ふかふかダンジョンでエンジョイ&エキサイティング! 作:RAP
【アップデート内容のご案内】
・暗黒大陸での伐採はドラゴンに狙われる行為なので、薪の確保に注意です。
・ファントムアレイはランダム範囲にトリカブト毒を撒く矢です。
・白面金毛はトリカブト毒に耐性のある突然変異体です。回復に一週間程度必要です。この世界線においては毒耐性の加護持ちと見なされます。
・情に厚いボーゲンが中立を維持できる可能性は50%です。
・『最強のレッドキャップは害獣駆除に奔走する 〜頭おかしい連中が絶滅戦争仕掛けてきてるので一匹残らず駆逐しますね〜』の主人公こと白面金毛が、神より与えられし加護についてシーン演出を格好よく決めたことにより創世神の中で人気が急上昇。白面金毛への加護がさらに増強され、神界でアニメ化企画、スピンオフコミカライズ企画、コラボカフェ企画などが進行中です。今後の白面金毛の活躍にご期待下さい。
→ ふかふかダンジョンver7.117 ダウンロード完了。
→ ふかふかダンジョンver7.117 に更新中です。
* * *
絶望の草原からの帰還中、野営用キャンプで熟睡中。
前世の僕が死んだ後の原作展開をまたも夢に流し込まれた。
バージョン管理の数字は、多分「原作話数+単行本巻数」に変更された。
この世界では、野営中にセックスするのは主人公補正持ちか聖女じゃないと厳しい。
ジャン君や白面金毛、聖女達は野営中でも平然とセックスできる。
エロモーブちゃんは野営中のセックスでさっくり死んだ。
今の僕はハーレムパーティだからその気になれば野営セックス可能で、見張りもちゃんと立ててるけれど、野営中のセックスは自重……自重? 普通にカタナちゃん抱いてましたね!
ま、まぁ、ほら。今は息子のユウも同行してますので。自重です。
野営用毛布の中でもぞもぞしながらシンキングタイムってやつ。
……それはともかく、原作はいまだに白面金毛無双が続いてるのか。
なんでさらなる加護の強化が施されてるの。創世神、白面金毛のこと好き過ぎでしょ。
『白面金毛にはこんな悲惨な過去があったから、人間を恨むのは仕方が無いんだ!』
うん、わかるよ。わかったよ。でもさ。人間が絶滅戦争を仕掛けたのではなく、レッドキャップ達から人間に絶滅戦争を挑んだ、が正解だよね?
そもそも『人間が獣以上と思い上がった』として、放置しておけばいいだけの話じゃん。
なんでわざわざ駆逐せなアカンねん。
人間は自身を獣以上と思い上がったあげく、レッドキャップを家畜化しようとしたの?
それとも……人間に敵対するように遺伝子プログラムを組み込まれて作られたの?
卵が先か、鶏が先か。
約500年前の初代教皇が、聖典を改訂して亜人を根絶するよう明記したのと。
レッドキャップの信ずる精霊が、人間殺すべしと定めたのと。
一体どっちが先なんだろうね。
『魔術師の森』は、原作と違ってバトさん・ミルヒ・カカオが僕の嫁として隣にいる。
対ゴブリンマジシャンガール用にハンティ爺さんまで勧誘してきたけれど、考えてみればわざわざ弓王ボーゲンを森に行かせる理由が全く無いな?
この世界線では、ボーゲンとジャン君との間で師弟関係が結ばれていない。それが一体、どう転がるのか。ボーゲンの森行きを阻止できるならしたいなぁ。
リマと再会しなければ、それはそれで弓一筋の人生を送ってたはずだし。
……ったくマジで聖教会はロクなことしねぇな!
ソウハカイ神父の説明では、50年前に2000人の部隊が丸ごと魔術師の森に消えたとある。
通常の罠に加えて、森の死神、空の死神、使い放題だったんだろうな。
空の死神は、織津江パイセンが言ってたドローンだと思うんだけど。
森の死神は、なんだろうなぁ。
聖剣の勇者セイちゃんが、白面金毛の強さを引き立てるためだけの道具になってる。
涙目で叫ぶセイちゃん、可愛いね。ゾクゾクしちゃう。
演出のためとはいえハッタリも多い。
『防御と回避に徹していればたとえ達人でも攻撃を当てるのは難しい』
いやいやいや。そんなわけねーですから。
防御と回避という思考に居着いた相手なんて雑魚でしかない。
反撃の無い相手なんて、サンドバッグ以下の肉袋です。
セイちゃん級が防御に徹したんならまだともかく、非ネームドが頑張っても、ねぇ?
ボーゲンの『思う』無しに射るのは、対白面、対セイちゃんと思われてるんだろうな。
前にも言ったけど、弓の上位陣って『思う』無しに無心で撃つのが日常だよ。
そんなの、武の術理をちょっとでもかじったんならわかるはず……?
あっ、白面にもセイちゃんにも、武の術理が無いや。
はい、この話やめ! 終了! 終了です!
――ふかふかダンジョンver7.117 に更新完了しました。
* * *
「ひのふの……冒険者は25ってところか。ジャンもいやがる」
「便利な道具だ。この距離で顔までわかるとは、な」
「なあ、おっさん達よ。あの最新装備はちょっとヤバくないか?」
白面金毛達とは、別の岩棚の上。
犬狼部隊は、既に配置を終えていた。
犬狼達は、全員伏せた状態で遠眼鏡を片手に監視をしていた。
目標地点に向かう冒険者達の姿は、捕捉済みだ。
「守るに易く、攻めるに厳しい地形ではあるんじゃがのう」
「……情報通りの人数差なら、白面金毛側は打って出る。待つ意味がない」
「俺なら
三人が、分析を進めていく。
「レッドキャップの速度を活かせる直線があって」
「冒険者側の隊列がだらだらしそうな隘路で」
「適当に撤退しやすそうな場所……」
三人の声が揃う。
「あそこじゃの」
「あそこだ」
「あそこかな」
そこは丁度、原作5巻でジャンと白面金毛が遭遇した場所だった。
「ふむ。ワキュウの準備といこうかの」
「周辺の防御は気にするな。思うままに撃て」
「あいよ。
クロスが口頭確認しながら、圧縮空気狙撃砲こと
名称こそ織津江パイセンをパクっているが、実際にはユーリなりの改造を施しているので、完全な別物だ。
そして、クロスがちょっとヤバいと表現していた最新装備。
折りたたまれていたレンチキュラー・シールドが、クロスの前面に展開された。
ユーリが職人に特注で無理矢理に作らせた、こだわりの逸品がある。
一枚の板が、細いかまぼこ状の縦線模様で埋め尽くされるように形成される枠組だ。
その枠組にセルロースナノファイバーを流し込み、乾燥させる。
すると、セルロースナノファイバーの透明性が活きた、レンチキュラーレンズができあがる。
そのレンチキュラーレンズを、板状にしたセルロースナノファイバーと貼り合わせる。
結果として、微妙に半透明の盾が完成する。
さて、この微妙に半透明の盾を、相手側から見るとどうなるか?
あろうことか異世界ファンタジーにおいて、なんちゃって光学迷彩が完成する。
もちろん弱点はある。攻殻機動隊のようにアクティブには動けない。
似たような背景が連続しているところで、動かずに使用するのが望ましい。
つまり、背景が草原や森などの、なんの変哲も無い場所で。
動かない狙撃スタイル時の盾として、レンチキュラー光学迷彩を使用した場合。
それはそれはもう、大変凶悪な盾となる。
事実上、クロスの視認が不可能になる。
どんな感じで見えなくなるのかは、是非画像検索して欲しい。
* * *
「レッドキャップ4匹。オス1、メス3、オーク1匹。オスの足跡は白面金毛だ」
「俺たちの目的地に居る可能性が極めて高い」
「今が奴を狩る最大のチャンスかもしれない」
原作では新人のみだったが、この世界線ではジャンパーティがC級、ジャンがB級のため、表現としては『中堅と新人混じりのレイド』になる。
その上で、この世界線において原作と完全に異なる点が一つあった。
「ジャン。そしてみんな、聞いて」
「どうした?」
現リーダー・アロの発言に、ジャンが答える。
そう。アロは原作通り、持ち回りとしてジャンパーティのリーダーをやっていたが。
原作のように、リーダー権限をジャンに譲らなかったのだ。
近接戦概念のアロは、リーダーとして真剣に考えながら言う。
「白面金毛の強さがわからない。だから、旦那様を……ユーリを仮想敵として、私達は戦う」
「……続けて、リーダー」
ジャンの顔つきが真剣そのものになる。
「本気のユーリは二刀流。二人でかかってもやられる、半人前でもやられる。だから六人を一組として、三人ずつで前後配置とする。半人前でも二人なら一人前。二人前までは二刀流で対処される。それなら、三人前で挑めばいい」
「三人前の六人ずつで、四班か」
「仮想敵がユーリなら、周囲は弓が得意なお嫁さんばかり。枝を纏めて分厚い盾にして、あと長めの槍も用意しましょう。突撃判断は各班のリーダーの判断で各個に、密集陣形を意識して。六人の四班なら24人。1人余るわ。だから、ジャン。貴方には遊撃として自由に動いて欲しいの。できれば……白面金毛への一番槍を任せたい」
奇しくも、この世界線のアロが提案した作戦は、原作に近いものとなった。
「アロ……やるんだな!? 今……! ここで!」
この世界でユーリにしか伝わらない進撃の巨人台詞を、ついジャンは言ってしまった。
偶然にも、アロの返事が少し一致する。
「ええ。勝負は今、ここで決めるわ……ここでやらないと際限なく被害が増えるし、私達の冒険の邪魔だもの!」
* * *
『レッドキャップの投槍』対策に、手近な材料で盾を作成する。
弓使いは荷車に薪を詰め込み、簡易的な移動城壁に。
通常の矢の数倍の威力を誇る『レッドキャップの投槍』は、並の盾や鎧では貫通される。
「いきましょう」
「おう」
もしかしたら白面金毛が寝ていて、こちらに気づいていない可能性もある。
だが、仮想敵をユーリとするのならば、そんなはずはない。
ジャンは真剣に考え、呟く。
「ユーリさんなら、絶対仕掛けてくる。こちらの隊列が伸びきったところを叩いてくる」
「
「……!」
いた。あいつだ!
正面の森の木陰、大きい矢を手にしている!
「
アロが叫ぶと同時に、白面金毛の投擲モーション。
ジャンが持つ簡易盾を余裕で貫通して直撃した。
不気味な白い仮面。
人間用の薙刀を、体躯の小さなレッドキャップが平然と扱っている。
「総員隊列合わせ! 行くわよ、
アロの命令が飛ぶ。女性特有の高い声は、戦場によく響いた。
後続も負けじと、突撃と叫んで突進していく。
白面金毛、二度目の投擲。
弓引き投げが正確にジャンの胸を襲う。
ジャンは二本目も盾で受け止めたが、もう使い物にならないと判断し、盾を捨てた。
近づいてくる。
物凄い速度で、白面金毛が近づいてくる。
* * *
「ジャン君はさ、結構長くオサン流をやってきたわけじゃん」
ある日の道場。
ユーリが左手でジャブをしながら、ジャンに言った。
えへへ、と恥ずかしそうにジャンは照れる。
「はい、頑張りました」
「でさ。オサン流として、咄嗟に手が出ちゃうこと、あると思うんだよね。ジャン君はジャン君なりに拳打をオサン流に組み込んだんでしょ?」
それっぽいステップ、それっぽいダッキング。
アッパー、ストレート。ユーリのシャドーが続く。
「あ、はい。なんちゃってボクシングですけど。オサン流の師匠にも、拳打を頑張って磨いてみろって言われて……」
「うん、そこ。ボクシング。そのボクシングの意識を、ちょっと変えてみようか」
「えっ……やっぱ駄目ですか、殴るの」
「いや、そうじゃない。ジャン君は小さな頃からオサン流をやってきたから、ついオサン流としての動きをしちゃうことはあると思うんだ。それはいい。問題は参考にしたボクシングの方」
しゅっ。
ユーリの左フックが、ジャンの右頬に添えられる。
「ジャン君、ボクシングの禁止ルールって覚えてる?」
「ふわっとですけど……蹴っちゃ駄目とか、肘が駄目とか……」
「細かく説明してみようか。下半身、ベルトラインから下。
ユーリがジャンの身体を押さえて、膝で金的を入れるフリ。
「
説明しながら、ジャンの急所に攻撃をする、フリ。
「
「駄目なやつばかりですね」
「総合格闘技も似たようなものさ。ちょっと倒すよ?」
軽い大外刈りで、ユーリはジャンを倒す。
その上で、いわゆるマウントの姿勢になる。
「馬乗り、要はマウントの姿勢になったとしよう。ジャン君が僕のように相手に馬乗りになったとして、どうしようと考える?」
「ええと……テレビで見たように、顔を殴ったり……関節技を狙う?」
「うん。そう考えちゃうよね。要はさ、ボクシングとか総合格闘技を参考にすると、『存在しないルール』を守ろうとしちゃうんだよ」
「『存在しないルール』、ですか」
「そう。僕達がやっているのはただの殺し合いなのに……ジャン君自身が言ったように、テレビで見たような綺麗な戦い方をしようとして、心が勝手に身体の動きを制限してしまう」
ユーリは、マウントのままでジャンを殴る振りをする。
「僕は雷光流の師としてキチンと無手の技も教えるけれど、ジャン君はオサン流を長くやっていた分、どうしてもオサン流の動きが出ちゃう時があると思う。でも、その時に、心の中だけでもいい。ボクシングや総合格闘技を参考にしたとは思わないで欲しいんだ。『なんか超凄い殺人武術をマスターした俺様』と意識してほしい。それだけで、結構変わると思う」
「なんか超凄い殺人武術をマスターした俺様……」
「前世の格闘技の反則技ってさ。危険で死んじゃうから、やってはいけないルールなんだよ。でも今世は逆だよね。本当の殺し合いなんだから、ルールなんて無い。むしろ、前世と真逆で……危険で死んじゃうから、やってはいけないとされていたことを積極的にやらないといけない。例えば、マウントをとったとして」
ユーリの両手がジャンの頭を掴む。両手の親指が、ジャンの目にそっと添えられる。
本気ではない、とわかっていても、ジャンの身が竦んでしまう。
「総合格闘技なら、目を潰そうとは思わない。でも、なんか超凄い殺人武術をマスターしているのなら、目潰しなんてやって当たり前だ。そして、目は潰すだけじゃない」
ジャンの、文字通り目の前で、ユーリの親指が曲がる。
「指を引っかける場所にもなる。その上で、ジャン君の頭を何度も地面に叩きつけたりできる……まだあるよ。掌底。張り手と言い換えてもいいけど」
そう言って、ユーリはジャンの目にわかりやすく、おおげさに張り手のモーションをして、耳に添える。
「耳を打つ。鼓膜は破れ、意識も飛ぶ。仮に相手がマウントから脱出して立ち上がったとしても、鼓膜が破れているから片耳は聞こえないし、痛くて集中力は落ちるし、目眩も発生している。さっきの技と組み合わせてもいい……張り手で耳を打ってから、そのまま指を目にひっかけるとかね。あるいは……こうやって」
ユーリは手を開き、指先でジャンの目をなぞる仕草をする。
「指先で相手の両目を撫でるだけで、十分目潰しになる。少なくとも、怯む。顎を掌底で打ってから、流れで相手の目に指を突き入れてもいい。やっているのはテレビ中継用のスポーツじゃなくて、『なんか超凄い殺人武術をマスターした俺様』による殺人武術だから、卑怯なことはなにもない。とにかく、意識を変えて欲しいんだ。ジャン君が参考にしたのはボクシングじゃなくて、なんか超凄い殺人武術。わかった?」
「……押忍!」
「おっ、いい返事だね」
ユーリはニコニコしながら、ジャンに尋ねた。
「ところでジャン君、前世でシグルイって漫画を読んだことある?」
「すいません、読んだこと無いです」
「じゃあ台詞だけ。『痛くなければ覚えませぬ』」
「えっ? うっぎゃあああああああ!」
そのまま、雷光流の接触技法の授業がはじまった。
その日のジャンは、半死半生という四字熟語の意味を身をもって知った。
* * *
相手の前に自分を殺す。草刈り。観の目。
持ち手は薬指と小指を締め、他は柔らかく。
ナギさん。ウォルさん。ナァルちゃん。
なんか超凄い殺人武術をマスターした俺様。
平常心。草刈り。やらなきゃやられる。観の目。
ナギさん。ウォルさん。ナァルちゃん。
生きる。草刈り。生きる。観の目。生きる。
* * *
大の字に寝転がったジャンに、もう体力は残っていなかった。
軽く打たれ、軽く極められ、軽く投げられ、軽く蹴られ。
動かなければ折れる、投げられなければ折れる、あらゆる急所を触られる。
ツボって漫画の中だけじゃなくて本当にあるんだなぁ、とジャンは実感した。
大の字のジャンの隣に座ったユーリが、懐かしむような目でジャンを見つめた。
そんなユーリを見ながら、ジャンは寝転がったまま言う。
「さっき言ってた漫画のタイトル、『武士道は死狂ひなり』ってやつですか?」
「うん。元ネタはそれだね。『武士道は死狂ひなり。一人の殺害を数十人して
「死ぬ気で戦え、という意味ではないんですか?」
「大元の『葉隠』 という本は、むしろ人の『生きる理由』について語ってる。生きる理由の為に、死ぬ覚悟を持て、とね。だから、死を厭わずに狂気に身を
「……やっぱり、誰かを殺す訓練とか、やるんですか?」
気になったジャンが問うと、ユーリが苦笑する。
「今度、鎌で草刈りをしてごらん。殺意をこめて草を刈るだけでいい」
「それ、鍛錬という理由で庭掃除させようってことじゃないですよね!?」
ジャンがジト目で言うと、ユーリは腹を抱えて笑った。
* * *
死を厭わずに、狂気に身を
ナギさん。ウォルさん。ナァルちゃん。妹のユーリさん。
三人の武術の師匠達。アロをはじめ、自分の周囲にいる温かい友人達。
故郷で待っている家族。あと内緒だけど、ゴブリン娘ちゃん。
生きる理由を腹におさめ、死ぬ覚悟を胸に秘め、まっすぐ進んで道を切り開く。
――
ジャンの槍と、白面金毛の薙刀。
振り下ろしと切り上げの初撃が、まさしく同時に始動した。