昼ドラゴン   作:のんびりスイミー

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第5話 勇者パーティの男側?

 

――Side フィル

 

 

 冒険者の街の夜は長い。

 

 その日もメディの元から戻ってきたのは夜も更けた時間帯。

 およそ一週間に一度、休みの日を選んでいるとはいえ、(いち)冒険者パーティとしてあまり頻繁に離脱を繰り返すのは本当はよろしくない。

 

 治療と説明してはいるが、女性メンバーからは「うんうん、頑張ってきてね」と謎のエールを送られ、男性メンバーの一人からは「お相手17? ……なかなか業が深いねぇ」などからかわれる始末。

 

 どちらにせよタチは悪い。

 けれど、ある意味懐が深い気もしていた。

 

 

 その日も暗い夜空。明るい街の上空を翼を広げて宿まで向かっている途中。

 まだ眠るには早い時間とはいえ、三つの見知った気配を街中に感じて視線を向ける。

 

 

 そこは店の屋外席。

 三人の男が、夕食もすでに取ったであろうに、泡立つ樽コップのビールを前何か話をしているようであった。

 どうせ宿に早く戻っても部屋割りによっては冷戦が始まっており、そうでなくともどうせ寝るだけ。

 せっかくなので降りてみることにする。

 

 

「――だからね。結局、理想の女ってのは……っとフィル嬢。今お帰り?」

 

 と一番に声をかけてきたのはちょうど何か話をしていた長身の男。

 弓使いのアルクス。このパーティでは一番の年長の21歳。男にしては長いオレンジの肩まで伸ばした襟足を後ろで一つに纏めている。

 悪く言えばお調子ものだが、良くいえばムードメーカー。

 部屋に戻ってもいいこの時間に勇者ヴィル。そしてもう一人。パーティメンバーではないのだが、情報屋としてよく関わる男とともに飲みに出ているあたり、男たちの仲は良好の模様。

 それだけで少し羨ましいくらいではあった。

 

「うむ、お主らはこんな時間まで酒盛りか?」

「こんな時間だからこそだ。どうだい? フィル嬢も一杯?」

 

 お酒は嫌いではないが強くもない。

 

「一杯だけ貰うのじゃ」

 

 とはいえ、四人席で空いた一席を少しずらして歓迎してくれているので一杯だけ飲むことにする。いいねぇとアルクスは店員さんにビールを一杯注文してくれた。

 

「何の話をしておったのじゃ?」

「そりゃもう男三人集まれば――女の話よ」

 

 アルクスは少しからかうようにこちらに顔を近づけニヤリと笑う。

 すでに結構飲んでいるようでかなり酒臭い。

 

「おい……フィルが来てもやめないのか。伝わっても知らんぞ」

 

 そういって(たしな)めたのは向かいに座る勇者ヴィル。

 黒と灰白色の髪色の17歳。勇者といっても普通の青年で、容姿も整っているとはいえ、大人っぽいアルクスや右隣に座る中性的な少年に比べれば普通の容姿だ。

 けれどそれを以って、女性メンバーを三人も虜にしているあたり、ここぞという時の性格や運命力のようなものは確かに英雄然(えいゆうぜん)を感じられた。

 

 (ちな)みにだが、勇者といってもあくまで自称。

 数百年前に旧魔王を倒した英雄にあやかって、旅の最終目標を魔王討伐として掲げるパーティは皆勇者パーティで、そのリーダーを勇者と呼ぶ。

 といっても実力が伴わなければ、魔王討伐、勇者パーティなど一笑されて終わり。

 しかし、ヴィルもその仲間もそれを名乗って一笑されない実力は間違いなく持っていた。

 

「フィル嬢が喋らなければOKよ。大丈夫よね?」

「うむ。内容にはよるが大丈夫じゃ」

「な?」

「それ大丈夫なやつか? まぁ、アルがいいならいいが」

 

 許可を得たと思ったのかアルクスは手元のビールをごくりと飲んだ後続けた。

 

「つまり彼女が欲しい! ってことなのよ!」

 

 ダン、と強く樽コップを置く。

 

「つ、作ればいいじゃろう」

「……ほーう。上から目線ですねぇフィル嬢。昼間はお楽しみでしたか?」

「のうヴィル。こやつ消していいか?」

「話の展開によっては許可しよう」

「すなすな! これは欲望でなく問題提起なのよ。例えば、メレット!」

 

 そういって急に話を振られたわらわの右席に座る少年は「はっ、はい!」とわたわた反射的に返事をする。

 彼はティメレット・ノックス15歳。隠遁や諜報が得意な魔法使いでわらわが勇者パーティに入るより前からヴィル達とは協力関係にある少年だった。

 くすんだ金色のショートヘアの中性的なまだ幼い容姿で魔法使いらしく、いつもフード付きのローブを着ている。

 テネブラ――正式にはテネブラ・ノックスとは本家従家の関係らしく、本人同士に直接の従属関係はないらしいが、家柄的にテネブラのことは敬っているようだった。

 

「仮にお前にかわゆい彼女ができたとしよう。するとどうする? 魔王討伐? まぁ、いっか! とはならないか?」

「えっ、いや……流石にならないと思いますけど」

「ところがどっこい。なるんだよ」

「ええっ!?」

「だから俺は作らないの」

「モテないだけじゃなくてか?」

「流石にモテるわ!」

 

 さらりと酷いことをいうヴィルに対し、大声でツッコミを入れる。

 まぁ、アルクスは弓の名手。おまけに顔よしの明るい性格なこともあって街の女性人気は高い。

 

「けど俺はワンナイトラブなんて求めてないのよ。フォーリンラブを求めてるのよ!」

「どっちも久しぶりに聞いたよ。二度と使うな」

「いいでしょ使っても!」

 

 こうして少し話を聞いているだけで男たちの仲がいいことがわかる。

 お酒が入っていることもあるが、アルクスは止まらない。

 

「だから俺はパーティ内恋愛がしたいのよ! せっかく身内に美人が三人もいるのよ。男も三人。平等に分け合ったらみんなが幸せみんなが嬉しい。ハッピーハッピーハッピーよ!」

「3人じゃと? 美人は4人おるが」

「うんそれはね。手に魔力込めないでね。私弓兵。この至近距離で防御する(すべ)はないの……そりゃフィル嬢は永久欠番、最高傑作! 年を取らない金髪美少女なんて男の夢よ! 俺にはそう……手の届かない夢物語よ」

「馬鹿にしてる?」

「してないです! すみません!」

 

 まぁ、冗談であることは分かっていたので手の魔力を霧散させる。

 アルクスも少し反省したのかテンションを鎮めた。

 

「はいじゃあ、再度メレットくん質問!」

 

 否、アルクスはちょっとやそっとのことでは反省などしなかった。

 

「も、もーまたですか?」

「俺たちのパーティメンバーのリティア嬢、テネブラ嬢、ランディ嬢……そして、われらがまぁ、フィル嬢。どの子がタイプよ」

「えーっ! そ、そんな……皆さん美人ですし選べませんよ」

「そこを選ぶんだよ。戦争になるだろうが!」

「どんな理由ですか!」

「やっぱり昔馴染みのテネブラ嬢か?」

「それだけはありえません! もし万が一にでもそんなことになったら僕は……」

 

 そういってメレットは体を震わせた。

 本人同士に確執などはないにして、家柄的にいろいろあるらしかった。

 

「じゃあ、リティア嬢か? あーゆう家庭的でふわっとした子もいいよな。お嫁さん第一候補だ」

 

 この男。なかなかに気持ち悪いことを平然と言う。

 ヴィルもあまり話に割って入りたくないのか苦笑いしながら聞いていた。

 

「確かに可愛い人ですが、そんな目で見れないですよ。先にいっておくとランディ様と、もちろんフィル様も。あっ、決して嫌って意味ではないですよ! 恐れ多いという意味で」

「分かっておるよ」

 

 そういうとメレットはほっと息を吐いた。

 

「じゃあ誰ならいいんだよ! 俺か!? メレットならギリ抱けるぞ俺は!」

「何言ってるんですか!?」

「じゃあ、お前は誰がいいんだ? うちのパーティの中だと?」

 

 収集が付かなくなると思ったのかヴィルがビールを煽りつつ尋ねる。

 

「俺はやっぱりランディちゃんよ。ほかの子も……あっ、もちろんフィル嬢も捨てがたいがルックスもちょっちS気味な性格も俺のハートにぶっささる」

「いちいち気を使うでないわ」

 

 アルクスはさも当然とそういうが、ある意味無難というか角の立たない選択をしているあたり気にしいだなとそんなことを思う。

 ヴィルの幼馴染のリティアや女性メンバーの中では一番幼いテネブラを選んだら対外的にヤバイ目で見られる可能性が高いし、そうなるとわらわかランディだが、わらわはわらわで少し特殊な存在だった。

 実際、アルクス自身発破(はっぱ)を掛けているだけでそんな気はそこまでないんだろうなと少し感じる。

 

「で、実際のところヴィルは誰がタイプなのよ」

 

 俺は明かしたぜ、とむかつくドヤ顔をヴィルに向ける。

 

「パーティ内恋愛は基本的にご法度だろ……この先、いつまで続くか分らん旅路。くっついてもくっつかなくても雰囲気がよくなるとも思えなくてな。しいて選ぶなら俺もメレットだ」

「えーっ!?」

 

 メレットはなぜか赤くなる。赤くなるでない赤く。

 

「どんなパーティだ!! どう思うよフィル嬢。こんなしゃらい勇者様を」

 

 変な場面でこちらに振らないでほしい。

 まぁ、ヴィルのいわんとすることは分かるが、アルクスの反応に理解できないわけでもない。

 

「わ、若いのー」

「だってよ。流石の貫禄だ」

「貫禄とかいうでない」

 

 その後もダラダラ話していたがこれ以上遅くなると今度はリティア達が心配しそうだったので先に切り上げることにする。

 席を立ったところ最後にヴィルに声を掛けられる。

 

「フィルの方はうまくいってるのか?」

 

 なんのことかと一瞬思ったが、話の流れからしてメディのことだろう。

 

「お主もそんなことをいうのか? 治療だといっておろう。変な邪推をするでない」

 

 そういうとヴィルは軽く笑って二度頷いた。

 

「おやすみ」

「うむ、お主らもあまり飲みすぎるなよ」

 

 そんな話をしてわらわはゆっくりと宿へと戻っていった。

 

 

 **

 

 

 翌朝。

 昨晩お酒を一杯飲んでしまったせいか朝目覚めると少し寝汗をかいていた。

 宿にシャワーはあるものの同室のテネブラはすーすーとまだ静かに寝息を立てていた。

 

 起こすのも悪いので静かに外に出て街の外まで翼を広げて飛んでいく。

 メディの村で水浴びをする機会が増えてから朝、冷たい森の中で水浴びをするのは少し好きになっていた。

 

 まだ空も明けきっていない瑠璃色に染まった景色。

 ふと森の中。見知った気配を感じそちらに注意を向ける。

 

 それは昨夜一緒に話をしていたメレットだった。

 こんな朝方森の中、何をしているんだろうと近くで降り立つと。

 

「誰です!?」

 

 そういって警戒心の強い声を上げる。

 それは昨晩聞いた時よりも幾分高い声音だった。

 

「お、お主……」

 

 メレットは森の川辺で上半身を晒していた。

 きっと、わらわの目的と同じく水浴びをしていたのだろう。

 

 その姿にわらわはびくりと体を震わせた。

 普段ローブに隠された白い肌には男性には決してない僅かな胸のふくらみ。

 

「ふぃ、フィル様……」

 

 慌てて体を隠すメレットをよそにわらわはつい両膝をがくりと地面についてしまった。

 

「し……し……」

「し?」

 

 

「知りたくなかったのじゃあああぁぁぁ!!」

 

 

 そんな魂の叫びが朝の森に木霊した。

 

 

 




因みにですが、一応みんな姓は持っています。

勇者:ヴィル・ホーティス
弓使い:アルクス・ファクトリウス
情報収集:ティメレット・ノックス
影使い:テネブラ・ノックス


勇者側の話は時々書きます。
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