ふかふかダンジョンでエンジョイ&エキサイティング! 作:RAP
「ユーリ様。研究所ですが、完成まで一ヶ月程度の遅延を許して欲しいとの連絡がありました。建設業界をはじめとして、どこもかしこも人手不足が深刻です」
「あー、空前の好景気というか、今、ものすっごい勢いでヒトも経済も回ってるから仕方が無いね……想定してた速度をはるかに超えて物事が進んでてびっくりだよ」
「複式簿記の導入によって経理がごまかせなくなり、横領その他、やらかしていた人達が綺麗に一掃されて。色々な書類の書式も統一されて一新しましたし、事務処理が段違いに楽になりました」
「過労死寸前で働いているであろう国中の文官に感謝感謝だね」
「……誰のせいだと……」
僕は自室の窓から外を見ながら、バーチェの報告を受けている。
大声をだして人力重機を稼働させている人達。切り出した木を整えている人達、組み立てている人達、えとせとら、えとせとら。
太陽が出ている時間帯は、どこもかしこも慌ただしく人が動き、楽しそうに働いている。
「一年経過してもなお、アイダ領中の建設音が一切途切れないっていうのは壮観だね。大人の本気を見たな……」
「アイダ領、というより、バーピィチピット聖王国丸ごと、が正しい表現でしょうか。そろそろ国外にも広がり始めるかと」
「各国の外交官が調査と連絡に慌ただしい日々なんだっけ? 本当お疲れ様だよ」
「……誰のせいだと……」
『ハサマール革命』の提案から1年ぐらい経過したユーリ・アイダ・ハサマール子爵令息です。バーチェがあきれ顔でため息をついています。
ザムアーノ父様は革命に関する事業規模がどこまで膨れ上がるのか完全に見通しが立たないことに真剣に悩み抜いたあげく、専売権とか投げ捨てて最初から国を巻き込んで都市計画レベルで事態を動かした方が絶対に早いと、初手で王家に早馬で先触れを飛ばしました。
『王家に急ぎのご相談がございます。とにかく急ぎです。下位貴族に対して王家の威光を示す為に長期間返事をせず放置するとか、王城に出向いた際に待機室でなんとなく無駄に数時間待たせるとか、そういうのは今回の話し合いに限りマジ不要です。陛下への謁見もすっ飛ばして会議場スタートにしちゃいましょう。陛下のみならず、宰相や各大臣を含め権限持ちの連中を最低一週間は拘束して耐久会議できるよう今すぐ動きはじめろやがれください。とにかく時間との勝負なんでこちらはもう出立します。そっちの返事は聞いてない。わかったら動いてね。 ザムアーノ・アイダ・ハサマール子爵』
ほんともーなんなのよー、こういうのやめてよね? 陛下と宰相と大臣を長期間拘束する緊急召喚要請とか、相談内容がくだらないモノだったらその場で処刑しちゃうわよ? その辺わかってる? みたいなツラしてた王城の連中も、何頭も馬を乗り潰して最短最速で王城に乗り込んできたザムアーノ父様の説明を聞いて表情を一変。陛下に直接奏上された僕の手書き資料をもとに喧々諤々の議論がはじまり、父上を追うようにハサマール領から持ち込まれた車
王城の皆は、革命案は全部父上が考えたと思い込んでいたようだけど、父上が「私の息子が全て考えた。改めて全てを息子から直接説明させたほうが早いだろう」と主張しはじめたことにより話の流れは変わり。王城からの緊急呼び出しを「面倒くさいからヤダ」で一蹴したら、王城勤務のエリート近衛騎士達が直接アイダ領に乗り込んできて、有無を言わさず僕を王城に拉致していったのは良い思い出です。
ぜったいに許さんぞ虫けらども! じわじわとなぶり殺しにしてくれる!(握りこぶし)
「大豆畑の方は? ローズマリーの手配は完了済みって報告は前に受けたけど」
「周辺の土地も含め、手配は終えています。川に近い土地は革命以降の高騰が激しいですが、研究所の敷地として今回選抜したエリアはモンスター生息区域に近いこともあり、地主との交渉はスムーズでした」
「僕の初期想定だと、学校入学直後あたりで研究所設立に着手かなーって感じだったから、入学前に研究をはじめることができるのは正直助かるよ」
「このまま革命が進んでいけば、手紙のやりとりも高速化します。聖都と研究所とのやりとりも、より早くできるようになるでしょう」
「学校なんてどうでもいいのに、来なかったらまた拉致するっていうし、困っちゃうよねホント」
「……誰のせいだと……」
社交界デビューの時に一度だけ行ったことのある王城は、バーピィチビット聖王国の中心たる聖都カケルに存在する。学校も聖都カケルにあるので、つまり僕もグラスちゃんも、学校がはじまったらしばらくは聖都の屋敷住まいが確定してる。貴族はみんな聖都に屋敷を持ってるのだ。
僕知ってるよ、これ人質っていうんだよね。王家に刃向かったらお前の子供を殺してやるからなーっていう。わかりやすいね。
「ユーリ様! ご報告です!」
とたたた、と素早くアイリスが入室してくる。
「ビスス領にて、ユーリ様お探しの白菊を花屋で見つけたとの知らせがありました! ユーリ様のスケッチと一致した特徴を全て兼ね備えているとのこと!」
「ビスス領というと、ローリン男爵でしょうか。ここから一週間もかかりません」
バーチェが地図を思い浮かべながら解説してくる。
僕は僕で、BSSのロリ? と小首を傾げていた。
「よっし、じゃあ直ぐに行こうか。着替えを含めて、準備をよろしくね」
「はい!」
お金がガンガン入ってきて、自由に使えるようになったからとても動きやすい。
研究所ができたら、セルロースナノファイバー様を解禁だ。
いずれは200気圧さんに挑むことになる。何年かかろうとも絶対にやる。やるのだ。
* * *
「あっ、これですね、ユーリ様お探しのやつ!」
ビスス領の花屋前、アイリスが嬉しそうにはしゃぐ。
馬車は宿屋に置いてきてるから、今は歩きだ。護衛騎士にもついてきて貰ってる。
僕は店主から白菊を見せてもらい、匂いを嗅いだりする。ふふ、見つけた。
「あーうん、これだよこれ! 店主、これ在庫全部丸ごと買うから! あと、これ大量かつ定期的に仕入れたいんだけど出来そう? 出来るんならアイダ領のハサマール家までお願い!」
「ハサマール家様でしたか! もちろんできまさぁ! 安くしときますよ!」
シロバナムシヨケギク。別名防虫菊。いっちゃおうぜ、蚊取り線香!
花屋の隣は本屋。僕は上機嫌のまま、本屋を覗き込む。
バーチェはおそるおそる尋ねてくる。
「何かお探しの本が?」
「いやー、本屋ってテンションあがるよねぇ」
『D&D』、ならぬ、『ふかふかダンジョンズ&ファイアードラゴンズ』こと『F&F』というTRPGが、今売れてます的なポップと共に平積みされていた。僕はF&Fを手に取り、パラパラとめくる。うーん。攻撃と回避の期待値的に、亜人を簡単に薙ぎ払う感じの戦闘バランスだな。
軽く立ち読みを終えて本を棚に戻す。思うに、亜人や
仮に僕のこの考えが正しいとするなら、F&Fの隣に展示されているこの
大量に平積みされている『村娘ルマノ』シリーズ、僕はそのうちの一冊を手に取る。この一冊だけ、表紙が違う。
「……最新刊?」
「あのっ!」
声をかけられ、振り向く。そこには、金髪のセミロングヘアの首から下を左側にまとめてリボンで止めている、大きな青い瞳の美幼女が立っていた。一目で貴族層とわかる街中用のドレス。まだ若いから体型的にはつるぺたストンだが、年齢的には当たり前だ。
「何か?」
「ルマノの最新刊、買われるのですか?」
幼女の隣には、少々紫がかった黒髪と黒い瞳をした、ショートヘアの巨乳な女性がメイド姿で待機している。控えているメイドさんは、はらはらと心配した顔で、金髪の幼女を見守っている。
「……いえ。美しきご令嬢。僕はレディファーストを大事にしているのです」
「ああ、良かった! 最後の一冊!」
僕は簡略化した貴族的な礼をし、本の表紙を幼女側に向けてから手渡す。
嬉しそうに微笑み、金髪の幼女は『村娘ルマノ』の最新刊を胸に抱きかかえる。
僕は、ほんのちょっと、わずかに少しだけ、彼女に毒を仕込んでみた。
「男尊女卑の世の中で、麗しき少女が活躍する。気高く、美しい
「はい……はいっ! そう思います! ルマノは憧れなんですっ!」
「わかります。弓の速射でオーク達に相対するルマノの勇敢さは、誉れといえましょう」
アロちゃん。この世界風に言うなら、アロ・ビスス・ローリン男爵令嬢か。
ならば、隣に立っているのは、経産婦メイドのナギさんだ。妊娠線とかあるのかな?
ええと……原作の約7年前ぐらい? だとするならこのナギさんは、21歳前後ですね。
もう一人のメイドことウォルさんの姿は、今は見えない。うーん、残念。
「良かったですね、アロお嬢様!」
「発売日に来て良かった! 店主、早速買うわ!」
にこにこと店主に駆け寄るアロお嬢様とメイドのナギさん。
控えていたアイリスは不思議そうに首を傾げる。
「よろしかったのですか、ユーリ様?」
「うん、アイダ領で買えばいいさ……それに」
「それに?」
「……ん、いや、なんでもない。忘れて」
誉れは浜で死んじゃったからね! いや、原作的には川辺で、かな?
暗黒大陸でまた会おうね、アロお嬢様! 先に行って待ってるから!
ふふっ。あはは。あはははは!