは(よだれ)をちょっと垂らしながらくーくーと心地よさそうに寝息をかいていた。

 

 ふと見ると、フィルの髪の毛に一枚葉っぱが絡まっていた。

 もしかしたら夜中にトイレでも行ったのかもしれない。

 そう思ってそっと避けてやる。

 

「ん……んん」

 

 ただその感触に気付いたのか、フィルは少しまぶしそうにゆっくり目を開ける。

 

「おはよう、どいてくれ」

 

 こちらもまだ寝ぼけ(まなこ)でお願いするとフィルは素直にくるりと昨日の定位置に戻ってじーっとこちらを眺めた。

 

「メディ。昨日はよく眠れたか?」

「ん? まぁ、普通に寝れたな」

「うむうむ。お主はそれでよい」

 

 なんなんこの子?

 

「お主はかわゆいのー」

 

 フィルは微笑ましそうな笑顔を浮かべながら、こちらの髪をさらさらと撫でてきた。

 別に悪い心地ではない。

 

 けれど、近々やり返そう。

 そんな決意を心に秘め、今だ調子のよさそうなフィルの手のひらを受け入れた。

 

 

 

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