お昼前。
約束通り俺とフィルは冒険者ギルドまでやってきていた。
そこは街の中央。
広い敷地に二階建ての大きな建物。
二
魔物溢れるこの世界で冒険者ギルドの力は絶大だ。
狩りや採取のみならず、どんな商売をするにもその
ただそれ故に、冒険者の街の治安はギルドによって保たれている。
犯罪行為などを行いライセンスが
街を変えて……とするにもギルドはあらゆる場所に根を張っている。
なので俺は少し緊張しつつギルドの扉を開けた。
中は広く、高い天井。
明るい室内には多くの冒険者たちで賑わっていた。
「どうする? フィルは待ってるか?」
事前に聞いていたが、フィルはすでに冒険者ライセンスは持っているようだった。
ギルドの中は休憩スペースのような場所もあり、今は時間帯のせいか開いていないが酒場も併設されている。
「ん? どうせだから隣で見てるのじゃ」
そういうのであれば、特に断る理由もない。
実際、こういう役所的な場所は全く勝手がわからないので隣にフィルがいてくれた方が安心は安心だった。
1階の受付は四つ窓口があり、その奥には皆美人の受付嬢が立って案内をしていた。
階段の側には看板があり、Bランク以上は2階、Cランク以下は1階ということらしい。
これが社会的ヒエラルキー構造ということか。
1階ですら、あんな優しそうな受付嬢さんに案内してもらえるということは2階のサービスはどうなっているのだろうか。
そんな機会が来るのか全く分からなかったが少し想像は膨らんだ。
窓口はどこも混んでいたが、なぜか一番奥だけ少し空いていたのでそこに並ぶと、すぐに順番はやってきた。
「本日はどのようなご用件ですか?」
案内してくれるのは黒髪ショートカットの大人しそうな女性だった。
シックな茶色の制服を着ている。
「えっと、ライセンス登録がしたくて……あっ、今日初めてなんですけど」
「あっ、初めてのお客様ですね。代筆はご必要ですか?」
「字は書けます」
「えっと……そちらのお客様もご一緒ですか?」
そういって彼女はフィルの方へ手のひらを向けた。
「わらわは持っておるよ」
「あっ、それじゃあ少々お待ちください」
と、ごそごそ近くの棚から一枚紙を持ってくる。
年齢は二十そこそこだと思うが、なんというかたどたどしい動きだ。
横の窓口からはカナリヤのように淀みなく接客する声が聞こえてくる。
なんとなく、この窓口だけ人が少ない理由がわかる気もした。失礼な話であるが。
「それではこちらの用紙に必要事項をご記入ください」
見るとそこには名前欄のほかにライセンス取得の目的、活動内容の予定、パーティの有無といくつか記入欄が存在した。
俺は順番に埋めていく。
名前:メディ・レクトス
目的:生活のため
予定:採取をメイン。整体業の営み
パーティ:なし
こんなところだろう。
パーティはフィルがいてくれたら心強すぎるが、今の俺にとって過ぎたる刃もいい所だ。
討伐に関してもイノシシやシカ、野鳥などは狩ったことがあるがそれらは魔物ではない。
「書けました」
「あ、ありがとうございます」
そういって用紙を手渡すと受付嬢さん――名札に『セプト』とある――は一通り確認した後、真っ白な別の用紙の束と何か水晶玉のようなものをことりと目の前に置いた。
「最後にこちらですが、現在の魔力量や討伐数、犯罪歴などの過去を調べる鑑定石と呼ばれるものです。こちらに手を置いていただけますか?」
……そんなのあんの?
俺は少し驚いた。
そんなのあったらフィルの首飾りいらなくない?
というか、俺がフィルを着替えさせたこととか犯罪認定されないよな?
など一瞬様々なことが頭によぎったが、動揺するのもおかしな話だ。
俺は潔白だ!
そう思いつつ俺はその水晶にそっと手のひらを乗せた。
すると魔力を込めるわけでもなく隣に置いた紙にさらさらと勝手に文字が浮かび上がってくる。
……割とプライバシーの侵害じゃないだろうか。
そんな風に思いつつ、受付嬢さんはざっと紙を確認していた。
「はい、もう大丈夫です……問題はなさそうですね。それではライセンスカードをお作りしてきますので少々お待ちください」
どうやら問題ないようでほっと肩を撫で下ろす。
「わらわも見てよいか?」
「まぁ……いいぞ」
そういって二人並んで紙を見る。そこには細かく自分の情報がいろいろ浮かび上がっているようであった。
『
名前:メディ・レクトス
年齢:17
性別:男
種族:人間
犯罪歴:-
魔力:C
魔力属性:無
身体能力:C
知性:A(462)
特殊:
人体鑑定
魔物討伐数:A級0体、B級0体、C級0体、D級0体
推定ランク:E
実際ランク:-
』
……俺、知性高いな。
全然頭良くないと思うのだが……。
そう思ってみると用紙の下の方に『※知性は読書量によって換算されます』と注意書きが示されていた。
なるほどそういうことなら少し納得だった。
まぁ、家に本だけはいっぱいあったし、読み直しも加算される仕組みのようだった。
そもそも分野などもあるだろうし、一概に測れるものでもないだろう。
暫定的に読書量から算出しているということなのかもしれない。
それなら出さなくてよくない?
言ってもしょうがないが俺は内心そう思った。
「なんとも微妙な評価じゃのー」
個人的にはそう悪いものではないと思っていたが、俺の評価を見てフィルはそんなことをいう。
「……フィルはどんななんだ?」
そういうならば、と尋ねてみると
「うむ、見ておるのじゃ!」
と勝手にぺりりと一番上の紙を外し取り、フィルも水晶玉に手を置いた。
すると同じように紙に文字が浮かび上がる。
『
名前:インフィール・オルガノム
年齢:312
性別:女
種族:古代竜と人間のハーフ
犯罪歴:-
魔力:A
魔力属性:火、氷、雷、風、土、重、無
身体能力:A
知性:D(3)
特殊:
飛行、ブレス、天候操作
魔物討伐数:A級100体以上、B級100体以上、C級100体以上、D級100体以上
推定ランク:A
実際ランク:A
』
「どうじゃ!」
「……おおっ。すごいな」
俺はなんとか凄く気になる点を無視して、一つ頷いて見せた。
いや、実際すごいはすごい。
なるほどAランク冒険者というに相応しい凄まじいステータスといっていいだろう。
しかし、それ故に。
『知性:D(3)』
……
『知性:D(3)』
どういう……ことなのだろうか。
300
1000を超えると表記がオーバーフローして1に戻るみたいな仕組みであると俺は信じることにした。
「当然なのじゃ!」
フィルは自信満々に胸を張る。
都合の悪いところには絶対に目を向けない。
俺に足りない部分はそんなところなのかもしれない。
「お待たせしました」
タイミングよく受付嬢さんが戻ってきてくれる。
「こちらがライセンスになります。整体業の商売ということですが、こちら路上であればこの付近は
そういって窓口の机に一枚のカードと地図、それと契約書類のようなものが置かれる。
カードは銅製。Eランクの文字と俺の名前、それと今日の日付が刻印されていた。
カードの素材などはランクによって異なるらしいが、銅製でも自分の名前が入っているものならば格別だった。
俺はカードを指で挟んでフィルの方に向けてみた。
「フィル。支払いはカードで」
「何がなのじゃ」
シティボーイになったら一度は言ってみたいセリフだった。
実際、ギルド系列店では支払いにも使えるらしい。
「それでは、また何かありましたらお気軽にお声がけください」
そういって受付嬢さんは見送ってくれる。
建屋を出ると太陽がまぶしい。
身分証を手にするとなんとなく大人として一皮むけた気がしてくる。
「昼でも食べに行くか」
「そうじゃのー」
役所のような雰囲気の場所はフィルも少し疲れるようだった。
道に出たところで一つ大きく伸びをしている。
「支払いは任せてくれ」
「……よいが、入金しないと使えぬぞ」
「そうなのか……」
そんな話をしつつ俺たちはお昼のお店を探しに街へと歩き出すのだった。