ふかふかダンジョンでエンジョイ&エキサイティング!   作:RAP

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原作セイの一人称が「ぼく(7~12巻)」「ボク(13巻)」「僕(14巻~)」で表記揺れしています。ユーリと白面の一人称が「僕」なので、セイの一人称を「ぼく」にしています。


第118話 原作時間軸・侍らせて挟まる

 

 アイギス港街の中央区、セルヨーネ侯爵家邸の応接室。

 正式な挨拶をまだ終えていない。

 だから、ユーリは勇者達の前で立ったままだ。

 

「……続けます。僕の現時点の側室達です。左から第一夫人、セスレ。第二夫人、アロ。第三夫人、グラス」

 

 セスレ、アロ、グラスが呼ばれた順に一歩前へ出て、綺麗なカーテシーをしてみせる。

 

「後列五名は妾達です。左からバーチェ、バト、カカオ、ミルヒ、カタナ。略式礼とさせていただきます」

 

 妾一同が、ぺこりと頭を下げる。

 

「聖教会の大司教様の、先触れを伴う正式な来訪に、セルヨーネ侯爵家当主のユーリ・ハーベラ・セルヨーネ侯爵として応じさせていただきました。不作法・不調法などありましたら、申し訳ありません」

「こちらこそ、かたじけない。頂いた胃薬も、よく効いております」

「それはなにより。それでは、ここからは冒険者のユーリとして応対することにしましょう。……みんな、ソファに座って。メイド長、飲み物を皆に」

「かしこまりました」

 

 全員が着席する。

 荘厳な雰囲気だった空気が、一気に抜けた。

 挨拶しただけで死にかけている嫁陣営を見て、ユーリは苦笑する。

 

「王族格を出迎えることなんてそうそう無いから、いい練習だと思ってよ」

「いや、本当に、こんな事になるとは思っておらず……こちらが伺う時間を、事前にお伝えしておこうぐらいの気持ちでしたので……」

 

 アーク大司教が、本当に申し訳なさそうに頭を下げる。

 ユーリが、世間話をするかのように問う。

 

「さて、『勇者御一行様』。聖戦(ジハード)への協力要請に対する、行き違いと正当防衛に関しての説明を望みますか? それとも、僕が希望した報酬についての話からはじめますか?」

「あの、質問よろしいですか?」

 

 リリィが挙手をした。

 ユーリは、にこやかな笑顔で。

 

「なんでしょう、聖杖の賢者様」

「『剣聖』様。虐殺王の虐殺者(シャイニングドラゴンスレイヤー)の二つ名に対する不確定な噂の真実を知りたいのです。本当なのか嘘なのか。真実の割合はどれほどなのか」

「噂と言われても、聖教会が何を元にして、何を疑っているのかわからないから答えにくいな。聖王国新聞の記事なら八割ぐらいが嘘だけど」

「えっ? 嘘なんですか? どこからどこまで?」

「むしろ何を知りたいの? 嘘発見器のセイちゃんもいるんだし、何でも聞いてよ」

 

 リリィは思わずセイを見る。

 セイはリリィの目を見て、無言で頷く。

 リリィはユーリの方を向いて、決意の表情で問いただす。

 

「シャイニングドラゴンを援軍と共に倒したというのは本当ですか?」

「本当。森からドラゴンを広場におびきだすのと、シャイニングドラゴンの発光体を潰す液体をドラゴンにぶつける役割はセルヨーネ侯爵軍とアドリ=ブヨーワ公爵軍にやってもらった。そこから先、つまりシャイニングドラゴンと実際に戦って倒したのは『鳴神(なるかみ)』の三人だけ。僕と、そこにいる『長耳』のバーチェと、シャイニングドラゴン戦で亡くなったアイリス」

 

 話を聞きながら、グラスが悲しげに俯く。

 あまり思い出したくない話だから、余計に悲しい。

 

「セルヨーネ侯爵軍は、全員貴方の盾となって散ったはずでは?」

「シャイニングドラゴンを倒した瞬間にセルヨーネ侯爵軍に裏切られて、弓の一斉射を背後から受けて僕は死にかけたよ。今は僕の第一夫人となっているセスレがアドリ=ブヨーワ公爵軍に突撃命令を出して、セルヨーネ侯爵軍の弓兵を重騎兵ですり潰した……ありがとね、セスレ」

 

 振り返って、ユーリがセスレに手を振った。

 セスレは恥ずかしそうに顔を真っ赤にする。

 

「で、ではドラゴンを倒したことによる呪いというのも真実……」

 

 驚愕したリリィが、妾席に座っているバーチェを見る。

 今のバーチェはフードで隠していないので、見た目は完全に黒髪のエルフだ。

 しかしユーリは、人差し指を立てて唇にあて、セイを見つめる。

 

「嘘です。ドラゴンを倒しても、ドラゴンの呪いはありません。詳細は黙秘権を行使します……言っちゃダメだよ、セイちゃん」

 

 青ざめた顔で、コクコクとセイが頷く。

 

「まぁ、調べれば簡単に出てくる話ぐらいは言ってもいいか。バーチェの一族は『金髪碧眼の容姿端麗で頭脳明晰』な人間を掛け合わせ続けることで、金髪碧眼の長耳エルフを作ろうとしていたんだ。『交配による人種の品種改良』を繰り返して、人造エルフを大真面目に作ろうとしていた。その意味では、バーチェの一族は聖教会の敵だね。ただ残念なことに、バーチェは金髪碧眼ではなく、黒髪黒目で生まれてしまった。だから捨てられて、娼館に売られた。そこをハサマール家が買い取って、さらに僕が買い取った。なのでバーチェはれっきとした人間です」

「そんな非道な人体実験をしていただなんて、信じられない……」

 

 現在進行形で洗脳の人体実験をされている少女が言う台詞ではないな、とユーリは冷たい目でリリィを見る。『リリィちゃんは救えない。真実を教えればきっと壊れる』というユーリの台詞がセイの脳内で繰り返され、セイは涙目になる。

 

血塗れ侯爵(ブラッディ・マーキス)の二つ名の方はどうなんでしょう?」

「僕を罠にハメようとした第二王子は殺したよ。近衛兵の剣を借りて軍務大臣のアソコを切断したから、剣が血で紅く染まったといえば染まった。そのまま軍務大臣を謁見の間まで引きずっていったから、謁見の間が血で染まったというのも、そう表現できなくもないかなってところ」

「では、『相手の頭を撫でたら胴に沈んだ』とか『胸に軽く手を置いたら相手が即死した』という噂は、嘘だったんですね」

「嘘と言えたら良かったんだけど……」

 

 ユーリがちらりと振り向くと、バーチェの顔が青ざめていた。

 

「大丈夫かい、バーチェ?」

「すいませんユーリ様、退室の許可を……」

「いいよ。外の空気でも吸って、ゆっくり休んで」

 

 なにげないやりとりに、リリィは首を傾げる。

 

「……ええと?」

「バーチェを自分の物にしようとしていた第二王子の頭を胴に沈めたのは本当。バーチェの目の前での出来事だったから、バーチェにとってトラウマになってる」

「え"っ」

「副宰相の胸に軽く手を置いた感じに一撃入れて殺そうとしたけど、即死まではいかなかったな。泡を吹いて気絶。でも獄中死したって聞いてるから、時間差で効いたのかもしれない。四年前の勁力だから、いまやったら成功する可能性はあるかも。聖騎士の誰かで試してみる?」

「いっ、いえっ、試さなくていいです! 試さないでください!」

 

 リリィと聖騎士四人が、ぶんぶんと首を左右に振った。

 マユリがちらりと、セイを見る。セイは苦笑した。

 

「ユーリ君は嘘をついてないよ、マユリちゃん」

「えええ……」

「他に聞いておきたいことはある?」

「あ、いえ、もう大丈夫です。お話を遮ってすみません」

 

 リリィがぺこりと頭を下げる。

 アーク大司教が、言葉を続ける。

 

「いまは冒険者としての対応だそうだから、『剣聖』ユーリと呼称させてもらうよ。セイちゃんとマユリちゃんを正妻に、という件だけれど、彼女達の承諾を抜きにそんな話はできない。平民出の彼女達に、貴族のような政略結婚はさせたくない。ただ、その壁を乗り越えられるようであれば、私としては受けて良い話なんじゃないかと考えているよ。聖教会として勇者を失うのは痛手だけれど、セイちゃんとマユリちゃんを嫁に迎えた時点で『剣聖』ユーリは聖戦への参加を承諾したことになる。セイちゃんとマユリちゃんを含めた作戦行動の連携を『鳴神(なるかみ)』に承諾してもらえれば、亜人どもとの戦争に勝てると私は考える。人間が絶滅させられる前に、亜人どもを絶滅させることができる」

 

 必死に語るアーク大司教を、虫でも眺めるかのような目でカタナが見ていた。

 人間としてユーリと結ばれたが、カタナの心は今もケンタウロスの里にある。

 

「恐らくは指揮官として大司教様は暗黒大陸に来られたのだと思いますが、僕の視点からすると今までの聖教会のやり方は大変手ぬるく、甘いようにしか思えません。ですから、作戦行動の連携に関しては現時点で答えを告げることはできないと正直に述べておきます。……そもそも、それ以前のお話でしたね。先にやらなければならないことを済ませておきましょう」

 

 そう言ってユーリは立ち上がり、テーブル脇の広い空間へと移動する。

 そのうえで、目の前の空間を指し示す。

 

「聖剣の勇者セイ、聖盾(せいじゅん)の騎士マユリ。お手数ですが、こちらに来て頂けませんか?」

「うん、いいよー」

「はい」

 

 警戒をしているのか、聖騎士四人のうち三人が、いつでも間に飛び込める場所に移動した。

 残りの一人は、アーク大司教の護衛を続けている。

 

 そんなに心配しなくても、()る時は全員一緒に殺してあげるから、安心してよ。

 ユーリの微笑に、セイは引き攣った笑顔を浮かべる。

 

「貴族にとっての正妻枠は本来一人だけですが、例外があります。王族級を同時に迎えいれる場合にのみ、正妻二名が許されます。聖教会が勇者を王族格であると定めている以上、僕が勇者二人を正妻に迎えようとする行為は法的に瑕疵のない正しいことであると、前もって説明しておきます。また、正式な場のため、僕の一人称をわたくしとさせていただきます。ここまではよろしいですか?」

 

 セイとマユリが頷く。

 それを確認して、ユーリはセイとマユリの間に歩み出た。

 

「申し出以降は話が別となりますが、今は王族格であるお二人への言上(ごんじょう)となるため、聖剣の勇者セイ、聖盾(せいじゅん)の騎士マユリという正式名称で呼ばせていただきます」

 

 ユーリは二人の前に跪き、(こうべ)を垂れ、右手を左胸に添えた。

 聖王国における貴族の、最敬礼の挨拶。

 10才のデビュタントの際にも、国王と王族相手にやっている。

 

「聖剣の勇者セイ、そして聖盾(せいじゅん)の騎士マユリ。貴女達が、お互いを深い愛情で包みあっているであろうことは察することができます」

「えっ」

 

 暗黒大陸行きの船内で、セイとちゅーしたことをマユリは思い出してしまった。

 マユリはレズではない。

 レズではないのだが、セイならアリじゃね? と思い始めていた(9巻49Pコラム)。

 

「通常の結婚であれば、その想いに蓋をして夫にのみ尽くすことになるでしょう。ですが、その想いに蓋をすることはない……とはっきり申し上げておきます。互いを想いあう心をそのままに、その傍らにわたくしを置いていただきたい。そうすれば、わたくしは御二方をそのまま包むように愛することができます」

「そのまま、包むように……」

「その上で、受け入れていただかねばならないマイナス面もお伝えしておきます」

「マイナス面?」

「はい。御二方が正妻となった場合、本来であれば第一夫人、第二夫人として扱われます。ですが御二方は貴族として生きておらず、侯爵格の貴族マナーに対応できません。それはお茶会や舞踏会、外部との交渉といった、セルヨーネ侯爵家の品格を伴う妻として動くことができないという意味になります。ゆえに側室がその役目を負うことになるでしょう。また、わたくしの信条として、正妻も側室も妾も同列に扱いたいという我が儘がございます。この二点を勘案し、御二方を正妻として迎える際は、正妻の第九夫人、正妻の第十夫人という特例にさせていただきたいのです。つまり正妻として側室や妾になにかしら命令を出すことはできません。全て『お願い』になります。反面、側室や妾側も、正妻の御二方には『お願い』しかできないということでもありますが」

「それは、マイナス……なのでしょうか?」

「貴族的には、あり得ない申し出です。正妻の特権を捨てろという意味ですので、この場でわたくしが頬をぶたれてもなんら不思議には思いません」

 

 侯爵家の正妻特権を捨てろというのは、本当に酷い話なのである。

 正妻特権のために毒殺を含めた殺し合いがはじまるのは、貴族的には日常茶飯事。

 元公爵令嬢のセスレが指揮官役として上手く機能していて、側室も妾もみんな支え合っているセルヨーネ侯爵家が異常なのだ。

 

 そして、平民として生きてきたマユリには、何がマイナスなのかよくわからなかった。

 私は偉いんだぞ、っていうマウントを取れないって意味?

 側室と妾にマウントをとってどうするのだろう?

 みんなで仲良くすればいいんじゃないの?

 

「いま申し上げた点を踏まえた上で、重ねてお伝えいたします。わたくしのこの右手に、御二方の左手を重ねていただけるのであれば……貴女達が互いを想い合う心をそのままに、御二方を包んで愛することを、このユーリ・ハーベラ・セルヨーネ侯爵は誓います」

 

 よし、体裁となる台詞を言い終えた。

 ユーリはセイとマユリに対して跪いたまま、右手を伸ばす。

 

 後はマユリちゃんに蹴られて『セイに手を出したら殺す』と言われて、聖教会と開戦かな?

 セイちゃんも大司教も返事はOKっぽいけど、マユリちゃんがNOならそこまでの話だし。

 聖騎士が僕達の間に入ってくれれば、逆に盾にできるからやりやすい。

 セイちゃんは背中の大剣すら抜けずに終わる。

 

 聖教会との全面戦争を意識していたユーリは、そんなことをぼんやり考えていた。

 百合の間に挟まれば死ぬのなら、それを逆手にとって立ち回れば良い。

 

 ユーリの思考が手に取るようにわかるセイは、不安そうにマユリを見やる。

 マユリの返事次第では、ユーリ達は一瞬で敵対または殺し合いに移行するだろう。

 その場合、セイはマユリもリリィも大司教も守れない。

 位階の差が見えないユーリがどう動き、どう戦うのかわからない。

 15年以上自分と戦うことを考え続けていた相手に、簡単に勝てるとは思えない。

 

 全ては、マユリの決断次第だった。

 

 

 * * *

 

 

「襟足の長さ、か……」

 

 マユリはそう呟きながら、セイの姿を改めて見直した。

 襟足が鎖骨のあたりまで伸びたとして……うん、案外似合う?

 

 ユーリはソウハカイ神父のように、『おっぱいでっか! 結婚してくれ』などと言っていない(ユーリはおっぱい平等派)。『エロいパンツ履いてんな、ヤりてぇ』とも思っていない(ユーリはむしろパンモロは隠して欲しい派。原作の勇者達はパンモロ描写が激しい)。若い子とえっちすることしか興味がないわけではない(セスレもバトもバーチェもみんな年上)。飽きたら捨てるとも思っていない(原作ネームド女性を、ユーリが飽きて捨てるようなことは絶対にありえない)。

 ソウハカイ神父が考えたようなことをユーリが思っていたのなら、セイは警告としてマユリに伝えていただろう。

 

 平民から見れば妻の人数は多いが、貴族的には普通らしい。

 愛の告白時に宣言するぐらい妻全員を公平に扱っていて、お金にも困っていない。

 リリィの質問にも誠実に答え、言えないところは言えないと正直に伝えてくれた。

 正妻の特権を捨てるというマイナス点は、正直よくわからない。

 妻の10人は当たり前の世界に、10人目の妻として加わるのはおかしくない。

 侯爵格の貴族マナーを伴ったお茶会や舞踏会、外部との交渉をしろと言われる方が困る。

 側室が正妻の仕事を肩代わりしてくれるのであれば、正妻の権利を得られないのは当たり前。

 そんな仕事、やれと言われても絶対にできない。やらされるようなら結婚を断るしかない。

 

 むしろ、セイへの想いに蓋をすることはない……という言葉が、地味に効いた。

 自分が結婚するにしろ、セイが結婚するにしろ。

 いつかは封印し、秘めなければならない想いだったから。

 (10巻のレズプレイ後ならまだともかく、今の時間軸は9巻終盤というのも大きい)

 

 不安そうな顔でマユリを見つめるセイに、思わずマユリは苦笑する。

 

 大丈夫。そんなに不安そうな顔をしないで、セイ。

 だって、()()()()()()()()()()()()って、()()()()()()でしょ。

 相手の顔だの地位だの資産だの気にしないあんたが、髪型を変えるんでしょう?

 それって女の子的にとんでもない発言なんだけど、自分で言ってて気づいてる?

 

 セイが不安そうにしている理由は全く別の理由だったが、マユリにそれはわからない。

 

 ここは、子を産んで増やすことが当たり前の世界。

 医療も未発達で、『乳児死亡率』や『五歳未満児死亡率』も高い。

 婚姻年齢も出産年齢も低い。そもそも平均寿命そのものが低い。

 七つまでは神のうち。どんどんセックスしてどんどん子供を産みましょう。

 

 LGBT系の多様性がどうとか言っていたら人類が滅んでしまう。

 亜人と戦争もしているし、亜人側は積極的に数を増やしている。

 だから同性愛に対する忌避感は、相当に高い。

 アナルセックスをする文化が無い国があるのも当たり前。

 単純に、後ろの穴では子供が産まれない。それだけの話だ。

 

 令和日本の感覚で捉えてはいけない。

 日本ですら、少し前までは同性愛を絶対に許さない、厳しい社会目線を持っていた。

 だからゲイポルノがギャグ的ネットミームとなり、百合はキマシタワーなどと揶揄された。

 それでも二次元と三次元の違いは大きい。二次元では大丈夫でも三次元はダメ。

 三次元社会は、LGBT的多様性を受け入れる下地が令和日本ですら完全ではない。

 

 原作9巻34Pのように、セイもマユリも彼氏を作らないといけないと感じていた。

 ちゅーをしてしまったのは、一方的に心を読み取ってくるセイがおかしいだけ。

 社会に忌避される百合は許されない。この世界における百合の貴重度は本当に高い。

 (原作の世界観で同性愛が普通なら、創世神が確実に操作していると断言できる)

 

 そういった、同性愛に対する社会情勢を全て踏まえたうえで。

 セイへの想いを封印せずに、そのままで良いと伝えてくれる男性が、他にいるだろうか?

 

 ……いないよね、うん。

 

 

「えっと。とりあえず、呼び名は暫定でユーリさんでいいですか?」

「……はい、問題ありません」

「セイに希望したように、私の髪型に対して何か希望はありますか?」

「いえ、ありません。そのままで良くお似合いです」

「わかりました」

 

 マユリはセイの左腕を掴んで引き寄せ、自分の左手をセイの左手に重ねた。 

 そのまま、ユーリが差し出している右手に載せる。

 

「……マユリちゃん?」

「いいよ、セイ。受けようよ。襟足が伸びたセイ、私も興味ある」

 

 ……あれ?

 蹴りは?

 百合の間に挟まって殺されるのでは?

 

 驚いて顔をあげたユーリを見て、マユリは微笑んだ。

 

 なんだかとっても凄そうな人だったのに、この人も不安で仕方なかったんだ。

 そうだよね。告白なんて、一世一代の勇気を振り絞るものだしね。

 セイがいつも勝手に読み取るから、その流れで私はちゅーとかしちゃったけど。

 

 本当は、私が勇気を振り絞らなきゃいけなかった。

 でも、今回はユーリさんが提案してくれたから。

 その提案に、ありがたく乗らせてもらいますね。

 

「私とセイを、一緒に包んで愛してくれるんですよね?」

「あ、はい」

「これからよろしくお願いします、ユーリさん」

 

 マユリが、ある意思をもってセイを見る。

 セイはマユリの顔を見て、笑顔で頷いた。

 

 ユーリの手を引いて立たせた二人は、ユーリの両側に回りこんで腕組みをした。

 そして、ユーリを挟み込むようにして。

 

「「せーの」」

 

 二人同時に背伸びして、ユーリの頬にキスをした。

 

「えへへ……彼氏で婚約者だぁ」

「あーあ、これで私も結婚かぁー」

 

 セイとマユリが、恥ずかしそうに微笑んだ。

 そんな二人の幸せを強く望んでいたアーク大司教も、心からの笑顔だ。

 

「ふむ。正妻ということであれば、結婚式もおこなうことになりますな。お相手が侯爵閣下ですから、上層部も流石に諦めざるをえないでしょう。聖教会の全力を挙げてご協力いたしますぞ。その辺の神父には任せられません。聖典朗読、説教、誓約など、全て私自らが執り行いましょう。はは、神父時代を思い出しますな。これでも数え切れない程の夫婦を見送ったものです」

「あ、ありがとうございます……」

「一番無理をさせているセイちゃんたちには、誰よりも幸せを掴んでもらいたかった。しかし、彼女達を前線に置きたがる上層部の意思が強く、政治的なパワーバランスを含めて私ではどうにもできなかった……外部からの、そう、まさに侯爵閣下のような存在の助力を必要としていたのです。改めて、私からも礼を述べさせていただきましょう。主は常に私達を見ておられた……()()()()()()なのでしょう」

 

 ユーリは、百合を侍らせて、百合の間に挟まった。

 ……侍らせて、挟まってしまった。

 

 やばい。思ってたんと違う。

 あれぇー?

 ええと、なんかこう、なんかあってですね。聖騎士が飛び込んできて、当て身で気絶させながら僕の盾にして、そこで血みどろの聖戦(ジハード)がはじまって、僕がセイちゃんを相手にしている間に他の連中を嫁達に任せて、その後は何も考えずに惨殺祭りがはじまってですね……こう……ろくろを回す手で解説しちゃうような激しい戦いが……?

 

「ユーリ君」

 

 ユーリが内心青ざめていると、セイに呼ばれた。

 ぐぎぎ、とユーリの顔がセイの方を向く。

 

「リリィちゃんも精霊様達も、助けてもらえないかな? ぼく、エッチ頑張るから……」

 

 え。御使い様も精霊様も、余裕で鏖殺対象なんですけど。

 

「他の聖女達も、お願い。マユリちゃんとも、頑張るから……」

 

 レピアもリリィも、廃人化して長期入院して行方不明かと思ってたんですけど、

 

「ねっ?」

 

 ねって言われて小首を傾げられても、困るんですけどォ……!

 

 

 * * *

 

 

「……知ってた!」

「ポンコツゥ!」

 

 ミルヒとカカオが、ソファにずるずると深く寄りかかる。

 指示通りに用意していた新武装は、案の定取り出すことすら無かった。

 

「あのね、グラスさん、カタナちゃん。我が家の旦那様は、ポンコツです」

「あっハイ」

「ん。ユーリはポンコツ」

 

 セスレが人差し指を立てて、グラスとカタナに説明している。

 アロはドレス姿だが腕組みをして、ため息を一つ。

 

「完璧人間なんているわけないし、ユーリが完璧だったらそもそも私達なんていらない。支え合うのが夫婦っていうのは、良く言ったものだと思うわ」

 

 そこへ、バーチェが戻ってくる。

 バーチェの隣席がバトなので、当然バトに質問が飛ぶ。

 

「ええと、どうなりましたか?」

「案の定やな。ウチには見えんけど『こんなはずじゃなかった。これは何かの間違い』みたいな顔をウチらの旦那様はしとるんやないか?」

「……してますね」

「計画をどう修正するんかは知らんけど、また正座案件ちゃうんか?」

「ふむ……」

 

 バーチェは両手で自分の頬をさすってから、真剣な顔で言う。

 

「『聖剣の勇者セイと聖盾(せいじゅん)の騎士マユリはオール・オア・ナッシングだ(キリッ)』」

「ぶほっ」

 

 バトが噴く。

 

「うははは、バーチェさんほんっとずるい!」

「うひっ、ひぃ、ツボに入った、あははは!」

 

 ミルヒとカカオがゲラゲラ笑う。

 

「勇者達がオール・オア・ナッシングなのは、わかるわ。わかるけど、必ずナッシングになるからとナッシングの時の準備だけして、オールになった時のことを考えてないっていうのは、本当にどうなのかしら」

 

 セスレがこめかみを抑えるように、片手で頭を抱える。

 それを聞いたグラスが驚く。

 

「えっ。あのっ。勇者様と騎士様が、その、お二人で想い合っていたとして。あんな愛の告白をされたら、受けるしかないのではと思うのですが……」

「普通なら両親やら親戚やら友人やら、とにかく周囲の人間が総出で取り囲んで、強引に思想矯正を試みても何にもおかしくないわね。女性の社会進出云々よりヤバい思想だっていうのは私にだってわかる。そこにあんな事言われたら、オール・オア・ナッシングもなにも、オールしか無いでしょ」

「ん。ユーリはポンコツ。むふー」

 

 アロが肩をすくめ、カタナがドヤ顔でむふる。

 バーチェが首を傾げる。

 

「聖杖の賢者を、ユーリ様はどうなさるのでしょうか……」

「聖女騎士システムの件が事実なら、廃人一直線よね。捨てるか、誰かにあげるか、妾として拾ってあげるか」

 

 セスレが遠くを見ながら呟く。

 

「仲間であり友人の幸せのために一生懸命質問していたあの子を、捨てる?」

 

 げんなりとした顔で、アロが言う。

 

「妾云々はともかく、捨てるんは……無理やないか?」

「そもそも正妻の御二方が懇願したら、どうにもなりませんよね」

「ならんな」

「ですよねぇ」

 

 バトとバーチェがため息をつく。

 ミルヒとカカオが、楽しそうに話す。

 

「アラクネと戦いに行ったら、アラクネが嫁になって帰ってきた我が家の旦那様ですが」

「そのうちマーフォークをわからせるそうですが、わからせたらどうなるでしょうか」

「はいヤメ! その話題は中止! 終了や! アカンで!」

 

 バトが右手ツッコミを入れる。

 カタナが思い出すように発言する。

 

「アジェも、ポンコツのユーリの嫁になるかと思ってた」

 

 原作ではヒュドラに殺されてしまったとはいえ、アジェは嘆きの街の連合国軍・大隊長副官をしていたぐらいには有能、かつ美人である。

 大隊長が朴念仁だから勧誘できたとユーリは言っていたが、それはユーリにターゲットを移したということではないだろうか。

 本来なら執事などの上級使用人がおこなう『御入室コール』もアジェがやっていた。

 アレは自身の存在をさりげなくユーリにすり込む行為なのでは、と嫁勢は考えていた。

 

「15人以下に抑えて貰わないと、部屋数が足りないんだけど。増築?」

 

 セスレがどうにでもなれという顔で笑う。

 

「私達のキャパシティ以前に、屋敷の方でギブアップが入りそうね」

 

 アロが苦笑する。

 

「私、中央大陸に向かって本当に大丈夫なんでしょうか? 全てが終わってみんなと合流したらお嫁さんが倍になっていました、と言われても覚えられないんですけど……」

 

 グラスの疑念に、嫁全員が目線をそらした。

 その疑念には、誰一人答えられなかった。

 

 

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