昼ドラゴン   作:のんびりスイミー

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2話連続ですがお酒回です。


第6話 はじめてのお酒vs

 

「この一杯のために生きてる。のじゃー!」

 

 その日。

 俺はフィルと一緒に夜の街までやってきていた。

 

 きっかけは一週前。

 

「この前、お酒を飲んで酷い目にあったのじゃ」というフィルに

「お酒は飲んだことないな」なんて返事をしてしまったこと。

 

「それなら来週一緒に飲みに行くのじゃ!」

 

 と酷い目にあったばかりらしいのに、誘ってくれるフィルは心優しき半竜少女だった。

 

 俺も今年で十七歳。

 だいたいこの辺りの地域では十五歳になるとみな成人でお酒も解禁される。

 機会があれば飲んでみたいとはずっと思っていたが、人里離れた山奥の集落にお酒どころか嗜好品というものはほとんど回ってこない。

 

 とすれば今回のお誘いも二つ返事で頷いたのだが、その時俺は少し思った。

 

 街に降りてお酒を飲む。

 お酒を飲むということはお金が掛かるということだ。

 

 もちろん両親からは生活費は渡されていた。

 しかし、それは村を出てまで汗水流して働いて渡してくれたお金。

 そんなお金を夜の街でお酒を飲む。それも見た目可愛い女の子と。

 

 それをしてしまったら、俺はなかなかのクズなんじゃないだろうか。

 

 そう思ったので、せめてもの免罪符(めんざいふ)としてフィルには翌日、冒険者ライセンスを取る手続きに付き合ってもらうことにした。

 

 もともと、18くらいには一度は街で生活しようとは思っていた。

 それが一年前倒しになっただけだ。

 

 それをフィルに伝えると「うむ、よいぞ!」と快諾してくれた。

 

 そういうわけで今日は俺もフィルも街で泊まり。

 勇者パーティには事前に泊まることは伝えてきたらしいが、年種(ねんしゅ)は違えども男と女。もちろん何もする気はないし、何も起きることはないと確信しているが、フィルの仲間はどう思っているのかと少し思う。

 

 治療という名目で来ているらしいが、一泊してしまったら意味がバチクソに変わってこないだろうか。

 そう思ったが弁解することも不可能なのでせめても普段通り紳士的に振舞ってフィルから問題ないということを伝えてもらうしかない。

 

 

 そして今日。

 普段は朝や昼前からくるフィルとは夕方に約束して街についたのは日も沈んだ時間帯。

 

 二人で乾杯も交わしたところでフィルは豪快にぐびぐびとジョッキを傾けた。

 

「ぷはー」

 

 絵面は犯罪である。

 見た目少女のフィルであったが、(つの)と尻尾のせいで店員さんから年齢を確認されることなどはない。

 

 ここは初級~中級の冒険者が集まる街の酒場。

 冒険者の街の酒場というともっと荒くれ者たちが集まるイメージがあったが、一部そういう人たちもいるにはいるが、俺と同じくらいの年齢で男女数人で飲んでいるテーブルも多い。

 店内はテーブル席と奥に座敷席があり俺たちが案内されたのは座敷席だった。

 

 酒の肴はいろいろなお肉の鉄板焼きのようだった。

 俺も黄金(おうごん)色に泡立つ液体がなみなみ注がれた(たる)ジョッキを傾ける。

 しゅわしゅわと口の中ではじける感触にほろ苦くもさわやかな麦の味。

 そこまで嫌いな味ではなかった。

 

「どうじゃ? 初めてのお酒は?」

 

 フィルが尋ねてくる。

 

「悪くはないな。フィルは酒は得意か?」

「ふん。わらわは竜族ぞ?」

 

 そういってフォークで切り分けられたお肉をガブリと口に入れる。

 

 竜族だから何なのだろうか。

 まぁ、お酒は得意ということなのだろうと解釈する。

 実際そういうイメージはある。(つの)生えてるし。

 

「なら、今日は飲み比べだな」

「ふふ、よいぞ。今日が初めのひよっこに負けるはずなんかないしの。よし、じゃんじゃん持ってくるのじゃ!」

 

 そう意気込んでいたのは1時間も前のこと。

 お酒は飲み放題だったので、フィルの言う通りじゃんじゃんじゃんとせっかくなのでと頼んでいたが、お互いジョッキ十杯ほどを空けた頃。

 

「ふぅ……」

 

 俺はちょっとだけいい心地になっていた。

 意識が少しふわふわとした感覚で椅子に座っていても少し世界がくらくら揺れる。

 けれどそれも悪い感覚ではない。

 

「にゃ……にゃっ……」

 

 しかしフィルは壊れていた。

 数分前からずっとうつろな目で猫のような声を定期的に発している。

 

「もう限界か?」

「う゛ーっ……まだ、まだ、なのじゃー……」

 

 そういってジョッキを傾けるが、中の液体は僅かほどにも減っていない。

 それなりに限界が近そうだった。

 

「にゃあぁぁ……!」

 

 もう飲むのは諦めたのか座敷の(かど)席。

 迷惑かける人など誰もいないとぐでっと体を横に倒す。

 ここからではテーブルで顔が見えない。すると、

 

「むむっ、メディがおらぬではないか。おーいおーい」

 

 と机の陰から謎に俺を呼んでくる。

 人間酔っぱらうとこうなってしまうのか……。

 気を付けよう。と心で思いながらも俺はさらに飲み進める。

 

 気を付けた方がいいが、一度くらいああなってみたい気もする。

 

「ここにいるぞー」

 

 返事をしてみるとフィルはよろよろとテーブルに手をついてよろよろと座敷の上、ずりずりと這って隣までやってきた。

 

「うぅー。少し、くらくらするのじゃー」

 

 隣のフィルは白い肌を朱色(しゅいろ)に染めて眠そうに目を細めていた。

 

「メディよ。酔い覚ましに何かやるのじゃ」

 

 そういってフィルは手を後ろについて俺に首を向けてきた。

 何かやれというのは、俺の力をもってして酔いを醒ませということだろう。

 

 やれといわれてできないことはない。

 ぴたりと首筋に手を当てるとすごく火照っている体温をちょっとだけ冷ましてやる。

 

「にゃ~」

 

 フィルは気持ちよさそうだ。

 

 実際俺がそこまで酔わないのは、自身の血流のアルコール濃度を自分で完璧に制御できるので、意識しなくても勝手に歯止めが掛かってしまうせいなこともあるだろう。

 

 そのおかげといっていいか、整体術をある程度マスターした頃から俺は病気にかかったことが一度もないし、なんだったら多少の毒なら体に入ってもそのまま出て行った。

 

「そろそろ宿いくか?」

「うん? ……お主、まだ飲めそうではないか? 今日は限界まで付き合ってやるのじゃ」

「ありがたいが、もう寝たいだろ?」

「気にするでない。寝ているわらわの横で飲んでおればいい」

 

 それの何が楽しいんだ。

 

「それにわらわもまだ限界などほど遠い。人間、酒を飲んで死ぬことなどないのじゃ」

「あるらしいけどな……」

 

 そういってフィルは俺の飲みかけのジョッキを奪ってゴクリと一杯飲んだ。

 まぁ、そこまでいうなら俺も止めはしない。

 

 

 そうしてさらにそこから二時間ほど、もちろんペースを落としながらダラダラ飲み続けるとラストオーダーの時間もすでにすぎ閉店時刻が来てしまう。

 店を出ると火照った体に夜風がさらさら当たり気持ちがいい。

 

「せかいが……せかいがまわっておるのじゃー」

「ああ、世界は、まわっているな」

 

 すでに深夜というのにそれなりに人通りのある明るい街並みは俺にとってとても新鮮だ。

 しかも地面が左右ぐらぐらと傾いているとは珍しい街もあったものだ。

 

 数歩歩いてフィルは通りの(はし)。両手両足を地面について座り込んでしまった。

 

「メディ……わらわはもう一歩も歩けん……」

「そうか……」

 

 俺はフィルの(かたわ)らで膝を曲げる。

 今日はせっかく誘ってくれて、こんなになるまで付き合ってくれた。

 背負って宿まで運んでやりたい気持ちは多々あるのだが、フィルは重いのだ。

 

 今の俺にそんなことができるだろうか。

 

「乗れ」

 

 否、男にはやらねばならぬ時がある。

 

「にゃーん!」

 

 この女。遠慮というものを知らない。

 倒れるように背中に体重を預けてくる。

 

「うぐっ。うぐぐ……」

 

 重い。たくさん飲み食いした後だからだろうか。

 前より重い。

 

「お、重たいかの……?」

 

 体重を計ったことがないのかこの娘は……。

 

「いや……軽すぎて物足りないくらいだ。ちゃんと食べてるのか?」

「食べてるのじゃ!」

 

 減らせ。

 

 なんて俺は言わないぜ……。

 

 

 俺は頑張って立ち上がるとふらふらと宿に向かっていく。

 そのペースは遅い。

 遅すぎたせいか途中からスースーと寝息が耳元で聞こえてきた。

 

 俺は一瞬、そのへんに置いて宿に戻ってしまおうかという考えが頭をよぎったが、もちろんそんなことはせず歩きに歩き途中で気づいた。

 

「フィルの宿知らないな……」

 

 俺たちはこうなる可能性も見越して先にお互い今日の宿は確保していた。

 男と女であるしもちろん泊まる宿は別。

 

「もし、フィルさん」

「くー……くー……のじゃー」

 

 寝息にすら、のじゃいうのか……。

 横目で後ろを見ると完全に眠ってしまっているようだった。

 

 深夜、今からフィルの宿を探すのは体力的にも精神的にも無理なので、葛藤がありつつも他に選択肢も思いつかないので俺が予約していた宿まで連れてくる。

 一応、店主に事情を説明するとほかに空き室はないが、同室であれば問題ないとのこと。

 

 当たり前だが、手を出す気など少しもない。

 二階まで頑張って登ってシングルベッドによいしょとフィルを転がす。

 一応、ソファはあったので最後に部屋の灯りだけ消すと俺もそこで横になる。

 

 回る天井。体力的にも体調的にもそれなりに俺も限界だった。

 

 

 **

 

 あっついのじゃーっ。

 ぽいぽいという衣擦(きぬず)れの音が暗闇の中、小さく響く。

 

 **

 

 トイレ……。

 洗面所から戻り、曖昧な思考で目の前のベッドにぽすりと入る。

 

 んに゛ゃ!……くー。

 

 **

 

 

 翌朝。

 窓から差し込む朝日に目が覚める。

 

「あてて……」

 

 ずきずきする頭痛を覚えつつ、普段通り起き上がろうとベッドに手を付き。

 

 ふょ。

 僅かに柔らかな手の感触にふと目をやって俺の体はびくりと震えた。

 

 そこにいたのは大の字を描き涎を垂らすフィルの真っ白な肢体(したい)

 あられもなさすぎる。

 

 俺は視線を外し、そっと手を離して起きませんように、起きませんようにと祈りながらベッドから降りた。

 フィルは掛布団の上に寝ているので毛布を掛けてやることも不可能。

 昨日の今日といえども服を着させたりなんかしたら間違いなく起きるだろう。

 

 この状況で俺が取れる行動はただ一つしか思いつかなかった。

 俺はソファに寝ころびきゅっと目を瞑る。

 実際、この状態のフィルを残して部屋を出ることもできない。

 

 

 

 再び起きた時、フィルはすでに起きていた。

 服はきちんと着ているようだ。

 

「おっ、おはようなのじゃー」

 

 こちらに気付いたフィルは少したどたどしくも挨拶してくる。

 

「……ああ、おはよう」

「今起きたのか?」

 

 フィルの顔はお酒も抜けているだろうにほんのり赤く染まっていた。

 

「今、起きた」

 

 俺は渾身のポーカーフェイスで嘘をついた。

 フィルはじーっと顔を見つめてくる。

 

「か、顔を洗ってくるのじゃー!」

 

 そういって部屋を出て行ってしまうフィル。

 

 俺のポーカーフェイスは成功したのだろうか?

 分からない。そんな、春の朝の出来事。

 

 

 

 

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