ふかふかダンジョンでエンジョイ&エキサイティング!   作:RAP

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第101話 原作時間軸・積み重ねの結果

 

(想定より、連中の突撃タイミングが早いですね)

 

 白面金毛は、赤鎧の大男が振り下ろしてきた槍の内側に踏み込むように薙刀を切り上げ、彼の槍を半ばで切断する。

 今まで対峙してきた人間達は、そこで怯えて動きが止まるか、退いて腰の武器を抜こうとする。

 全員答えは似通っていたから、答えを見た上で切り刻めばいい。

 

 だが大男は、一切止まらず踏み込んできた。

 残された手持ちの部分……もはや槍ではなく棒と化した部分を、こちらの仮面の目に刺すように突き出してくる。

 

(一当てして撤退のつもりでしたが、コイツを仕留めて士気を崩しましょう)

 

 大男の棒切れの突きを、軽く首を右に傾げて回避する。

 左上に振り上げた形となっている薙刀を返して振り下ろし、この美味しい餌の首を刎ねて――

 

 

 赤鎧の大男ことジャンは、潜り込むような低い姿勢でさらに踏み込みながら棒を捨てた。

 白面金毛の左側に運足で抜けると同時に、薙刀を振り下ろす右腕を掴んで引く。

 軽く首を右に傾げたまま、白面金毛は身体を前に釣り出された形となる。

 

 瞬間、ジャンのフックじみた左掌底が、白面金毛の右耳に命中した。

 右腕を掴まれていたのと、振り下ろし動作の途中だったこともあり躱せなかった。 

 白面金毛の右鼓膜が破れ、脳が揺らされ視界が歪む。

 

 日中だったことが、余計に最悪だった。

 レッドキャップたる白面金毛の目は、日中だとほぼ見えない。

 バトの音見のように、エコーロケーションで周囲を見て判断していた。

 ……白面金毛の脳内視界の右半分が、一気に消失した。

 

 白面金毛の右腕を両手で持って捻りつつ、くるりとジャンが身を翻した。

 逆関節に極めた右腕を、ジャンの左肩を支点として支え、白面金毛の右手首を両手で固定したまま一気に下げる。

 テコの原理が働いて、当然のように白面金毛の右腕は破壊された。

 激痛が走り、白面金毛はたまらず薙刀を落としてしまう。

 

 ジャンは、ユーリにやられた事を脊髄反射で真似している。

 そしてそれは、ユーリがカスメにやった『お遊び』とはワケが違う。

 戦場において、ガチで人体を壊しに行く時の技法、そのままである。

 壊した結果として死ぬ。あるいは死ぬまで壊し続ける。

 だから終わらない。

 右腕を壊した程度で、雷光流の接触技法が止まるわけがない。

 

 付け加えるなら、ジャンは死狂い、つまり無我夢中だ。

 原作で天然のアホの子と指摘されたように、ユーリにやられたことを必死に完コピしているだけなので、白面金毛にとってジャンの次の動作が予測できない。

 掌打で鼓膜を破られている今は、なおのこと読めない。

 

 ジャンは白面金毛の右腕を逆関節で押さえたまま、右足を曲げて背中側から金的を入れた。

 白面金毛は必死に足を閉じて金的をガードしたが、それは意識が金的に逸れたということ。

 

 ジャンの左手が、白面右手の小指と薬指を。

 ジャンの右手が、白面右手の人差し指と中指を。

 それぞれ思い切り強く握りしめながら、ジャンは左右に思い切り引っぱった。

 

「ぐあああっ!?」 

 

 たまらず、白面金毛は悲鳴をあげる。

 四本の指が折られると同時に、右手が引き裂かれれば誰だって悲鳴をあげる。

 右手の中指と薬指の間に、手のひらの半ばまで新しい線が強制的に増えた。

 

 それでもなお、ジャンは白面金毛の右腕を離さない。

 白面金毛に足払いをかけ、白面の右肩を押し、白面金毛を地面に叩きつける。

 

 壊した右腕を押さえつけながら、さらにジャンは倒れ込む。

 ジャンの全体重をかけた肘打ちが、白面金毛の後頭部に炸裂した。

 白面金毛の象徴となる白面の仮面に、ヒビが入る音が周囲に伝わった。

 

 

 かなりエグイ技を流れるような連続技として見せたジャンに、仲間の冒険者達は戦慄し、動きが鈍った。英雄たる白面金毛のピンチを見ていられず、原作よりも早いタイミングでオークのトンドンは走り出した。

 白面金毛の悲鳴に、クリム・ローズ・ワインの戦妻達もたまらず姿を見せてしまった。

 

 

 * * *

 

 

(私の計画と判断に全員の命がかかってる……っ!)

 

 アロは原作4巻101Pの顔で、戦場を真剣に見ている。

 白面金毛に対してジャンの攻撃が成功しているが、白面金毛を助けようとオークやレッドキャップ達が一斉に攻撃態勢に入っているのが見える。

 

「……みんな、覚悟を決めて! 誰かが死んでも振り向かないで!」

「応!」

 

 動きが鈍った冒険者達に、活が入った。

 前衛陣の突撃が再開される。

 

前右(まえみぎ)前左(まえひだ)、敵襲!」

「応!」

「弓兵、各自に撃てーっ! 」

 

 アロの指示を受け、ナァルやナギ、ウォルをはじめとした弓兵達の矢が一斉に放たれる。

 凄まじい数の矢が、オークのトンドンに突き刺さった。 

 しかし止まらない。トンドンは、オークは止まらない。

 

「突撃ーッ!」

 

 アロは叫びながら、自分の背丈と似た長さの石斧を片手で保持しているトンドンに向かって走り出した。その突撃に、一切迷いが無かったのでナギもウォルも心底焦った。

 

 

 * * *

 

 

「白面様!」

 

 視界も足場も最悪だが、そんな事は言っていられない。

 戦妻達は牽制でも構わないとばかりに、弓を構える。

 

 クリムは人間の言葉を話せるが、戦闘能力は一番低い。

 ローズは、弓は上手いが弓引き投げができない。

 三人の中では、ワインの戦闘能力が一番高い。

 

 つまり、弓を構えて狙う動作に関して、クリムが一番遅かった。

 犬狼が獲物を待ち構えている場であることなど、彼女達は知りようも無い。

 

 正確なヘッドショットだった。

 クリムの頭部が、突然数メートル吹き飛んだ。

 その先にあった樹に、クリムの頭部が大きな矢で縫い止められる。

 首から下は、頭部がある方角に向かってゆっくり倒れた。

 

「……クリム!?」

 

 思わず、ローズは振り向いて見てしまった。

 それは動きを止めるということを意味する。

 どこか見えない所から飛んできた矢が、ローズの左肩に突き刺さった。

 

「あぅぐっ!」

 

 どこだ、どこから飛んできた。

 真正面にいるあいつらの矢ではない!

 

 

 * * *

 

 

 雷光流の『触れて崩して斬る』は、練習時の相手が動かず止まっている時なら成功率がある。

 でも本番想定時、相手が動いている今のような状況では、まだうまく崩せない。

 『触れてから捕るのではなく、捕れる状態にしてから触れる』とユーリは説明してくれる。

 

 套路(とうろ)をゆっくり分解するようにやった結果、腕を伸ばした状態での肩の裏の使い方がなんとなくわかったような気がした。

 

 中国拳法の化勁には、大別して二種類の用法がある。

 相手の勢いを殺さずに流して、打撃などでカウンターを入れる方法。

 腕を伸ばした状態で相手の身体に接触し、合気捕りのように掴むか、力を逸らす方法。

 

 今回アロが掴みかけたのは、後者の『腕を伸ばした状態での合気捕り』の方だ。

 前者の化勁は、素人目でも一目でわかる程度には理解しやすい。

 後者の化勁は、中国人が外国人に漏らそうとしないレベルでわかりにくい。

 

 

 身体中に矢が刺さった状態で、オークが突進してくる。

 お前には構っていられない、とばかりにアロに向かって石斧を振りかざしてくる。

 

 アロは刀ごと腕を伸ばし、自分に向かって振り下ろされた巨大な石斧を薙ぐように触れた。

 トンドンはよろめきかけ、左腕をあげかけた。

 しめた、とばかりにアロはトンドンの左脇を斬る。斬った。

 

 確かに斬ったが、身長差などもあり、浅すぎた。

 もっと深くよろめいていたら。

 もっと深く崩せていたら。

 

 だが現実は、トンドンの太い左腕で薙ぎ払われ、吹き飛んだアロがそこにいた。

 ナギやウォル達の悲鳴があがる。

 

 

 * * *

 

 

「おおおおおッ!」

 

 白面金毛の叫び。

 無理矢理な行為だった。

 全ての痛みを無視し、下半身の力だけで白面金毛はジャンを持ち上げた。

 

 すかさず、ジャンの脱力。

 せっかくジャンを持ち上げたのに、突然重心が変化し、支えきれなくなる。

 

 がくりと白面金毛の体勢が崩れ、再度地面に倒れ伏す。

 よし、殴ろう。

 拳は外れやすいけれど、掌底って当たりやすいよね。

 

 オサン流を学んでいた関係で、ジャンは咄嗟に殴ろうとすると左手が出る。

 何も考えずに打ったジャンの左掌底が、白面金毛の左耳に命中した。

 右に続いて左の鼓膜も破られ、この瞬間から白面金毛の音見が不可能になった。

 少なくとも鼓膜が治るまで、音見的行為をすることはできない。

 

 これが意図的であったのなら見事な戦略だったが、そうではない。

 

 いつも左手で殴っていたから左手で殴った。

 最初は表から殴ったから右耳に当たった。

 次は裏から殴ったから左耳に当たった。

 

 師のユーリですら真顔になる、ガチの天然掌打である。

 表がどうとか裏がどうとか、ジャンの脳裏には一切無い。

 

 ジャンは白面金毛の髪の毛を掴み、何度も何度も白面金毛の顔面を地面に叩きつける。

 ユーリに何度も、そうされるフリをされたように。

 猪サイズのアルミラージに、実際にそうしたように。

 

 とにかく徹底的に、白面金毛の顔面を地面に叩きつける。

 この時、ジャンは壊すことに夢中になりすぎていた。

 とっとと脇差しを取り出して、首を斬っていれば終わりだった。

 

 軽い助走からワインが前転し、弓引き投げをジャンに放った。

 時速250km近い速度の大きな矢がジャンの顔面に突き刺さる直前、ジャンが右小手で防ぐ。

 並の鎧や盾なら完全に無効化して貫く弓引き投げだが、残念ながらジャンの鎧は普通ではない。

 見た目は普通の重装鎧だが、中身はCNFだのTKGだの、最新型のヤバイやつだ。

 数年前の試作品ですら、クコロに放たれたケンタウロスの矢を弾いた実績がある。

 

 だが、ジャンは防いでしまった。受け流せなかった。

 衝撃で右腕が折れたと直感した瞬間、ジャンを守るように大勢の冒険者が盾のように立ち塞がった。しかし、盾となった冒険者達を全て薙ぎ払いながら、ハリネズミのごとく矢だらけとなったオークのトンドンが、ジャンを吹き飛ばす。

 

 右腕で白面金毛を抱きかかえ、オークのトンドンが全力で森の中へと走り出す。

 

 

 * * *

 

 

 ゆらり。

 アロがふらつきながら立ち上がる。

 オークに薙ぎ払われただけで、その顔は鼻血だらけだ。

 むしろ、顔が変形していないだけマシである。

 

「アロ!」

「アロちゃん!」

「アロさん!」

 

 ナギ達が心配の声をかける中、アロは震える手で落ちた刀を拾う。

 皆の視線が集まる中、鼻血だらけのアロは刀を森に向けて叫んだ。

 

「走って! みんな走って! 今しかないの!」

 

 泣こよかひっ飛べ。

 原作なら、ジャンが『重装の奴だけついてこい』と叫んでいた場面だが。

 大きく息を吸ったアロが、腹の底から叫ぶ!

 

「チャアアアァァァァァーーージ!!!!!」

 

 この世界線のアロは、CV:釘宮理恵だ。

 釘宮ボイスのガチ命令を聞いた冒険者達は、どうなるか。

 

「イエスマム!」

 

 アロを除いた24人が、全力で走り始めた。

 軽装も中装も重装もへったくれもない。全員の突撃である。

 

 近接戦概念のアロに、薩摩インストールがはじまっていた。

 

 

 * * *

 

 

 原作ではジャンが走りながら弓を射る「跳び撃ち」をしていたが、この世界線では師のハンティ爺さんがいるのもあってジャンパーティは全員できる。

 白面金毛を抱えて逃げるオークのトンドンの首や背中、レッドキャップのローズの背中や肩の後ろに矢が刺さっていく。だが止まらない。トンドン達は止まらない。

 

 やがて、原作通りの岩棚の上で。

 ローズとワインが、100mを飛び降りようとしていた。

 

「はぁ!?」

 

 追いついた冒険者達全員が、驚愕する。

 

 

 * * *

 

 

 原作5巻148Pを見て貰えればわかるが、飛び降りる直前、トンドンは動きを止めている。

 原作では戦妻達が飛び降りるのを優先した為だが、この世界線では少しだけ違った。

 

 多くの矢傷や、左脇大動脈を切られたことでもはや生きて帰れぬと悟ったトンドンが、ローズとワインに白面金毛を手渡していたのだ。

 そして、その『停止時間』は、犬狼の狙い目でもあった。

 

 白面金毛の身体をワインに受け渡した瞬間、トンドンの頭が吹き飛んだ。

 倒れたトンドンの身体に押し出されるように、ローズとワインが崖から飛び降りた。

 

「はぁ!?」

 

 突然トンドンの頭が吹き飛んだので、同じ驚愕を全員が繰り返した。

 

 

 * * *

 

 

「崖が邪魔で、もう見えねぇ。駄目だな」

 

 狙の一改(スナイパーライフル)でクリムとトンドンにヘッドショットを決めたクロスが呟いた。

 

「ま、駄目元だの」

 

 ハンティはそう言って、弓胎弓(ひごゆみ)を斜め上に掲げた。

 なんでもないかのように、何も無い空中に弓矢を射る。

 極端な放物線を描いて、矢は崖の向こう側に、ほぼ垂直に落ちていった。

 

「……おい爺さん、まさか」

「連中はその気になれば100mぐらいの崖は平然と飛び降りる……だったか?」

「当たってたら奢るぜ、爺さん」

「面白い。帰りがけに見に行こうか」

 

 二人の会話に、カマセが割り込んだ。白面金毛がフルボッコにされるのを犬狼として全力で援護していたので、そりゃもうニッコニコである。

 カマセの立場的にはディフェンスと見張りだったが、レンチキュラー・シールドのおかげで全く気づかれることがなく、暇を持て余していたぐらいだ。

 

「ジャン、だったか。いい弟子だな」

「そりゃ、師匠がいいからな」

「何言ってんだジジイ」

 

 ぽこん、とハンティがクロスを叩く。

 三人とも、戦果の高さにゲラゲラ笑った。

 ハンティですら、帰ったら高級娼館のVIPパスポートを使ってみようかと思ったぐらいには、最高の結果だった。

 

 

 * * *

 

 

 ローズとワインは、マントと木の棒と二人の力を合わせて死ななきゃそれでいいとばかりに崖を飛び降り、白面金毛の身体を崖下に移動させることに成功した。

 

「白面様を、できるだけ安全な場所へ」

「ええ、いそ……」

 

 白面金毛を背中に背負ったワインがそう言いながらローズを見た瞬間、ローズにとって四本目の矢がローズの脳天に垂直に突き刺さった。

 ローズが被っているのは布の帽子だ。

 鋼板をも貫く無反動矢を防げるわけもない。

 

 重傷の白面金毛を背負ったワインは、愛するトンドンも、クリムもローズも死んだ事に発狂しかけた。だが、今すぐにでもこの場を離れなければならない。

 

 ワインは、精霊と、瀕死の白面様と、死んでいった仲間達に誓った。

 ……人間を、皆殺しにしてやる!

 

 

 * * *

 

 

「すげぇ……あんな手があるのか……」

 

 とっとと殺しておくべきだった。

 逃走するレッドキャップの女を呆然と見つめながら、ジャンは後悔する。

 

 冒険者仲間達は、狼煙を使ってアイギスに連絡を送っている。

 軍は光通信を使っているが、冒険者の間では、まだまだ狼煙通信は現役だ。

 

 アロは顔面蒼白で、鼻血すら拭かずにショックを受けている。

 なんにも……できなかった。

 

 内心で思うのではなくちゃんと口に出していたら、「いえ、貴女は立派にリーダーしてましたよね?」「オークに単身突撃する女性とか、『剣姫』カタナですか」とツッコミを入れられまくったことだろう。

 

 だがこの戦い、アロ的には戦果ゼロの自己評価ゼロだった。

 おいは恥ずかしか! 生きておられんごっ!

 

「今度会ったら……絶対殺すわ」

 

 原作ならジャンが言っていた台詞を、アロがぼそっと呟いた。

 ジャンもナギもウォルもナァルも、アロの殺気に背筋がひんやりした。

 

 

 * * *

 

 

 『最強のレッドキャップは害獣駆除に奔走する 〜頭おかしい連中が絶滅戦争仕掛けてきてるので一匹残らず駆逐しますね〜』の打ち切り疑惑速報が、神界に走った。

 アニメ化企画、スピンオフコミカライズ企画、コラボカフェ企画を進めていた関係者一同は、ジャンルや路線を変えてでも連載を続けてくれと主張した。

 神界編集部は、緊急で編集会議をおこなうことにした。

 ジャンルや路線変更は、この業界ではよくあることなので。

 遊戯王とか。ドラゴンボールとか。キン肉マンとか。

 

 

 * * *

 

 

 ジャンの怪我は、全治一ヶ月のヒビと診断された。

 事情聴取も含めて大忙しだったが、冒険者ギルドから表彰されたり、皆で反省会として飲み会をしたり、それなりに楽しんだ。

 

 飲み会の後、アロだけが一人、落ち込んでいた。

 

 

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