ふかふかダンジョンでエンジョイ&エキサイティング!   作:RAP

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(城壁都市アイギスと、オリキャラのアイリスの名前が紛らわしいことに今頃気づいたのですが、どうかスルーしてください)


第10話 原作開始前・プレゼンタイム

 王家主催の舞踏パーティに行くことすら可能な最上級の貴公子服に身を包み、この世界の整髪料を使ってモデルばりに髪の毛を整え、度無しの謎眼鏡でインテリな雰囲気を演出しているユーリ・アイダ・ハサマール子爵令息です。この世界におけるネクタイ&スーツ、つまり貴族的戦闘服に身を包んでいるわけですね。

 

 僕は大きな両開きの扉の前に立ち、大きく息を吸い、ゆっくり息を吐く。僕の後ろには、沢山の紙束タワーを乗せたワゴンを運ぶバーチェ(度無し謎眼鏡つき)と、書類を挟んだバインダーを手にキリッとした顔をしているアイリス(度無し謎眼鏡つき)と、さらに後方には様々な()()を運んでいる騎士達(全員度無し謎眼鏡つき)が控えている。

 

 僕は眼鏡をクイッとしてから、コンコン、と扉をノック。

 

「ユーリ・アイダ・ハサマール、入ります」

 

 扉を両手でゆっくり開ける。くそデカくそ広のハサマール邸の食堂。

 そこには、ザムアーノ父上をはじめとした家族一同、および、執事やメイド長や料理長などの、上級使用人全員が揃っていた。

 

 僕はつかつかと歩き、家族を見渡しやすい特等席に立つ。

 さあ、はじめようか。眼鏡クイッ。

 

 

「緊急で家族会議をしたいというから、集まったが……」

「一時期は目の下の隈が酷かったから、とても心配していたんだよ、ユーリ?」

 

 ノマカップ大兄様とネティル小兄様が心配の声をかけてくれる。

 静かに見届けようとしているバーラ母様と、泰然自若なザムアーノ父様が僕たちを見やる。

 

「私たち全員を集めるだけの理由と価値がある。そう捉えていいのね?」

「……時間が勿体ない。説明に移れ」 

 

 僕はパチン、と指を鳴らす。眼鏡バーチェが入室し、ワゴンを移動させ、家族や上級使用人を含めた全員に、大量の資料の束を渡していく。

 どさっ、どさっ、どさっ。積み重なる書類の厚さと数に、皆の顔色が不安へと変わっていく。

 バインダーを抱えた眼鏡アイリスは騎士の一人にハンドサインを送る。指示を受けた騎士が黒板を僕の後ろへと運ぶ。

 

 だんっ! 両手を机に叩きつけて、僕は注目を引く。

 

「まず最初に」

 

 その場の全員を見渡し、一人一人の目を見ていく。

 僕は誰一人として粗雑には扱いませんよという無言のアピール。

 

「ハサマール家の相続権に一切の興味はない、と念押ししておきます。申し訳ありませんが、大兄様と小兄様に全てお任せする予定です。仮に伯爵以上に陞爵したとて、僕のこの意思に変わりはありません」

 

 えー。本当に本当でござるか? お前が後を継いでいいのよ? という顔の大兄。

 有能な人が当主をすれば全部丸くおさまるんだけどなあ、と言いたげな小兄。

 

「貴族たる最低限の義務として、政略結婚は一度だけ受け入れます。というか受け入れました。これ以降の婚姻は、申し訳ないですが僕の意思を最優先とさせてください」

 

 どうしよう、この子を煽りすぎたかしら、と困惑顔の母上。

 逐電どころか貴族籍すらいつでも平然と投げ捨てそうだな、と分析顔の父上。

 

「特許に絡む商材について、王家に試供品を納める程度は構いませんが、上位貴族を含めて無料提供を許す気は無いです。誰が相手だろうがきっちり売ってきっちり回収してください。ただ、平民用の安価なものと、貴族用の豪奢で高価なものをわけた方がいいでしょう。説明を聞けばご理解いただけると信じていますが、今回のお話は拡散をこそ望んでいます。全てをハサマールで処理する必要はありません。特許を活用して、中央大陸全体に広げたい。つまり、特許関連の法がしっかり整っている他国であれば、中途半端に猿真似されるよりは正式に他国への特許登録をして国外にも流布することを望みます」

 

 ざわ・・ ざわ・・

 

 この『ざわ・・』は基本的には三点リーダーじゃなくて点2つです。ここテストに出ます。

 もとい。僕の発言を受けて、室内がざわめきはじめる。

 

「というわけで」

 

 振り向いてチョークを握った僕は勢いよく『ハサマール革命計画』と書き、二本線を引く。

 

「この国の生活を豊かにする、『ハサマール革命』についてご説明いたします」

 

 『生活の利便性向上』と黒板に書き、その隣に『全国民』、その下に『平民』『貴族』と書き、双方から『全国民』に向けて矢印を引く。

 その下に『自領 → 他領 → 自国 → 国外 → 全部』と書いていく。

 最後に、『全国民』と『全部』を丸で囲った。

 手についたチョークを大仰な動作ではらい、改めて振り向いた。

 

「お手元の資料をご確認ください。6部ずつあるはずです……結構。話を進めます」

 

 全ての資料は、前世のパワーポイント資料的に、とにかくわかりやすくしてある。

 主張を簡潔にまとめた説明や、わかりやすい図説。細かい解説は別紙参照だ。

 

「『ハサマール革命』は、この国、ひいては人類圏全てに変革の可能性を及ぼすことでしょう。沢山のお金と、多くの人数が動きます。ですが、はじまりはこの地からです。『ハサマール革命』の名は、歴史に残ることでしょう」

 

 なんだこれ、と適当に資料をめくっていた皆が、書いてある内容のあまりのぶっ飛んだ中身に、信じられないと高速でパラパラと音を立ててめくり確認していく。

 ふふ。これ用意するのにマジでめっちゃ時間かかってるからね。腱鞘炎になるかと思ったよ。

 ちなみに各資料の最初の1ページ目に記載されている題は以下の通り。

 

『ハサマール建設・冷暖房及び床暖房、耐水防腐白蟻対策を施す新築およびリフォームのご提案』

『ハサマール建設・太陽熱温水器と断熱樽と断熱蓋を活用した太陽熱風呂のご提案』

『ハサマール材木・各種人力重機のご提案と、伐採後の植林における森林保持の利点のご説明』

『ハサマール商会・各種自動調理器及び洗濯・脱水機の導入による労力低下革命のご提案』

『ハサマール輸送・断熱と保温と車氷室(ひむろ)による冷蔵輸送を用いた輸送流通革命のご提案』

『ハサマール領宛・マカダム舗装を用いた街道整備と排水整備による領移動活性化のご提案』

 

「詳細は資料に書いてありますが、口頭で簡単に説明させていただきます」

 

 眼鏡をクイッとする僕。いつの間にか隣にいるバーチェも合わせてクイッとしてくれる。

 

「夏に涼しい部屋、冬に温かい部屋。それでいて耐久性が高く長持ちする家屋。薪を使わないお風呂、薪を使わない煮込み料理。夏場に氷を作り、長時間保存できる。輸送や流通に大規模な変化が起こり、内陸部で海魚を食べられるようになる」

 

 ざわ・・ ざわ・・

 

「どれだけ衣類があろうとも、洗濯と脱水を一度にかつ簡単に処理できるようになります。手回しや足踏みによる人力保存型、川辺限定の貴族向け水力型、村単位で使用を推奨する風力貯蓄型と、消費者のご予算に合わせて用意することができます」

 

 バインダーを抱えたアイリスが眼鏡をクイッとすると、見本の数々を騎士達が室内に運びはじめた。これは、()()()を活用して組み上げた試作品、およびミニチュア模型の数々だ。

 がっつり活用させてもらいました。ありがとう、ハルピュイアちゃん。

 

「夏場に氷作成など、色々とお疑いでしょうが、全て現物をご用意済みです。ご査収ください」

 

 アイリスがバインダーのリストを見ながら、見本が全部揃っているか確認作業をしている。

 僕は説明を続ける。

 

「今後必要な薪の量が激減するため、長い目で見れば木材の消費はおさえられますが、各種計画始動時の消費量増大は防げません。ですので、並行して植林をおこなうことで森林を保護します。

 増収した税金で主要道路を整備し、移動と輸送をより強化します。なんだったら道路や橋の命名権を餌に、整備用の寄付金でも募ればよろしい……商人の方から笑顔でやってくることでしょう」

 

 アイリスのOKサイン。見本は全て目の前にある。

 僕は頷くと、両手を広げて説明を続ける。

 

「竹林、およびムクロジの木の群生地は既に発見済みです。ムクロジが秋につける実の皮を砕くと、粉末状の石けんとなります。これは洗髪から食器洗いにまで何でも使えます。これを商品化することで、太陽熱風呂と食洗機の購入意欲を促進できます。

 竹林から竹炭を作ると、副産物として竹酢液(ちくさくえき)と木タールを採取出来ます。竹酢液は消臭・殺菌・防菌・防虫効果、土壌改良や堆肥作り、スキンケアや湯冷め防止など色々使えます。木タールには殺菌作用、防虫、防カビ、耐水、耐酸、耐油、耐塩、防腐、防蟻効果があります」

 

 防菌だの殺菌だのは、伝わるかどうかは知らんけど。ふわっと伝わることを祈りたい。

 

 とにかく、現代日本風にわかりやすく言うなら。

 エアコン、床暖房、冷蔵庫、製氷機。洗濯機に脱水機。24時間風呂に温水器。

 調理器、スライサー、ミキサー、皮剥き器、食洗機。勝手に煮込んでくれる保温調理器。

 簡単に伐採できる重機。活発化する家屋建築やリフォーム。

 

 原作に存在するこれらの要素に加えて、植林による森林保護と、マカダム舗装によるインフラ整備を付け加えた。

 なお、原作最強素材である、セルロースナノファイバー様はまだ投入してません。

 

 

 家族全員の顔が引きつっている。使用人達のざわざわが止まらない。

 よし、ここでトドメをさす。僕に言わせれば、『ハサマール革命』は最初のジャブでしかないんだけどね?

 

「父上、母上。大兄様、小兄様」

「……なんだい?」

 

 かろうじて声をあげた父上に対して、僕は告げる。

 

「『ハサマール革命』における全特許の代理申請と、生産工場設立及び生産代行と、営業及び販売代行と、全ての計画におけるスタッフ増員および教育措置と、機密保持に関する侵入者対策その他、とにかくまとめて全部、お願いしますね。特許料の振り込み先となる口座作成もついでにお願いします」

「……よかろう。作成した口座の全権限はユーリ、お前に渡す。好きに使え」

 

 顔をこわばらせたまま、父上が返事をする。

 僕はニヤッと笑って、アイリスに手を向ける。

 アイリスはバインダーから1つの書類の束を外して、僕に手渡した。

 

「これはオマケです。書籍化するなら、印税はちゃんとくださいね?」

 

 僕は『わかりやすい複式簿記 著:ユーリ・アイダ・ハサマール子爵令息』と書かれた書類を、父上に手渡した。

 僕とアイリスとバーチェは、横に並んで一斉に眼鏡をクイッとした。

 

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