ふかふかダンジョンでエンジョイ&エキサイティング!   作:RAP

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第123話 原作時間軸・レピアとリリィ

 

 森のそば、草原の中。

 目の前で、草むらに横たわったゴブリンの赤子が、ふにゃふにゃと泣いている。

 長い茶髪に茶色の瞳を持ち、聖女服に身を包んだ女性が赤子の目の前に立つ。

 

 殺戮聖女レピアは、ゴブリンの赤子の眉間にレイピアを突き立てた。

 そのまま手元を返し、脳を抉ってあげた。

 

「きっ、ぴゃーーーーっ!」

 

 ゴブリンの赤子は片目を飛び出させつつ、痙攣をはじめた。

 じたばた足掻くその姿は、変な踊りを踊っているかのようにも見える。

 

 ちらり、とレピアは視線を横にやる。

 そこには、赤子を胸に抱えたゴブリンの女が二人――御使い様のおかげで、足に怪我をして動けなくなっている――が、こちらを見て震えている。

 

 レピアは、おしゃべりしながら食用カエルの首を次々落として仕分けていく、市場のおばさん達のような気持ちになった。

 今日の作業は早く終わったし、気になってたあのパン屋さんに行ってみよう。

 あとは近づいて、四回繰り返すだけだ。

 刺して、抉る。刺して、抉る。刺して、抉る。刺して、抉る。

 

 殺戮聖女レピアはいつもやっていることをいつも通りに繰り返そうと、ゴブリンの女達に駆け寄った。その瞬間、誰かが物凄い勢いでレピアの元に急接近してきた。

 

 ゴブリンの女達とレピアの間に割り込むようにして近づいてきた青年は、目の前で一瞬しゃがみこむと、足で円を描きながら高く飛び上がった。

 

 太極拳に、外擺腿(がいはいきゃく)という蹴り技がある。

 足を高くあげて円を描くように蹴る技だ。

 真正面にあげてから回す用法もある。

 真正面から見れば真円か半円かの違いで、後は接敵後の相手の動き次第で変わる。

 だがこの外擺腿(がいはいきゃく)、決して宙に飛び跳ねるようなものではない。

 

「ジェノサイッ・カッタッ!」(注:誤字ではない)

 

 すんでのところでバックジャンプしたレピアは、相手を見て驚愕する。

 何年か前、まだ聖女騎士だった頃に、一緒にゴブリン集落を攻めたことがある相手だったからだ。ジェノサイド・カッター(623+K)を終えたユーリを、レピアは詰問する。

 

「……ユーリさん。慈悲の心は素晴らしいものですが、ゴブリンというのは……」

「知ってる知ってる。一緒にゴブリン集落攻めたでしょ? もう五年前か、懐かしいなぁ」

 

 懐かしそうな顔を見せるユーリに、レピアは無表情で対応する。

 ユーリの姿はいつも通りの貴族礼服で、レピアは痴女系聖女服だ。

 冒険者証を持っている者が見れば、誰でも顔を(しか)めるだろう。

 お前等もう少し冒険者してくれよ、と。

 

「……そうですか。知った上でそうすると」

「レッドキャップなら見捨てたんだけどね。今はゴブリン救済キャンペーン中なんだ」

「ゴブリン救済、ですか? 冒険者をしているのに?」

 

 怪訝そうにレピアが尋ねる。

 

「うん、だって聖教会が神様の大量虐殺をやらかして、僕が信ずる神も殺されちゃったからさ。そんな聖教会に亜人を殺せとか言われても従う必要なくない? 僕の神様を天使扱いしやがって、ぶっ殺すぞ」

 

 最初の頃はニコニコ笑顔で語っていたのに、最後の『ぶっ殺すぞ』のあたりは殺意が籠もりすぎていて、レピアは思わず後ずさった。

 

「主は一にして全、全にして一、そして主を補佐すべく天使様がおられるのです」

「聖杖の賢者リリィと同じ事を言わなくていいよ。聖教会が人間の敵になった以上、殺された神々は聖女とて例外なく神罰をくだす」

「……人間の敵となるというのですか? S級冒険者のあなたが」

「違うって。聖教会が人間の敵になったの。わかる? ちょっと難しい話だったかな、主よりも死を恐れてゴブリンに腰を振ってたレピアちゃん。オークのチンポはでかかったかい?」

「な……ぜ、そのことを……!」

 

 レピアの歯ぎしり。

 ユーリは(あざけ)るような目で、語り始める。 

 

「500年前、亜人を恐れた初代教皇は聖典を書き換えて亜人を皆殺しにしろと言い出した。そこまではいい。そこまでは許そう。だが多神教を一神教にしたのは絶対に許されない。雷神、剣神、武神、軍神、地震の神、境界の神であられる建御雷神(たけみかづちのかみ)を、神々の一柱(ひとはしら)ではなくただの天使だなどと定義した時点で、もう聖教会は敵だ。僕の信ずる神を天使に貶めた時点で、万死に値する」

「……恐ろしい。異端審問で異端認定され、神敵とされる考えです。あなたは主とその御使い様方に決して勝てません。今の私は聖女騎士ではありませんが、あなたが私に刃を向けるというのなら……!」

「聖教会に殺された神々は500年耐えたが、聖教会が500年変わらないのでお怒りになられた。これに聞く耳を持たぬというのであれば、御使いと聖女の繋がりは永遠に断たれるであろう。これは預言ではなく、ただの告知だ」

 

 この人は一体、何を言っているのだろう。

 さすがは神敵で異端、もう会話が通じないのか。

 レピアは、自らの右手を高く掲げる。

 

「……ご加護を!」

 

 御使いの怒りが。神の奇跡が、あなたを殺す。

 SのA級、何するものぞ。

 レピアはそう思っていたが、返事は静寂だった。

 

「Aow!」

 

 ユーリは突然、両手を挙げて全身でYの字のポーズをとってから、くねくねと踊り出した。

 格好いいポーズも多いが、ところどころで腰を前に突き出したりの扇情的なダンス。

 ジャンがいれば『似てますね』と言っただろうが、ここにジャンはいない。

 

 ユーリはレピアの目の前で、マイケル・ジャクソンの『Smooth Criminal』のダンスを踊り始めていた。

 

「ごっ、ご加護を!」

「Hoo!」

 

 レピアが再度の加護を御使いに願うが、返事は無い。

 ユーリはノリノリで『Smooth Criminal』のダンスを踊り続ける。

 くるくる回りながら、とにかく格好いいポーズを連発する。

 

「えにあゆおーけい、そっえにあゆおーけい、あゆおけえーにぃ!」

 

 これはユーリが前世の狭間悠里(はざまゆうり)時代に、武の向上に対して完全に迷走していた時期があったことに由来する。

 『ダック・キングがブレイクダンスで戦うなら、踊りながら戦えば強いのでは?』

 『カポエラの師匠とかどこに探しに行けばいいんだ』(昔の日本では学びにくい武術)

 『踊りといえばやっぱりマイケル・ジャクソンだよね』

 実際にSEGAからマイケル・ジャクソンが踊りながら敵を倒すゲームが発売されていたので、悠里は一時期マイケルの踊りを研究したことがあった。

 Thriller、Beat It、Billie Jean、Smooth Criminal、Dangerous など様々なダンスを研究した末、『マイケル・ジャクソン拳』という新機軸の体術の発明に悠里は成功した。

 これは『Dangerous』をベースに、マイケル・ジャクソンっぽい感じで踊りながら人と戦うという本気で意味不明のものだったが、合気捕りや寸勁を合間に混ぜるなど本人はいたって大真面目だった。半年以上迷走した末に、武術には転用できないという結論になったマイケル・ジャクソンのダンスだったが、女の子を口説く時や宴会芸には使えた。

 

 話を戻すが、ムーンウォークやサイドウォークをこの世界に持ち込むだけでも割と革命的ではある。それゆえに、『Smooth Criminal』のダンスはこの場の誰にも理解されなかった。

 

「ご加護、を……」

「はい。こちらでしょうか?」

 

 そう言いながら、森の中から男を引きずってバーチェが現れた。

 

「重いわぁ。はよ代わってぇな、ユーリ」

「ぬうおおおおお」

「おもたあああい」

「ん。優しく運ばなければいい」

 

 それぞれ、バト、ミルヒ、カカオ、カタナが男を引きずって現れる。

 

「あーバトさんごめんね、今変わるよ」

「ユーリ、これでいいー? 殺さなかったよー♡」

「ありがとねブラウィド、助かったよ」

「あっ、アラクネ!?」

 

 レピアが唖然とする。

 アラクネが、片手で男をつまむように持ち上げながらやってきたのだ。

 ギルドで死体回収例の無いアラクネは、伝説そのものだった。

 

 驚愕したレピアが呆然としていると、レピアの胸の間に軽くユーリの拳が添えられた。

 添えられた瞬間から、身体全体が重くなり、肋骨が開く感覚がする。

 立っているだけでもツラい。軽く拳を置かれただけなのに!

 

「死なないように手加減するよ」

 

 それは手加減なのでしょうかとレピアが言おうとしたその時、ユーリは身体を一切動かしていないのにレピアの胸に衝撃が走った。

 触れて体軸を崩した後(Youtube動画あり)に、寸勁ではなく触れ合気という技術での打法(Youtube動画あり)で心肺を打った。

 

「かはっ」

 

 肺の中から空気が一気に抜けた感覚と共に、レピアの両手からレイピアがこぼれ落ちる。

 ゆらりとレピアの身体が崩れ、ユーリの腕の中にレピアが飛び込んできた。

 レイプ前提なら呪文が使えたんだけどな、とユーリはぼんやり考えていた。

 

「んじゃ、全員縛り付けて運ぼうか。ブラウィド、またね!」

「いつでも手伝うよー♡ またね、ユーリ♡」

 

 ユーリ側の主張は簡単である。

 森の覇者・アラクネのサポートすらあるのに、森の中でユーリとレピアの会話に意識を裂いて夢中になってしまった方が悪い。

 

 ブラウィドと挨拶だけは交わしたものの、人を殺す形をしているこのアラクネと引き分けたらしいウチの旦那様は一体どうなってるの? と首を傾げた嫁勢であった。

 なお、赤子を胸に抱えたゴブリン女二人は、ブラウィドが案内していった。

 

 

 * * *

 

 

 レピアが意識を取り戻した時、地下室に囚われていると彼女は察した。

 窓は無いが、室内はどこかの貴族の屋敷のような調度品や家具の類が置かれている。

 自分が寝かされていたベッドも豪奢でふかふかだ。

 流石に武器は奪われているようだが、服などはそのまま。 

 覚醒したレピアは、ベッドから身を起こす。

 

「お姉様ああああっ」

 

 意識を取り戻したレピアの胸の中に、見覚えのある少女が飛び込んだ。

 青い髪、青い瞳、小さな身体のリリィ。

 

「リリィ……」

「うぁあああああっ!」

 

 リリィは泣きじゃくり、鼻水すら垂らして話す。

 

「じんばいじだんですよぉおっ! お姉様の銀十字だけがっ、教会の門にっおいであっで……っ、お姉様が助けた子は……っ、あんまりじゃべっでぐれなぐでっ! どごがに行っだどじが……っ!」

「……ごめんね、リリィ」

 

 レピアは、優しくリリィを抱きしめる。

 リリィの愛情が、レピアに涙を流させる。

 

 そこへ、申し訳なさそうに二人の青年がやってきた。

 ユーリと、殴られてズタボロの男が一人。

 

「感動的な再会のところ、ごめんね? おっぱい好きの御使い君を連れてきたよ」

「……えっ?」

「一番目の御使い君だよね。自己紹介するかチンコ切断か、好きな方を選んでね」

「……」

「んじゃチンコ切断しまーす♡」

「ま、待て、話す。話すから待ってくれ。おっぱい好きの一番目の御使いだ……」

「これは、何が言いたいのですか? ユーリさん」

 

 怪訝そうなレピアに、ユーリは苦笑する。

 

「御使いの正体だよ。見ての通り、ただの人間さ。そして彼らの御寵愛(セックス)とやらは、もうあなたたち聖女には苦痛と嫌悪しか与えない。殺された神々が、聖教会に対してそう決定したから。殺戮聖女レピア、(きみ)は一時期虜囚となっていた関係でリリィちゃんよりもストレス耐性が高い。だから、彼女より多めに情報開示させてもらうよ」

 

 

 * * *

 

 

「……いま話したのが、聖女騎士システムの概要だ。その上で、御使い全員を捕縛済み。何年にも渡ってレピアちゃんを抱き続けてきた彼らだけど、何度でも言うがもう彼らがレピアちゃんを気持ち良くさせることはできない。彼らが寵愛という名のセックスを試みた瞬間、レピアちゃんの身体には激痛が走り、御使いに嫌悪感しか抱けなくなる……やってみるかい? 試すのなら僕とリリィちゃんは暫く退出するが」

 

 説明の中で、ユーリのレピアに対する呼称はレピアちゃんに変化した。

 殺戮聖女の呼称を、引き剥がす準備にかかっていた。

 

 レピアは、おどおどとした目で御使いを見る。

 御使いは、悲しそうな目でレピアを見る。

 

「いえ、いいです。リリィの顔が、事実だと物語っています……そのシステムとやらと、私達が切り離されたのであれば……聖教会に神罰がくだるのは、当然としか……」

「お姉様……」

「わかった。御使い君、見張りが案内するから牢に戻って。大丈夫、レピアちゃんも御使いも、殺すつもりはないよ……僕と敵対を望まない限りはね。聖女騎士システムに関与している人達を全員助けて欲しいというのが、勇者達の総意だから」

 

 一番目の御使いが、レピア達がいる牢屋から引き離されていった。

 

「これも隠さず言っておく。現状、レピアちゃんとリリィちゃんが痛み無くセックスできる相手は、今のところ僕だけだ。主に身も心も捧げたという君達にこう言うのは酷だが、聖教会が神々の大量虐殺をやらかした以上、二人から主への想いも一旦切り離させて貰う。世界は一神教ではなく多神教であるというのを受け入れ、それを認めてもらわないと、今後の話に進むことができない」

 

 そう言って、ユーリが二冊の本を取り出し、それぞれレピアとリリィに手渡した。

 

「これは……禁書……では」

「存在してはいけない偽物の聖典、偽書ですね……」

 

 レピアとリリィが、青ざめる。

 

「読むだけで人を邪悪の道に引き込む力があると言われています」

「万一見かけることがあれば、決して中を見ることなく燃やせ、と……」

「『500年前に改竄(かいざん)される前の本来の聖典』という表現が正しいかな」

 

 レピアとリリィに、ユーリは(さと)す。

 

「でっ、でも、聖典は四千年の昔から一貫して作られてきた、改竄などあり得ない神聖な書です」

「その禁書こそが、わずか500年前に作られた偽物です」

「それが事実なら、レピアちゃんとリリィちゃんはこんな牢屋(ところ)にいないよね? 神々の大量虐殺をしたと僕が糾弾することもなく、信ずる神を天使に貶められた怒りで僕が聖教会と戦うと決意するようなこともなかった。だから、さ。とりあえず読んでみてよ。神敵で異端の僕に読まなければ殺すと脅されたから仕方なく読んだ、そういうことにすればいい」

 

 さあどうぞ、とばかりにユーリが手でジェスチャーをした。

 レピアとリリィは、一度だけ顔を見合わせると、覚悟を決めて偽書のページをめくりはじめた。

 

 

 * * *

 

 

 効果は、劇的というレベルを超えていた。

 15巻126P、家畜通りの二人は『敬虔な信徒』だったが、レピアもリリィも聖女だった。

 正確に言えばレピアは元聖女かもしれないが、レピアは信仰のみが心の拠り所だったため、脊髄反射でいきなり舌を噛んで死のうとした。もちろんレピアは自殺禁止の教えがあることなど知っている。その上で、心が勝手に自殺を選ぼうとした。

 ユーリは無言でレピアの顎を掴み、その指先をレピアの口腔に突き入れた。

 リリィは呆然と、何度も何度も読み直し、ありえない、ありえないと呟き続けていた。

 

「ころひれふふぁふぁい……」

「ダメだ」

「ころひれ……もう……わわひは……」

 

 自殺禁止がどうとか、綺麗事を言っている場合じゃない。

 原作の『敬虔な信徒』達より症状が酷い。

 

 捨てないなら、拾うしかない。

 拾うなら、大事にするしかない。

 大事にするなら、腹を括るしかない。

 

「レピアちゃん。聞いて。僕は今から君を抱く。セックス、性交、交尾、表現はなんでもいい。真実を伝えた僕自身がレピアちゃんに許しを与える。いいかい、許しを与える! レピアちゃんにもリリィちゃんにも、まだ生きてやって貰いたいことがある! だから、生きろ! 僕のために生きろ、レピア!」

 

 聖女騎士の服は、容易く剝いてセックスに至ることができる。 

 なにしろ聖女は、乳房や股間を見せながら踊るぐらいの痴女だ。

 着衣セックスという言葉を適用して良いのかと悩むレベルの服なのだ。

 

 だからユーリは、割と問答無用でレピアの乳房を露出させ、しゃぶった。

 レピアの唇も貪ったが、舌を嚙んで死のうとするレピアに巻き込まれ、ユーリは少し舌を切った。ユーリとレピアの、互いに切れた舌から流れる血が涎と共に混ざり合い、口から溢れた。

 淫靡を通り越して、凄惨なキスとも言えた。

 そんなキスをしながら、ユーリはなんとか服を脱いだ。

 

 レピアの身体が脱力し、舌を嚙もうとする意思が抜け、自閉状態に陥りかけた。

 そんなレピアの秘部に、むりやり勃起させたモノをユーリはぶちこんだ。

 痛みしか感じないレベルに高めていたレピアの感度を、適度に心地よくなるよう調整した。

 

 愛するでも慰めるでもなく、ここにいて良いのだと理解させるセックスだった。

 やがて、赤子のようにレピアが泣き始めた。

 罪悪感と快楽と、死への絶望と生への渇望が混ざってぐちゃぐちゃになっていた。

 少なくとも自殺の意思は遠のいた、とユーリは判断した。

 

「生きろ、生きろ、生きろ、生きろ、レピア!」

 

 孕めでも、好きでも、愛してるでもなく、生きろ。

 そう連呼しながら、ユーリはレピアの中に吐き出した。

 レピアは泣きながら、かすかに笑い、そして眠りについた。

 

 ユーリがレピアから引き抜くと、いつの間にかリリィが全裸になっていた。

 

「13の不可思議ではなく、13の改竄の痕跡だったのですね」

「リリィちゃん」

 

 不意に抱きつかれ、強引にキスをされた。

 舌を強く嚙まれたので、強く噛み返した。

 正直痛かったが、そんなことを言っている場合ではなかった。

 互いの血を飲み合う、変なキスだった。   

 

「私も生きて、いいんですか?」

 

 口を離してはじめて出た台詞がそれだった。

 リリィも死を望んでいると、顔に書いてあった。

 ユーリは読みが甘かったと、歯がみした。

 

 聖女騎士システムの真実は、実は二人にとって受け入れられるものだった。

 夢の時に、という建前ではあったが、二人共に大体は起きていたのだ。

 そう簡単に睡眠姦など出来るものではない。

 気持ちの良い行為だったし、点と点も繋がる。

 沢山のゴブリンやオークを殺してきたことは、自負でもあったから。

 

 だが、心の拠り所である聖典に関しては話が全く別だった。

 聖典は完全に根底であり、信仰の基盤そのものだった。

 飛び降りも首吊りもできないから舌を嚙んだ、それだけだ。

 レピアに先んじられてしまっただけで、リリィも死にたかった。

 

 ユーリは愛情のキャッチボールをするセックスが好きだった。

 だが最早、そんな戯れ言をほざいている場合ではなかった。

 血の味がするキスを、リリィと長く長く続けていた。

 リリィは受け身のセックスしか経験が無かったので、何をすれば良いのかわからなかった。

 だからユーリはリリィに自分のものを、ただ握らせていた。

 それだけでも、十分にリリィの想いは伝わってきた。

 死にたい。死にたい。生きて良いのなら、(すが)らせてください。

 

「リリィちゃん。生きていい。許す。許すから生きろ。僕のために生きろ!」

 

 なんてセックスだと思いながら、ユーリはリリィにもぶちこんだ。

 リリィの感度も調整して、元々の身体より気持ち良く感じるようにしてあげた。

 やがてリリィも、ぼろぼろ泣きはじめた。

 あえぎ声もへったくれもない。それでもユーリは伝えるしかなかった。

 

「生きろ、リリィ! 生きろ、生きろ、生きろ!」

 

 泣きながらユーリを抱きしめてくるリリィの中にも吐き出した。

 大好きホールドというより、誰かがそばにいないと死んでしまうハグだった。

 リリィもレピア同様、泣きながら笑うように眠りについた。

 

 連続で二人を抱いたことになるが、快楽もへったくれもない。

 とにかく必死に、生きていて欲しい、死なないで欲しいと願うセックスだった。

 

 ……舌に二箇所も傷を入れられたので、口の中が痛んでズキズキした。

 だが同時に、これは受けいれなければならない痛みだとユーリは感じた。

 

 

 * * *

 

 

 原作15巻において、オークヒーロー・ヒィロは500年前の聖典に基づき、『聖娼女』の概念を復活させる。聖娼女の衣装の記録も残っており、原作ではこれから家畜通りの女性達が正しい神の教えを広めるのだろう。家畜通りの敬虔な信徒達は、これからは自分の身体を使い、エロい服を着て、愛と共に偽書の内容を伝えていくのだ。

 

 『聖娼女』が何をやろうとし、何をさせたいのかは大体わかる。

 実際に、サイエンから聖娼女の衣装デザインを写させてもらったりした。

 だが問題は、『ふかふかダンジョンver7.117 = 71話&17巻』時点では、まだ『聖娼女』達が再登場していないことだ。

 

 仮にここで、原作の聖娼女が何をやるのか展開予想したとしよう。

 (ユーリ)の行動と選択として、実際にやってみせたとしよう。

 ……当たっても外れても、誰も幸せにならない。

 ここで聖娼女の展開予想をするのは、創世神へのリスペクトが足りない。

 

 だから考え方を変えることにした。

 『聖女』でも『聖娼女』でもない、第三の選択肢。

 『聖少女』の概念の創出。

 

 『聖少女』は、将来的に家畜通りの虜囚となっている女性達が人間社会での復帰を望んだ時に仕事の受け皿として機能する。なんだかんだで家畜通りで生き残っている女性達は美人ばかりなので、多少亜人の子を孕んでいようが問題無いだろう。

 人間社会に戻らずに、そのまま亜人社会の中で生きていくと決めたのなら、それはそれで構わない。虜囚達が戻る受け皿があり、彼女達が胸を張って堂々と生きていける選択肢があるのなら、今はそれでいいのだ。

 

 

 * * *

 

 

 ユーリがベッドの上で寝転びながら考え事をしていると、レピアとリリィが二人共起きてきた。

 二人が寝ていたので毛布は二人にかけ、自分は毛布無しの全裸でベッドに寝転んでいた。 

 

 恥ずかしそうにもぞもぞしてから、二人はユーリの股間に近づいた。

 そしてたどたどしい舌使いで、二人でユーリのモノに奉仕しはじめた。

 いわゆるダブルフェラが、打ち合わせ無しで自然にはじまった。

 

 ……案外うまいじゃないか、とユーリは苦笑した。

 考えてみればレピアは普通にフェラをしていたし(8巻過去シーン)、リリィは夢の時に飲精フェラをさせられていた(10巻175P)。

 

「舌は痛くない? 舐めて大丈夫なの?」

 

 ユーリが心配すると、二人共フェラの舌を止めて微笑んだ。

 

「今は、この痛いのが良いんです」

「生きているという実感が湧いてます」

 

 リスカで自傷する人達と同じ理論なので、ユーリは内心でビクついた。

 ただ、衝動的に自殺しようとする発作的なものからは、遠のいたようだ。

 

「二人は、とっくに処女ではないというのは説明したよね。そして二人の処女を奪ったのは御使いですらなく、聖教会の誰か。……そういう専門の役職の人がいるんだろうね。御使いが聖女を抱いた時に聖女が痛がってしまうと、聖女が御使いに対して恐怖を感じたりしてしまう。だから聖女が寝ている間に処女膜を無くしてしまえばいいという強引な論理。本来なら処女を失う時は破瓜の血と痛みを感じるはずなのに、血も痛みも二人には無かった」

「……そうですね」

「確かに、そういう痛みは今までありませんでした」

 

 二人に対して、ユーリは自分の口の端を指でトントンと叩いてみせた。

 レピアもリリィも、口の端から流れた血が乾いていた。

 

「舌を嚙んで死にたがるレピアちゃんとリリィちゃんに、生き続けてもらいたいから抱いたけどさ。僕達三人が今、等しく味わっているこの口の痛みと流血は……本当の破瓜の血であり、処女喪失の痛みだったのかもしれない」

「本当の、破瓜の血……」

「私とお姉様にとって、ユーリさんがはじめての男性ってことになりますね」

「うん……うん? そうなる……のかな?」

 

 別にユーリは処女厨というわけではなかったが、首を傾げた。

 

「……そうしてください。私のはじめては、聖教会でも御使いでもなく、オークでもなく、ユーリさんに捧げた。そういうことに、してください……」

「そうですね。私のはじめても、精霊ではなくユーリさんに捧げたのだとさせてください。聖教会が500年前に主を裏切ったからこんな事になったということなのであれば、殺された神々の使徒とも言えるユーリさんに処女を捧げたと考える方が、心が楽になりますし、その……ええと……」

「セイちゃんとマユリちゃんとも一緒になれる?」

 

 リリィが、年齢相応の笑みを見せた。

 

「一応、二人を妾として迎える準備だけはしてあるよ。僕の妾になれと言っているわけじゃなくて、そういう選択肢も提示できるという意味ね。二人は身も心も主に捧げたと思い込まされていたけれど、聖教会の策略でしかなかった以上、二人はもっと自由に恋をすることができる。例えば、狙撃手(スナイパー)クロスとかね」

 

 さりげなくクロスにレピアを押しつけようとしたユーリだったが、当のレピアが首を傾げた。

 

狙撃手(スナイパー)クロスさん、ですか? 確かに一度飲みに行きましたが、それだけですし……孤児院育ちという共通点があるぐらいで……?」

 

 あっ。この世界線だとエロモーブちゃんが張り切りすぎてクロスから搾り取りまくってる上に、クロスもそれで満足しちゃってるから、レピアとクロスとの繋がりが薄い!?

 

「私も結局のところ女ですから、一緒に飲みに行った相手よりは、初めてを捧げた男性の方が気になるものですよ」

「御使いや、精霊の中から恋人を選ぶこともできるけど」

「あの、ユーリさん」

 

 真剣な顔で、リリィが語る。

 

「ユーリさんが私の立場だったとして、自称精霊の10人の中から恋人を選ぶ気になれますか?」

「……ちょっと無理だね。流石に選べない」

「そういうことです」

「そっかぁ……まあ、二人の相手が決まるまでは、気晴らしのセックスの相手にはなるし、焦らず恋人を探してもらえればとも思うし……二人に死ぬ気が無くなったのなら、今度は快楽優先のセックスでも体験してみる?」

 

 ユーリが苦笑しながら『もう一回セックスする?』と尋ねると、リリィは少し悩んで。

 

「えっと、ユーリさん。セイさんとマユリさんが『ユーリちゃんはとにかく凄い』『ユーリお姉様は至高』と何度も何度も言っていました。妹のユーリさんがいるのは調査書にありましたが、ユーリお姉様というのは妹のユーリさんとは別人なのですか?」

「……あ……いや、うーん……まぁ、ネタばらししてもいいか。いまリリィちゃんの話に出た女性は、全員僕です。同一人物です」

「えっ? 同一人物?」

「そうだねぇ……」

 

 ユーリは身を起こし、両手を広げた。

 

「よく見ててね」

 

 レピアとリリィの目の前で、ユーリがユーリちゃんに一瞬で変化した。

 背が少し縮んで、胸や尻が膨らみ、体つきが全体的に丸みを帯びる。

 銀髪も大胆なロングヘアとなり、どこからどう見ても女性の身体となる。

 

「これが私。同じ私。普段は妹のユーリということにしています。その上で……」

 

 女性体のまま、ユーリちゃんは男性器を出現させる。

 ふたなり、両性具有。呼び名はともかく、ユーリちゃんは女性であり男性となった。

 

「男性器も出せます」

 

 この時、ユーリはネタばらしをすべきではなかった。

 少なくとも、敬虔な信徒であり、聖女である二人の前でやるべきではなかった。

 だがやってしまった。

 

 レピアとリリィが、わなわなと震えている。

 ……あれ、なんか反応が激しい?

 ユーリちゃんが首を傾げていると、(うめ)くようにレピアが言葉を絞り出した。

 

「……聖典104項……主の使いたる天使は男であり男でなく、女であり女でない。天と地を繋ぐ労苦ありて、その受肉(いたわ)るべし……!」

 

 リリィが感涙し、涙をこぼして手を合わせはじめた。

 

「天使には性器が無いと考えられていました。なのに、地上にとどまるための受肉後に聖女の身体で(いたわ)るには、男性器が必要となります。性器が無いはずの天使に男性器があるのは13の不可思議の1つとされていました……が、違ったのですね。男でもあり女でもあった……双方の特徴を兼ね備えていた!」

「ああ、でも、多神教が真実で、天使だとされていたのが神であったとするならば……ユーリ()は正しく神の使徒であらせられる?」

「13の不可思議、いえ、13の改竄の痕跡だと思っていましたが、そうではなかった……少なくとも、ここに真実が一つ存在した……ああ、なんという……主よ!」

 

 レピアとリリィのスイッチが入ってしまった。

 そんな二人の前では、ユーリちゃんは天使でも神の使徒でもなく、ただの生け贄の羊だった。

 

「ユーリ様と一つになることを、先ほどは許していただけたのですね……」

「いえ、ユーリさんとかユーリちゃんでよろしいのですが」

「……お姉様ァ!」

 

 感極まった二人に、ユーリちゃんは押し倒された。

 セイとマユリにそうして、そうされたように。

 組んずほぐれつ、どったんばったん、大騒ぎ。

 

「ちょっ、ちょっと落ち着いてください二人共、あああっ!?」

 

 主を讃えよ(ハレルヤ)

 

 

 * * *

 

 

 散々出し尽くし、搾り取られ、顔面蒼白レベルでげっそりとしているユーリ(男性体)の腕枕で、レピアとリリィがすやすやと満足そうに寝ていた。

 その肌はツヤテカというか、全てのストレスから解き放たれて大満足といった風だ。

 

「アーメン・ハレルヤ・ピーナツバター。ジーザス・ファッキン・クライスト」

 

 ああ、黄色い太陽が見える。窓の無い地下だけど。

 ユーリは呆然としながら、神に悪態をついた。

 

 何もしていないのに流れ弾を喰らった立川のジョニー・デップが、くしゃみをした。

 

 

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