ふかふかダンジョンでエンジョイ&エキサイティング!   作:RAP

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第1話 転生前

 

 特に面白みも無い人生を送っていた俺は、普通に歩道を歩いていたはずだったのに、道交法もへったくれもなく突っ込んできた高級外車に突然はねられて吹き飛ばされた。

 

 強制的な衝撃で空中移動させられる直前、目の前にいた小学生位の男子を必死に抱きかかえ、彼の頭を守るように抱え込む。

 無情にも民家のブロック塀にエリアルコンボを決められ、地面に激突。

 高エネルギー外傷だけでなく、全身を強打した。

 当然のように、意識が遠のいていく。抱え込んだ少年は無事だろうか?

 全身を激痛が襲い続ける。くそ、せめて即死したかった。

 

 これはもう、死を受け入れるしかない。

 ぼんやりそう考えていると、世界は光に包まれ、無機質な白い空間が埋め尽くしていた。

 少年も民家もブロック塀も、まして高級外車の姿もなにもない。

 

 

 椅子に腰掛けた男が、じっとこちらを観察している。

 仕立てたばかりのオーダーメイドのスーツを着こなしたかのような、そうであることが正しいと最初から決まっているかのような存在が、寝転んだ自分を見て微笑んでいる。

 視点を動かし、自分の姿をゆっくり確認してみる。痛みも外傷もない。ぼろぼろで血まみれだったはずの服も、まるで新品同然のよう。

 

 片手をわきわきとさせる。身体は動く。ははぁ、なるほど。

 立ち上がろうと身を起こしかけたが、思うところあって正座し、そのまま頭をさげて拝礼した。

 

「……ご案内をつかさどる神様の一柱であらせられましょうか、とかしこみかしこみ申します」

「おや。……ああ、口調は普通に戻していいよ」

 

 くすくすと男が笑う。

 だけど、頭をあげる気になれなかった。

 そもそも、微笑んでいた彼の顔は全く認識できなかったのだ。

 美形だったとは思う。笑っていたとも思う。

 存在感が圧倒的すぎて、見続けたら多分SANチェックとか必要になる。

 

「はい、口調戻させていただきます」

「君は話が早そうで助かるよ。さあ、頭をあげて。話をしようか」

 

 両腕を伸ばし、背筋を伸ばし、頭をあげた。

 正中を立てた、できる限り正しい正座をした。

 圧倒的だった存在感はいつの間にやら抑えられ、会社の上司か学校の先生あたりと話しているような雰囲気(オーラ)になった。相変わらず顔は認識できない。

 

「端的に言うなら、君は中世的ファンタジー世界の低位貴族として転生後、高位貴族の取り巻きとして『ざまぁ』される役割と運命を背負うことになっていた」

 

 めっちゃわかりやすい説明が来た。

 王太子候補ではなく高位貴族なあたりが生々しい。 

 

「なるほど、恋愛・異世界タグでしたか。とはいえ、わざわざそのようなお話を伝えていただけたということは……『ざまぁ』の回避をしても良い、と?」

「本来、死んでいたのは君ではなく少年の方でね。偶然にも生き延びた少年は今後医者を目指し、救急外来(ER)のスペシャリストとして多くの人間を救うことになる。その結果、地球の辿る道が少し面白いことになって……ああいや、これは君に関係ないな。まぁ、現世記憶の保持程度のサービスは君に無料贈呈しようと思ってね」

「自分が生き延びていたとて、多くの人間を救うことは叶わなかったでしょう。最後の最後に善行が出来たのなら、諦めもできます」

 

 納得はしていない。諦めることはできる。

 ……もうちょっとなんかこう、面白い人生を送ってみたかったな。

 いやそんな事はどうでもいい、大事なのは今であり、先だ。

 

「……ええと。『ざまぁ』を回避したとして、その後は貴族ルートなんでしょうか? ファンタジー世界だというのなら、冒険者ルートにも興味があるのですが」

「ふむ。一応、君がこれから行く事になる中世的ファンタジー世界は、()()()()()()()が少々強くてね。正直、冒険者人生はお勧めできない。主人公補正無しの難易度としてはベリーハードどころか、ルナティックと言って差し支えない。冒険者ルートと比較すれば、『ざまぁ』されて没落貴族人生を送ったほうが、まだ生存確率が上かもしれない」

「えっ。『ざまぁ』の方がまだマシなレベルの、難易度ルナティック世界……ですか? 剣と魔法のファンタジー、なんですよね?」

「中世的ファンタジーであり、剣も魔法もあるけれど。剣と魔法の世界ではない、かな?」

 

 ベルセルク? フロムソフトウェア系?

 剣も魔法もあるけれど、剣と魔法の世界ではない?

 

「その世界の創世神は、人間が人間として生きているだけでチートと考える御方だ。強度の内政チートは出来ないように封じられているし、当然ながらレベルの概念もステータス表示も、鑑定技能や無限収納といったものもない」

「産めよ増やせよ、で人類の母数を増やしていかないと追いつかない感じ……ですかね?」

「いや、もっと悪い。その世界で()()()()()()()()()()()()()()は、本気を出せば簡単に人類を滅ぼせるだろう。だというのに、人類側は自分たちが戦力で勝っているとすら思い込んでいるから、なおのことたちが悪い。主人公補正をもつ者が的確に動いて事態に対応しなければ、物語は成立すらしない。酷くあやふやで、安定しない世界さ」

「そんな世界で、呑気に貴族的『ざまぁ』イベントが発生しうるということにびっくりです」

「うん。貴族だしね。見たいものしか見ない人間が発生しやすいから仕方ない。とはいえ現世記憶の保持があれば、不穏な未来の発生確率を多少下げることぐらいはできるはずだ」

 

 ありがとう、名前も知らない少年。

 貴族と平民の区別がある世界で貴族スタートは大きなアドバンテージだ。現世記憶の保持があるのなら、むしろボーナスステージかもしれない。

 

「あの、傲慢な申し出ですが……いわゆる異世界転生特典というか、なんらかのスキルというか、特殊能力の付与とか、そういう方面の助力を請い願うことは、許されますか?」

「おっ、冒険者ルート、いっちゃうのかい? 気持ちはわかるよ、男の子だもんね。そうだなぁ……あの世界の創世神が定めたルールを逸脱しないものなら、いけるんじゃないかな? さっきの例でいえば、無限収納能力は完全にアウト。でも、過去の地球人類史において、実際に存在していた英雄達が持っていたような特殊能力や天才性は通ると思うよ。ほら、シモ・ヘイヘとかハンニバル・バルカとか有名だろう? 面白いよねぇドリフターズ、早く完結しないかなぁ、アハハ」

 

 神様、お詳しいですね。

 転生とか転移とか、沢山処理なさっている影響なんでしょうか。

 

「武の才能とか、魔法の才能とか、第六感とか、そういう、なんかこうふわっとした感じの……解釈の幅が広いヤツがよさそうですね?」

「うんそうそう、そんな感じ。無難でいいよね。うーん……」

 

 顔を認識できない彼が、じっとこちらを見つめてくる。なんだろう。

 

「武の才能、かぁ……それじゃ、建御雷神(たけみかづちのかみ)の加護、いってみようか」

「……たけみっ!?」

 

 飲み物を飲んでいたら噴いていた自信がある。全然ふわっとしてねぇ。

 日本トップクラスの武神の加護を得ても問題ない異世界ってどういうことなの。

 歓喜よりも不安要素の方が強い。

 やべぇ。どんな世界だよ。どこに飛ばされるんだ、自分。

 

「例えば、シモ・ヘイヘを『フィンランドの狩猟神ニューリッキの加護を得ていた』と後付け解釈をすることは出来るだろう? それが事実かどうかは別として」

 

 彼はニヤリと笑う。スコープもない旧式銃なのに距離300m以内なら確実にヘッドショットするフィンランドの英雄を貶めるには、『狩猟神の加護があったから仕方ない』と目線を逸らすことしかできないわけだ。すげぇな英雄。パネェっす。

 

「魔法の才能に関しては、あの世界は許可制なんだよね。あちらの創世神に交渉だけはしてみるよ。まぁ、君の魂が送り込まれる時点で並行世界化は確実だし、本筋に影響は出ないから大丈夫だとは思うんだけど」

 

 言っている意味はわかるけれど、あんまりわかりたくない。

 中世的ファンタジーであり、剣も魔法もあるけれど、剣と魔法のファンタジー世界ではない。

 魔法の才能の取得に関して創世神との相談が必要。

 槍と騎兵、重装歩兵。火薬の発達に伴う、銃への過渡期?

 魔法が神の許可制って意味不明。 

 

「あの、何か使命とかありますか? 注意事項とか」

「使命的なものは特に無い……かな? むしろ、君が冒険者ルートを突き進むのなら、方向性は勝手に収束するから問題ない。善行も悪行も気にしなくていい。人類の勝利を目指してもいいし、敗北に貢献してもいい。むしろ、あちらの創世神は荒魂(あらみたま)の側面が強くてね。徹底的な陵辱を含んだ強姦や、尊厳を貶めるような殺人はむしろ喜ばれるし推奨すらされる。それどころか、気に食わないから国ごと皆殺しにした、などの逸話を実行したら、忌避どころか下手したらあちらの創世神の加護を授けられる可能性すらある。先ほど話した通り、人間以外の存在が強いからゲームのような無双は難しい。法的に重婚を認めている国が多いからハーレムは問題ない。種族や地域によって一夫一妻だったりアナルセックス不可だったりはあるから、事前確認や合意関係はキチンとやってね。記憶保持転生の都合上、言語習得は頑張って貰う必要がある……うん、こんな所かな?」

「おおう……めっちゃダークファンタジーっすね……」

 

 思わず、片手で顔を覆ってしまった。情報量が、情報量が多い。

 武神の加護すら、ロングソード+1みたいな感じなんだろうか。

 魔法の才能があったとして、飲料水を生み出す魔法程度は許されるんだろうか。

 うーん、わからん。これはもう、現地で判断するしかない。

 

「あっ。使命として伝えても問題ない、あの世界に相応しい良い言葉があったのを思い出したよ。是非ともその言葉を胸に、あの世界に旅立って欲しいな」

「世界に相応しい言葉、ですか?」

 

 神様はニヤニヤと笑う。親指を立ててサムズアップ。

 

「エンジョイ&エキサイティング!」

 

 あー。R-18Gタグがつく人生かな?

 乾いた笑いを浮かべていると、再び自分の意識が遠のいていくのを理解した。

 ああ、はじまるのか。視界がおぼろげになる中、自分も親指を立てて返す。

 

「いってきます! エンジョイ&エキサイティング!」

 

 ああ、すげぇいい笑顔をしてやがるなぁ、神様。

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