ふかふかダンジョンでエンジョイ&エキサイティング!   作:RAP

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第112話 原作時間軸・ユーリの計画

 

「せ、セックスではありませんから、とりあえず頭を上げて下さい」

「貴女を抱いてしまった。柔らかくて温かい身体だった。娼館に入った奴が1~2時間出てこんのもわかる。猿よりも早く終えたはずだから、子供はできないと思うが……」

「セックスの()()と、抱きしめるのは、その、違くて」

「同じセックスなのでは……?」

「違います」

 

 話を聞いていた周囲の皆が、首を傾げ始める。

 

「だとしても、数多の秘伝に関しては……」

「秘伝ではありませんが、安易に(さず)けられるものとそうでないものがあります。特に手の内に関しては、既に完成している貴方の射形(しゃけい)を崩してしまうかもしれません。それでも、と望まれるのであれば、(さず)けます」

 

 仮にもSのA級である弓王ボーゲンを土下座させ続けるのも気が引ける。

 右手の弓懸(ゆがけ)を外して左脇に抱え、ユーリちゃんはボーゲンに手を差し出す。

 弓懸(ゆがけ)を外すのは、前世日本人的な発想。この世界では意味の無い行為。

 

「……ひ……秘伝ではないのか?」

「弓の道を行く者に対し、閉ざす門は持ち合わせておりません」

 

 ユーリが前世で弓を学んだ時、誰もそれを邪魔しなかった。

 紅葉重ねの手の内をはじめとして、様々なものが動画で全世界公開されていた。

 だから同じことだ。自分が教えられたことを、伝えるだけに過ぎない。

 

 ユーリちゃんが差し伸べた手をとり、立ち上がろうとしたボーゲンだったが。

 手に取ったユーリちゃんの手を、ボーゲンはしげしげと眺める。

 

「良い手だ。女の柔らかい手のように見えてしっかりと鍛えられている……弓だけではない。これは、武の全てか」

「……ッ!?」

 

 過去のユーリがクコロやセスレに言った褒め言葉が、ユーリちゃんに突き刺さる。

 前世も今世も、ユーリは鍛え上げた自分の手を一度も褒められた事が無い。

 未熟な手は褒められないし、熟練となった時にはもう指導者側に回っている。

 特に今世は、武に関して自分と同格または自分以上と認識できる相手がほぼいない。

 その、数少ない同格あるいは自分以上と内心で認識している相手に真っ直ぐな言葉で褒められ、しかも藤原啓治のシリアス声だったために、ユーリの脳みそはくらくらきた。

 

(うっ。やばい。舞踏会の時、クコロの手を褒めたことでクコロが自分を気に入ってくれたけれど……同じ事をやられると、結構くる!)

 

「あ……その、ええと……」

「俺は右腕の方が長いが、貴女は左右対称を維持するよう努めているのだろう?」

「はい……私は、弓だけではないので……」

 

 ユーリちゃんの顔が真っ赤になる。

 立ち上がったボーゲンが、ユーリちゃんの手を握ったまま真顔で言う。

 

「ボーゲンだ。『弓王』ボーゲンなどと呼ばれている」

「なーにいい雰囲気出しとんじゃこのアホンダラァ!」

「「ッシャおらぁ!」」

 

 すぱぁん!

 どげしっ!

 

 バトがユーリちゃんの後頭部を引っぱたき、双子がボーゲンの両側からローキックをキメた。

 

「~いったぁ!」

(いた)。え。なんだ?」

 

 ユーリちゃんが頭を抱えたところを、びしょ濡れのバーチェとアロが両脇を抱えて後退させた。

 カタナは弾のないボーラ・シューターをボーゲンに向け、ドヤ顔をしている。むふー。

 

「なあボーゲンのおっさん、セックスって知っとる?」

「馬鹿にするな。イノシシや猿が発情期にやっとるアレだろう。わざとではなかったとはいえ、妹のユーリにもしてしまったではないか。だから責任をとって妹のユーリの男になってもいいと言ったのだ」

 

 バトの問いに、ボーゲンが不満気に答える。

 しかし返答代わりに、嫁勢は全員黙り込んでしまった。

 沈黙が場を支配する。

 

「なんだ? 間違ったことを言ったか?」

「ボーゲンのおっさんが(性的に)童貞なんはわかった」

「失敬な、(殺しの)童貞ではない。それに……」

 

 ボーゲンが、自分の右手を真剣に見つめる。

 

「手も、握ったしな……」

「アホにつける薬は、ないな?」

 

 バトが呆れ顔を見せる。

 原作では夫婦になったボーゲンとバトだが、この世界線は違う。

 バトはユーリの妻で、れっきとした二児の母だ。

 

「いい加減にしてください、ボーゲンさん!」

 

 ジャンが叫ぶ。そして少しずれた台詞を言った。

 

「妹のユーリさんは貴族で、ボーゲンさんは平民です。身分の差があるから結ばれることはありません!」

「ん? それならば問題は無い。貴族にはすぐになれる。王にしてやった奴が言ってきたが、面倒で返事をしていなかった。五万人程度の小国だが……なんとかシャクとかいう貴族だ」

 

 わかるようでさっぱりわからない情報をボーゲンが返した。

 この情報で理解できるのは、ユーリちゃんだけである。

 

 しかしユーリはユーリで、激しく悩んでいた。

 聖教会の勇者達が来た後、魔術師の森にボーゲンを送り出す理由が無い。

 中央大陸にいた頃は、ナイツ王国の遠征騎士団にハンティ爺さんをつけて、ゴブリンマジシャンガールズとドリームマッチだ、なんて考えていたけれど。

 創世神が頭に流し込んできた原作情報から、セイ達が調査した魔術師の森の詳細、および森の死神や空の死神の存在など、色々なものが伝わってきたので方針に微調整を加えていたのだ。

 

 この世界が再度バージョンアップしたら話は変わってくるかもしれない。

 特に次回予告のタイトルが「弓王」だから、内容次第ではvsボーゲンの覚悟もしないといけない。魔術師の森のゴブリン達は計画の条件に合致してしまっているので、鏖殺しても良い。

 でも、心根に真っ直ぐ生きているボーゲンを殺すのは気分が悪い。CV藤原啓治だし。

 

「……わかりました。こうしましょう」

 

 ユーリちゃんは、弾のないボーラ・シューターを構えたカタナの肩に手を置く。

 

「手の内は、週に一度などの決して習得時間を焦らないという条件であればお授けいたします。お金はいりません」

「決して余人に教えぬと誓う! どうか俺に技をご教示いただきたい!」

「お、俺にも……手の内を教えてください。よろしくお願いします!」

 

 弓王ボーゲンが、頭をさげる。

 ジャンも慌てて頭を下げる。

 

「まったく……射形(しゃけい)が崩れても、知りませんよ」

 

 はぁ、とユーリちゃんがため息をついた。

 

「鉄板射貫(いぬ)き……無反動矢については、今すぐ授けます」

「おお……!」

 

 ボーゲンが目をキラキラと輝かせはじめる。

 ユーリちゃんが射貫いた鉄板鎧を見つめながら。

 

「貴女方が使うような()()で、あのように射貫けと言われても俺には無理だ。俺はさらなる弓の高みを目指したい……!」

 

 その台詞を聞いて、ユーリちゃんは内心で苦笑する。

 ユーリちゃんが堅物射貫(かたものいぬき)に使った弓は七分、弓力にして40kg前後。

 現代人の感覚を持つユーリちゃんにとっては、立派な強弓なのだ。

 

 だが、鎌倉武士やボーゲンやジャンにとっては弱弓扱いされてしまう。

 令和の日本で弓力40kgをまともに引ける弓使いなんて、そこまで多くない。

 文化が違~う!

 

 そして、そのあと。

 『ぶはははははっ!』と狂ったように大笑いするボーゲンの声が、練習場に響き続けた。

 

 

 * * *

 

 

「はぁ……それで?」

「もう無いな? 念押しするで? 他は無いんやな?」

 

 アイギス港街、セルヨーネ侯爵家邸。

 風呂に入って着替えて夕飯のあと、ユーリは居間で正座を命じられている。

 ユーリの周囲には、セスレ、アロ、バーチェ、バト、ミルヒ、カカオ、カタナ。

 つまり、嫁全員が勢揃いである。

 執事やメイド達もいるにはいるが、見ない振りをしてあげている。

 

 セスレが呆れ、バトが念押しで確認をとっていた。

 正座しているユーリは、しょんぼりと答える。

 

「ええと……未確認のハルピュイアの子供が一人? あとは大丈夫、多分……」

「計画の大枠自体は事前に聞いてたからまだマシだったけど、ノリと勢いで流れが変わりすぎでしょ。何よアラクネの嫁って」

「模擬戦自体は引き分けというか無効試合になったんだけど、アラクネに瞬殺されなかったことが凄いと褒められて、勝利扱いになって……その時相手してくれたのが、アラクネ女性の戦士格でも上澄みの強さの人だったみたいで、余計に気に入られちゃって。人間の法は亜人には関係ないから、妾でもない枠外ということで、嫁として受け入れました……名前はブラウィド。今は死の森に住んで貰ってて、一週間か十日置きぐらいに会いに行く予定」

 

 セスレに問い詰められ、ユーリが答える。

 

「ブラウィド以外にも種付けはしたけれど、正式に嫁と認定しているのはアラクネではブラウィドのみ。ゴブリンとケンタウロスはオークエンペラーの嫁だから問題なし、ハルピュイアはそもそも嫁にはならないから子供の顔が僕に似ているかどうかぐらいしか判別できない、レッドキャップは白面金毛の嫁だから問題なし、マーフォークは今後の関与とわからせ次第。オークは男しかいないから論外……亜人サイドはそんなところ、かな」

 

 ユーリの説明を聞きながら、嫁は皆で指折り数えている。

 バーチェが冷静に答える。

 

「クコロ様は残念な結果となりましたが、グラス・タレーメ・マンセー子爵令嬢は見つかりさえすれば確定で側室とのことですから……そうなると今後の大きなポイントは、暗黒大陸に渡航途中だという勇者一行、でしょうか」

「勇者一行っていうか……」

「私とミルヒにとっては、ラケットメイス術のセイ先生とマユリ先生かな」

 

 ミルヒとカカオが、思い出すような遠い目で答える。

 ユーリは正座を崩して、足をさすりながら言う。

 

「一切隠さず本音で言うよ? 勇者一行、つまり聖剣の勇者セイと聖盾(せいじゅん)の騎士マユリはオール・オア・ナッシングだ。聖教会から引き剥がせるならそれでよし、無理なら初手で殺す。聖杖の賢者リリィと殺戮聖女レピアに関しては、廃人になるか盲目的な人形になるか、全ては彼女達次第だけれど結果として無力化はする。生かしてあげても良いと考えているのはアーク大司教ぐらいで、他は教会軍ごと皆殺しでもいい」

「勇者一行を引き剥がせた場合は、少しは加減してあげてもいい……だったかしら」

「教皇を筆頭に、意思決定に関与してる上層部の連中は、放っておいても白面金毛が殺すけどね。聖王国の王様だけは話がわかるから残してあげてもいいけど、他の国の上層部は白面金毛の気分次第。どれもこれも、アロとジャン君が頑張ってくれて、白面金毛に瀕死の重傷を負わせることができたから可能になった。当初は僕一人で各国を巡回して殺戮の旅をするパターンすらあり得たから、それを考えれば大分マシだ」

 

 アロの疑問に、ユーリは答えた。

 話の大枠は聞いていたが、全容をはじめて聞いたカタナは青ざめている。

 

「ケンタウロスの里、本当に危なかった……」

「直前まで、生きた深き不可知の迷宮(ふかふかダンジョン)戦はケンタウロス抜きでやろうと思ってたぐらいにはキレてたからね……真実がハッキリして、ユウが無事で、カタナちゃんが嫁に来てくれて、150年以上も世界のために戦い続けてくれたから帳消しにした。北部攻略戦が終わるのはもう時間の問題だから、南部攻略戦はセルヨーネ家の全力で手伝うつもり」

「ほんで? さっきから説明逃げとるけど、結局その白面金毛(プラチナ)ちゃんは抱くんか?」

 

 バトの好奇心に、ユーリがびくっとする。

 ミルヒとカカオがニヤニヤする。

 

「ユーリちゃんがボーゲンさんに抱かれてもいいんですよ」

「弓の授業って言うけど裏を返せば週一デートの約束ですよね」

「すいません……勘弁してください……ホント……無理です……」

 

 ユーリがマジ泣きしはじめた。

 カタナがユーリの頭をよしよしと撫でる。

 

「ん。大丈夫……ボーゲンも白面金毛(プラチナ)も、きっと優しくしてくれる」

「フォローになっとらんがな」

 

 ずびし、と右手ツッコミをバトがいれる。

 はぁ、とセスレがため息。

 

「なんにしても。それなりに減るよね? 亜人(あっち)も、人間(こっち)も」

 

 ユーリが、涙を拭きながら宣言する。

 

「……殺意、強姦欲、復讐、プライド、金儲け。理由はなんでもいいけれど、引けと言われても引けない、サンクコストにしがみつく連中を全員殺す。致命的な犠牲が出て、やむを得ないと誰もが実感で理解しないと戦いが終わらないというのなら、戦いの続行を判断し続ける者を上と下から消していけば最短で絶滅戦争は終わる。僕が考え、テオと白面が同意した以上、歯車は回す。そうやって、人間と亜人が手を取り合えるようになったら……総力戦で、生きた深き不可知の迷宮(ふかふかダンジョン)を殺す。それが計画の全容。僕の嫁と子供達は全員守る。皆は僕の生きる理由の全てだから。亜人との間に子供を作るのも、僕が彼らと手を取り合う理由を作りたかったから」

「絶滅戦争の影で、殺意の高い人達を優先的に殺していくことで厭戦気分を高めて戦意を失わせる。中央大陸という安全な場所で、絶滅戦争の継続を判断し続ける人間がいなくなるまで暗殺を続ける……表向き、やっている事は何も変わっていないから気づかれにくい。そういうことですね、ユーリ様」

「ああ、合っているよバーチェ。聖教会の連中は799万9999柱の神を殺した。中央大陸の国家は、聖法なる絶滅戦争の命令が自分達の国法の上に位置することを黙認した。神を敬うどころか、自身を神そのものだと勘違いした連中を鏖殺する。躊躇(ためら)う理由は、何一つ無い」

 

 うーん、とセスレが思考顔。

 

「亜人達と手を取り合うようになると、亜人達に貨幣経済を植え付けることができるから、減った人間の顧客を亜人で補える……生産調整も最小限で済むってこと、か」

「おっ、真っ黒だねセスレ」

「あなたの計画でしょうに。アラクネ布で作った下着には興味あるかも」

「最後は中央大陸に戻って、のんびり暮らしたいな。二年か三年に一度、暗黒大陸に遊びに行くぐらいで丁度いい」

 

 真っ黒な大虐殺計画でもあったが、嫁達は実感としてそうするしかないと同意していた。

 提案者がユーリでなければ即離婚すらあり得た提案だったが、人類最強格の旦那様のやることだから、ついていこうと思った。なんだかんだで仲の良いセルヨーネ家だった。

 

「あっ、ユーリ。そういえば」

「なぁに、アロ」

「一応言っておくわ。なんか『女性解放戦線』って初心者の若い女の子だけのパーティが、分け前無しでいいからレイド組まないかってジャンパーティに言ってきたの。鳴神(なるかみ)も、構成的にはジャンパーティと同じで男が一人、女が複数でしょ? ユーリにも声がかかるんじゃないかと思って」

 

 自分が作ったわけでもないボーラ・シューターの製作者と褒め称えられて、正直うざかった。

 『また一人女性の希望となる存在、未来の発明家、アロ!』

 そんなことを言われても、私はSのE級、「写実」「調査官(インヴェスティゲーター)」アロ。

 発明家(インベンター)なのは、旦那様のユーリ。

 

「……アロ。『女性解放戦線』の()達には、いつ会う予定?」

 

 アロの台詞を聞いた瞬間、ユーリが真顔になった。

 

「彼女達とレイドを組むの? 一応、明日会うことになってるけど」

「『女性解放戦線』にさ、眼鏡をかけた女性がいなかった? 眼鏡をかけてる冒険者って珍しいから、わかりやすいと思うんだけど」

「えっと……居たわ。隅っこの方に、隠れるように」

「ありがとうアロ、誘拐犯が見つかったよ。その眼鏡の女性がグラス・タレーメ・マンセー子爵令嬢だ。本当なら第二夫人となっていたはずの、僕の側室候補。誘拐されてから、もう四年半……になるのかな?」

 

 ユーリが微笑を浮かべる。

 

「本当は憲兵なんて使いたくも無いけれど、合法になるから使ってあげよう。裁判なんて勿体ないから、優しく司法取引を持ちかけてあげよう。僕の気が済むまで、誘拐犯にはじっくり働いてもらおう」

 

 グラスちゃん。

 新しい戦争ははじまっているけれど、僕達の戦争はもう、終わっているんだ。

 だから終わらせよう、僕達の戦争を終わらせよう。

 

 迎えに行くまでに、五年か十年か……なんて言ったけれど。

 四年半か。長かったなぁ。

 

 覚えているよ。

 お婆ちゃんになっても、グラスちゃん。

 お爺ちゃんになっても、ユーリ君。

 

「何が初心者だ。迂闊にギルドに行くと、僕と出会ってしまうから逃げ回っていたんだろう?」

 

 隠れん坊は、もう終わり。

 ボロ雑巾にしてあげるから、待っててね。

 

 

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