ふかふかダンジョンでエンジョイ&エキサイティング!   作:RAP

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第115話 原作時間軸・聖戦への協力要請

 

 暗黒大陸、開拓城壁都市アイギスの模擬戦場。

 木の柵に囲まれたそこで、『聖剣の勇者』セイと、ティーチ教官の模擬戦がはじまろうとしていた。周囲には冒険者をはじめ、教会軍、連合国軍の見学者が多い。

 

 そして商魂たくましいというか、早速屋台が出ている。

 こういうのは素早さが命なのだ。

 セルヨーネ侯爵家の外食部門は、痒いところに手が届く。

 

 木の柵の中では、模擬戦用の薙刀を持ったセイと、模擬戦用の剣を持ったティーチが向かい合っていた。果たして勇者の実力はどれぐらいなのかと、皆がざわつきはじめている。

 

「あんな普通の体格の女の子が……『聖剣の勇者』?」

 

 真剣に見ていたアロは、しかし首を傾げる。

 

「……八相の構え? でも半身じゃないし右足が前?」

「あれは『よーいドンの構え』だね。今から行きますよって全身で語ってるでしょ」

 

 ユーリが苦笑する。

 薙刀の型を高速でやるつもりだとはいえ、もうちょいやり方があるだろうに。

 とはいえ、この世界の薙刀の型に術理があるかと問われれば、無い。

 型を分解しても得られるものはない。

 こう斬ってこう斬ると連続技になるよ、というのがこの世界の型。

 重心移動、運足、力みと脱力、力の伝達などの術理が大変薄い。

 

 だからこの世界の薙刀や剣のランキングに、ユーリの興味は湧かなかった。

 格ゲーで例えるなら、初心者相手に、プロゲーマーが乱入するようなものである。

 ただでさえ手加減は苦手なので、なおさらランキングに参加する気は無かった。

 

「それじゃ! ティーチ教官! お願いします!」

 

 『よーいドンの構え』のセイが、一気に加速した。

 一瞬の連撃を受け流したティーチ教官に対して、歓声があがる。

 素早い攻防を終えたのち、セイはバックジャンプで距離を置いた。

 

「うわ、受けきった……」

「流石はアイギスの教官ね……」

 

 聖杖の賢者リリィと、聖盾の騎士マユリが驚く。

 聖剣の勇者セイは、ティーチ教官を賞賛する。

 

「すごい! 流石教官です! 今の受けられる人、聖教会に三人もいないですよ!」

 

 ユーリなら受けられる、とアロはユーリをチラ見する。

 ユーリは真剣な表情で戦いを見ている。

 ユーリの脳内は、『セイはCV:鈴代紗弓かな?』だった。

 

 セイは、楽しそうに構えを変更する。

 9巻96P。大きく足を開いて、後ろ手に薙刀を構えた格好いい構えから。

 9巻98P。斜めの低姿勢で、右足を伸ばして薙刀の斜め構えに変更。

 

「確かに動きは早いけど、術理が無いなぁ……」

 

 ユーリが、ため息気味に呟く。

 

「一応は正中を守ってる?」

「股間がガラ空き。重心が低すぎて、移動も攻撃も二挙動は無駄になる」

「つまり?」

「『格好いい構えその1』と『格好いい構えその2』かな」

 

 アロとユーリが分析を続ける。

 

「ユーリが相手なら、もう終わってる」

 

 カタナがぼそりと呟く。

 ユーリに薙刀を受け止めさせた瞬間に、身体を捕られて終わる。

 自分が踊らされたのだから間違いない、とカタナは思う。

 

「カタナちゃんと勇者が戦ったら、みんなは互角と思うかもしれないけれど。僕に言わせれば、カタナちゃんの方が勇者より強いよ」

「ん。ありがと」

 

 褒められて、カタナが照れる。

 

 相対しているティーチは、敗北の未来を感じながらも考える。

 『剣姫』カタナと模擬戦した時は、何をやってもすり抜けられた。

 『聖剣の勇者』セイは、異様な速度と力による初見殺し。

 

「次は本気で行きますね」

 

 『聖剣の勇者』セイが、模擬戦を終わらせると宣言した。

 それはいい、まだわかる話だとティーチは思う。

 

 あの男。剣聖相手の模擬戦は。

 武器なり防具なり、どこかがあの男の剣に触れた瞬間に終わる。

 先ほどの攻防で言うなら、自分は受け流してしまったから、もう負けている。

 あの男の本気は二刀というが、その二刀を見られる気すらしない。 

 理不尽の権化とは、まさにあの男のことだ。

 

 くるりっ、バゴン!

 

 凄まじい早さの胴打ちが、ティーチに命中した。

 あの速度で完全に動きを読んでくるのか、とティーチは戦慄した。

 

「そんでーーーー!」

 

 近づいたセイが、薙刀を投げ捨てながら大男のティーチ教官を持ち上げた。

 

「観客にアピール!」

 

 うおおおおお!

 見ていた観客が盛り上がる。

 

「僕がカタナちゃんに勝つには小細工が必要になる。でも『聖剣の勇者』セイに対する僕の結論は、小細工は不要。その一言に尽きる」

「むふー」

 

 カタナが笑顔で、ユーリの腕に抱きつく。

 今のはあくまでも、ユーリとセイとの相性の話ではあるが。

 

「あはは、目の前で見ても信じられないよねー。ちっちゃいお姉ちゃんがでっかいおじさん持ち上げたねー♡ すごいでしょー♡ 夢じゃないし実在してるよー♡ ありがとー! パパ怪我してないよー、安心してねー」

 

 笑顔で観客に手を振ってアピールしていた『聖剣の勇者』セイの視線が、ユーリ達に向いた。

 

「小細工なしでもありでも殺せるねー♡ 聖剣より剣聖の方が上だねー♡ ……えっ?」

 

 ユーリとカタナを見た瞬間、セイの笑顔が引き攣った。

 そしてたまらず、アロが叫んだ。

 

「敗残の将を更に(おとし)めるのが聖教会のやり方なのッ!?」

 

 アロが叫びながら、場内に飛び込んだ。

 

「ティーチ教官!」

「……アロ」

 

 意気消沈して座り込んでいたティーチに、アロが声をかける。

 

「わかります。私も、顔向けできなくて、悔しくて、涙が止まらなくて」

「アロ……」

「だから、介錯はいたします」

「……アロ?」

 

 アロとティーチの会話を聞いていたユーリが、流石に首を傾げる。

 ちょっと待ってアロ。どこに向かっているの。

 

「いや、介錯は不要だが?」

「まさか一人腹(ひとりばら)を……なんというお覚悟……」

「ちょっと待ったアローーーーッ!」

 

 焦ったユーリが場内に飛び込んだ。

 マユリ達がセイを引きずっていった。

 それは、ほぼ同時だった。

 

 

 * * *

 

 

 聖教会、アイギス支部の建物内。

 

「あーもう! コイツは! コイツは!」

「あ、あはは……」

 

 セイを丸ごと包み込み、全てを慈しむかのような愛情と。

 愛しているからこそ優しく殺してあげるという想い。

 強い愛情と殺意が等しく混在している瞳を初対面の青年に向けられ、セイは困惑していた。

 

「聞こえたことそのまま垂れ流すなっつってんでしょ!」

「15年以上、ぼくのことをずっと考えてたんだって」

「15年前って私たち三歳でしょおおおおっ!」

 

 マユリが半泣きでセイにツッコミを入れる。

 何かの勘違いだろうと、マユリは軽く流してしまった。

 アーク神父が、二人に優しく声をかける。

 

「まぁまぁ。船旅で疲れてるだろうし、みんな今日はゆっくり休みなさい。じゃぁネゴ神父、シエ神父」

「「はい」」

 

 聖教会外交局、局長のネゴ神父と、副局長のシエ神父が答えた。

 ネゴ神父はイケメンの優男。

 シエ神父は高身長のごつい顔。

 いわゆる『飴と鞭』での揺さぶりによる交渉術を得意としている。

 

「『弓王』、『剣聖』への交渉は我々が。『剣姫』と『盲導人』は『剣聖』と一緒にパーティを組んでいますから、リーダーたる『剣聖』の協力を得られれば自動でついてきます」

「『弓王』は『弓王』ボーゲン、『剣聖』は血塗れ侯爵(ブラッディ・マーキス)虐殺王の虐殺者(シャイニングドラゴンスレイヤー)の『剣聖(ブレードフルネス)』ユーリ……ですよね。噂は本当なんですか?」

 

 リリィが不安そうに尋ねる。

 アーク大司教が答える。

 

「ああ、どうも本当らしい。あんまりにもあんまりな内容だから、信じてる者などほとんどいない話だけど……」

 

 『弓王』ボーゲン。弓一つで冒険者・憲兵・正規兵・近衛兵・王・第一王子を殺害、降伏した第二王子を即位させ一切の非干渉を約束させた、たった一人で国家を屈服させた男。

 『剣聖(ブレードフルネス)』ユーリ。王子・宰相・大臣を殺し、奪った近衛兵の剣が血で紅く染まるほど暴れ、謁見の間を血で染め上げ、『虐殺王』シャイニングドラゴンを虐殺した男。

 

「まぁもっとも……噂は噂なだけあってめちゃくちゃな内容も多々あってね。酷いのになると『ボーゲンが魔獣に変身した』とか『正体がドラゴンだ』とか、『ユーリが相手の頭を撫でたら胴に沈んだ』とか『胸に軽く手を置いたら相手が即死した』なんてのもある。どちらの国の宮廷も、質問書を送ってもダンマリで、結局のところどこまで本当なのか確認はとれてないんだけどね」

「『弓王』ボーゲンは弓にしか興味が無いといいます。凶悪なモンスターはよく狩ってくるようですが、その割には亜人型モンスターはほとんど狩ってこないとか。一方、『剣聖』ユーリは亜人型モンスターも狩るようですが、記録上は13才でオークを単身殺したことになってるのに剣のランキングには参加していません。先ほどの荒唐無稽な噂も剣ではなく素手の逸話です。シャイニングドラゴン討伐時の聖王国の記録も洗いましたが、当時の冒険者パーティ『鳴神(なるかみ)』はたった三人。公爵軍および侯爵軍の両家に三桁の兵士の支援を受け、侯爵軍は全員が死亡したという話ですから、『剣聖』ユーリが本当に『剣聖』なのか、そして同時に虐殺王の虐殺者(シャイニングドラゴンスレイヤー)であることは真実なのか、実力的に少々疑わしいところはあります」

「ただ、仮に『剣聖』が偽物の幻想だったとしても、『剣姫』と『盲導人』がついてくるのであれば、『鳴神(なるかみ)』のリーダーの『剣聖』に協力してもらう価値は十分あります」

「亜人型モンスターを駆逐し人類を守るこの聖戦、どのような形であれ是非とも協力して欲しい人材です」

 

 聖教会外交局は、『剣聖』は『剣姫』と『盲導人』のオマケ扱いと判断したようだ。

 

「ネゴ神父、シエ神父。君達の辣腕は知ってるし、交渉は任せるけど決して失礼のないようにね」

「もちろんです。SのA級冒険者を敵にしたくありません」

「家に帰れば妻と子が待っておりますしね」

「……ああ、でも」

 

 ネゴ神父が微笑む。

 

「ドラゴンを倒した呪いで『長耳』となった者がどう見ても亜人型モンスターなのであれば、その線から崩すのは有効かもしれません」

「あんまりギリギリを攻めたり、グレーな交渉は避けるように」

 

 アーク大司教は、ため息をついた。

 

 

 * * * 

 

 

「『弓王』が入ったという家はここか」

「あれ? 『鳴神(なるかみ)』のハウスじゃないか?」

「ちょうどいいな、手間が省けたかもしれん」

「失礼します、聖教会の者です。大切なお願いがあってまいりました。今、お時間よろしいでしょうか」

 

 ネゴ神父とシエ神父、あと教会兵四人が『鳴神(なるかみ)』の拠点を訪れた。

 中から返事がして、扉が開けられる。

 一行を出迎えたのは、フードを深く被った女性だった。

 

「ユーリ様はもうすぐ戻られます。中に入ってお待ちください」

 

 原作ではバトの家だったが、『鳴神(なるかみ)』のハウスなので扉を開けてすぐベッドがあるというわけではない。A級パーティのハウスなので、居間や応接室も含め、部屋数も多い。

 休憩用の部屋が、按摩もできる部屋に仕立てられていた。

 ネゴ神父とシエ神父が見た風景は、9巻116Pの構図そのまま。

 つまり、ベッドにうつ伏せになり、按摩をされているボーゲンと、按摩中のバト。

 扉を開けて出迎えたミルヒとカカオという図だ。

 

「仕事中やから悪いけどもうちょっと待っとってなー。ユーリももうすぐ戻るはずや」

「はい、お仕事中失礼しました。待たせて頂きます」

 

 そこへ、丁度ユーリ達が帰還した。

 

「たっだいまー!」

「お。噂をすればやな」

「ふむ、俺は帰った方がいいか?」

 

 ボーゲンの疑問に、ネゴ神父が慌てる。

 

「いえ、是非ご一緒に!」

「ボーゲンさんは按摩のまま聞けばいいよ。彼らの相手は僕がしておくからさ」

 

 ユーリがニコニコ笑顔で答える。

 

「聖教会の皆さん、ここでお話を伺います。構わないでしょう?」

「はい、構いません」

「では、そちらのソファへどうぞ。バーチェ、冷たい飲み物をなにか適当に」

「はい、ユーリ様」

「アロとカタナちゃんはその辺のベッドにでも腰掛けといて」

「ん。わかった」

「流石のA級ハウスも、一部屋にこれだけいると狭いわね」

 

 聖教会の一行は、知らない。

 

 原作のようにボーゲンに殺されるか。

 この世界線で僕に殺されるか。

 たったそれだけの違いだよね、と交渉相手が考えていることを。

 

 

 * * *

 

 

(BGM:ヨルムンガンド 「Jormungand」)

 

「……というわけで、是非ともご協力をいただきたいのです」

「ふーん」

「ユーリ、すまんが俺は」

「ボーゲンさんが人に類するものを殺さないのは知ってます、僕に任せて」

 

 寝転がって按摩を受けているボーゲンの口出しを、ユーリが止めた。

 ネゴ神父とシエ神父がアイコンタクトをしている。

 

「ああ、先に言っておくね。武器を抜いたら正当防衛として殺すから」

「我々は人類の守護者でもあり、格式としては王族の使者より上になります」

「ふーん」

「ご協力いただけるなら、その報酬は大変な額となります」

「ふーん」

「……ご協力いただけますよね?」

 

 ネゴ神父の笑顔に、ユーリは呆れ顔だ。

 

「あのさ。僕もボーゲンさんもSのA級で、金なんか余ってるんだよ。金で動かない対象を金で動かそうとするとか、聖教会外交局は馬鹿なの? 局長と副局長をクビにしたほうがいいと思うよ。()()()()は上の無茶ぶりで大変だねぇ」

 

 副局長のシエ神父が顔を(しか)める。

 局長のネゴ神父は笑顔を維持している。

 

「しかし、報酬に限らずご協力していただかなければ、皆さんが人間全体の裏切り者として処罰されることになります」

「こちらが希望する報酬の話も聞かずに、強制命令の話になるんだ」

「世の中には、従うべき法と言うものがあります。聖法四条、人に似て非なる魔物を人とみなしてはならない。聖法五条、すべての人類は人類共通の敵、すなわち人に似て非なる魔物に対しその絶滅に協力的でなければならない。これは国家が定める、国法や憲法などあらゆる法の上にある『聖法』で定められていることです。人類が繁栄するか衰退し滅ぼされるかという、全ての人間に直接関係する事柄について全ての人間が遵守せねばならないことが聖法には定められています」

「ふーん」

「聖法違反は状況にもよりますが、最悪『火あぶり』などの公開処刑まであるような重罪です」

「ふーん」

 

 ずずずず。冷たい炭酸ジュースを、わざと音を立ててユーリが飲む音が室内に響く。

 この男、話を聞いているのかいないのか、と神父達が首を傾げたその時だった。

 

「じゃあ、聖教会の連中は聖法五条に反しているから、聖法四条に基づき聖教会の連中は人に似て非なる魔物となる。従って聖法五条に基づき、人類共通の敵である聖教会の絶滅に協力しろってことだね。OK! 喜んで協力しよう」

「……は?」

「だってお前等、亜人の絶滅に協力的ではないどころか人類を絶滅させる方向に誘導してるじゃん。どこに出しても恥ずかしくない人類共通の敵だよ。大変だ。聖法に基づいて、急いで聖教会を絶滅させないと!」

 

 ユーリが真剣な表情で、おどけるように言う。

 

「な、なにを言っているのですか」

「念のために聞いておくけど、人に似て非なる魔物に協力する人間も処罰対象なの?」

 

 ネゴ神父とシエ神父は、フードを被っているバーチェをちらりと見やる。

 

「逮捕や投獄は十分あり得ます。無論、それに抵抗すれば死刑もあるでしょう」

 

 ネゴ神父が、死刑をちらつかせはじめた。

 

「留置所はそんなに広くないよ。面倒臭いから、聖教会は全員クラーケンの餌で良くない?」

「これは一般的な交渉です……変なことは考えないでくださいね?」

「変なことを考えてるのはお前等だろ。わかりやすいところから説明してやる」

 

 ユーリが後ろを見ず、空のグラスを控えているバーチェに差し出す。

 バーチェがポットからジュースを補充し、返す。

 

「新革命を大陸中に提案した時、『モンスター語の解析についていつでも協力できる』って併記したのに未だに無視されてるんだよね。亜人は人間の言葉を話せるのに、人間は亜人の言葉を知らないまま。だから、人間は亜人達に一方的に情報を抜かれ続けてる。肝心の聖教会様は、聖戦(ジハード)体験会とか言って亜人を殺してはいるけれど、亜人の研究すらロクにしていない。無理矢理に戦域を拡大させ、無駄に人類を絶滅においやることばかりやっている。数多くの人間女性が亜人達の虜囚となり、今現在も連中の孕み袋となっていること、知らないの?」

「だからといって、人に似て非なる魔物の言葉を学ぶなどと!」

 

 シエ神父が激高する。

 

「そのせいで一方的に連中に情報抜かれてるって言ってんだろ、頭沸いてんのか? 聖杖の賢者リリィの精霊魔法としてモンスター語を言わせている以上、ある程度の研究と理解は進んでいるはずなのに何故それを認めない? お前達が定義するところの御使いや精霊の神秘性を高めるためなら、孕み袋の犠牲者が何人増えようがおかまいなしってか? 聖教会には馬鹿しかいねぇのかよ」

「そ、それは……」

「続けようか。人に似て非なる魔物に協力する人間と言った時、お前等は僕のバーチェを見たな? バーチェを殺されたくなければ従えとでも言うつもりだったか? それなら先に『聖剣の勇者』セイの母親を殺してこいよ。理由はわかるよな?」

「何故、勇者の母親を手がけなければならないのですか」

 

 シエ神父が黙り込んだので、ネゴ神父が問いただした。

 

「父親がヴァンパイアで母親が人間だからに決まってんだろうが」

「貴様ッ! 世迷い言(よまいごと)もいい加減にしろッ!」

 

(BGM:ヨルムンガンド 「Rock'n roll boobs」)

 

 激高した教会兵の一人が、ユーリに歩み寄ってメイスを振り上げる。

 しかし教会兵の起こりを見て即座に、ユーリは飲んでいたジュースを教会兵の顔にかけていた。

 ヘルムの隙間から炭酸水が目にかかり、教会兵がほんの少しだけひるむ。

 立ち上がる動作の流れのまま、ユーリが教会兵の右腕を左手で掴んだ。

 右腕を掴んだ瞬間に崩しが入り、肘と肩を経由して首が極まり、教会兵の頭が後ろに下がる。

 無抵抗になった教会兵の顎に右掌底の寸勁、そのままヘルムの隙間を掴む。

 大外刈りの要領で脚を刈りつつ、後頭部を垂直落下で床にたたきつける。

 ゴキィ、とかボキィ、というような鈍い音が周囲に響いた。

 掴んだままの教会兵の右腕を、ユーリが右に捻る。

 骨の連動により、身体が自動でうつ伏せに引っくり返った。

 そのまま右腕をへし折り、残心の姿勢をユーリはとる。

 

 カタナにもやった首返しだったが、細部が色々と違い過ぎた。

 あっちは失神ver。こっちは殺すver。

 さらに首を折っても良かったが、周囲から一気に襲いかかられることを懸念してやらなかった。

 

「問答無用か。頭おかしいな聖教会」 

「き……貴様こんなことをして」

 

 シエ神父が叫ぼうとした瞬間、ユーリは淡々と告げた。

 

「聖典564項」

「……は?」

「違ったっけ? よこしまななんちゃら」

(よこしま)な人殺しが主の敬虔な信徒となり人を救い続け、ついには救済された……」

「僕は革命で、全人類を救い続けて人口を増やした実績がある。だから、(よこしま)な人間として一万人ぐらい殺しても救済される。あと9999人はいける」

「く、狂ってる」

「はぁ?」

 

 ユーリはシエ神父を睨む。

 

「じゃぁ教えてくれよ。勇者システムと聖女騎士システムを平然と実行してるお前等は正気だとでもいうのか? 御使いだの精霊だのと言い張る狙撃役の男達を天使だと信じ切って、毎晩のように強姦(レイプ)されながら、それでも健気に囮役をこなしている女の子達に対して、お前等は洗脳の真実を告げられるのかよ」

「こっ、この神敵にして異端め! 聖法違反により、火あぶりの刑だ!」

「……うっは、きたこれ! 事実指摘罪による、神敵にして異端認定いただきました! じゃあ聖教会は、人間全体の武力をもって僕達を脅迫して従わせようとしている……ってコト? 怖いなあ、戸締まりしなきゃ」

「このっ、」

 

 シエ神父は、ユーリを掴もうと右手を伸ばした。

 ()()()()()()()()

 

 だから、起こりも無く、意の念もなく、防御反射の速度を上回った抜刀が自分の眉間を貫いている景色を自然で当たり前なのだと感じた。

 

「正当防衛として殺すと言った」

「あえ?」

 

 シエ神父は首を傾げようと思ったが、思っただけで死んだ。

 どさり、とシエ神父の巨体が崩れ落ちる。

 

「二人目。続ける?」

 

 刀についた血を軽く払いながら、ユーリは告げた。

 ネゴ神父は顔をこわばらせている。

 これは正当防衛できそうにないな、とユーリが悩んでいると、ネゴ神父が強気に出た。

 

「あ、」

「あ?」

「貴方のやりようでは、復讐と正義に猛る者達が、延々と(あらわ)れ続けることになってしまいます。どうか落ち着いてください。繰り返しますが、これでは皆さんが人間全体の裏切り者として処罰されることになります」

「いや、延々と(あらわ)れ続けるというのは経験上正確ではない」

 

 ゆらり。

 弓王ボーゲンが、いつの間にかそこにいた。

 

「どいつもこいつも、何万何十万という数字をだして大きく見せるが……」

 

 原作同様の山刀(マチェット)が、ガードしようとしたネゴ神父を両腕ごと叩き斬る。

 

「実のところ延々とは来ない。数人か、せいぜい数百人射殺(いころ)せばケリがつく」

 

 あー。

 部屋があんまり汚れないようにしてたのに、とユーリが苦笑する。

 

「俺に戦いを挑む者とそれを指示した者を目についた端から殺していくとな……割と早い段階で『自分は無関係だ』『あいつが勝手にやったことだ』『降伏するから許してくれ』と言いだし、そこで終わるのだ。まぁ……王が死ぬまで食い下がった連中もいたが。お前がいうに、これは全人類とその裏切り者の俺達の戦争だそうだな。何人死んだら終わるか、試してみよう」

「ひっ」

 

 残った教会兵が、ボーゲンの威圧に萎縮する。

 ユーリは納刀しながら微笑を浮かべる。

 

「ボーゲンさん、そこまで。ほら、そこの教会兵三人。三人残ってるから、一人一つで合計三つ、死体を持ち帰れるでしょ? 僕が希望する報酬の話も聞かずに、強制命令とか出すからこうなるんだよ。神敵にして異端認定の件も含めて、全部アーク大司教に報告していいから、帰った帰った」

「……希望する報酬とは」

 

 教会兵の一人が、ユーリに尋ねる。

 

「聖剣の勇者セイと、聖盾(せいじゅん)の騎士マユリを僕の正妻として同時に迎えること。当然教会からは切り離されるから、勇者でも騎士でも無くなる。ま、教会でバイトするぐらいは認めてあげてもいいかな。その辺は流れと、僕の気分次第」

「そんな条件、聖教会が呑めるはずもない!」

「だから言ってるんだよ、頭悪いねぇ」

「拒絶されることを前提とした条件提示など……!」

「いや、貴方にそういう権限無いでしょ。これだから新人クンはダメだなぁ」

「……クソッ!」

 

 三人の教会兵が、遺体を背負いはじめる。

 ボーゲンが、そんな彼らに声をかける。

 

「人に聞かれたら全部ありのままに説明しろ。教会の王が代替わりさせられる前に、戦争が終わるよう祈るといい」

「わかった……」

 

 

 * * *

 

 

 教会兵達が帰った後、ユーリが背伸びをしていると。

 

「ユーリ様。ボーゲン様」

「なに、バーチェ?」

 

 バーチェはユーリとボーゲンに、それぞれ雑巾を手渡した。

 

「拭き掃除を手伝ってください」

「……はい」

「すまん」

 

 そういうことになった。

 

 

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